ダイアゴン横丁。
Hat
アランとジュリアスがキングズ・クロス駅に着いたときにはもう10時半であった。
「ちょっと急がないとまずいね」
ホグワーツ特急が出るのは11時だから呑気してる暇がない。2人が遅くなったのはエリザがアランと会えなくなるのを渋り泣き出したからだ。
「まさかエリザがあんな泣くなんて」
「ああ、日頃からアランにべったりだったからな。寂しいんだろう」
「そうかもね……ホグワーツ行っても手紙書くから安心して」
「それは嬉しいな。よし、あの柵だ」
ジュリアスは9番線と10番線の間の柵を指差した。変哲のないただの柵だ。
「私の後ろを離れないようについて来なさい」
ジュリアスは柵をめがけて減速せずに突っ込んだ。アランもジュリアスの後を行くと視界が急に開けた。
「おお、すごいな」
アランが柵を抜けると人が溢れかえるプラットホームにたどり着いた。
「ここがホグワーツ特急の乗り場の9と4分の3番線だ。マグルには隠されているがね」
「なるほど、こういう風に魔法族はマグルの生活に溶け込んでいるのか」
アランが感心していると、ジュリアス赤い汽車を見ながら急かす。
「アラン、探索したい気持ちはわかるがそろそろ車両は出発してしまうぞ」
「確かに……それじゃあ、行ってきます!」
「おう、楽しんで来るんだぞ」
アランはジュリアスに見送られながら、汽車に乗り込んだ。
9と4分の3番線?まことに不思議なものだな。柵が視認妨害で実は通れる場所というのはまだ理解できる。だが、このプラットホームの座標が、普通の9番線と10番線の座標に重なってしまっているのは納得いかないぞ……ここは異界なのだろうか。呼吸は普通にできるし、太陽も見られるから地球上だと思うんだけどな…人工衛星からここの座標を取得したいなぁ。
アランはまたも魔法界の不思議に囚われつつ歩く。空席のあるコンパートメントを探すと既に席がだいぶ埋まっていた。少し探すと見知った癖っ毛の男の子が一人で座っていた。
「久しぶり。アイザック」
「久しぶり、アラン!誰も来ないから暇してたよー」
アイザックは隣の席に荷物を、向かいの席によく分からない木材を置いていた。
「誰も来ないのは席に物を置いてるからじゃないか?」
「あ、そうか……席空けとかないと誰も座れないもんね……」
アイザックはどこか抜けているようだ。
「ところで、その太い木はなんだ。必要な道具にあったっけ?」
「ん?これねー、僕のお気に入りのオリーブの木だよ。いつもこいつと一緒に寝てて無いと寂しいから持ってきちゃった」
「そうなんだ。いいと思うよ。そういうの」
子どもが人形を可愛がる感覚でアイザックは木を可愛がっているのだろう。
「分かってくれるの!アランにもそういうのある?」
「いや、特に無いかな……」
「あ、そうなの……木っていいよー。これから何にでも変われるし不思議な力を持ってるんだ」
「さすが、オリバンダー一族だな。杖に関するものへの興味が尽きなそうだ」
ガラッ。コンパートメントの戸がいきなり開きブロンドの毛が二人の目に入る。
「あら、アランにアイザックじゃない!そこ空いてるよね?座るわよ」
コンパートメントに入って来たハーフアップの女の子がアランの隣に座る。
「おう、アンバー。久しぶりだな。髪まとめたな」
「やあアンバー、久しぶりだねー」
アンバーに対しアランとアイザックが返事をすると機嫌を良くする。
「ふふん。一緒に座ってるけどあんたたち知り合いだったの?」
「うん。アランは君と同じくオリバンダーの店で杖を買ったからね。アランの杖は凄かったよー」
「へえ、どんな杖かしら。あたしの時なんて、火花がバチバチ飛んで愉快だったけどね」
火花バチバチってどんな状態だよ……それで許していいのかオリバンダーさん。こいつの気質ってトラブルメーカーなのか……
アランは引きながらアンバーを見つめる。
「なぁに。アラン、あたしに見とれちゃって」
アンバーは茶化しながら言う。
「見とれてるんじゃなく呆れているんだ」
「まぁ、失礼しちゃうわ。ところでアランの杖はどう凄かったのよ」
「ええとね、サクラがバーって舞ったんだよ!」
「サクラがバーっと?あたしの杖の方が断然凄いじゃない。ねえアラン」
「ああ、そうかもな」
アンバーに口答えしても無駄だと思い始めたアランは適当に流す。
