町に急行すると、そこでは、倒れたカナエさんを優しく見る上弦の弐。
また、周囲は女性ばかりが殺されている。彼女たちは四肢を欠損しており、人の形を成していない者が殆んど。その中には鬼殺隊の女性隊士の姿もあった。おそらく、上弦の弐は女性を好んで喰う鬼なのだろう。目を凝らして見ると、鋭利な扇から何かを散布してるように見える。俺は直感で感じた、あの霧を吸ったら拙い、と。
そして上弦の弐は、倒れているカナエさんに近づく。彼女の首を落とすつもりだ。
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
俺は駆けながら刀を振るい、周囲に斬撃を放ち、霧飛ばし奴の頸を狙うが上弦は後方に跳び回避。
奴は、俺をニヤニヤと笑いながら眺め、俺はカナエさんの前に立ち刀を構える。
「おや、増援かな。でも君鬼殺隊?鬼殺隊の隊服を着て無いよね?」
「……貴様に教える義理はねぇよ。そういうお前は、十二鬼月、上弦の弐だな」
「わあ。オレのこと知ってるの?嬉しいなぁ」
「いや、上弦の弐って瞳に書いてるだろうが」
「それもそうだね」と、上弦の弐は笑う。
……こいつ、笑っているが笑っていない。優しい声を出しているが、そこからは感情を感じない。だからなのか、先程からこの姿勢を崩さない。
「君は花の呼吸と、それに類似した呼吸を使うんだね。うーん、
「貴様に教えるか、悪鬼。お前はここで死ね」
「酷いなぁ。でもオレ、今から彼女を救ってあげるんだ。邪魔しないで」
「は?救う?お前、頭逝かれてんじゃねぇの。傷つけてるのに救うとか、お前、狂ってるだろ」
「やっぱり酷いなぁ君。オレじゃなかったら、今の言葉で傷ついてたよ。でもそっかそっか、君も救って欲しいってことだね、その言葉は気持ちの裏返しだ」
――血気術 枯園垂れ。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
上弦の弐は扇を振り、冷気の軌道にして鋭利な斬撃を繰り出すが、俺は周りに花の斬撃を放ち相殺させ、カナエさんを抱き後方に飛ぶ。
カナエさんは、俺の見上げ呟く。
「……けほっ……楓、何で、来たの……?」
そうか。カナエさんは肺をやられたのか。
肺が機能しなくなってしまえば、“呼吸”を使用することが難しくなる。それは鬼殺隊士にとっては致命傷だ。おそらく、今のカナエさんは、ぎりぎり使用できる“呼吸”で命を繋いでいるのだろう。それにきっと、奴との攻防があった所為で立ち上がるのでさえ困難なのだ。
「……私の、ことはいいの……楓たちが、私の分まで、生きてくれれば……」
「――それは却下だ。俺は貴女を助ける、絶対に逃げない」
「……でも、
カナエさんは言葉を区切った。
おそらくカナエさんは『勝てないかも知れない、だから逃げて』と続けようとしたのだろう。
「大丈夫。俺は死なない」
俺はカナエさんを見て微笑み、カナエさんをゆっくりと地に横にして、攻撃範囲外まで避難させた。俺が隙を見せない限り、カナエさんは安全だろう。
俺は奴を睨むが、奴はニヤニヤ笑うだけだ。
「うーん。会話から察するに、君たちは家族かな?――そうだ、君たちは纏めて救ってあげよう」
「……――ふざけるな。お前は、ここで殺す!」
――血気術 蓮葉氷。
――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。
上弦の弐は、鋭利な扇を俺の頸を目掛けて放ち、俺は踏み込み周囲に刀を振るい扇を相殺させる。先を思い出すと、この血気術には凍てついた血が霧状に散布されているはずなので、遠心力の応用で刀を振るい風撃で霧を飛ばす。
「今の攻撃を受け流したのは君が初めてだよ。君ってもしかして、柱でもあるの?」
――血気術 蔓蓮華。
――花の呼吸 五ノ型 徒の勺薬。
俺は、上弦の弐が放った蔓状の氷を、九連撃で正確に弾き落とす。
「……俺なんかが柱なわけねぇよ」
「へぇ。オレの攻撃に応戦できてるから、柱だとも思ってたのに、残念」
「……お前はその口を閉じやがれ。舌を切ってやろうか」
――桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。
――血気術 冬ざれ氷柱。
俺の一閃は奴の頸に届かず、無数の氷柱に阻まれる。
だが、ここまで予定通り。
――花の呼吸 肆ノ型 紅花衣。
