マクゴナガル先生はいい人
〈よう。調子どう?〉
〈いいぜ。お前は?〉
〈いいに決まってんだろ。来週のライブ見にきてくれよな〉
〈時間が空いてたらな〉
〈お前そう言って全然来ないじゃんか。まぁいいか〉
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シンと冷えた夜に雨が降る。
〈おいっ!しっかりしろ!聞こえてるか?〉
〈うっ……っ〉
〈意識はあるな!頼む!持ちこたえてくれ!今に救急車が来るからな〉
〈…こり……む……〉
〈寝るなっ!意識を保て!〉
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〈呆気ないな……〉
〈人の命なんて消える時は一瞬か〉
〈なんで罪もない奴が被害を受けなきゃならないんだ……〉
〈不条理だ〉
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一箱のアメスピを墓前に添える。
〈死んじゃいかんだろ〉
〈お前がいた証。残してやる〉
〈見守ってくれ、リュウ〉
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「いただきます」
目の前に広がる豪華な昼食。この世界で初めての料理に感動しながらもぐもぐ食べ進める。誰だよ、イギリスの飯はまずいとか言ったやつ。十分うまいじゃねーか。
「ごちそうさまでした」
合掌しながらそう言うと、またもマクゴナガルさんは不思議そうに見ていた。やはりこれをやらないとモヤモヤするんだよなあ。
『さてご飯も済みましたし、まず里親についてですが何人かに当たってみるのでしばらく待っていてもらいたいです。里親が決まるまでは私の家にいなさい。今、外は色々危なっかしくなっているので』
『里親が魔法族ということはマグルとは関われないんですか?』
それは困るな。やはりマグルの感覚としてはいきなり何もかも未知な環境に放り出されるのはきついものがある。
『それは魔法族次第です。魔法族の多くはマグルとは関わらず生きていますが、マグル出身の魔法族の中にはマグルのコミュニティの中で暮らしているものもいます』
『魔法族は脈々と受け継がれるのなのではなく、マグルから生まれるものもいるのですか?』
『ええ、沢山いますよ。私も母は魔法族ですが、父はマグルですし』
『なるほど……魔法とは不思議なものなんですね。では里親ですがマグルに関して寛容な人を探してもらいたいです。魔法族だけでなく、マグルの人たちとも関わりたいので』
俺の言葉を見たマクゴナガルさんは少し嬉しそうに頬を緩めた。この人はマグル排他主義ではないのだな。
『分かりました。マグルに理解のある親を探してみます。二階の部屋を里親が見つかるまでの貴方の部屋にするので、暫くここでお待ちください』
マクゴナガルさんが洗面台で呪文を唱えると、食器は浮かんでひとりでに洗われ乾燥して棚に戻って行く。マクゴナガルさんはその様子を見た後階段を上がっていった。魔法便利だなあ。いろんな呪文を早く知りたいな。
食器が片されたテーブルの上には新聞があったので手に取ってみる。なになに。「日刊予言者新聞」?変な名前だなあ。うわっ、写真が動いた!静的なものにも魔法の効果あるのかよ。相変わらず不思議な世界だ……
<アルバス・ダンブルドアとヴォルデモートの会合実現なるか?>
<ホグワーツ魔法魔術学校のセキュリティはいかに?>
<ルーマニア、ヴラド公領地内で吸血鬼出没!>
<消費者名簿漏洩あいつぐ!>
etc.
