コーナーが迫ってくる。
タイミング良くアクセルを抜いて最低限の減速。
ブレーキをキュッて踏んでステアを切ると、マシンがスッて向きを変える。
そして感覚通りにアクセルを踏むとタイヤが路面をガッて噛んで、一気に加速しながらコーナーを抜けていく!
「ははっ!」
気が付けば笑っていた。
やばい…カート、めちゃめちゃ楽しい!
最初は想像以上のスピード感が怖くて、能力が教えてくれる感覚通りに走れなかったけど、3周目辺りからはかなり感覚通りにコースを攻めていけてる。
走り込めば走り込む程、能力が身体に馴染む。
そしてもっと速く走れる。
気分は正に人馬一体!
いや、人車一体かな?
そんな事を考えながら楽しく走っていると、父さんが手招きしている姿が目に入った。
正直に言えば、見なかった事にしてもっと走りたいけど…。
俺は小さくため息を吐くとピットに入るのだった。
◆
side:涼介
光介が戻ってきた。
「どうしたの、父さん?」
いつも通りの光介だ。
あんな凄い走りをしたとは思えないぐらいにいつも通り。
「今日はそろそろ終わりにして帰ろうか。」
「えぇ~、もっと走りたいよ。」
いつもは物分かりがいい光介が珍しくごねている。
そんな光介に父さんは苦笑いをしながら首を横に振る。
「また今度だ。」
「…へ~い。」
そう言いながら光介はしぶしぶといった感じでマシンを降りる。
すると…。
「あれっ?」
光介はふらついて倒れそうになった。
「おい、光介。大丈夫か?」
咄嗟に啓介が支えたから怪我とかはないだろうが、本当に大丈夫か?
心配になって声を掛ける。
「光介、歩けるか?」
「えっと、ちょっと力が入らない。」
怪我か?病気か?
俺は父さんに目を向ける。
すると、父さんは笑っていた。
「楽しくて気がつかなかったんだろうが、光介は疲れているんだ。啓介、ベンチまで連れていって何か飲ませてやってくれ。」
「おう!任せろ!」
そう言って啓介は光介を背負っていった。
俺はどうして光介があそこまで疲れたのか不思議に思って父さんに目を向ける。
「乗り物を運転するのは思いの外疲れるものなんだ。人よりも速く走れるという事は、それだけ運転する人間も速く情報を処理して、対応しなければならないという事でもあるからな。プロのレーサーともなると、一回のレースで5kgも体重が落ちたなんて話もあるぐらいだ。」
華やかに見えたレースの世界が、本当は過酷なものだと知って驚いた。
「光介はそんな世界で生きていこうとしているのか…。」
「たしかに過酷な世界だが、レースはドライバー1人で戦うものではない。チームの仲間を始めとした多くの人と一緒に戦うものだ。」
そう言うと父さんは俺の頭に手を置く。
そして…。
「だから私達で光介を支えていこう。夢に向かって頑張る光介を、家族としてな。」
一緒に戦う。
この言葉がずっと俺の頭に残り続けたのだった。
◆
side:啓介
サーキットからの帰り、車に乗ると光介は直ぐに寝ちまった。
よっぽど疲れてたんだろうな。
親父と兄貴は光介のこれからで話し合ってる。
親父か母さんの都合がいい時にサーキットに来て光介が走る。
それに兄貴もついていくって感じだ。
「啓介、お前はどうする?」
「あ~…俺はたまにでいい。ダチと遊べなくなっちまうからな。」
そう言うと兄貴は苦笑いをする。
「そうか…お前も本気でやればプロのレーサーになれると思うんだけどな。」
「光介なら絶対になれる。でもよ兄貴、俺にそこまで才能があると思うか?」
今日の光介の走りを見てビビッてきたんだ。
光介は絶対にプロのレーサーになるってな。
「なれるさ。俺が保証してやる。お前が本気になれば必ずプロのレーサーになれる。」
兄貴はそう言ってくれるけど、俺が光介みたいに走れるとは思えない。
だからダチと遊べないとか言い訳を言っちまったんだ。
あんな風に走ってみたいとは思うけどよ…。
「啓介、自分と光介と比べるのはやめなさい。」
親父がいきなりそんなことを言った。
…なんでわかるんだ?
「お前にはお前のいいところがある。」
「俺のいいところってなんだよ?」
「たとえば思い切りの良さだな。こうと決めたらスパッと割り切れる。これは涼介や光介にはない…とは言わないが、思い切りの良さは兄弟の中でお前が一番だ。」
たしかに兄貴も光介も考えてから動く質だ。
でもなぁ…。
「それってレースで役に立つのか?」
「もちろんだ。コンマ1秒を争う世界で一瞬の躊躇は致命的になる事がある。だが、お前の思い切りの良さは逆にチャンスを作れる武器になるんだ。」
俺の武器…か。
なんかカッコいいじゃねぇか。
「親父、やっぱり俺もサーキットに一緒にくるぜ。」
「そうか、啓介もカートをやるか。」
「カートじゃねぇよ!ミニバイクだ!」
そう言うと親父と兄貴が笑う。
「啓介、両方やってみたらどうだ?光介には無い経験もお前の武器になるかもしれないぞ?」
「…兄貴がそう言うならやってみる。」
こうして俺はミニバイクとカートをやる事になった。
なんか兄貴に乗せられた様な気がするけど、悪い気はしねぇ。
俺は光介に目を向ける。
「のんきに寝やがって…。」
寝ている光介の頬を軽く引っ張る。
「やるからには天辺を目指す。光介、お前にも負ける気はねぇからな。」
今の俺は光介に勝てる気がしない。
でもここで意地を張らなきゃ、光介の兄貴として胸を張れねぇからな。
ったく、兄貴ってのも大変なもんだぜ。
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