ただ魔法を解明したいだけ   作:ツンドラ

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英語は『』で表記しています。

前回のあらすじ
超能力(魔法)ある
英語わからん


Who are you?

『こんにちは、少年。私はホグワーツ魔法魔術学校で変身術を教えているマクゴナガルというものです。

親御さんはいらっしゃいませんか』

 

 

 

 なんてこった。

 

 せっかく人間に会えたのに英語で話しかけられるとは思わなかった。英語のリスニング力かなり低いのに。しょうがない。拙い英語で返答するか。

 

『すみません。よく聞き取れませんでした。英語があまり得意ではなく読み書きならともかく、会話は難しいです』

 

 そう言うと目の前の女性はどこからか紙と羽ペンを取り出し先の発言を書いてくれた。ホグワーツ魔術学校?マクゴナガル?……これあれか、ハリー・ポッターの世界か?

 

 まじかー、とんでもないなー。前世でははるか前に一度映画を見ただけで詳細を全然覚えていないぞー。ってことは自分が超能力だと思ってたのは魔法だったのかー

 

 あまりの衝撃にしばらくふわふわ考え込んでしまったが、とりあえず目の前の女性に返事しなくては。

 

『えーっと、ちょっと現状がよく分からないのですが、貴女は学校の先生で俺の親と話をしたいのですか?』

 

『そうです。話がわかる子で助かります。家はどちらですか?』

 

 マクゴナガルさんは羽ペンを貸してくれ、紙面上でやりとりをすることになった。がこの紙はなんだ?インクを吸い取って会話ごとに文字が消えていくな。

 

『家はすぐそこですが、親はいません』

 

『お仕事中でしたか、連絡もなく昼間に訪れて申し訳ありません。出直しますね。夜には親御さんは帰ってくるでしょうか?』

 

 ちょっと待って!置いてかないでくれ!

 

『いえ、帰ってくるとかこないとかではありません。俺には親がいないのです』

 

 そう紙に書くとマクゴナガルさんは驚きとともに憐れみの眼差しを向けてきた。孤児とでも思われているのだろうか。

 

『不躾なことを聞いてしまいました。すみません。では保護者に当たる方はいますか?』

 

『いえ、そもそもここには俺しかいません。ここは無人島ですから』

 

『どういうことですか!』

 

 俺の文を読むとマクゴナガル先生はつい叫んでしまったようだ。紙にも同じ内容を書いてくれたが。

 

『気がついたらここに居たんです。自分以外の人に出会えて本当に嬉しいです』

 

『いつからここにいるんですか?今まではどこに居たんですか!?』

 

 マクゴナガルさんは凄い食いついてくる。そりゃそうか。俺だって訳分かってないし。

 

 ただ現状がわからないうちにどこに居たかを答えるのはあまり良いように思えない。仮にも魔法のないところから転生しましたなんて事が広まったりでもしたら、よくわからん連中に調査、研究、最悪は解剖されるかもしれないからだ。この世界のことを知る前に前世のことを迂闊に漏らせないな。

 

『ここには気づいてから一年ほど滞在しています。ここに来た時までのことはよく覚えていません。ここはどこですか?』

 

『場所も分かっていなかったのですか。ここはスコットランド本島から北西に15kmほど離れたところです』

 

『スコットランド……イギリスですか?』

 

『そうなりますね。とにかく貴方を保護したいと思います。まだ10歳にも満たないような子供がここで生き抜いてきたなんて想像だにできないほど大変だったでしょう。貴方はここに留まりたいですか?』

 

 マクゴナガルさんは強制的に俺を連れて行くことはなく、意思を尊重してくれるそうだ。がもちろん、この生活には飽き飽きしているから連れ出して欲しい。

 

『いえ、人がいるところに行きたいです。俺を連れて行ってください』

 

『では貴方が支度を終えたら私の元に来てください。温かいところへ連れて行きます。スコージファイ(清めよ)!』

 

 俺って10歳未満に見えるのか?島には当然鏡がないし水面も揺れていて自分のこと見たことなかったがそこまで幼かったなんて……そんな子供が会話をできずに読み書きだけできるって怪しまれないか?まぁいいか。今は俺を保護することで頭いっぱいそうだし。

 なんてことを考えているうちに体の汚れがどんどん落ちていく。おお魔法って便利だな!