「ところでそこの座席にある木は何なのよ。アランのイタズラグッズ?」
「何で俺がイタズラグッズを持ち込まなきゃならないんだ」
「え、だってあたしと一緒にホグワーツを掻き乱したいんじゃないの?」
「どういう前提だ」
ジェイコブさんはアンバーに何を言ってたんだ。入学する前から問題を起こそうとする生徒なんてホグワーツからしてみればたまったもんじゃないだろう。
「いや、これは僕のお気に入りの木なんだー」
「ふぅん。アイザックのだったの。よく見ると可愛らしいかもね」
「え、アンバーにもこの木の良さわかるの!」
「ちょっとそう思っただけよ!そんなに身を乗り出さないで!」
アンバーはアイザックにはどうにも強くはでず、アランに助けを求める視線を送る。
「あー、ところでホグワーツは4つの寮に別れて学生生活するの知ってるか?」
「ええ、もちろん知ってるわよ」
「有名だもんねー」
「やっぱ有名か。二人はどの寮に入りたいんだ」
「あたしはハッフルパフに決まってるわ。あたしの家系はみんなハッフルパフって聞くしね。ハッフルパフは仲間思いが多い良い寮らしいし」
「うーん。僕はレイブンクローかな。僕の家系の多くはレイブンクローだし、知識をつけるのも好きだしね」
「ふーん。寮に家系なんて関係あるのか?」
「あるわよ。魔法族はね血に、先祖に誇りを持つのよ。そして受け継いできたものが気質となりやすいから寮も似た寮に配属されやすいのよ」
「なるほど。魔法族にはいろいろあるのか」
「なによ。あんただって魔法族じゃない。あんたもハッフルパフに入れるといいわね」
「なんでだ?」
「だってあんたが来ればパパたちの再来じゃない!」
アランは頭が痛くなってきた。この子は何に期待をしているんだろうと。
「アンバー、俺はお前とタッグ組んでホグワーツで暴れる気はないからな」
「どうしてよ!絶対楽しいわよ!」
「俺は派手に暴れるより静かに暮らしたいんだ」
「アランの癖に生意気よ」
お前はいったい俺の何を知っているんだ……
——
汽車が停車した頃にはあたりは少し暗くなっていた。アラン達1年生は大きな男に先導されてホグワーツを目指している。
「うぅ、気持ち悪い……」
「大丈夫、アラン?顔色悪いけど」
アイザックは隣で呻くアランに声をかける。
「心配してくれてありがとう。でも大した事ないから。どうやら汽車に酔ったみたい」
「アンバーも大丈夫?」
アランの隣にいるアンバーも汽車で次第に口数が減っていき調子が悪そうに見える。
「え、うん、大丈夫よ。アランよりもピンピンしてるし」
「ならいいけど。2人とも元気ないから不安になっちゃうよ」
「悪いな。ただちょっとめまいと頭痛がしてね。しばらくすれば治るさ」
暗い小道を進んでくと巨大な立派な古城が見えた。
「あれがホグワーツか。学校生活って楽しそうだな」
「うん。僕も初めてきたけどすごくワクワクしてるよ」
「そうね。早く部屋で休みたいわ」
道をさらに進むと湖があり、ボートを使って城の裏口まで辿り着いた。
「なんで裏口から入るのかな?」
「さぁな、普通に正面口から入ればいいのにな」
大男は裏口から城に入り、入り組んだ石段を登っていく。1年生はそれに着いていき巨大な扉の前まで来た。大男が扉を叩くと、扉が開き女性が現れる。
「ハグリット。毎度案内ありがとう。あとは私に任せなさい」
「はい、マクゴナガル教授」
城から出たのはマクゴナガルであった。アランはマクゴナガルと視線を合わせると軽くお辞儀した。マクゴナガルも少し遅れて表情を和らげた。
「あの先生と知り合いなの?」
アイザックが口を開く。
「ああ、少しお世話になったことがあるんだ」
「へえー、そうなんだ。あの先生ちょっと怖そうだけどね」
「そうか?実際は少し厳しいだけだぞ」
マクゴナガルは1年生にこれから新入生の歓迎会、組み分けが行われることを告げ彼らを大広間に誘導した。
「ねえ、あんたたちは組分けってなにやるのか知ってる?」
相変わらず顔色の悪いアンバーは不安げに尋ねた。
「俺は聞いてないな、教えてもらえなかった」
「僕もー」
「ふ、ふーん。役に立たないわね」
「なんだよ。アンバーは知ってるのか」
「知らないから聞いたんじゃないの……」
なんか静かだな。組分けが不安なのか。
