ただ魔法を解明したいだけ   作:ツンドラ

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前回のあらすじ
ジュール家に引き取られた。


【注意】数式の試みがあります。嫌いな方はごめんなさい。tex変換ツールを試してみたかっただけです。

途中出る数式は本筋でないので読み飛ばしても構いません。



Gauss

 アランがジュール家に来てはや2週間が経つ。アランの長く鬱陶しい黒髪は後ろで結べるギリギリのところまで切ってサイドを刈り込むことでスッキリした。

 

 ジュール家にはいくつかのルールがある。魔法族なのになるべく魔法に頼らないというものだ。料理、洗濯、掃除などの家事において魔法を使っているところをアランは見たことがない。何故かとエセルに尋ねると、「魔法は確かに便利だけど、そればっかだと人の温かさが失っちゃうでしょう。」と答えた。

 また杖を持つのは11歳からというルールもある。なんでも幼少期から杖を使うと危ないっていうのと自尊心が高すぎる人間になってしまうとの事だ。その為アランはもちろんエリザも杖を持っていない。

 

 ジュリアスは普段ヒーラーと呼ばれる魔法族専門の医者として働いているようだ。すごいな。エセルもヒーラーの免許を持っているらしいが今は主婦に専念している。エリザはアランに対してどこか余所余所しく避けるように行動するため、アランはなかなか話すことができなかった。

 

 

 

「お義父さん、この辺に図書館ってある?」

 

「図書館?あるぞ、それも大きな奴が。本を読みたいのか?」

 

「うん。俺まだ全然状況が分かってないから色々調べたくてさ」

 

「その歳で調べ物か……」

 

 ジュリアスは感心したように漏らす。

 

「マグルの図書館でいいんだよな?ここから30分ほど歩けばあるけど今から一緒に行くか?」

 

「うん。連れて行ってくれるの?ありがたい!」

 

「エセル、夕飯までには帰ってくるからアランと出掛けてくるね」

 

「分かったわ。遅くならないようにね」

 

「「行って来る」」

 

 俺は前々から行きたかった図書館に行くことにした。前世と今世の整合性を確認したいからだ。

 

「どうだアラン。大きいだろ!」

 

 ジュリアスは自慢げに図書館を披露する。

 

 ほーう。予想よりはるかに広い図書館だな。

 

「ここらで図書館って言ったらこの図書館が有名さ。なんたってここはマグルの国が運営してるんだからな」

 

 国立図書館か。都合がいいな。ここなら思う存分調べられそうだ。

 

「ありがとう。こっからは自分で調べられるからお義父さんは自由にしてていいよ」

 

「そうか。じゃあ調べものが終わったら声掛けてくれ。ここらへんで本読んでるから」

 

 ジュリアスと別れ、まず真っ先に向かったのは歴史の棚だ。この世界の魔法がどのように影響を与えたのかが重要だからな。

 

 どれどれ、近代史か。1840年アヘン戦争、1914年第一次世界大戦、1939年第二次世界大戦。こういった有名な戦争はうろ覚えな知識と全て同じだな。魔法族は本当にマグルと関わりを持たないようにしてきたとみえる。

 

 数学はどうだろう。数学の発展は文明の発展でもあるからな。ふーむ。フェルマー、オイラー、ラプラス、ガウス、リーマン、ラマヌジャンなどなど……

 

 なるほどこれまた前世と同じ人物が活躍しているな。じゃあ物理学は?

 

 ニュートンのプリンキピア(Philosophiae naturalis principia mathematica)、マクスウェル方程式、アインシュタインの特殊相対性理論、ラザフォードの原子の研究、シュレーディンガーの量子力学。そしてノイマンの原子爆弾に関するZND理論。

 

 ノイマンまでいたのか。ということはこの世界でもノイマン型コンピュータが覇権を握るのか。

 

 書物を漁って読むうちにだんだん背筋が凍ってきた。

 

 自分の知っている何もかもが前世と同じように起こっているからだ。事件も発見もなした人が全て一致している。あまりにもリアルだ。ここは単なるフィクションの世界ではないと再認識させられた。

 

 はぁ、やれやれ。まぁ気にしても仕方ないけどな。

 