 

『ありがとうございます!ちょっと待っててください!』

 

 そう書いて家に戻ると、情報整理を兼ねてしばらく思考に耽った。

 

 ハリー・ポッターの世界ってことは本当に転生したらしいな。どんな世界だったっけなあ。確か禿げていて礼儀作法にうるさい人が毎年主人公ハリーを殺そうとする話だったかな。物騒な世界だ……マクゴナガルさんは劇中ではだいぶ老け込んでいた気がするけどさっき会った彼女はかなり若く綺麗だった。ということは原作より前の時代ということか……ふーむ。今何年なんだろう。見当がまるでつかん。

 

 生活に使っていたものはどれもかなりボロボロで持って行くほどのものでは無かったので、島の思い出としてこの一年で作った中で一番切れ味のいい刃物を手に取り彼女の元へ戻った。

 

『お待たせしました。ところで変なことを尋ねますが、今って西暦何年ですか?』

 

『?今は1967年ですよ。分かったら袖に捕って目を閉じなさい。目を開けたら私の家ですから』

 

 え??1967年?それってスマホいや、パソコンすら普及してないような時代じゃないか!

この世界は漫画、テレビはおろか音楽もまだ全然発達してないだろう。娯楽が全然ないじゃあないか!日本でいったら高度経済成長期?イギリスだとどんな時代だ?プログレ全盛期か?

 

 目を瞑りながら考えていると急に浮遊感を感じた。

 

 

————

 

 

 三半規管に異常が起き、ひどい酔いを感じる。

 

 なんだなんだ?

 

 目を開けるとランプによって照らされた部屋が視界に入った。

 

 〜〜〜ッ!!

 無性に涙が出てくる。文明って最高だ。やっぱり人は一人じゃ生きていけないよ。

 

『あらあら、大変だったんでしょう。お腹は空いていませんか?』

 

『人の温もりが沁みています。腹はあまり減っていません』

 

『泣かせますね。ならまずは風呂に入って来なさい。入り方は分かりますか?』

 

『分かります。本当にありがとうございます』

 

 そう記すと風呂まで案内してもらいこの世界で初めての風呂を堪能した。温水がすぐ出ることに懐かしさを感じるとともにありがたさに感動する。鏡を見たときはかなり驚いた。目の前にいるのが前世の自分の面影を残しつつやや堀の深い顔になっていたからだ。更に肉体は作っていたつもりが想像よりは痩せていて、皮膚はガサガサであった。

 

 自然の中で出来るだけ鍛えたつもりだったがこんなものか……栄養足りて無かったのかなあ。それに自分の顔が慣れないななんか……俺は平たい顔族だったのにぃ……

 

 そんな思考もバスタブに入ると消え失せた。

 

 暖かい。今までの厳しさが嘘のようだ。このまま眠りたいー。

 

 極度の緊張から解き放たれ、落ち着くとともに急激な眠気に襲われるが、バスタブで寝るのは小さな身としては危険なので誘惑に抗いつつ出ることにした。脱衣所に出ると子供用の服が用意してある。長い髪を入念に拭き、置いてある服を着させてもらうと眠気に勝てずプッツリと意識が途絶えそのまま床で眠ってしまった。

 

 

 ————

 

 

 

 

 

 

 ————

 

 

 っ!眠ってしまったか。なんか懐かしい気がしたな。

 

 目を覚ますとベットの中に居たが、自宅のものでは無い。一瞬前世の家に帰れたのかと思ったが、そうではなく彼女のベッドだった。おそらく脱衣所で寝ていた俺を運んでくれたのだろう。何から何まで感謝だな。そう思いながらしばらくぬくぬくしていると、寝室に彼女がやって来た。例によって紙と羽ペンを携帯しながらだ。

 

『起きましたか。驚きましたよ、貴方が脱衣所で倒れているのを見たときは。具合は悪くないですか』

 

『大丈夫です。風呂に入って疲れが取れたので体調は凄くいいです。本当にありがとうございます!』

 

『そうですか。何事もなくて良かったです。お礼はいいです。大人として当然の努めですから。ところでまだ名前を聞いていませんでしたね。貴方の名前を聞かせてください』

 

 なんていい人!よくできた大人だ。

 

 だが、さて困った。ここでxxxxと言うのはどうなんだろうか。魔法、呪術、オカルトなどの世界では真名を明かすのは危険だってことは俺でも分かる。真名によって対象を支配できるからだ。仮にも前世のことを隠すのなら自分に直結する真名は胸の内にしまった方がいいだろう。じゃあどうするかだが、この世界における肉体での名前を考えなくてはならない。郷に入っては郷に従えだ。イギリスの偉大な数学者に名前をあやかろう。