アランたちが大広間に着いた時には、在校生たちはすでに寮ごとに別れて4つの長テーブルに着席していた。大広間は奥へ延びていて、最奥は盛り上がり来賓席には立派な椅子が並んでいた。宙には数え切れないほどのろうそくが浮きあたりを照らしている。半透明のゴーストたちもフヨフヨ浮いていた。マクゴナガルが広間の上座まで1年生を連れて行くと、なぜか椅子が用意されておりその上に古くさい帽子が置かれてある。来賓席の大人たちが醸し出す雰囲気から1年生たちは何が起こるのかと不安がり、上級生たちはこれから楽しいことでも起こるかのようにそわそわしている。すると突然帽子は朗らかに歌い始めた。
「君は言った
やることが上手くいかない
君は言った
周りが間違っている
人を導くのが私の宿命
ホグワーツ組分け帽子とは私のこと
時代を変える前に自分を変えよう
人の道程は長く儚い
道は始まったばかり
君の素質を私が読みとく
4人の賢者の道を示そう
勇気を携えるはグリフィンドール
自分の信じる騎士道を
仲間とともに歩む獅子の寮
友誼に厚いはハッフルパフ
努力を惜しまず誠実に
まっすぐ進む熊の寮
智慧に魅了されるはレイブンクロー
世の深淵の理を
探求せし鷲の寮
真理を求めるはスリザリン
目的を達するために
才知を奮う蛇の寮
さあ、私を頭に乗せてみな
君が求めるものを教えてあげよう」
帽子が歌いだすとは想像するに難しいが、破れ目が口の役割を果たしていた。歌が終わると上級生たちは盛大な拍手を送った。
「それでは1年生の皆さん、組分けを始めます。アルファベット順に名前を呼ばれたら、帽子を被り椅子に座りなさい」
マクゴナガルがそう伝えると1年生の顔から緊張の色が抜けた。
「なーんだ、キメラと闘わなくてよかったのか。心配して損したじゃない」
アンバーは思わず漏らした。
キメラ?そんなヤバそうなやつに魔法習う前の子供が戦うわけ無いだろう……誰だよそんな嘘流したの……あの人か……
アランが屈託のない笑みを浮かべるブロンド短髪の男を思い浮かべている間にも、マクゴナガルに呼ばれた順に組分けはどんどん進んでいく。
ふーむ、あの帽子を被るだけで寮が分かるのか。面白い。まるでインチキ占いみたいだ。
「オリバンダー・アイザック!」
生徒達はオリバンダーの姓が気になるのか興味深そうに見守る。アイザックが帽子を被るとすぐに帽子が叫ぶ。
「レイブンクロー!」
左から二番目の長テーブルから拍手が送られる。
「おお、アイザックの言った通りレイブンクローになったな」
「まぁ、当然ってとこね」
アンバーは元気を取り戻して答えた。その後も順調に組分けが進んで行く。
「あんた、ハッフルパフよ!先に待っといてね!」
「いや、帽子次第だろ」
「そこをどうにかするのよ」
「どうにかなるもんなのか」
アランたちがそんなやりとりをしている間にマクゴナガルに呼ばれる。
「ジュール・アラン!」
おっ、ついに呼ばれたな。
アランは皆に倣い椅子に座って帽子を被る。すると帽子から声が聞こえてくる。
「ほぉー…… なんともむずかしい。ほんとうにむずかしい……才能はあるが……」
「こんにちは、帽子さん。俺の素質は分かりにくいですか」
「これはこれは丁寧なあいさつをありがとう。こんにちは、アラン君。私にあいさつをする生徒なんて何年ぶりのことか」
「使命を果たすモノに、敬意を払うのは自然ですよ。それで俺はどの寮にふさわしいですか」
「ふーむ。どの寮か……君には様々な素質がある。ただ気になるのは他の生徒に比べてすでに考え方が固まっているのだ。なんというか……まるで様々な経験をしたかのような。素質に関してはどれを伸ばしても偉大になりうるだろう」
「偉大ですか。そう言ってもらえて嬉しいです」
「うむ。仲間への想いや身内に対しての恩義への深さ、そして努力を厭わない誠実さはハッフルパフへの、貪欲な知識欲はレイブンクローへの、そして目的の為ならルールを破ってもいいと考える薄暗くも純粋な意思はスリザリンへの適性を強く示している。後者2つのいずれかに進めば、歴史に名を残す可能性が強いだろう」
「ハッフルパフですか、意外ですね。俺はレイブンクローかスリザリンになるだろうと思ってましたから。ちなみにグリフィンドールには適性がなかったのですか」
