武と勇のデビュー戦の本戦が始まった。
予選で最下位だった桃のマークが書かれたカートがローリングスタートで出遅れたけど、それ以外はスムーズなスタートだ。
第1コーナーに先頭の拓海が飛び込む。
しかし…。
「あれ?」
拓海は勇に抜かれてしまい、代わりに勇が先頭に出た。
「なるほど、そう来たか。」
「涼兄ィ、拓海はわざと抜かれたってこと?」
「おそらくな。」
拓海が勇の後ろに張り付くと、勇は拓海の走りに呼応するかの様にペースを上げる。
その光景を見ながら涼兄ィが話す。
「藤原は『後方からのプレッシャーに弱い』というハッキリした弱点がある。これは技術や実績の不足で自信がないのが原因だろう。だが、原因がわかったとしても直ぐに改善出来る類いのものじゃない。なら、弱点が出ない状況に持っていくしかないだろう。」
「なるほど、言われてみれば納得やな。」
近くにいた奈臣がレースを見ながらそう言う。
「せやけど拓海は勇をどう抜くつもりなんや?勇はブロックがえげつないほど上手いんやで?」
奈臣の問い掛けに涼兄ィはフッと笑う。
「確かに飛田のブロックは凄いが絶対ではない。この前の走行会で光介が攻略法を示しただろう?」
「ドリフト中に当たり前の様にラインをクロスさせる変態は参考にならんで。」
「変態ってひどくない?」
「アホか、プロならまだしもあんなん出来る小学生が他におるわけないやろ。もうお前は天才を通り越して変態や。」
俺と奈臣のやり取りに涼兄ィはクスクスと笑う。
「確かに光介のあのコーナリングを参考にするのは難しいな。だが、勇のブロック攻略法はそこじゃないんだ。」
涼兄ィの言葉に俺と奈臣は首を傾げる。
「勇のブロック攻略法…それは『意識の隙をつく』事だ。」
◆
拓海は勇に張り付いて走りながら文太との会話を思い出していた。
『後ろに目があるんじゃないかってぐらいブロックされたか…珍しいがいないわけじゃねぇな。』
『親父もそういう人と走ったことあるのか?』
『まぁな。』
『そいつに聞いたことがあるんだが、音でだいたいわかるそうだ。』
『音で?』
『母さんが入院した時に病院に行くとちょうど院長がいてな、母さんの病室で院長と車の話で盛り上がったんだ。その時にその事をちょいと聞いてみたんだ。すると院長が言うには、人にはノイズキャンセリング能力ってのがあるらしい。』
『例えばお前が学校の休み時間に樹くんと話をしているとするだろ?その時、周りは静かか?』
『いや、皆も話してるから結構うるさいな。』
『だろう?つまりお前は色んな音の中から樹くんの声を無意識に聞きやすくしてるんだ。それがノイズキャンセリング能力だな。』
『でだ、さっき音でだいたいわかるって言っただろう?おそらく勇くんはノイズキャンセリング能力を使って相手のマシンのエンジン音とかを聞き分けて、その音から後ろを走る選手の走行ラインとかを把握しているんだろうな。』
『マジかよ…そんなことが出来るのか?』
『出来るんだろうな。まぁ、そこまでは無理でも、慣れりゃ相手のマシンのおおよその性能は把握出来る様になるぜ。』
『さて、ここまで踏まえた上での勇くんのブロックの攻略法だが…今のお前じゃ全うにやって抜くのは無理だな。』
『だから周りを利用する。といっても運の要素が強すぎるし、1回こっきりの博打だ。…でも、やらずに負けるよりはマシだろう?』
そこまで思い出した拓海は力を抜く為に大きく息を吐く。
そして拓海は勇の背を追いながら虎視眈々とチャンスを待ち続けるのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。
原作の勇君のブロック技術もある種のチートだと思う作者です。