なんか物騒だな。てかこの時代『例のあの人』存命中かよ。しかもまだヴォルデモート呼びされているよ。もう危険な匂いしかしない。それにしてもこの新聞、新聞というよりもビラみたいだな。内容の薄さ大丈夫か。他に新聞は見当たらないが一社購読は危ないぞ……
ん。雑誌「変身現代」か。こっちは学術雑誌か。前世の雑誌Natureにイメージ近いな。パラ見でも「日刊予言者新聞」より内容充実してそうだな。
色々漁っているとマクゴナガルさんは上階から降りてきた。作業早いな。困ったことは魔法にお任せってことか。
『ほお、「変身現代」を読むとは感心ですね。変身術には興味ありますか。」
『まだ中はしっかり読んでいないのですが、こういう学術誌が魔法の世界にもあるのですね。こっちの新聞よりしっかりとした内容そうですし。』
『新聞も読んだのですか。いいですね。まあ魔法族の新聞はマグルの新聞に比べれば内容が薄いのは昔からなのでしょうがないでしょう。若い子は新聞とかを読まないとばかり思ってました。』
『現状が分からないことだらけなので少しでも情報が欲しかったのです。』
『なるほど。できれば貴方を出生の地に戻したいんですが、貴方の記憶が曖昧である以上できることがあまりありません。ところでいつまでもこう筆記で会話するのは大変でしょう。会話の練習でもしましょうか。』
そう書いてマクゴナガルさんは微笑むが、俺は顔が引きつった。ついに避けて通れぬ問題にぶち当たったか。もとが研究漬けの理系大学生には厳しいものがある。以前は英語なんて有名なアメリカの教育試験サービスが実施する外国人のための某英語試験の時や、論文を読む時ぐらいしか使わなかったのだ。そのため読みは問題ないが、聞く、ましてや話すとなるとほとんど経験がない。
「分かりました。頑張ります……」
うなだれながら返事をした。
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英会話の練習をしながら恙無く数日過ごした。
日中はマクゴナガルさんは忙しいらしく出かけているため、俺は「変身現代」のバックナンバーを読み漁っていた。「変身現代」は変身学という魔法の体系に関するテーマを扱っている学術雑誌である。トピックの大きな分類としては、新しい呪文の提案、既存の呪文の評価と改良の二種に分かれていた。変身術は物の形だけでなく生物の形、そして自分の形すらも変える魔法らしい。自分の姿を動物に変えられる人を"動物もどき"というらしく、とても希少だと書かれていた。
気分転換にあたりの散策もした。ここはどうもケイスネスというところらしく、森林はないが所々に自然が溢れる穏やかな場所である。散歩をしても特に変わった景色は無く、ただ癒されるだけであった。
マクゴナガルさんがホグワーツの教員と言うことなので、彼女の時間がある時に魔法をいくつか教えてもらおうと思ったが、呪文を使うには杖がいるのが基本らしく、まだ教えるのは難しいと言われてしまった。また10歳未満と推定されていた曖昧な年齢についてだが、年齢検知呪文より俺は8歳であると分かった。若いな……
というかそんな呪文あるのか。未成年確認も楽そうだな。
そんなこんなで4, 5日ほど経ちいつものように部屋で雑誌を読んでいるとベルが鳴った。外出から帰ってきたマクゴナガルさんの様子がいつもより嬉しげである。
「おかえりなさい。」
「ただいま。里親の件ですが、無事決まりましたよ!」
彼女を出迎えると朗報が入る。
「おお!本当ですか!」
数日間英語のみの会話をしていると徐々にだが聞く方は幾分かマシになった。
「ええ、マグルへの理解が深いジュール家が受け入れてくれました。もう準備は出来てるそうなので明日の昼食後にでも挨拶に行きそのままジュール家に滞在してもらいます。家はエディンバラにあります。何か質問はありますか」
「分かりました。大丈夫です。とても楽しみです!」
俺は階段を上がり自室に戻ると、日課のトレーニングを始める。まずは倒立だ。体の調子を確認し、ボディコントロールを高める上で実に有効だ。倒立を1分間した後少し休憩を取る。
次に頭を下にし右ひじで脇腹を左手で体を支え足を浮かすチェアーの体勢でキープしたのち、そのままゆっくり体を浮かす。そして右ひじを右ひざにくっつけ、床につけた右手と左手だけで体を支えるエアーベイビーと呼ばれる姿勢でキープ。その後倒立まで体を持ち上げキープ。そのまま今度は左ひじを左ひざにつけエアーベイビーでキープしたのち、左軸のチェアーまで戻す。この一連の流れをワンセットとしインターバルを1分ほど入れた後3セット繰り返す。初めは倒立すらできなかったが、感覚を掴むと自然とできるようになっていった。
体を痛めつけた後は夕食をとった。マクゴナガル家最後の夕食もまた豪勢なものであった。夕食時には彼女と会話するが、彼女はとても賢く品があるのがよく分かった。彼女の授業はきっと内容が深く面白いのだろう。
