ジュニアカデットクラスの全国大会本戦が始まろうとしていた。
オートハウスの面々は本戦前の最後のミーティングをしている。
「奈臣、光介ばっか見とらんでカイくんにも気をつけるんやで。」
「わかっとる。予選タイムを見れば走れる奴やってわかるわ。」
奈々子がカイを注意する様にと言ったのは、彼の走りが彼女の記憶にある父親のそれに似ていたからだ。
かつてのライバルである文太は小柏の走りを次の様に評している。
『イカれてるかと思うぐらいコーナーに突っ込むが、当然の様にマシンをコントロールする技術と度胸を持つドライバー』
ちなみに小柏は文太の走りを次の様に評している。
『下品なぐらい気分でコロコロとラインを変えるが、それを速さに結びつけられる感性と技術を持ったドライバー』
この2人の互いの評価を知るからこそ、奈々子は奈臣にカイを注意する様に言ったのだ。
そんな親子ミーティングとは別に高橋兄弟もミーティングを行っている。
「光介、何度も言うがタイヤマネジメントを意識して走ってくれ。啓介は光介の走りがどう違うのかをしっかりと観察するんだ。」
「わかったぜ兄貴。光介、負けるんじゃねぇぞ。お前とガチでやりあって最初にオーバーテイクするのは俺なんだからな。」
啓介がこう言うのにはわけがある。
奈々子の意向で光介は、今シーズンのレースで何度かセカンドドライバーとして走った事があるのだ。
理由としては光介に経験を積ませるためである。
光介はジュニアカデットクラスでは頭一つ抜けた速さを持っている。
故に他者と競り合ったりする場面が極端に少ない。
そこで光介が将来レース巧者に振り回される可能性を考えた奈々子は、光介にセカンドドライバーとして後続をブロックさせたりする事で、他者と競り合う事を経験させようとしたのだ。
そんな感じでミーティングをオートハウスのメンバーが行っていた頃、東堂塾でもミーティングが行われていた。
「小柏、オートハウスに負けるんじゃないぞ。」
そうカイに話しかけるのは二宮 大輝(にのみや だいき)という啓介と同い年の少年である。
彼は天才肌で将来有望なドライバーなのだが、ムラッ気があり走りが安定しないという欠点がある。
その為カイのように東堂塾でジュニアカデットクラスデビューは叶わなかったが、デビュー年である今シーズンでジュニアクラスの全国大会出場を決めている素晴らしい選手である。
「大輝、もっと戦略とかの建設的なアドバイスをしろよ。お前も東堂塾の先輩なんだからな。」
二宮にそう苦言を呈するのは酒井という常に微笑んでいる様な表情をしている少年である。
彼も啓介と同い年の少年なのだが、彼も二宮の様にデビュー年での全国大会出場は叶わなかった。
しかしカートファンからはそのクレバーな走りに対して定評を得ている。
「おぉい、遊んでいる暇はないぞぉ。本戦開始まで後少しなんだからな。」
監督である東堂は3人を注意すると、横で鼻を啜る少年に目を向ける。
「そういやトモ、やけに大人しいがどうしたんだ。」
東堂にトモと呼ばれた少年は東堂塾に所属している館 智幸(たち ともゆき)というカート界では有名な人物である。
彼は今年中学3年生の少年なのだが、ジュニアカデットクラスを小学4年生で全国制覇してから一度も負けておらず、既にプロチームからも注目されている選手なのだ。
「初めてですよ。アマチュアの走りを見て鳥肌が立ったのは。」
「…高橋 光介か?」
館が頷くと東堂は唸る。
「そうか…それほどか。」
「少なくとも今の小柏に勝ち目はありませんね。戦略云々で覆せる様な差じゃありませんから。」
「わかってはいるが、それをこれから走る選手に言ってモチベーションを下げるわけにもいかんだろ。」
「ポジションを上げられる可能性があるだけマシですよ。プロのチームだったら確実にポイントを獲得する為にポジション死守をオーダーされるなんてザラでしょう?」
まるで他人事の様に鼻を啜る館を見て東堂はため息を吐く。
「…仕方ない。とりあえずは1つ前のポジションの源に集中させるか。」
「あいつなら小柏にも勝ち目があります。欲張って高橋 光介を追ってオーバーペースにならなければですがね。」
東堂が小柏にどう伝えるか頭を悩ませるのを他所に、館の視線は光介へと注がれるのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。
新キャラ登場が相次いで話が進まぬ…。