「見つけたぜオートハウス!」
保先輩が戻ってきたので監督がミーティングが始めようとした時、不意にそんな声が響いた。
「誰?」
「まぁ、一言で言えば保先輩のライバルやな。」
そんな奈臣の声に反応して少年は自分を親指で指し示す。
「おう!今日こそはオートハウスをぶっちぎって、この俺『中里 毅』が群馬最速だと証明してやるぜ!」
奈臣が言うにはこの『中里 毅』って人は啓兄ィと保先輩の2人と同い年らしい。
かなり上手い人なんだけど、熱くなり過ぎるとコーナーでミスをしてスピンをすることが多いそうだ。
それでついたあだ名が『スピン王』
彼はオートハウスみたいにチームじゃなくて個人で出場している選手なんだけど、そのせいなのかチームで出場している選手をライバル視するんだってさ。
とはいうものの…。
「中里くん、うちはこれからミーティングやから、また後ででもええか?」
「は、はい!失礼しました!」
菜々子監督を見て顔真っ赤にした中里少年を見ると、チーム所属の選手をライバル視してると言うよりは…。
「実は菜々子監督に構ってほしいだけなんじゃね?」
「ホンマなんであんなオバハンがいいのかわからんわぁ。」
奈臣が監督にツッコミをされるとミーティングが始まる。
「啓介のデビュー戦やからな。今日はエースとセカンドは無しでいくで。せやから保と啓介の二人とも、優勝狙ってしっかり走るんやで。」
「「はい!」」
オートハウスは基本的に2人でレースに出場する。
そして予選のタイムでエースドライバーとセカンドドライバーを決めて、チームとしてレースに勝つことを目指すんだ。
でも時折、こうして自由に競わせることもあるみたい。
「待たせたなぁ、中里くん。」
「い、いえ、たいして待ってません!」
初々しい少年の反応に心が洗われますなぁ。
中里くんはその後、保先輩と啓兄ィに宣戦布告して去っていった。
そろそろ予選の始まりだ。
頑張れ、啓兄ィ!
◆
side:中里
もうすぐ予選の始まりだ。
それにしても保のやつ…前のレースとはどこか雰囲気が違いやがる。
これは要注意だな。
それに高橋 啓介ってやつも走れる奴の雰囲気を持ってやがった。
本当にデビュー戦なのか?
流石にスポンサーがついてるチームは選手の層が厚いぜ。
だがそんな強豪チームに勝負を挑むのが最高に熱いんだ。
でもそれが出来るのも今年が最後だ。
うちはそれほど裕福ってわけじゃない。
それに妹の『佳菜子』がテニスをやりたいって言ってたからな。
だからこれからもカートを続けていくつもりなら、スポンサーがついてるチームのどこかに入らなきゃならねぇ。
今年1年でどこまで実績を残せるか…くく、熱くなってきたぜ!
それにしても佳菜子の奴、なんだってわざわざ神奈川のテニスクラブに入りたいなんて言うんだ?
たしか…STCだったか?
テニス業界じゃあ有名なとこらしいけど、地元にもそれなりに強豪はあるだろうに…。
まぁ、俺もワガママでチームに入ってねぇんだ。
仕方ねぇか。
さぁ、予選だ!
気合いを入れていくぜ!
第1コーナーに気合いを入れて突っ込むと、思いっきりスピンしちまった。
よ、よし、これで緊張が解れたぜ!
初っぱなから躓いちまったが、その後は順調にペースを上げていく。
そして予選最後のアタックで手応えを掴むと、見事にポールポジションを獲得したのだった。
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