快眠し、朝食をとり部屋で『変身現代』を内容につまずきながら読むともう昼時。昼食を済ませるといよいよジュール家への訪問だ。
「それではジュール家に伺います。姿現しをするので裾に掴まってください」
「はい」
俺は彼女の裾を掴み、目を閉じると急に浮遊感を感じた。
うっ。また内臓が浮く感じ……
————
目を開けると薄茶色のレンガ造りの一軒家が見えた。が気持ち悪かったのですぐに蹲ったが。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です……ただちょっとこの呪文には慣れていないだけですので」
「落ち着いたら行きますよ」
そう言ってマグゴナガルさんはしばらくしてからベルを鳴らすと中から物音が聞こえてきた。
戸が開くと、優しそうな黒髪の男が出てきた。
「おお、こんにちは。マクゴナガルさん。どうぞ上がってください」
「こんにちは。ジュリアス。今日はありがとう。お邪魔するわ」
促されるまま俺はマグゴナガルさんに着いて行きながら家に入っていった。家に入るとマクゴナガル邸と同様に暖炉付きのダイニングルームが広がっている。ダイニングルームには金髪の佳麗な女性が待ち構えていた。
「久しぶりです、マクゴナガル先輩」
「久しぶりね、エセル。元気にしてたかしら」
「ええ、最近は魔法族のゴタゴタが続いてますけど、マグルの方は穏やかですよ。エリザものびのびと育ってくれていますし」
「それは良かった。エリザと最後に会ったのは2年くらい前かしら。今は居ないようだけど、出掛けてるの?」
「そんな前でしたっけ。月日が経つの早いですね。出掛けてませんよ。今日来るアラン君に照れているのか、上の階に居ますよ」
エセルと呼ばれた女性は苦笑しながら俺を見た。ここらで挨拶しとくか。
「初めまして。アランと言います。ジュリアスさん、エセルさん、今日からよろしくお願いします」
「やあ、こんにちは。初めまして、アラン君。私はジュリアスだ」
「私はエセルよ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「そう固くならなくていいよ。今日から私たちは家族になるんだから」
ジュリアスは穏やかに言った。
「家族ですか……ありがとうございます。今日からお世話になります。世間を知らない子供ですが、迎え入れて頂き本当に嬉しいです」
カタコトの英語で伝えると、ジュール夫妻は暖かく受け入れてくれた。
「気にしなくていいわよ。君が大変な環境に置かれてたって先輩から聞いてるしね」
「うん。私たちは君と会うのを楽しみにしてたんだ。気を楽にして欲しいな」
「そう言ってもらえると助かります。ところで先ほどからその階段の陰に誰か隠れているのはどちらですか」
階段の陰から確実に一人分の気配を感じる。自然生活の中で気配を探る力が身についてからは、周囲の生物への状況把握ぐらいはできる。これは感覚にすぎないのだが確信を持てるのだ。日常生活で我々の真後ろに人が立っていたら気づくように。これも魔法がある世界なら当たり前の感覚なのだろうか。
「階段の陰?エリザいるのかい?」
ジュリアスが呼ぶと小さな金髪の人形のような可愛らしい見目の少女が出てきた。ジュリアスはよく分かったなと驚いていた。
むっ?皆の反応を見るとこの世界でも普通気配を読むことができないのか。そんなものか。
「貴方がアランさん?」
少女は不安そうに尋ねた。
「そうだよ。初めまして、俺はアラン。君は?」
「私はエリザ。初めまして」
エリザはマクゴナガルさんに頭を下げた後、そそくさと階段を上がってしまった。
「あら、エリザは昔ずっとやんちゃだったのに、今はおとなしくなったわねえ」
「違いますよ。いつもは活発な子なんですけど、今日はアラン君が来るからか昨日からどうにも緊張しているんですよね」
エセルは困ったように言う。
「なるほどね。まあ子供は仲良くなるのが早いですから心配いらないでしょう」
「そうですね」
「悪いね、アラン君」
うん。いきなり家族が一人増えるって言われても子供は困るよな。仕方ないか。
「構いませんよ。早く仲良くなりたいですね。エリザさんは何歳ですか」
「まだ7歳よ。アラン君は8歳だから、君はお兄ちゃんだね」
一個下か。今までは兄妹というものがいなかったがいきなり妹ができたことになるな。
「お兄ちゃんですか。家族っていいですよね……暖かくて……お義父さん、お義母さんって呼んでいいですか」
「もちろんさ。遠慮なんていらないよ」
様子を見ていたマグゴナガルさんは安心して口を開く。
「アラン、その調子なら問題無さそうですね。ホグワーツで待っています。貴方はとても教えがいがありそうですから楽しみです。ではエセル、ジュリアス、アランのことを頼むわよ。エリザにもよろしく伝えてね。また無事に会いましょう」
