~狭霧山~
「この山でいいのか?」
「うん、この山で合ってるよ」
真菰を背に乗せ、藤襲山から狭霧山までは半日程で到着した。
それから、真菰の案内によって山を登り、ある小屋から離れた場所に立ち止まる。
「ねぇ楓。鱗滝さん、褒めてくれるかな」
「きっと褒めてくれるだろ。真菰は、修行の成果を出したんだからな」
「そっか」と言い、真菰は微笑んだ。
鱗滝さんは、真菰が最終選別に参加することに良い顔をしなかったそうだ。まあ確かに、弟子を死地に送り込むのだ、“育手”から見れば“弟子”を失う覚悟を伴う。
俺の場合も、カナエさんは良い顔をしなかった。不安、と言う感情が支配していたと思う。
「行くぞ」
「うん」
歩き出そうとした所で、俺は口をつつく。
「……なあ真菰。俺、鱗滝さんに殺されないよな?『真菰は、儂を倒さなければやらんぞ!』的な感じで」
「ふふふ。鱗滝さんなら、あり得るかもね」
「マジか」とガックリ肩を落とす。だが、この場にいつまでも立ち止まってる訳にもいかない。
すると、小屋の扉が開き、鱗滝さん?が薪を持って姿を現し、真菰を見て薪を落とした。
「……真菰、よく戻った!」
「鱗滝さん!ただいま~!」
「お邪魔してます、鱗滝さん」
俺が挨拶すると、天狗面の中で、ムッ、とした気配がした。……いや、何。俺、殺されないよね?大丈夫だよね?
俺は、はあ。と溜息を吐きながら、促された小屋の中にお邪魔する。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「そうか、そんなことが――真菰を助けたくれたこと、感謝する。栗花落楓」
対面で座りながら、鱗滝さんは最終選別の話を聞き、頭を下げた。
「いえ、俺が助けるのが遅れた所為で、真菰は足に怪我を……」
鱗滝さんは顔を上げ、
「命を取り留めただけも有り難いことだ。怪我なら直せるが、死んでしまったら全てが終わりだ」
確かに、死んでしまっては、笑い合うこともできないし、悲しむこと、喜びを分かち合うこともできなくなる。
「――それに、異形の鬼を討伐してくれたこと、礼を言う」
「……――お礼、有り難く頂戴します。鱗滝さん」
鱗滝さんは「うむ」と頷く。
「しかし、“花の呼吸”の使い手か。珍しいな」
「派生の呼吸ですからね、“花の呼吸”は」
真菰はニコニコ微笑みながら、
「でねでね~、鱗滝さん。――楓は“花の呼吸”を派生させてるの、凄いでしょ!」
「……いや、お前が偉そうにしてどうする」
「むふふ~」と、真菰は鱗滝さんの膝に乗りながら笑う。……てか、真菰ちゃん止めて!鱗滝さんの気配が変わってるから、俺限定で威圧系に変わってるから!
「……今日はもう遅い、泊まってゆけ。“育手”には、鴉を飛ばして帰るのは遅くなると伝えるといい」
「あ、はい。お世話になります」
鱗滝さんの厚意?により、俺は一泊させて貰うことになった。
夜には、日輪刀の手入れも忘れずに行いました。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
小屋の入口で鱗滝さんと真菰は、俺のことを見送ってくれていた。
「楓、もう行っちゃうの。もう少しゆっくりしていけばいいのに……」
……真菰ちゃん止めて!面で見えないけど、鱗滝さんきっと睨んでるから!
「……達者でな、楓」
……絶対睨んでるよ、鱗滝さん。早く退散しないと、威圧感で殺されそう……。
「は、はい。な、何かあったら鴉で連絡して下さい。し、失礼します」
「またね~」と言う真菰の言葉を背に、俺は歩き出した。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
~夜~
狭霧山を出て蝶屋敷を目指して歩いていたら、いつの間にか日が落ちてしまった。
その時、俺の鴉が空中を旋回した。……もう任務とか早くね?刀届いてないし、まだ隊服に袖を通してないよ。今使えるのは、カナエさんが貸してくれた日輪刀だけだし。
「カー!カー!一里先ノ町で
一里先ならば“桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極”を連発すれば、直に到着できる。――――それに、花柱。
「増援は!?」
「近場ニイル隊士ニ声ヲカケテイルガ、時間ガカカル。楓ガ一番近イ。楓、花柱、大切ナ人!」
「ああ。俺たち恩人だ」
落ち着け、相手は上弦になる。心を落ち着かせろ。
――全集中 桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
俺は刀の柄に手を添え爆発的に加速し――貴女の元へ向かった。
次回戦闘回。しかも、上弦ノ弐(童磨さん)。戦闘、上手く書けるか不安です……。
つか楓君、最終選別から一週間も経ってないんだよね(笑)
ちなみに隊服は着用してません。なので、隊服は道中に置いてきました。まあ、上弦となれば、隊服はあんまり機能しなそうですが……。
てか楓君、選別が終わったばかりで、刀も届いていませんし。楓君、ほぼ初期装備ですね(笑)
ではでは、次回(@^^)/~~~