シーズンも終盤になった頃、俺と奈臣は2年連続の全国大会出場を決めた。
後はポイントは関係ないオープン戦とかでレース勘が鈍らない様に調整して、全国大会を迎える予定だ。
それで今日はそのポイントは関係ないオープン戦なんだけど、俺と奈臣は出場せずに見学。
理由は拓海が出場するからだ。
今シーズンの拓海は残る2回の公式レースで後1回表彰台に立てば、全国大会出場が確定するぐらいまでポイントを獲得している。
なので全国の舞台で戦うかもしれないライバルになるべく手の内を見せない為に、今日のレースには出場しないんだ。
見学する理由はもちろん拓海の走りを見る為だ。
とは言うものの、拓海と樹とは同い年の友人でもあるから普通に喋るけどね。
「拓海、公式レースに集中しなくていいの?」
「俺もそう思ったんだけど、親父が『とにかく場数を踏まなきゃ話にならねぇ』って言うんだ。」
「俺達と拓海には2年の差がある。せやから拓海の親父さんが言うことも間違ってへんやろ。」
「やっぱそうだよなぁ。俺も拓海のマネージャーとして、そういうことを考えられるように頑張らないと!まぁ、最近は沙雪さんにマネージャーの座を取られがちだけどね…。」
ナイトキッズの所にお邪魔してそんな風に話してると…。
「あーっ!いたー!」
不意に茂波ちゃんの元気な声が聞こえた。
「おはよう、茂波ちゃん。ここにいるってことはカペタくん、免許取れたみたいだね。」
「そうよ!今日からはあんた達にでかい顔をさせないからね!手始めに今日!カッちゃんはあんた達に勝つんだから!」
ビシッと俺達を指差して宣言する茂波ちゃんには苦笑いをするしかない。
「あ~…茂波ちゃん、今日なんだけど、俺と奈臣は出ないよ。」
「はぁっ!?なによ!逃げる気?!」
「俺達はもう全国大会出場が決まっとるからな。ポイントと関係あらへんオープン戦にそうそう出るわけないやろ。」
「ムッカァー!」
歯ぎしりをしながら睨んでくる茂波ちゃんだけど…。
「そんなに睨んでも可愛いだけだよ?」
「う、うるさーい!」
「うるさいのはどっちやねん…。」
げんなりした様子で奈臣が肩を落とす。
「はぁ…まぁ、いいわ。あんた達が出なくても、カッちゃんがババアのチームに勝つことに変わりはないもん。覚悟しておきなさい。」
そう言って茂波ちゃんはあっかんべーをして去っていった。
個人的にはもうちょっと話したかったな。
まぁ、それはそれとして…。
「奈臣、奈々子監督にカペタくんが出るって報せてくるよ。」
「おう、俺はもう少し時間を潰してから戻るわ。」
軽く手を振った俺はオートハウスの皆の所に戻るのだった。
◆
光介が去るのを見送って奈臣は小さくため息を吐く。
「はぁ、やっぱ光介はどこか抜けとるなぁ。平が参戦するかなんて、パンフレットを見たらわかる。オカンはもうとっくに知っとるわ…。」
コリコリと頭を掻く奈臣に拓海が問いかける。
「奈臣、カペタって誰だ?」
「いっこ下の天才やな。」
「そうか…。」
「拓海、負けんなよ!先輩としての意地を見せてやろうぜ!」
「簡単に言わないでくれよ樹。正直、勇のことで一杯一杯なんだ。」
奈臣が天才と評したことで拓海はカペタを警戒しようとするも、苦手と認識している勇の方が気にかかっている。
「…でもいいのか?カペタって奴のことを俺に教えて?」
「かまへんかまへん。俺の代わりにボッコボコにへこましたってくれ。」
奈臣の言葉に拓海と樹は目を白黒させる。
「珍しいなぁ、奈臣がそんなことを言うなんて…なんかあったのか?」
樹の問いかけに奈臣は頭をガシガシと掻く。
「なんというか…あいつ、礼儀知らずやねん。」
「もしかして、カペタはどこのチームにも入ってないのか?」
「せや。」
「俺と拓海だってナイトキッズに入ってから色々と教えてもらったし、どこのチームにも入ってないやつだと仕方ないんじゃないか?」
樹の言葉に奈臣は首を横に振りながら言葉を吐く。
「あいつ、俺の義理の弟になりそうやねん。」
「「はぁっ!?」」
異口同音で拓海と樹が驚く。
「うちとあいつんところ、両方とも片親やねん。そんで俺のオカンとあいつのオトンがもう何度もデートをしとってな?オカンはまだ正式に付き合ってへんとか抜かしとるけど、正直に言うて時間の問題やと思うわ。」
そんな他所様の家庭事情を聞かされた拓海と樹はひきつった笑いを浮かべる。
「まぁ、それはええねん。問題はあっちの息子の方や。家族になった後にあいつが礼儀知らずで問題を起こせば、俺にもとばっちりがくんねんで?笑いごとやないぞ!それでスポンサーさんからそっぽ向かれたらどうすんねん!」
それからしばらく奈臣は勝平太に対する愚痴を吐き続ける。
それに対して拓海と樹は適度に相槌を打つしかなかったのだった。
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