 貨幣についてだがアランがエセルに確認したところ、魔法界ではガリオン、シックル、クヌートと呼ばれる三つの硬貨が使用されているという。それぞれ金貨、銀貨、銅貨である。1ガリオンは17シックル、1シックルは29クヌートである。全く魔法界は何進法を採用しているのか……計算しにくくて堪らない。マグル界の貨幣とのレートは1ガリオン約5ポンドときく。ポンドと円のレートを調べると1ポンド860円程度であった。前世だと確か1ポンド140円程度だったからものすごく円安に感じるな。まあこの時代の物価がわからないからなんとも言えないがな。

 

 結局は1ガリオンは約4000円、1シックルが約250円、1クヌートが約10円となるのか。

 

『バリスタとソリシタ』

 

 なんだこの本は。バリスタは知ってるけど、ソリシタって何だ。バリスタってコーヒーを淹れる職だよな。ソリシタは紅茶を淹れる職かな?

 興味から読むと、バリスタ、ソリシタは日本でいう弁護士に類する職であった。なんでもソリシタが相談を受け契約書や遺言書などを作成し、バリスタが法廷での弁論をするような分業であるらしい。恥ずかしい思いをするところだった。というかコーヒー淹れるバリスタと綴り違ったし。この国の常識が全然ないな……

 

 

————

 

 

 このイギリスという国を理解するため、またブランクのある思考法を向上するためにもアランは図書館に通い詰めた。そんなある日アランはエリザと買い物に出かけることになった。夕飯の食材を買ってきてほしいとのことだ。

 

 エリザちゃん、まだ俺に気を許してくれないなー。

 

 エリザはアランとの距離感に困りながら一緒に歩いていた。いきなり家族が増えると言っても幼いエリザにはすんなり受け止められない。

 

 一人っ子として両親の愛情を目一杯受けてきたが今はそうもいかない。ジュリアスもエセルもなにかとアランに気を配るため、エリザはわがままをなかなか言えないのだ。

 

「エリザちゃんは学校楽しい?」

 

「うん。まぁまぁかな。アランさんは楽しみ?」

 

 エリザは事情によりアランが学校に行けていないことを知っている。ただその事情も親からはぼかされて伝えられているためよく分からない。

 

「もちろんさ。新しい環境って大変だけど学ぶのは好きだからとてもワクワクするからね」

 

「ふーん。そうなんだ。アランさんは変わってるね」

 

 確かに、子供にとっては勉強など楽しくも何ともないだろう。それにしてもやっぱり他人行儀だなあ。

 

 気まずい沈黙が続く。

 

「エリザちゃん、ごめんね。俺が来てからどうにも元気ないって聞くし」

 

「いいよ。気にしてないから。ただちょっとモヤモヤするだけ……」

 

「そっか……」

 

 エリザは会話をすることなく先に歩いて行く。

 

 まあ、この関係も時間が解決するだろう。その為にも俺は家族に迷惑をかけないように振る舞わないとな。

 

 アランはエリザの後をゆっくり着いて行くと先の曲がり角から接近する気配に気づく。エリザはぼんやりと下を向いて歩道の内側を歩いている。

 

「危ないっ!」

 

 走ってエリザを引っ張ると死角からは自転車が迫る。

 

「うぉっ!!」

 

 大きな音がなり、エリザは驚く。

 

「大丈夫か!坊主!」

 

 自転車でアランを轢いてしまった男が慌てる。

 

「うん。急に飛び出してごめんなさい。お兄さん怪我は?」

 

「俺は大丈夫だ。でも坊主は手足から血が出てるじゃねえか!立てるか?救急車呼ぶか?」

 

「いえ大丈夫です……立てますし歩けます。家が近いから問題ありません。怪我も見た目ほど酷くないし」

 

「そ、そうか。せめて家まで運ばせてくれ。その状態で放置などできん」

 

「いえ、本当に大丈夫です。軽く擦りむいただけですから。その気持ちだけで結構です。非は俺の方にあるので」

 

「そうか… もしなんかあったらここに連絡してくれ。悪かったな坊主に嬢ちゃん」

 

 ぶつかった男は連絡先を書いた紙を渡す。

 

「ありがとうございます。こちらこそ前方不注意申し訳ありませんでした。Beannachd leat!(じゃあね)」

 

