緊急柱合会議から翌日。蝶屋敷の門前にとある客人が訪れていた。
――その人物は、真っ赤な天狗の面で顔を隠し、青い羽織を羽織り、その柄は波が打っている。そして腰部には日輪刀。名前は――
真菰の育ての親であり、師匠。楓とカナエには、
「楓たちにお目通り願いたいんだが、本日は蝶屋敷にいらっしゃるか?」
鱗滝は、門前で出迎えたアオイにそう言葉を掛ける。
出迎えたアオイは赤い天狗の面を見て声を上げそうになったが、平静を保ち口を開く。
「楓様たちはいらっしゃると思います。本日はどのような御用件で?」
「うむ。――妊娠の件で謁見したくてな」
鱗滝は、蝶屋敷の面々が妊娠の件について知っていると文で確認済みだ。なので、蝶屋敷内部でなら話を公にしても問題はないだろう。
妊娠の件、と聞いてアオイは目を丸くしたが、妊娠のことを知っているとすれば、楓たちの深い関係者なのだろう。
「わかりました。では、屋敷に案内致します」
アオイが屋敷きに通し、鱗滝は玄関で靴を脱ぎ居間へ続く通路を歩く。
鱗滝が居間に到着し、刀を腰部から取り、案内された席の隣に刀を置き腰を下ろすと、アオイが「お呼び致しますので、少々お待ち下さい」と言って居間を後にする。
それから数刻後、着物を身に纏った楓たちが姿を見せ、鱗滝と対面になるように腰を下ろす。
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「鱗滝さん――いや、
鱗滝は天狗面の中で目を丸くする。
さすがに、
「これを楓たちに渡したいと思ってな」
鱗滝が懐に右手を入れた取った物は、
楓が鱗滝に文を送ったのは二日前だ。その二日で、鱗滝は有名神社の安産祈願の御守りを手にしたと言う。
――鱗滝曰く、呼吸を使用すればどうということは無い、とのこと。……
「そ、それにしても多いよね」
真菰が焦ったように呟く。
――まあ確かに、鱗滝、張り切り過ぎである。
「多い方が祈願があるはずだと、儂は思ってる」
――鱗滝、それは違う。御守りに個数は関係ない。
「そ、そうですね。私たちの為にありがとうございます、お義父」
カナエも焦りを伴いながら呟く。
カナエの言葉に、鱗滝は「うむ」と力強く頷く。――鱗滝、子が絡むとポンコツ過ぎないか?
ともあれ、御守りを受け取る楓たち。
「ところで、お前たちは式は挙げないのか?」
これは、鱗滝の率直な疑問だ。
「今は挙げないつもりです」
「式を挙げるとすれば、鬼舞辻無惨を滅した後になるかなぁ」
「それまでは、現状維持になりますね」
楓、真菰、カナエの順で答える。
鱗滝も「なるほど」と言ってから頷く。確かに、鬼舞辻無惨を滅した後に、何か道筋を作って於いた方がいいだろう。――楓たちの場合、それが結婚式、というわけだ。
なので、話の話題は必然的に此間の柱合会議の内容になった。
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楓が柱合会議での出来事を話すと、鱗滝たちは難しい顔になる。
そう――痣を発現したら、二十五歳までしか生きられらないからだ。
「……痣、か。楓はどうするつもりだ?」
「今の所は、発現させないつもりです」
鱗滝の問いに、楓がそう答える。
現在の楓は、痣の代わりに “透き通る世界”を代用しているのだ。……それも、いつまで通用するか不明なんだが。
このことを鱗滝に話すと「そうした方がいい」と言ってから頷く。
「お館様や他の柱に失礼になるかも知れないが、楓、お前には未来がある。――だから、痣を出さずに最後まで足掻くんだ」
「……痣を出すなとか、元柱が言ったらダメですよ」
「今は目を瞑れ。――儂は元柱でもあるが、お前たちの義親でもあるんだ。こう考えてしまうのは致し方あるまい」
鱗滝は、痣を発現させ強くなれるのに越したことはないが、寿命を縮め戦わないで欲しい。という想いで板挟みになるのだ。
「私たちも同じなんだ。この子たちの為に、極力死を呼び寄せるのは止めて欲しい」
「私たち、楓と一緒に子供の成長を見届けて、お爺ちゃんとお婆ちゃんになっても一緒に居たいから」
真菰とカナエは、お腹を擦りながら呟く。
でもそうか。確かに、痣発現=未来を削る。とも考えてしまう。……本当に難しい問題だ。
ともあれ、それからは話題を変え談笑した。
――もうそれは、傍から見ても親子の光景だった。
やっぱり、痣は難しい問題なんですね(-_-;)
てか鱗滝さん、張り切り過ぎですね。まあ、初孫になるので仕方ないかも知れませんが(笑)
追記。
鱗滝訪問は、柱稽古の前日です。