時が流れ拓海もデビュー戦を迎えた。
しかしそのレースは全国大会出場の為のポイントが掛かっており、出場する選手のほとんどがカートを本気でやっている者達で、デビュー戦というにはとても厳しいものだった。
幸いというべきか、既に全国大会出場を確定しているオートハウスの2人は参加していなかった。
だが全国出場を狙う猛者達を相手に出来るほどの経験が拓海にはまだなかった。
拓海のデビュー戦の結果は9位。
あと一歩で入賞という結果だったので奮闘したと言えるのだろうが、レース後の拓海は悔しそうに拳を握り締めていたのだった。
◆
「拓海は9位かぁ。」
ナイトキッズとは何度も走行会をしている関係で、そこに所属している拓海や樹とも仲良くなった。
そんなわけで今日は俺達兄弟と奈臣で拓海のデビュー戦の応援に来たんだけど、レースでの拓海はあまりいいところがないまま終わってしまった。
「後ろからプレッシャーを掛けられたらあっさりと崩れてしまったからな。まぁ、藤原の課題が見えたと考えれば収穫のあるレースだった。」
涼兄ィはそう評するけど、拓海の性格を考えるとかなりへこんでるだろうなぁ。
「それはそれとして、今度は俺達の番やな。光介、全国大会ではエースとセカンドはあらへん。本気で勝ちに行くで。」
「望むところさ。」
俺と奈臣の間で火花が散る。
そして後日、ジュニアカデットクラスの全国大会の日を迎えたのだった。
◆
ジュニアカデットクラスの全国大会当日、俺は2度のアタックを終えると30分近い時間を残してピットに戻ってきた。
余った時間を使って涼兄ィとみっちりミーティングをするためだ。
「光介、今回はタイヤマネジメントを意識して走ってみろ。」
「タイヤマネジメント?」
「そうだ。可能なら最後までフルブレーキング1回分の余力を残すつもりで走れ。タイヤマネジメントはプロの世界でも議論され続けているレーサーの永遠の課題だ。余力を残しながらどこまで速く走れるか…試してみろ。」
タイヤマネジメントかぁ…。
意識して走ったことないから、俺の能力で出来るかわかんないなぁ。
「わかった、やってみるよ。」
涼兄ィとのミーティングを終えてサーキットに目を向けると、ちょうど奈臣がアタックを開始したところだった。
第1コーナーをスムーズに抜けた奈臣はリズム良くコースを攻略していく。
そしてホームストレートを駆け抜けてタイムが表示される。
奈臣のタイムは3位だったんだけど、今のアタックで2位に浮上した。
俺は3位に落ちた人の名前を確認する。
「Kai Kogasiwa…誰だろ?」
涼兄ィに頼んで確認してもらう。
「小柏 カイ(こがしわ かい)。お前達と同い年の選手だな。」
「へぇ~、どこのチーム所属なの?」
「栃木にある『東堂塾』というチームだ。『館 智幸(たち ともゆき)』という選手がプロに注目されている事もあって地元では有名なチームだな。チームの特徴としては、基本的にジュニアカデットクラスには選手を出場させない。これは物覚えのいい小さい内にスキルを叩き込んでしまう為だそうだ。だがこうして小柏が出場している事を見れば、監督である東堂社長に認められる程の技術を持っているんだろう。」
そんな話をしていると安達さんが近くに来たので話を聞いてみる。
「彼のお父さんはレースの世界では有名な人でね。当時は拓海くんのお父さんと2人で日本のレース界を牽引していくって噂されていた名選手だったんだよ。でも当時、小柏くんのお父さんが契約内定していたチームが突如解散してしまってね。その後も契約が決まらずプロのレーサーとして1戦もレースに出ないまま終わってしまったんだ。」
へぇ、そんな事情があったんだ。
ちなみに拓海のお父さんは自分でレースの世界から足を洗ったらしい。
そこまで話すと安達さんは他にも取材しないといけないと言って去っていった。
すると涼兄ィが俺の肩に手を置く。
「光介、事情は人それぞれあるがやるべき事は変わらない。今は目の前のレースに集中しよう。」
「…うん。」
少し湿っぽい空気を振り払う様に顔を叩いて気合を入れる。
よし!頑張ろう!
「光介、気合を入れるのはいいがタイヤマネジメントを意識するのを忘れるなよ?」
…ワスレテナイヨ?
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。