「おう。Beannachd leat!」

 

 男は倒れた自転車を起こしそのまま去った。

 

 嵐のような男だったな。それにしても尋常じゃなく痛え。エリザちゃんがいなかったら泣き喚きたいくらいだ。目からは涙が出てくるし。でもエリザちゃんに心配かけたくないから痩せ我慢しなくては。

 

「ア゛ランざんっ……んっ……んっ……んぐっ」

 

 しばらく呆然としていたエリザが泣きながら声をあげる。

 

「大丈夫だよ。家に帰って治してもらうから……」

 

「ごめんなざぃ……わだしのせいで……」

 

「気にしなくていいよ。エリザちゃんが無事でよかったよ」

 

 何事もなかったように振る舞うが、膝からは血が滴る。

 

 足首も痛え。思い切り打ちつけたからなあ。ついてねえなあ。

 

「うぅ……ごめんなざい……」

 

「とりあえず帰ろうか。こんくらいの傷で済んで良かったよ」

 

 エリザは泣きながらとぼとぼと歩き出した。アランもゆっくりついて行きながら帰った。二人が帰宅しエセルがその様子を見ると慌てて駆けつけた。

 

「どうしたの!一体!」

 

「わだしが……いけないの……」

 

「ちょっと事故にあってね。たいした傷じゃあないんだが、すぐ治して欲しいな……」

 

「え、ええ。エピスキー(癒えよ)!」

 

「うっ……それと足首にもお願い。打ち身になってるっぽい」

 

「分かったわ。エピスキー(癒えよ)!」

 

「いつつっ……助かったよ。ありがとう」

 

「大事に至る怪我じゃなくて良かったわ。一体どうしたのよ」

 

「うーんと、自転車と衝突しちゃってね……」

 

「大変じゃない!頭は打たなかった?相手は大丈夫なの?」

 

 エセルは少し取り乱しながらアランに状況を尋ねる。

 

「幸い頭はぶつけなかったからよかったよ。相手の方も特に怪我してなさそうだし元気だったから大丈夫」

 

「そうだったの。今後気をつけなさいよ。アラン。次は助からないかもしれないんだから。エリザはなんで泣いているのかしら」

 

「ぁあ、それはね、」

 

「わだしがいげなかったの!!」

 

 エリザは自分が怒られるのではないかという恐怖とアランに迷惑をかけてしまった罪悪感とで冷静さを失ってしまっている。

 

「エリザ?」

 

「わだしがよそ見して歩いでだから!」

 

「落ち着きなさいよ、エリザ。ちゃんと聞くから、ゆっくり話しなさい」

 

「えっどね……わたしはすねてたの……」

 

「うんうん。何に対して?」

 

「アランざん……だってママもパパもアランさんばっかりなんだもん」

 

「そうね……悪かったわ。でもしょうがないのよ。アランはね、本当の親がどこにいるかわからないし、ここに来るまではずっと一人だったのよ。エリザも分かってあげてよ」

 

「んん。本当はわかってたよ。アランさんが大変だったことくらい。それなのに私は勝手にいじけて……」

 

「うんうん」

 

「そんでね。今日だってお買い物に行くことになったけど、とっても気まずかったの」

 

「そうなの」

 

「ん。だから、会話もどうすればいいか分かんないから一人で先に歩いてたの。そしたら曲がり角のところで急に自転車が出てきてね。アランさんが守ってくれたの」

 

「そうだったの。話してくれてありがとね、エリザ。そうなの?アラン」

 

「まあ、そうゆうことで合ってるよ」

 

「アラン。ごめんなさいね。てっきり貴方の不注意かと」

 

 エセルはアランに向き直り頭を下げる。

 

「いやいいよ。別に気にしてないから」

 

「エリザを守ってくれてありがとう。貴方のことがとても誇らしいわ」

 

「当然だろ、家族を守るなんて。エリザちゃんが傷つくなんて俺も嫌だし。その点俺は鍛えられているから大丈夫だよ」

 

「どうして……どうして、わたしを守ってくれたの?」

 

「?家族だからだよ」

 

「でもわたしはひどい態度を取ってたし……」

 

