転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第30話『理不尽な現実』

遅めのタイムに合わせるべくペースを調整しながらも、光介は奈臣や勝平太の動きを横目でチラリと見る。

 

(やっぱり奈臣も気になるのかな?たまに平くんをチラッて…あれ?平くん、左コーナーを普通に曲がれてる。)

 

勝平太のマシンはフレームが歪んでいる影響で、右のフロントタイヤがしっかりと接地していない。

 

その為に左へのコーナリングに影響が出ていたのだが、今の勝平太は左コーナーもしっかりと曲がれていた。

 

(なんで?あっ、左コーナーの時に思いっきり身体を右側に傾けてる。あれで右フロントが接地する様になったのかな?)

 

やや不恰好だが、それでも荷重移動をして左へのコーナリングをしている勝平太を見て光介は内心で驚く。

 

(もしかして平くんもマシンの状態を把握出来るのかな?)

 

光介がそう考えていた時、奈臣も似たようなを考えていた。

 

(なんやあいつ?不恰好やけど荷重移動をやっとる。オカンはあいつは初めてのサーキットや言うとったけど…ホンマか?)

 

チラッと横目で見る度にキレを増す勝平太の走りに、奈臣は小さくため息を吐く。

 

(あんな他人様への迷惑を省みぃひんガキを認めたないけど…天才やな。)

 

だが、と奈臣は笑みを浮かべる。

 

「まぁ、光介ほどやない。せやったら、いくらでもやりようはあるわ。」

 

そう口にしてホームストレートに戻ってくると、奈臣は奈々子が掲げるボードに示された指定タイムを見てげんなりする。

 

(遅めどころか完全に遅いタイムやないか。それこそ4ストのエンジンでも出せるタイム…って、そういうことやな?)

 

奈々子の考えを察した奈臣はため息を吐く。

 

「…心がポッキリ折れてもしらんで?」

 

 

 

 

フレームの歪んだマシンでも左コーナーを曲がれる様になった勝平太は、徐々にコースにも慣れて欲が出てきていた。

 

前を走るマシンを抜きたい。

 

それはレーサーならば当然といえる欲求だ。

 

その欲求のままに勝平太はアクセルを踏み込み、前を走る奈臣を追う。

 

右フロントタイヤを接地させる代償として擦り剥けた両膝の痛みも忘れる程に集中して…。

 

(…こうか?こうなんだな!?)

 

勝平太はギュッと両膝でマシン中央のフレームを挟み込むことで、意図的にフレームを変形させて僅かに浮いている右フロントタイヤを下げる。

 

更に体重を思いきり右に預けることで、右フロントタイヤを強引に接地させて左コーナーを曲がっていく。

 

「うぅー!」

 

呻き声を上げる程に力を込めてコーナーを攻めていくその献身が実ったのか、勝平太は徐々に奈臣の背中に追い付いていった。

 

(後少し…後少しで追い付く!)

 

そしてついに追い付いた勝平太は奈臣にオーバーテイクを仕掛ける。

 

(よし!行くぞ!)

 

一緒に来た彼の友人達と父親が歓声を上げる程に、勝平太は奈臣を綺麗にオーバーテイクした。

 

興奮する心そのままに、勝平太は更なる獲物を見定める。

 

(次はあいつだ!)

 

光介の背中を見据えてアクセルを踏む勝平太だが、しばらくして困惑する。

 

(あれ?なんでだ?追い付けそうだと思っても追い付けない。)

 

勝平太は懸命にアクセルを踏む。

 

今の自分に出来る最高のコーナリングをする。

 

しかし…。

 

(駄目だ。どうしても追い付けない。目一杯アクセルを踏んでるのに…どうして?どうして?)

 

答えは奈々子が指定したタイムにある。

 

奈々子は勝平太が奈臣を抜くまでは、4ストのエンジンでも余裕を持って出せるタイムを指定していた。

 

しかし今は勝平太が出したタイムよりほんの少しだけ速いタイムを指定したのだ。

 

その結果、光介は勝平太が追い付けそうで追い付けない絶妙なペースで走っているのだ。

 

(どうして?こんなに全力でやってるのに、どうして追い付けないの?どうして?…どうしてだよぉ!?)

 

勝平太がいかに頑張ろうとも光介との差は縮まらない。

 

その現実に勝平太はヘルメットの中で涙を堪える。

 

そして後方から来た奈臣に抜かれて完全に集中力が切れた勝平太は、力なく肩を落としながらピットに戻るのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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