転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第18話『ナイトキッズ』

ナイトキッズのとある練習日に2人の新人がやってきた。

 

「武内 樹、小3です!走りは下手くそだけどレースは大好きです!マネージャーとして頑張ります!」

「藤原 拓海、樹と同じく小3です。俺も走りはあんまり上手くないですけど、レーサーとして頑張ります。」

 

挨拶をした2人の前に中里が進み出る。

 

「武内と藤原か。俺は中里 毅、小6だ。今年からジュニアクラスで戦っていくからお前達とはクラスが違うけど同じチームだ。よろしくな!」

 

昨年にジュニアカデットクラスの全国大会優勝を成し遂げた中里は、自信が満ち溢れた様子で2人に手を差し出す。

 

そんな中里と握手をした樹は興奮していた。

 

「すっげぇぞ拓海ィ!俺達、ジュニアカデットクラスの全国大会で優勝した中里さんとチームメイトになったんだぜ!くぅーっ!」

 

喜ぶ樹に声をかける少年がいる。

 

それは…。

 

「おいおい、ナイトキッズのエースを差し置いたままってのはいただけねぇなぁ。」

 

庄司 慎吾(しょうじ しんご)という中里の友人(ライバル)だった。

 

「慎吾、誰がナイトキッズのエースだって?」

「俺だ。」

「お前、全国大会に出ていねぇじゃねぇか。」

「そりゃジュニアカデットまでだ。これからは俺の時代だぜ。」

 

本人達は仲が悪いと思っているが、周囲から見れば2人は正に親友といった感じである。

 

そんな2人のじゃれあいを1人の少女が止める。

 

「ちょっと、慎吾も毅くんもいい加減にしなよ。新人くん達が困ってるじゃん。」

 

この少女は沙雪という慎吾の幼馴染みである。

 

沙雪は男子が相手でも物怖じしない活発な少女で、ナイトキッズの看板娘的な役割も果たしているマネージャーである。

 

「あっ、私は沙雪。よろしくね、拓海くん、樹くん。」

 

そう挨拶をしながらも沙雪は目敏く2人を観察していた。

 

(樹くんは…お調子者って感じね。話は合いそうだけど、今のところは無しかな?それよりも拓海くんよ!ちょっとぼうっとしてる感じがするけど、かなり好みのタイプ!ナイトキッズのマネージャーになって良かったぁ!)

 

沙雪は小学6年生という思春期真っ只中の乙女である。

 

男子を採点してしまうのも致し方ないだろう。

 

その後も樹と拓海はナイトキッズのメンバーと挨拶をしていく。

 

一通り挨拶が終わると、ナイトキッズの監督が柏手を打って注目を集めた。

 

「さぁ、走り込みを始めようか。みんないつも通りマネージャーから課題を確認してから始めるんだぞ。毅、今日は拓海くんについてやってくれ。沙雪は樹くんを頼むぞ。」

「「はい!」」

 

こうして2人はナイトキッズのメンバーとなり、カートに真剣に取り組んでいくのだった。

 

 

 

 

「おっ?拓海が走り出したな。へぇ、まだカートを始めたばかりなのにそれなりに走れてるじゃないか。」

 

妻やバイトに店を任せて文太と一緒にナイトキッズの練習を見学にきた祐一は、どこかぎこちなくコーナーを曲がる拓海の走りをそう評価する。

 

「まだまださ。今は仕込みの段階だからな。」

「自分の息子なんだからもっと誉めてやってもいいだろうに。相変わらず文太はレースの事となると厳しいな。」

 

そう言ってため息を吐いた祐一は改めて文太に問い掛ける。

 

「ところで文太、拓海は左コーナーの時だけ妙な動きをしてるが、何かしたのか?」

「察しがいいな。拓海のマシンのフレーム…政志に頼んでちょいとアライメントをいじってもらってな。右のフロントタイヤを少し浮かしてあるんだ。」

「はぁ?なんだってそんなことを?」

「荷重移動の基礎レッスンその1ってとこだな。」

 

文太は胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。

 

「フーッ…車ってのはタイヤが路面に接地してるから進むことも曲がることも出来るんだ。でも知識や経験の無い拓海にそんな理屈を説明したところでどれだけ理解出来ると思う?だからああやって身体で覚えさせるしかねぇんだ。」

「だからって危ないことにかわりはないだろう。それにチームに入ったんだから、勝手なことばかりして迷惑かけるわけにもいかないんじゃないか?」

「心配すんな。ナイトキッズの監督に意図は伝えてある。もちろん拓海にもな。」

 

紫煙を吐き出してから文太は話を続ける。

 

「走りってのは経験こそがものを言う。だが、拓海はオートハウスの2人と比べて2年の差があるだろ?その差を埋めるにはちょいと無理をしなきゃな。」

「はぁ…それで、拓海はどれぐらいで荷重移動をものに出来そうなんだ?」

「そうだな…速さに結びつくレベルでものにする頃には、ジュニアクラスになってるだろうな。」

「気の長い話だ。」

 

祐一はため息を吐くと胸ポケットから煙草を取り出す。

 

「言っただろ、今は仕込みの段階だって。あいつがレースの世界で生きていくためのな。」

 

厳しくもしっかり父親をしている文太の姿に、祐一は嬉しそうに紫煙を吐き出したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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