転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第26話『拓海の弱点』

武と勇のデビュー戦の日がやって来た。

 

今日は全国大会出場に繋がるポイントは無いレースなので、個人出場の選手が多い。

 

オートハウスとして注意する相手はナイトキッズの拓海ぐらいかな?

 

ちなみに俺と奈臣は今日のレースに出場しない。

 

俺と奈臣が出場する予定のレースは全国大会に繋がるポイントを獲得出来るレースが中心だから、今日のレースは参加する予定がなかったんだよね。

 

予選が始まって参加選手達が次々とアタックを開始する。

 

おっ?武もアタックを始めた。

 

第1コーナーに突っ込んだ武がタイミング良くブレーキングをする。

 

でもブレーキングの止め時が遅く、必要以上に減速してしまった。

 

う~ん…やっぱり武はそこが課題だなぁ。

 

俺はメモに武の走りの事を書き込むと、次に勇に目を向ける。

 

勇は涼兄ィが言うには物凄く耳がいいらしい。

 

というのも勇は後ろの相手の走りを、まるで背中に目がついているかの様にトレース出来るからだ。

 

この前のナイトキッズとの走行会でも、勇は拓海の前に出たらその走りをトレースしてブロックをし続けたことで、俺と奈臣に続いて3位でフィニッシュしていた。

 

ただ現状の勇は個人で走るとタイムが伸びないからそこが課題になっている。

 

勇の走りもメモすると俺は拓海に目を向ける。

 

拓海は1年で驚く程に上手くなった。

 

たぶん荷重移動の技術は奈臣と比べても大きな差がないレベルになっている。

 

どんな練習をしたんだろうな?

 

でもそんな拓海にも弱点はある。

 

それは『後ろからのプレッシャーに弱い』ことだ。

 

この前の走行会でもそれであっさり崩れたからなぁ…。

 

奈々子監督は『今日のレースの本命は間違いなく拓海くんやけど、勇の出来次第では面白くなるやろなぁ。』と言っていた。

 

3人の1回目のアタックが終わってタイムが掲示される。

 

1位が拓海、2位が武、3位が勇だ。

 

まだ時間は十分に残っているから武と勇は入れ替わる可能性があるけど、拓海はこのままポールポジションの可能性が高いと思う。

 

オートハウスが勝つためには勇に拓海を追わせるのが一番いいと思うけど、今日は武と勇のデビュー戦だからオーダーは無しだ。

 

さてさて…どうなるかねぇ?

 

 

 

 

予選のアタックを終えて戻ってきた拓海の元に樹が駆け寄る。

 

「拓海!今のところお前が予選1位だぞ!」

「…そうか。」

「なんだよぉ、もっと喜べよぉ!」

 

マシンから降りてヘルメットを外した拓海は小さく息を吐く。

 

そんな拓海に沙雪が飲み物を差し出した。

 

「ありがとうございます。沙雪さん、2位は誰ですか?」

「新庄だったんだけど、あいつさっきのアタックでスピンしちゃってねぇ…代わりに飛田がタイムを伸ばして2位に上がってきたわ。」

 

深刻そうに告げる沙雪の言葉に拓海は拳を握る。

 

拓海は以前のオートハウスとの走行会から勇に苦手意識を持っている。

 

故に心の中では武が後ろに来る事を望んでいたのだ。

 

「拓海くん、お養父(じ)さんから何か聞いてない?」

「親父は後ろは気にせず前だけ見てろって言ってましたけど…。」

 

そう言いながら拓海は思い出す。

 

光介や奈臣の様な速い者特有のプレッシャーではなく、肌に纏わりつく様な勇の異質なプレッシャーを。

 

「ほら拓海、タオル。汗拭いとかないと身体が冷えるぞ。」

 

樹からタオルを受け取って汗を拭いながらも、拓海の表情は晴れない。

 

「いっそのこと第1コーナーで飛田を前に出せば拓海くんは前に集中出来るかもしれないけど、この前の走行会を考えれば危険な賭けよね。あいつ、やたらとブロックが上手かったし。」

 

以前のオートハウスとの走行会を思い出しながら沙雪は眉を寄せる。

 

樹は沙雪の言葉に何度も頷いていると、不意に拓海が声を上げた。

 

「…それ、いいかもしれません。」

「「えっ!?」」

 

拓海の反応に沙雪と樹は異口同音の声を上げる。

 

「飛田を前に出すのはきついですけど、後ろにずっと張り付かれるよりは前に集中出来るんじゃないかって。」

「でもよぉ拓海ィ、どうやって飛田を抜くんだ?」

「う~ん…なんとかしてみるよ。他にも親父に言われたことがあるからさ。」

 

そう言って拓海が飲み物に口をつけると、沙雪と樹は顔を見合わせて肩を竦めたのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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