「それがどうした。俺はもうジュール家の一員だ。妹を守るのに理由なんていらないし、その態度を取られる原因が俺にあるってわかってるから気にしなくていい。まぁちょっとは気を許して欲しいけどね」

 

 そういってアランが笑うと、エリザもつられてように小さく笑う。

 

「ありがとう……アランにぃ……」

 

 エリザが恥ずかしそうにアランのことを兄呼ばわりするとアランは目を輝かせた。

 

「ふふふ。どういたしまして。エリザ」

 

「あらあら。仲良くなれたのね。よかったわ。二人ともゆっくり休んでなさい。買い物は私が行ってくるから」

 

「ああ。ありがとう、義母さん」

 

 エセルが買い物を終えて、ダイニングルームに戻るとぎこちなく会話をするアランとエリザが見える。

 

「無事でよかったわ。本当に」

 

 エセルは鼻歌交じりに夕食の準備に取り掛かった。

 

 

————

 

 

 アランはマグルのプライマリースクールに通うことになった。アランがジュール家に引き取られたのは8月であり、ちょうど夏休みの期間というのも都合がいい。

 

 イギリスの教育制度は面白いことに、日本のように6-3-3-4と小学校、中学校、高校、大学と続くわけではない。

 まず義務教育は5歳から15歳だ。ここで公立学校か独立学校(いわゆる私立学校)かで過程が区分されている。伝統的なラグビー校やイートン校といったパブリックスクールは独立学校であり、私立になることに注意だ。パブリックなのにプライベートなのである。

 プライマリースクールは公立学校なら5歳から11歳まで、独立学校なら5歳から12歳であり、セカンダリースクールはそれぞれ15歳までである。15歳から18歳は継続教育につながり、18歳以降は高等教育として大学に進学するのが基本的な教育制度だ。ただしこれは一例であり、地域によって状況は異なる。ホグワーツは11歳から18歳ということで中等教育から継続教育までに当たるということだ。

 

 それはさておき、ジュール家ではマグルのプライマリースクールでマグルの常識を身につけるのが方針である。エリザは現に公立のプライマリースクールに通っていて、ちょうど2年生を終えて次は3年生となるのだ。アランはエリザの一つ上より、4年生になることになる。学校ではジュール家の親戚の子として紹介された。

 

 

 

 やはり学校の授業内容は退屈だな。クスリで子供にされた高校生もこんな気持ちなのだろうか。まあ俺の場合はどの授業も英会話の勉強にとてもなるからいいが。俺のクラスを見てくれる先生は、レクシー先生と言って若い黒髪の女性だ。彼女はなかなかに面白いことをしてくれる。

 

 算数の計算演習の授業で半年ほど全ての問題を1分ほどで解いていたら、追加の問題をくれるようになったのだ。それも進んだ内容のものをだ。最初は小学生高学年ほどで習う内容のものだったが、それもすぐに解いてみせると、だんだんレベルが上がり、中学の内容に入った。それも詰まることなく解き続けると高等教育の内容に移っていった。積分を出すか……まぁまだ小学生にも解ける子はいるかな?相当学習が早い子だけど。

 

 先生は何処から持ってくるのか演習を解き終えると毎回問題を用意してきた。今日も計算演習の授業がある。先週積分の問題を解いた時、先生相当悔しそうな顔してたな。この張り合いを楽しんでいる自分がいる。今週の授業で出された問題を片付けると先生は自信に満ちた表情で問題を渡してきた。

 

 ほぉ。なかなかいい問題を見つけてきたと見える。どんな問題かな。

 

$$\int^{1}_{0} xe^{1-x}\: dx$$

 

 ふーむ。指数関数の積分か。ネイピア数について$e^x$が微分、積分に関して変化しないこと利用して部分積分を考えるのがいいな。

 部分積分とは積の微分

$$(fg)'=f'g+fg'$$

を考え

$$\int f'g = fg - \int fg'$$

とすることである。したがってこの問題においては、

\begin{eqnarray*}\int^{1}_{0} xe^{1-x}\: dx &=& \left[ x(-e^{1-x}) \right]^{1}_{0} - \int^{1}_{0} (-e^{1-x})\: dx \\ &=& -1 + \left[ -e^{1-x} \right]^{1}_{0} \\ &=& e-2\end{eqnarray*}

 

 こんなもんか。別に大したことは無い。次は?

