今日のレースは保先輩が1位、中里くんが2位、啓兄ィが3位の結果だった。
デビュー戦で表彰台は十分凄いと思うんだけど、レース後の啓兄ィはものすごい悔しそうにしてた。
「啓介、保とお前の技術はそう違いはない。だが保は勝った。今ならお前と保の差が何か…わかるな?」
「…あぁ。」
この日から啓兄ィはよく勉強する様になった。
でもこれは学校での成績を上げるのが目的じゃなくて、普段から考えることを癖付けるのが目的みたい。
まぁ、その副産物として学校での成績も上がってるんだけどね。
それからのジュニアカデットクラスは保先輩、中里くん、啓兄ィの3人が中心になっていった。
全国大会でも3人が表彰台を独占したりしている。
でもレース経験の差が響いてか、啓兄ィはジュニアカデットクラスでは2人に1度も勝てなかった。
そして3人が小学6年生になってジュニアクラスに移行した頃、俺と奈臣のレースデビューの日がやってきたのだった。
◆
「今日は奈臣と光介のデビュー戦やからなぁ。指示は出さへん。2人とも、優勝目指して気張るんやで!」
「「はいっ!」」
予選が始まった。
1周目は流してコースや雰囲気に慣れる。
周囲の状況を見て行けると判断して、2周目からアタックを開始。
1回目のアタックを終えて流していると、涼兄ィがボードを掲げてタイムを教えてくれる。
どうやらジュニアカデットクラスのコースレコードを更新したみたい。
手応えとしてはもっとタイムを伸ばせそうだし、このままアタックを続けようかな。
◆
「おいおいおい、なんだよありゃ。とんでもねぇ走りじゃねぇか。」
啓介に誘われてレースを見にきた中里が、光介の走りを見て驚きの声を上げる。
「だから言っただろ。光介の走りは言葉じゃ説明出来ねぇって。」
光介の走りに目を向けながらも、啓介は中里に言葉を返す。
「ところでお前が入ったチーム…たしか『ナイトキッズ』だったか?どうなんだよ?」
啓介の問いに小さくため息を吐いてから答える。
「『慎吾』って奴がいるんだが、そいつと反りが合わなくてな。」
「上手くいってねぇのか?」
「いや、走りに対する感性は合う。でもレースに対する姿勢が合わねぇ。慎吾は少しラフな走りをしても勝てばいいってスタンスなんだよ。」
友人…もといチームの仲間を悪く言いたくないが、中里は慎吾という人物をそう評価する。
「そうか。」
「それにあいつ…幼馴染みの女の子がいやがるんだ!」
「お、おう?」
急に言葉に熱を持ち始めた中里に啓介は戸惑う。
「サーキットってのは男の戦場だ!そうだろ!?」
「いや…まぁ…。」
菜々子のこともあって同意出来ない啓介は曖昧に返事をするしかない。
(反りが合わないとか言ってたが…毅の奴、慎吾って奴に幼馴染みの女がいるから嫉妬してるだけなんじゃねぇか?)
啓介は中里の気持ちが理解しきれない。
というのも啓介は女子にもてるのである。
デビュー戦以来勉強するようになった啓介は学校での成績が上がり、もともと運動神経が良い。
更にイケメンで医者の息子で金持ちと、女子にもてる要素をこれでもかと詰め込まれているのである。
しかし本人は女子にもてている現状を歓迎していない。
というのもクラスメイトがレースの応援に来たことがあるのだが、その時に黄色い声援でレース前の集中を邪魔されたことがあるのだ。
そんなことがあって以降、啓介はうるさい女子が苦手なのである。
だが啓介がそういった女子を邪険に扱うことはない。
菜々子に『プロになるんやったら、ファンは大切にせなあかんで』と教育されているからだ。
とはいっても苦手なものは苦手であり、啓介はどうにも中里に同意しきれない部分がある。
そんな啓介の本音を中里が聞いたら嫉妬の対象が啓介に移るだろう。
それを察するから啓介は曖昧ながらも、中里に同意しているふりをしているのだ。
「あいつらは『ただの幼馴染みだ』、『付き合ってない』って言うけどよ…距離が近いんだよ!見せつけやがって…くっそぉ!」
最早レースそっちのけで嫉妬の声を上げる中里の言葉を聞き流し、啓介は光介の走りを見学するのであった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。