翌日、柱稽古が開始された。
稽古内容としては、まず初めに、桜柱・栗花落楓による
もし型に癖、呼吸が乱れてしまっていたら、攻撃、防御に転じる速度が微妙に違ってくる。――これを矯正するのが、桜柱・栗花落楓が考案した稽古内容だ。
――もしかしたら、 “透き通る世界”が習得できる切っ掛けになるかも知れないのだ。……まあ、棚から牡丹餅になるけれども。
ともあれ、これは地獄のような稽古だが、真菰、カナエが見て回って悪い点を指摘してくれるのだ。
「うん。呼吸は乱れていないようだね。でも、型を舞う時に余分な力が入ってる。そこを直そうね」
「君は逆かしら。型は問題なけど、呼吸が不安定になりがちね。呼吸は力まないように、ゆっくり優しく」
――蝶屋敷の三大美人である、胡蝶カナエ、鱗滝真菰の優しい指導だ。
男共は、疲れを浄化する気分になれるだろう。……その証拠に、指摘された男性隊士の意欲が掻き立てられるのだ。
「――残り十分。型、呼吸を乱すなよ」
「「「「「はい!」」」」」
楓の言葉に、鬼殺隊士は声を張り上げる。
このようにして、楓の稽古は脱落者を出さない――楓たちは、ある意味策士とも取れるのだ。
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楓の稽古が終了したら、音柱・宇髄天元による基礎体力向上。――要は、休んでは走り、休んでは走りの繰り返しである。
天元の稽古が終了したら、恋柱・甘露寺蜜璃による柔軟。なので、体が硬い隊士に取っては地獄の稽古になる。
次に、時透無一郎による高速移動の稽古。素振りが終わっても、打ち込み台が壊れるまで終了することができない地獄の稽古だ。
次に、小芭内による太刀筋矯正。……出来ないと、地獄が待ってるとか。
小芭内の次は実弥を相手にした無限の打ち込み稽古なのだが、反吐を吐いて失神するまでが一区切りであり、休憩は無しだとか。
次に岩柱・悲鳴嶼行冥の稽古で、筋肉強化訓練。その稽古では、地獄を見るそうだ。
そして、しのぶは
最後に、隊士は杏寿郎との手合わせで稽古が終了となる。
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柱稽古が開始され数週間が経過した頃、稽古が終了し、夜道場で鍛錬していた楓の元にカナヲが歩み寄る。
「……に、兄さん。鍛錬をつけて欲しいんだけど、時間はある、かな?」
「時間はあるけど、今から鍛錬か?」
カナヲは「うん」と頷く。
確かに、継子であるカナヲに稽古をつけるのはおかしなことではないが、柱稽古を一段落させた直後に鍛錬は、過酷過ぎるのではないか?
ともあれ、楓が口を開く。
「じゃあ、少しだけな」
鍛錬の内容は、真剣であり、寸止めか、武器の取り零しで決着。ということになった。
楓とカナヲは日輪刀を抜き、一定の距離を保ち神経を集中させる。
そして、ほぼ同時に相手を錯乱するように左右に動き、刀を振るう。
――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
楓の下から上に描かれる花の斬撃を、カナヲが周囲に花の斬撃を放ち、互いに受け止め刀の甲高い音が道場に響く。
刀を弾き、楓は刀を構える。
――花の呼吸 五ノ型・改 徒の勺薬。
カナヲも同じく“花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬”で迎え撃つが、楓の勺薬は十八連撃、カナヲの勺薬は九連撃だ。
「(……――兄さん、剣技を昇華させてるのっ!?)」
目を見開くカナヲ。
カナヲは、楓が放つ“勺薬”は初見なので、解らなくて当然だ。
そしてカナヲは、九連撃を相殺されてから、型を繰り出す。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
カナヲは周囲に花の斬撃を放ち、残りの九連撃を防ぐが、これは楓の予想通りだろう。
そして斬撃が止んだ瞬間が、楓の狙いだ。
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃。
――花の呼吸 陸ノ型 渦桃。
楓は腰に刀を回して加速し、カナヲの刀を落す為に右腕を狙い一閃を放つが、カナヲは飛び上がり一閃を躱し刀を振るう。楓はそれに刀を打ち当て相殺させる。
カナヲは着地し、持ち前のバネのような体を駆使し、そのまま上るように剣技を繰り出す。
――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣。
カナヲが下から上に放つ花の斬撃を、楓は足を後方に移動して紙一重で躱す。
それからも、お互いが譲らない攻防を約三十分継続した。
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「やっぱり決定打に欠けるな」
「……うん。お互いの手の内を知り尽くしてるから」
楓が「だよなぁ」と言って、楓とカナヲは刀の構えを解き納刀する。これ以上打ち合っても、勝負は付かないと悟ったのだ。
すると、話を切り替えるようにカナヲが口を開く。
「……兄さんは、決戦時に上弦の弐と戦うの?」
「ああ。アイツとはまた殺し合いをする確信がある。――きっと、どちらかが死ぬまで戦い続けるだろうな」
それに上弦の弐の力量は、あの時よりも増している筈だ。
おそらく楓と上弦の弐は、二対八で上弦の弐に勝利が傾いているだろう。
「――私も兄さんと一緒に戦う」
カナヲは力強く頷く。
その両瞳の中には、奴を滅する覚悟の炎が灯っていた。
きっとカナヲは、楓と共に上弦の弐と戦うだろう。楓もそれが解っていたかのように「そうか」と言って頷く。
「……それに兄さん、終ノ型の使う気、なの?」
カナヲの言葉に、楓は、ギクッと体を震わせる。
楓の終ノ型である、“千本桜・景厳”は、両腕に途轍もなく負担が掛かり、両腕が動かなくなるかも知れないのだ。
「……私も、終ノ型を使う覚悟はある」
カナヲの終ノ型――彼岸朱眼は、カナヲの動体視力を極限まで高めるものだ。
それは、両目の負担が途轍もなく掛かり、使用時には両目が赤く染まる。赤く染まると言うことは、眼球が負荷に耐えられず出血するから。なので、失明と隣り合わせな技でもある。
「そ、それはダメだ!あれは、失明の恐れがあるだろう!」
楓は声を上げる。
「……でも、兄さんは父親になる。もし終ノ型を使えば、命を縮めるかも知れない。だから私が使う」
カナヲは一歩も引かない。
「わ、わかった。お互い、終ノ型を使用する前に上弦の弐を倒せば問題ないだろ」
「……うん」
どうやら、カナヲも納得してくれたようだ。
――でもそうなれば、“花の呼吸 漆ノ型 鏡花水月”が勝負の流れ決める剣技になるのかも知れない。
上弦の弐の戦闘には、しのぶさんと伊之助も参戦予定です。