俺はそこから飛び上がるように、下から上に捻る軌道で奴の頸を取ろうとするが――ガキンッ、と扇に阻まれる。間合いを取った筈なのに攻撃を弾かれた――こいつの反応速度は異常だ。
「隙ができたねぇ」
上弦の弐はニヤリと笑った。
――血気術 結晶ノ御子。
上弦の弐は、腰くらいの大きさの自身人形を五体創り出す。この人形はおそらく、強さも奴と同等だろう。
俺は人形と戦うも足を止められ、上弦は数歩歩いた所で立ち止まり、カナエさんを見ていた。――それに奴が居るのは、攻撃範囲内だ。
「予定を変更しよう。まず君は、オレが彼女を救ってあげるのを見ててね」
奴はニヤニヤと笑みを浮かべる。
「――やっぱり綺麗な子だなぁ。もう少しで君を救ってあげられるね。後で、綺麗に食べてあげるからね」
――血気術 散り蓮華。
カナエさんに向けて、無数の氷の刃が放たれる。だが、あれは刃か……?それとも凍る血気術?数が先程より異常だ。
――花の呼吸 陸ノ型 渦桃。
俺は体を捻りながら花の斬撃を放ち、その勢いに乗って奴の空中を飛び超え、氷の
カナエさんを護るには、上弦の弐と人形、
だが、露見した型、“千本桜”で潰せるか?となったら、不安が残る――だから俺は、
――――桜の呼吸 終ノ型 千本桜・景厳。
終ノ型は雨の刃であり、攻撃全てが
俺は
しかも俺は “桜の呼吸 壱ノ型 乱舞一閃――極。”の過度な使用で足がガタガタであり、体は切り傷だらけ、技の反動もあり、日輪刀の刃が半ばから折れた。だが、俺はまだ戦える。命の灯火が消えるまで戦う。
――次の瞬間、奴が眉を寄せる。
「……なるほど。君は、これも視野に入れてたんだね」
奴も気づいたようだ。――俺のもう一つの狙い。それは、昇ってくる陽を待つ。そう、鬼の弱点である日の光を。
「あはははは!柱ではない君にやられるとはね!それに、援軍の気配もあるなぁ。――うーん。君たちを救いたい所だけど、君がまだ何か隠してるかも知れないしね」
奴は言った「お互い強くなったら、また殺し合いをしようね」、と。
そして奴は、扇を振るい呟く。
――血気術 冬ざれ氷柱。
奴の前に無数の氷柱が落ち、姿が見えなくなる。
それを見て、俺は刀を落とし両膝を地面に突けて横に倒れると、カナエさんと目が合う。
「……何で、逃げなかった、のよ。バカ……」
「……貴女の為に命を張るのは、当たり前、だろ」
満身創痍でも、俺たちは生き残ったのだ。
「――兄さん!カナエ姉さん!」
俺が瞳を閉じる前に映ったのは、腰から日輪刀を下げた、目許に涙を溜めた愛しの妹だ。その後ろにはしのぶさんと他の柱。
俺はカナヲを見ながら――「最初の頃より感情が豊かになったなぁ」と思い、瞳を閉じたのだった。
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そして、この事項はすぐさま産屋敷邸に報せが届いた。
縁側に座り、産屋敷耀哉は報せを見ながら呟く。
「……そうか。カナエたちは一命を取り留めたんだね」
上弦と戦闘になり、生き残った。上弦は下弦の鬼を凌ぐ力量の持ち主。その顔触れは数百年変わらず、遭遇した柱、隊士は殺されていった。
そんな中、上弦を倒すことは困難だったが、二人は生き延びた。この一戦には、耐え難い価値がある。――上弦の弐。という情報が。
「それに――」
そう言って、耀哉はもう一人の名前を見やる。
――――栗花落楓。彼は、上弦相手でも臆さなかった。
「――凄い子だ、彼は」
情報によれば、彼は二年間、胡蝶カナエの弟子として活動していた。もしかしたら、彼の力量は『柱』に匹敵するかも知れない。でなければ、上弦と遭遇して、生き残れる確率は激減するのだから。
また、近々、柱合会議が開かれる。そこで、カナエか楓、どちらかを会議に召喚することになるだろう。産屋敷耀哉には、会議までにどちらかが目を覚ます確信があった。
最初の攻防からナメぷ全快の童磨さん。
まあ、その所為で致命傷を負ったんですが。楓君の力量が、童磨さんの予想以上だった要素もありますね。
ボロボロの状態で、カナエさんを護りつつ、童磨さんと渡り合った楓君って『柱』って言っても過言じゃないよ。まだ階級“癸”なんだけど(笑)
後、二年間の間で、カナヲちゃんからの楓君の呼び方は“お兄ちゃん”から“兄さん”に変わってます。
ではでは、次回(@^^)/~~~
追記。
楓君は、保険もかけていましたね。陽を待つ保険ですね。