今日はオートハウスでカートの体験教室がある日だ。
対象年齢は小学生…ジュニアカデットクラスに所属することになる子だな。
他にも制限として身長があったりするけど、あくまで体験教室だからそこら辺はフワッと曖昧にしてある。
まぁ、あくまで目安ってとこだ。
今日集まった子供達と両親にマネージャーの梶原さんが諸々の説明をしていく。
サーキットでのマナーとかを中心に話していくけど、皆真剣に聞いている。
いや、大人で1人だけ喫煙所で煙草を吸っている人がいるわ。
あれっ?なんかその人と菜々子監督が親しげに話してる。
知り合いなのかな?
◆
「久しぶりやねぇ、藤原くん。」
「…ん?あぁ、源か。」
喫煙所で煙草を吸っていた文太は旧知の奈々子の姿を見ると、紫煙を吐き出してから返事をする。
「藤原くんがレースの世界から足を洗って以来やねぇ。今日来たってことは子供を連れて来てるんやろ?どの子や?」
「あそこでボケッとしてる奴だ。」
文太は煙草をくわえたまま顎で拓海を指し示す。
拓海を目にした奈々子は小首を傾げた。
「なんか走れる気配がせん子やねぇ?」
「当たり前だろう。何も知らねぇド素人だからな。」
文太がそう言うと奈々子は驚いた。
「藤原くんならイロハのイぐらいは教えとると思ったわ。」
「拓海があのまま趣味をもったり習い事をせずにボケッと生きていくつもりなら、豆腐の配送でもさせて走りを無理矢理仕込んだかもな。」
フーッと紫煙を吐き出す文太に奈々子はため息を吐く。
「藤原くんならホンマにやりそうだから怖いわぁ。」
短くなった煙草を揉み消した文太は、新たな煙草に火をつける。
「源、あいつらは?」
そう言いながら文太はサーキットを指差す。
するとそこには梶原のレクチャーが終わり、デモンストレーションとして走り始めた光介と奈臣の姿があった。
「前を走っとるのが高橋 光介くんで、後ろを走っとるのが私の息子の奈臣や。」
「ほ~。」
紫煙を吐き出しながら文太は感心の声を上げる。
「歳は幾つだ?」
「2人とも小学3年生やな。」
「拓海と同い年か…。」
文太は煙草をくわえながらしばし2人の走りを眺める。
「確かに走れてるが、まだ隙があるな。」
文太は僅かな時間で光介と奈臣の走りをおおよそ看破していた。
奈臣は技術的にはまだ成長途上で、光介はバトル経験が少ないと…。
「だが9歳のガキにしちゃ上出来か。」
「藤原くんは相変わらずやねぇ。」
ため息を吐きながら奈々子は頭を掻く。
そんな会話をしている間にデモンストレーションが終わり、体験教室に参加している子供達がキッズ用のエンジンを載せたカートに乗り込みサーキットを走り始めた。
そんな子供達の中でコーナーを攻めてスピンをした拓海の姿を見つけた文太はため息を吐く。
「まぁ、初めてだしあんなもんか。」
「ぼうっとした見た目と違ってアグレッシブな子やねぇ。」
「負けず嫌いなだけだ。」
そう言いながら文太は微笑む。
(これで拓海もちったぁレースに興味を持つだろ。)
コーナーで何度もスピンをして苦戦する拓海を目に、文太は青写真を描き始める。
(政志のとこに連絡してみるか。中古の型落ちのフレームだったら安く手に入るだろ。ついでにアライメントをちっといじらせるか。さて、面白くなってきたな。)
あれこれと思考を巡らせながら、文太は青空に紫煙を吐き出すのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。