 

$$\int^{\infty}_{-\infty} e^{-ax^2}\: dx$$

 

 ガウス積分かよ……

 

 思わず笑みがこぼれた。さっきの積分と形は似てるがまるでレベルが違うぞ。本当に小学生が解けると思ってるのか?こんなん解ける小学生、国内探してもまぁまずいないんじゃないか?難易度のエスカレートぶりに笑えてくるわ。小学校の先生でも解ける人はそうはいないだろう。

 

 まぁ挑戦には受けて立つが。

 

 解き方は分かりやすいようにオーソドックスな方法でいいだろう。

 まずは与式を文字で置いて、2つのdummy変数で表してやる。

\begin{eqnarray}I &=& \int^{\infty}_{-\infty} e^{-ax^2}\: dx \\ &=& \int^{\infty}_{-\infty} e^{-ay^2}\: dy \end{eqnarray}

 次に与式の二乗を考える。

\begin{equation*} \begin{split} I^2&=\left( \int^{\infty}_{-\infty} e^{-ax^2}\: dx \right) \left( \int^{\infty}_{-\infty} e^{-ay^2}\: dy \right) \\ &=\int^{\infty}_{-\infty} \int^{\infty}_{-\infty} e^{-a(x^2+y^2)}\: dx\: dy \end{split} \end{equation*}

 ここで嬉しいのが

\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} x = r \cos\theta \\ y = r \sin \theta \end{array} \right.\end{eqnarray}

という極座標変換をするとヤコビアンの項のおかげで積分ができる形に持って言えるということだ。直交座標を極座標に変換するときは変数変換のヤコビアンも計算しなくてはならない。ヤコビアンは

\begin{equation*} \begin{split} J &= \mathrm{ det }\begin{pmatrix} \frac{ \partial x }{ \partial r } & \frac{ \partial x }{ \partial \theta } \\ \frac{ \partial y }{ \partial r } & \frac{ \partial y }{ \partial \theta } \end{pmatrix} \\ &= \mathrm{ det }\begin{pmatrix} \cos \theta & -r \sin \theta \\ \sin \theta & r \cos \theta \end{pmatrix} \\ &= r(\cos^2 \theta + \sin^2 \theta)\\&=r\end{split} \end{equation*}

と計算できる。また積分区間は$\mathbb{ R }^2 \leftrightarrow (0,\infty) \times (0,2\pi)$で一対一対応する。したがって

\begin{equation*} \begin{split} I^2&=\int^{\infty}_{-\infty} \int^{\infty}_{-\infty} e^{-a(x^2+y^2)}\: dx\: dy \\ &= \int^{2\pi}_{0} \left[ \int^{\infty}_{0} e^{-ar^2} r \: dr \right] \: d \theta \\ &= \int^{2\pi}_{0} \frac{1}{2a} \: d \theta \\ &= \frac{\pi}{a} \end{split} \end{equation*}

 ガウス積分は被積分値が正であることから正値を取るので

\begin{equation*} \begin{split} I&= \sqrt{ \frac{\pi}{a} } \end{split} \end{equation*}

 

 解析的な考察は難しいからやらないがこんなものだろう。

 

 レクシーは答案を見て、事前に用意してきたであろう本と照らし合わせると顔が青褪めていく。

 

「正解です……」

 

 放課後家事を終えたエセルが学校に呼び出された。

 

「どうしたのですか。先生。うちのアランが何か問題を起こしてしまいましたか」

 

 エセルはアランが魔法を使ったのではないかと内心焦っていた。国際魔法使い機密保持法などが面倒だ。何しろレクシーの慌てぶりが尋常ではない。

 

「問題?ええ!大問題ですよ!」

 

「いったい何があったんですか?」

 

 エセルはアランに視線を向けるが、アランはどこ吹く風と受け流す。

 

「アラン君は間違いなくギフテッドです!今すぐにでも大学に行かせましょう!」

 

「え……ギフテッドですか?」

 

「そうです。アラン君は高校生でも解けないような数学の問題を軽々解いて見せました。正直私にも理解できない問題です」

 

「え、どういうことですか」

 

 エセルは困惑しながらも聞き返す。

 