「任せてください、先輩。責任持って私達が面倒を見ます。先輩も頑張ってください。どうかご無事で」
「マグゴナガルさん、俺を島で見つけ、保護してくれてありがとうございます。この恩は絶対忘れません。次は学校で会いましょう」
俺らの別れの言葉を受けマグゴナガルさんは帰っていった。
「あの、今って結構危険な時代なのですか」
「ああそうだよ。アラン君は知らないかも知れないかもしれないが、今イギリスの魔法族は一人の道を違えた男のテロによって安全とは言えないんだよ」
ジュリアスが顔をしかめながら答える。
「そんなことが起きているんですね。ここは大丈夫なのですか」
「幸いマグルの多いこの地区ではまだ何も起きてないから安心してもらっていいよ」
「そうですか」
ふぅん。魔法族同士でもいざこざはやはりあるんだな。
「まぁそれは置いといて、君の部屋を案内するよ。ついて来てくれ」
ジュリアスさんに案内されるままに階段を上がり2階に上がると、いくつかの部屋が見えた。
「この正面の部屋が君の部屋だ。右手の部屋はエリザの部屋だからくれぐれも間違えないようにね」
「分かりました」
自室に入ると、勉強机とベッドが用意されていた。
「ベッドは客人用のもので、シーツなどは新品同然だから気持ちいいはずだよ」
「ふふ、そうですか。ありがとうございます」
「何か質問あるかい。無ければ夕食までゆっくりしているといい。慣れないことで今日は疲れただろう」
「いいえ、特には。ただ何か読むものが欲しいので何か本などがありますか」
「本かい。どんな本がいいかい」
「そうですね。例えば『変身現代』みたいな面白い雑誌とかがいいですね」
「よく難しい本を知っているね……内容は分かるのかい?」
「いえ全然。魔法に関する知識は何もないですからね。ただ目的や手法に関しては理解できるところも少なくはないです」
「なんてこった。マクゴナガルさんがすごくきれる子と言っていたがその通りのようだ。では魔法の基礎になるような本を数冊渡すよ」
ジュリアスは部屋から出てしばらく経つと数冊の本を持ってきた。
「『魔法論』、『変身術入門』、『魔法史』、この辺の本は魔法の初歩や背景が書かれているから君なら理解できると思うよ」
「なるほど、ありがとうございます」
「さっきも言ったが家族に対して固くなる必要なんてないんだよ。もう少しフランクにしてもらって構わんよ」
「ふふっ。ありがとう、お義父さん」
「それでいい。じゃあ夕食のタイミングで呼びにくるからそれまでまったりしなさい」
返事を聞き満足したジュリアスは部屋から出て行った。
ふぅ。里親か。ずいぶん優しそうな家族だな。良かった。ジュリアスさんは面倒見がいいタイプだな。エセルさんは優しさの中に厳しさを兼ね備えたタイプと見た。何と無く雰囲気はマクゴナガルさんに似ているし。彼女のことを先輩と行っていることから直属の後輩なのかな?エリザちゃんは話を聞く限りやんちゃらしいが俺のせいでどうもしおらしくなっているらしいな。さて困ったな……
そういえば俺の親はどうしているのだろうか。元気にやっているだろうか。俺はなんでこの世界に転生したんだろう。なんの前触れもなく気づいたらここだもんな。ずっと考えてこなかったけど、俺がここにいるのに意味があるのかな?分からない。意味なんてないのかもしれないし。前世に強い未練があるのかと言えば特に無いのが事実だ。ただ親に恩返しだけはしたかった。それと……
む。思考の沼にはまってしまったな。気分転換に用意してもらった本でも読むか。楽しみは後ってことで『魔法論』は後で読もう。とりあえずこの世界の教養をつけるためにも『魔法史』あたりから読むか。
本を読みしばらく経つと、ドアの向こうから夕飯だと言うジュリアスさんの声が聞こえた。階段を降りダイニングルームに行くとジュリアスさん、エセルさんそしてすでにエリザちゃんまでいた。みんな席についていた。なんだもう少し早く行けば良かったな。
「では改めて、アランです。今日からよろしくお願いします」
頭を下げるとみんなはよろしくと頷いた。
「色々話したいこともあるでしょうが、まずは夕飯にしましょう」
エセルがそう切り出し、家族4人の初めての夕食を迎えた。
「はい。『いただきます』」
合掌しながらそう言うと、周りの3人は珍しいものを見たかのような表情で見つめてきた。
やはり伝わらんな。これは。
【用語解説】
Nature:世界的に権威のある学術雑誌。世界中の素晴らしい論文が多く掲載されている。
チェアー:Break Danceにおいてフリーズや技の起点によく使われる。6歩に並ぶ代表的なムーヴ。
次話は27日26:30更新でお願いします。
誤字、脱字がありましたら報告していただけると幸いです。
あと2話ほどでホグワーツ行きます。