「ふむ。グリフィンドールに求められるのは強い正義と勇敢な心だ。君から感じられるのは正義という過程の心情を超えた事実や結果を重視する思想だ。それはスリザリンにぴったりだ。とてもグリフィンドールには向いてないと思う」
「なるほど。確かにそういうきらいがありますね」
「今までスリザリンからは多くの傑物が輩出されていて、スリザリンに進めば君も間違いなくそこに入ることになるだろう。君からは並々ならぬ執念を感じるからね」
生徒たちは今までより組分けに時間がかかっているのを見て少々ざわつきだした。
「なにもたもたしてんのかしらね」
アンバーはその様子を見てイライラしはじめた。マクゴナガルはその様子を見て期待に満ちた顔をしている。自分もハットストールとして5分半も悩ませた経験があるからだ。来賓席の中央に座っているダンブルドアは目を細めながら組分け帽子とアランを見つめていた。
「並々ならぬ執念はスリザリンに進めば実を結ぶだろう。どうかね、スリザリンは」
「1つ気がかりがあります。スリザリンは純血主義と聞きます。俺は純血どころか、この血の由来すらも分かりません。そして俺はマグルを侮蔑などしていません。むしろそこらの魔法族よりも心から尊敬しています。人類の叡智は彼らにこそあるのだと」
「ほう。そこまで偏った考えを持つ子に会うのは初めてだ。ではレイブンクローはどうだ」
「智慧を求める素質が集まる寮ですね。最高です。実は最初からレイブンクローに入りたかったのですが、素質を見るのに長けた貴方の意見を聞きたかったのです。貴方が提案してくれて自信を持ちました」
「ふむ。そうか。ただスリザリンもいいぞ。君の本質はスリザリン寄りなのだからな。もう一度聞くがレイブンクローでいいのだな」
「もちろんです。自分の道を決められるのは最終的に自分だけですから」
「なるほど。もとよりかなり強い意思を持つのだな」
組分けが5分以上経ったころようやく組分け帽子が口を大きく開く。
「レイブンクローーー!!」
レイブンクローの上級生たちは声を張り上げた。在学中にハットストールを見ることができ、尚且つ自寮にそんな生徒がやってくるからだ。マクゴナガルは少し残念そうに拍手を送り、ダンブルドアはホッとため息を吐いた。
「帽子さん、ありがとうございました。俺のことを普段考えもしなかった観点から見ていただき、とてもいい経験になりました。また話を聞きに行ってもいいですか」
「ああ、歓迎するよ。君とならいくらでも話したいさ。私は組分け時以外は校長室にいるから、いつでも来なさい。それでは私はまだまだ組分けをしなくてはいけないから、ここらでお別れしよう。また会おう、アラン君」
「はいっ!それでは、また」
そう言ってアランは帽子を脱いだ。椅子から立つとレイブンクローの上級生に連れられ、アイザックの隣の席に座った。
「アラン、おめでとう!」
「ありがとう!アイザックと一緒になれて嬉しいよ」
「うん、僕も嬉しい。けどさっきからアンバーの視線が怖いよ」
アランがアンバーを見ると怒ったような表情をしていた。
「はー、そんな顔されても別に俺悪くねえからな」
アランは少し困った表情を浮かべ組分けを見続けた。
「マクミラン・アンバー!」
帽子はアンバーが被るとすぐに「ハッフルパフ!」と叫んだ。予想通りだった。組分けが終わるとアルバス・ダンブルドアは入学に関する挨拶をし在校生達を盛り上げた。
「新入生も無事加わったことだし歓迎会を始めよう!新学期おめでとう!さて今学期はうれしいことがあるぞ。『闇の魔術に対する防衛術』の担当をイタリアから来たラーネッド先生がお引き受けくださった!」
ダンブルドアに紹介を受けると座っていた若い容貌の優れた女性が立ち上がった。長くウェーブのかかった金髪が特徴的な彼女はマクゴナガル同様に緑色を主体とした服を着ていた。
「ローザ・ラーネッドだ。諸君らの身の安全を守る
ラーネッドの発言を受けて生徒たちははち切れんばかりの拍手を送った。
【用語解説】
座標:位置を指し示すもの。我々が目に見ることのできる物質は一般に同じ座標に二つ以上存在できない。
ハットストール:帽子が組み分けを悩むこと。
ようやくホグワーツに足を踏み入れることができました。引き続きこの世界を楽しんでもらえたらと思います。
次週の更新はお休みさせていただきます。よろしくお願いします。