転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です。


第12話『デッドヒート』

レースでは序盤から啓介と中里のオーバーテイク合戦が始まった。

 

左右の連続コーナーで啓介が前に出れば、ヘアピンで中里が抜き返す。

 

このバチバチのバトルに会場のボルテージはぐんぐん上がっていく。

 

そのボルテージにつられる様に2人もヒートアップしていった。

 

「ッシャア!」

「行かせるかよ!」

 

抜いて抜かれてのオーバーテイク合戦を繰り広げながら、2人の胸中には同じ思いが浮かび上がる。

 

今日は間違いなく乗れている日だと。

 

確信に似たものを抱いた2人の走りは、更にアグレッシブなものへと変わる。

 

些細なミスでスピンしかねない限界領域でのバトルに、2人はお互いに敬意を抱き合う。

 

(中里、お前は速ぇよ。でもよ、おれはもっと速い奴を知ってる。もっとすげぇ奴を知ってる。だから…。)

 

啓介の脳裏に兄弟の姿が浮かび上がる。

 

「だから!負けられねぇんだよぉぉおおお!」

 

ヘアピンでのブレーキング勝負を制した啓介のマシンが勢いよく加速する。

 

オーバーテイクされた中里だが、ヘルメットの中では笑っていた。

 

(そうだ。俺はこういう熱いバトルがしたかったんだ。この熱いもんは、相手のミスを待ちながらポジション守るなんて賢い走りじゃ決して味わえねぇ。本能剥き出しのアグレッシブな走りでこそ味わえるんだよ!)

 

啓介のマシンの後ろに張り付いていた中里は、とある違和感に気付く。

 

(ん?周回遅れ?)

 

中里は内心で首を傾げる。

 

(このラップを入れてレースはまだ5周ある。それなのにもう追い付く?啓介とのバトルで思ったよりもペースが上がってたのか?夢中で気が付かなかったぜ…!?)

 

内心でそう思っていた中里の耳に、後方からエンジン音が聞こえる。

 

(誰だ!?)

 

最下位争いをしていた2台の周回遅れに啓介と共に追い付いたところで、後方から聞こえるエンジン音は更に迫ってくる。

 

そして周回遅れを抜くためにアウト側から最終コーナーに進入すると、そのエンジン音を響かせるマシンの主が誰なのか気付いた。

 

「保!?」

 

コーナーを曲がりながら横目で保の姿を確認した中里は驚きのあまりに声を上げた。

 

(ファーストラップで失敗して沈んだんじゃなかったのか!?建て直して俺達を追ってきたのか!?)

 

様々な思考が中里の脳を駆け巡る。

 

しかし中里はあえてその思考を打ち切った。

 

「はっ、上等だぜ。ここからは三つ巴といこうじゃねぇか!」

 

周回遅れを抜き去ると啓介、中里、保の3人が縦に連なってホームストレートを加速していく。

 

そして第1コーナーで中里がアウトから啓介に並びかけてブレーキング勝負を挑む。

 

しかし…。

 

「なにっ!?」

 

中里のマシンはなかなか止まらずに進み、第1コーナーを曲がる頃には啓介との間に1台分のスペースが出来てしまった。

 

そのスペースに保が滑り込む。

 

「くそっ!」

 

悪態をつきながらも中里は原因を探った。

 

(なぜ止まらなかった?ブレーキングのタイミングは間違えていない筈だ!)

 

第1コーナーを曲がり加速を始めると、中里はマシンから感じる手応えに違和感を感じる。

 

(タイヤの食い付きが悪い?馬鹿な、まだレース後半になったばかりだぞ!?)

 

そう考えた中里に閃くものがあった。

 

(まさか…啓介とのバトルか?)

 

第1コーナーからの立ち上がりで遅れた中里は、素早く保の後ろにつく。

 

(もしかして、そういうことか?)

 

中里の疑念は直ぐに確信に変わる。

 

その周回のヘアピンで啓介のマシンも止まりきれずオーバーしてしまい、その隙をついて保がポジションを上げたからだ。

 

「ちっ、やってくれるぜ!」

 

保に続いてインから啓介をオーバーテイクしながら中里は舌打ちをする。

 

レース後半の勝負どころで仕掛けられないように、タイヤを消耗させられたことに気付いたからだ。

 

そこからは1つ、また1つとコーナーを抜けるたびに保との差が徐々に開いてしまう。

 

なんとか保を追おうとする中里と啓介だが、タイヤの消耗のせいかペースが上がらない。

 

そんな中でも中里はなんとかペースを上げようと奮戦する。

 

そしてあるコーナーでスピンをしかけた。

 

「くっ!?」

 

だが幾度もスピンを経験している中里は反射的にステアリング操作とアクセルワークで、マシンが横滑りしながらもコーナーを抜けたことで辛うじてスピンの危機を脱した。

 

安堵の感情と共に、中里の中に別の思いが沸き上がる。

 

(今の…速くなかったか?)

 

偶然ではあるがドリフトを成功させた中里は、躊躇することなく次のコーナーでもう一度トライして成功させる。

 

そしてコーナリングスピードが上がって保を追える事を確信すると、ヘルメットの中で笑みを浮かべ気合の声を上げた。

 

「よっしゃあ!行くぜ!」

 

『スピン王』の渾名は伊達ではない。

 

幾度もスピンを経験した中里は愛車の限界領域を知り尽くしている。

 

故にぶっつけ本番と言っても過言ではないドリフトを次々と成功させ、現在トップを走る保を猛追する。

 

そんな中里の走りに触発された啓介もドリフトに挑むが…。

 

「くっそぉ!」

 

中里程の経験が無かった啓介はコースアウトこそしなかったもののスピンをしてしまい、優勝戦線から完全に脱落してしまった。

 

こうしてレースは保と中里の一騎打ちとなった。

 

前半で作ったタイヤのマージンを活かして逃げる保と、限界ギリギリのドリフトで攻めて追う中里。

 

流石にヘアピンでは保の方が速いものの、それ以外のコーナーでは中里が少しずつ差をつめていく。

 

そしていよいよ大詰めファイナルラップ。

 

中里はついに保の後ろに張り付いた。

 

全力で抜こうとする中里を保は丁寧にブロックしていく。

 

しかしそんな保の方もそれほどタイヤに余力があるわけではない。

 

(今の僕に中里くんみたいな走りは無理だ。抜かれたら終わる。だから絶対に抜かせない!)

 

僅かに腹痛を感じながらも保は冷静だった。

 

いや、腹痛を感じたからこそ冷静になれたと言っていいだろう。

 

己を知った事で保は1つ上のレベルに上がろうとしているのだ。

 

(自分をコントロールする。当たり前の事だけど、凄く難しい。でも…。)

 

ヘルメットの中で保はニコリと笑う。

 

(楽しい。自分をコントロールして、マシンをコントロールして、レースをコントロールするのが凄く楽しい!)

 

そんなことを思った保は腹痛が無くなり、最高の集中力を発揮した。

 

「だから勝つ!勝って、自信をつけて、レースの世界で生きていくんだ!」

 

最終コーナーを保はインから、中里はアウトから抜けて最後のストレートを並んで立ち上がる。

 

「「オオオォォォォオオオ!」」

 

両者共にアクセルを踏み込み、並んだ状態でチェッカーフラッグを駆け抜けたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

どうか今年もよろしくお願いします。

ドリフトが速いのはイニDの仕様だと御理解ください。
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