「アラン君はいつも生徒に解かせてる計算問題を1分くらいで解いてしまうので、彼には難しい問題を別紙で解いてもらってたのです。先週は高校で習う積分計算も解いてみせたので、今日は試しに大学レベルの計算をやってもらいました。するとそれすらも解いたのです!」

 

「そ、そうですか……」

 

 エセルはマグルの学校を出なかったので事の大きさがよく分かっていなかった。

 

「家ではどんな教育をしているのですか!周りの教員に聞いてもそんなの前代未聞です。その才能を腐らすのは勿体ないです!」

 

 エセルはアランがそこまで学問を出来るとは知らなかったためひどく驚いた。

 

「特に教えたりはしていませんでした……なのでそんなに勉強ができるとは知りませんでした。ただこの子は日頃から足しげく図書館に通ってました。そこで学んだのではないでしょうか。大学の件ですが、一旦家に持ち帰っていいですか」

 

「なるほど……そうですか。是非!恥ずかしながら我々より彼の方がその道をよく知っているため、教えるのが難しいです」

 

 エセルはアランと帰路につくとき尋ねた。

 

「アランがそこまで勉強できるだなんて知らなかったわ。やっぱり大学に行きたい?」

 

「学ぶのはとても好きだからね。大学ね……とっても魅力的な提案だけど、ちょっと考えさせて」

 

「そう。分かったわ。アランの意思を尊重するわ。帰ったらジュリアスにも言いましょう」

 

 家に帰りジュリアスにこのことを伝えると、大変喜んだ。

 

「すごいじゃないか、アラン!私は勉強でだいぶ苦労したが、君は天才とまで言われるなんて!大学はどうだ?行きたいなら行かせるくらいの貯蓄はあるつもりだ」

 

「その話だけど、俺は大学に行かなくていいと思う」

 

「どうしてだい?」

 

 ジュリアスは肩透かしを食らったように言う。

 

「うーん。俺は後3年もしたらホグワーツに行くんだよね。そうしたら大学には通えないし。何より魔法にとても興味があるんだ。魔法を学びながら片手間に学問をやるなんてとてもできるとは思えないよ」

 

「本当にいいの?」

 

 とエセルは確認する。

 

「ああ、大丈夫。実はまだ講義を聞き取れる自信もないしね。ホグワーツまではプライマリースクールでのんびりするさ」

 

「アランがそういうなら先生には断っておくね。貴方の将来がとても楽しみだわ」

 

 後日エセルがレクシーに大学入学案の辞退を告げるとレクシーは諦められず何度も勧めた。しかしエセルが断固として乗らなかったためレクシーは折れた。

 

「すみませんね。アランの親戚が3年後には出張から帰って来るから、親の元に戻ることになるんです。それまでの間は貴校でゆっくりしたいと言っているので」

 

「そうですか……まだ子供ですもんね。分かりました。それまでは私たちがしっかりと曲がらないように導いていきたいと思います!今後ともよろしくお願いします」

 

「いえ、こちらこそよろしくお願いします。何か問題を起こしでもしたら連絡ください」

 

「アラン君は問題を起こすような子ではないですね。学力は申し分ないのはもちろん、運動もやらせれば誰よりも良く動けますよ。年の割に落ち着いていて、引き際をよく見極めていていい意味で子供っぽくないんですよね。クラスの子達も彼に一目置いていて頼りになります」

 

「そうですか。先生にそう言ってもらえてとても嬉しいです。娘と違ってアランは家では学校のことを全然話さないので。引き続きアランのことを頼みます」

 

 エセルは嬉しそうに言い帰路に着いた。

 

 

 

 大きな事件が起こることなく穏やかに数年が経ち、ジュール家に一通の手紙が届いた。




【用語解説】
ガウス積分:数学的に美しい式の1つ。正規分布を考える時などでよく使われる。
 
ギフテッド:天才。

小学生のガウス積分計算:強くてニューゲームでラヴォス(負けイベント)を強引に倒すようなもの。

作中では15歳までを義務教育としていますが1972年には16歳までに変更されました。
年末ということで色々あり更新遅くなりました…...

これが今年最後の投稿になります。来年もよろしくお願いします.
良いお年を.
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