 

『俺の名前はアラン、性は分からない』

 

 そう記すとマクゴナガル先生は微笑みながらアランと言ってくれた。

 

『そうですか、アランですか。いい名前ですね。ではこれからのことを話しましょう。貴方の故郷や貴方が置かれた状況など調べなくてはいけないことは山ほどあります。英語が母語で無いのなら遠い地で生まれた可能性がありますし。ですがまず最優先のこととして貴方の里親を探さなくてはないません。私は授業のためホグワーツにいなければならないため貴方の面倒を見ることができないからです』

 

 素性に関しては一旦追求を逃れたな。里親か。なるほど確かに大事だな。今までは島で一人で生きてこれたがそれは他に選択肢がなかったからだ。社会で生きるには帰属する場所が必要だろう。

 

『分かりました。ところでホグワーツとは何ですか?初めてお会いした時も魔法と言っていましたが、何のことですか?』

 

 落ち着いたし少し踏み込んだ話をしても大丈夫だろう。

 

『失礼、説明不足でした。ホグワーツとは魔法を正しく使えるようになるための教育機関です。マグル、あー非魔法族で言うところの学校になります。次に魔法ですが、これは魔法族が使える不思議な力のことです。貴方も魔法を使えるはずですよ。私たちはそれを感知して貴方に会いに来たのですから』

 

 幼い脳みそには情報過多だな。

 

『えーと、ホグワーツについては分かりました。魔法は誰もが使えるものなんですか?』

 

『いいえ、世の中には魔法を使える者と使えない者がいます。魔法を使える者は使えない者に対してごくわずかしかいないため互いに補いながら生きているのです』

 

 なるほど、やはり自分の知っているハリー・ポッターの世界で間違いないようだな。時代は古いが……

 

『そうですか、魔法使いとそうでない人では協力していないんですか?』

 

『貴方は本当に聡いですね。魔法使いでない人のことをマグルと言いますが、古来からマグルは魔法を操る魔法使いのことを恐れているのです。古くには魔女狩りが…いえ今はその話はよしましょう。何にせよお互いが関わらないようにしようという慣習がすっと続いています。ですから表立って協力するのは難しいことですね。現在は大半のマグルが魔法族の存在を知りません。国によっては魔法族がマグルの中にとけ込んでいるところもある様ですが稀なことです。』

 

 ふーむ、やはりマグルは魔法族を恐れているわけか。

 

『ですから貴方の里親も魔法使いになるということです。何か質問はありますか?』

 

『いえ、ないです。説明ありがとうございます』

 

『では昼食にしましょうか。丸一日も寝ていればお腹も空くでしょう』

 

 丸一日も寝ていたのか…どんだけ疲れてたんだよ俺は。まぁ、久しぶりに安全な地に来たんだ。これくらい惰性を貪ってもバチは当たらんだろう。

 

 昼食は肉の入った麦を牛乳で煮込んだ粥のようなものにサラダやベーコンなどであった。久しぶりにちゃんとした料理を目にし、思わず感極まってしまう。

 

「いただきます」

 

『??』

 

 あ、やべ。つい癖で日本語言っちまった。幸いマクゴナガルさんはよく分かってないようだ。

 

 元が日本人ということで自然への信仰が根底にあり、無人島生活が生命のありがたさを実感させてくれたためやはりこの習慣は抜けないな。まぁいいか。




【用語解説】
高度経済成長期:1954年から1973年の日本の実質経済成長率が高水準で保たれた期間。途中に不況を挟みつつも神武景気、岩戸景気、オリンピック景気、いざなぎ景気と四つの景気が続いたことが知られる。

プログレ:プログレッシブ・ロック。1960年代後半にUKで登場した音楽のロックのジャンル。Pink Floyd, King Crimsonなどが知られる。

三半規管:三つの半規管からなる。半規管は一つずつX軸、Y軸、Z軸のうちの一つの方向の回転運動感知を担当している。三つ集まることで三次元回転を感知できる。


エニグマに強そうな名前。
ようやく会話(筆記)に入りました。
マクゴナガル先生は31歳です。アラサー。

誤字、脱字がありましたら報告して頂けると幸いです。

これからは金25:00の更新を基本にしようと思います。

引き続きよろしくお願いします。

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