予選(タイムアタック)の結果は中里くんが1位、保先輩が2位、啓兄ィが3位だった。
アタックを開始して直ぐにスピンをした中里くんが予選1位かぁ…。
奈臣が言う通りに上手い人なんだなぁ。
予選が終わった今はそれぞれが決勝に向けて準備をしている。
啓兄ィは目を閉じてウォークマンで音楽を聴いて集中を高めている。
保先輩はお湯を飲んで落ち着きながら、涼兄ィからもらった予選タイムを書いたシートを見て何かを考えている。
そして中里くんは…。
「ッシャア!ポールポジションだ!決勝も気合い入れていくぜ!」
こっちに聞こえるほどの大声で気合いを入れていた。
…またスピンするんじゃね?
時間が経つといよいよ決勝が始まる。
ローリングスタートがスムーズに行くと、皆が第1コーナーに突っ込む。
しかしそんな中で啓兄ィが保先輩を抜いて開始早々にポジションを1つ上げた。
「なるほど、保はそういう作戦か。」
「涼兄ィ、どういう事?」
俺が問い掛けると、気になるのか奈臣も聞き耳を立てる。
「一言で言うと、保は後半に勝負をするつもりなんだ。」
俺が首を傾げると奈臣はわかったのか、ハッとした顔をした。
「啓介と中里を競わせる気やな?」
「あぁ、そうだ。」
啓兄ィと中里さんはどちらもアグレッシブな走りが持ち味だ。
だから保先輩は序盤から2人を争わせてタイヤを消耗させるつもりらしい。
へぇ~、よく考えてるなぁ。
でも…。
「ちゃんと追い付けるかなぁ?」
3人の予選タイムは1秒も差がなかった。
なのに保先輩は第1コーナーを抜けた後、前の2人から少し遅れてしまっている。
「気になるならこれを見てみろ。」
そう言って差し出してきた紙を見ると、そこには各選手の予選タイムが書かれていた。
「下位の選手のタイムが上位と比べて遅いと思わないか?」
たしかに下位の人は上位と比べてかなり遅い。
「それだけタイム差がある中で啓介と中里を競わせてペースアップさせれば、レース後半には周回遅れに追い付くだろう。」
なるほど、そこで保先輩は2人に追い付いて仕掛けるつもりなんだ。
ところで…。
「なんでこんなにタイム差があるんだろ?」
「それは誰もが勝つ気でレースに参加しとるわけやないからやな。」
あっ、菜々子監督が割り込んできた。
「なんやオカン、監督の仕事せんでええんか?」
「今日はチームオーダーを出す必要あらへんからなぁ。記録は梶原くん達に任せて、私はゆっくり見物や。」
そう言って肩を竦めた菜々子監督に話しかける。
「監督、さっき言ったのってどういう事ですか?」
「簡単に言えば趣味で参加しとる子達がいるって事やね。」
趣味で?
頷いた菜々子監督が話を続ける。
「しっとると思うけど、カートはお金がぎょうさんかかるもんや。本気でレースに勝つ気やったら、うちみたいにスポンサーがついとるチームに入らな難しいぐらいにはな。でもカートが好きならレースに出たいやろ?だからレースに出るんやけど、どうしても本気でやっとる子達と比べて、選手の腕やマシンの状態に差が出てしまうんよ。」
走り込みの量で差が出るのはわかるけど…。
「マシンにも差が出るんですか?」
「うちみたいにスポンサーがついとるチームは大きな大会前になると、タイヤとかだけやのうてエンジンかて交換して万全の状態で挑むもんや。せやけど個人で参加しとる子達にそれは難しいやろねぇ。」
へぇ、エンジンまで交換するなんて知らなかったなぁ。
「マシンを速く走らせるのが選手の技量なら、マシンを用意するのは選手の器量や。プロの世界は腕さえあれば通用するなんて甘くないで。だからシートを勝ち取る努力を怠ったらあかんよ。」
「はい!」
たしかにどれだけ速く走れてもレースに出れなければ意味がない。
菜々子監督の言葉をしっかり胸に刻んでおこう。
そう思ってたら菜々子監督が笑い声を上げた。
「はははっ、ごめんなぁ。なんや説教臭くなってもうたわぁ。」
「説教するような歳になったっちゅう事やろ。」
奈臣の後頭部からスパンッ!と小気味いい音が鳴る。
こりないねぇ奈臣も。
もしかしてこれが源家なりのコミュニケーションなのかな?
「さぁ、走行会と本番のレースは別物や。しっかり見て勉強するんやで!」
菜々子監督にしっかり返事をしてレースを見ていく。
すると序盤は涼兄ィの予想通りに、中里くんと啓兄ィの熾烈なトップ争いが展開されるのだった。
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