転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第33話『才能の片鱗』

予選が始まると各マシンが次々とアタックを開始していく。

 

だが、そんな面々の中で2台ほど覚束無い動きを見せるマシンがある。

 

1台は桃のステッカーが特徴的なマシンに乗った田川上 桃太郎(たがわじょう ももたろう)という少年だ。

 

彼は大企業の御曹司にして飛び級も果たす秀才なのだが、残念ながらカートの才能は乏しく目立つ成績を上げることは出来ていない。

 

そしてもう1台の覚束無い動きを見せるマシンの主は…勝平太だった。

 

奈臣が天才と評する彼が覚束無い動きを見せるのにはわけがある。

 

それは…一言で言えば経験不足だ。

 

彼の家は決して裕福ではない上にチームにも所属していない。

 

そのため彼が練習で使っていたマシンは中古のフレームに中古のエンジンだった。

 

タイヤもスポンサーがついてるチームとは違い限界まで使いきる。

 

そうやってマシンを労りつつ走り続けた彼は、ジュニアカデットクラスとは思えないタイヤマネジメント技術を身に付けている。

 

だが、その代償としてレース用のエンジンでの全開走行経験は皆無だった。

 

「うわっ!?」

 

そんな彼はアクセルを全開にするだけでその加速に戸惑ってしまう。

 

しかし…。

 

(すごい…レース用のエンジンってこんなに速いんだ!)

 

奈臣が天才と評する才能がサーキット上で徐々に発揮されていく。

 

コーナーを1つ1つ丁寧にマシンと対話しながら攻略法を探していく彼の走りは、どこか光介の走りに似ていた。

 

それに気付いた涼介と奈々子が目を細める。

 

「今はまだまだですけど…危険ですね、平は。」

「せやな。けど、今ならまだ勇と武でもやりようはある。」

 

奈々子の言葉に頷いた涼介は掲示板に表示されているタイムへと目を向ける。

 

「勇に藤原を追わせて、武に平を抑えさせる…それでいいですか?」

「それが現状のベストやね。もっとも、カペタくんがどこまでタイムを伸ばしてくるのか未知数やから、あくまで予定にしとかなアカンなぁ。」

 

コーナーを1つ抜けるたびに走りに冴えが増していく勝平太を見て、奈々子は笑顔を見せる。

 

「ほんま賢い子やわ。目先のタイムに囚われず、1つ1つ確実にクリアしていっとる。あれでチームに入っとらんのやから末恐ろしいで。」

 

しばらくして予選が終了すると、拓海が1位、勝平太が2位、勇が3位、武が4位…桃太郎が最下位となったのだった。

 

 

 

 

予選が終了し本戦に向けてのミーティング後、武はポイントのかかってないこのレースでセカンドを言い渡されて落ち込んでいた。

 

そんな武の元に1人の男が訪れる。

 

それは…。

 

「よう、武。」

「あっ、啓介先輩。」

 

高橋家次男の高橋 啓介だった。

 

「わけがわからねぇか?」

「えっ?」

「光介や勇はわけがわからねぇ走りをするのにバカ速ぇ。あれを真似しようとしても出来ねぇからイライラするし、自分に才能ねぇのかって思って落ち込む…そうじゃねぇか?」

 

武は啓介の言葉に頷く。

 

「そっか、それがわかってんなら上出来だな。」

「えぇ!?」

 

驚いて声を上げる武を見て啓介は笑う。

 

「笑いごとじゃないですよ啓介先輩!このままじゃ先輩達はともかく、勇に勝てないじゃないですか!」

「練習ってのはな、上手くなるためだけにやるもんじゃねぇんだよ。」

 

啓介の言葉に武は目が点になる。

 

「練習では上手くなるため以外に自分に出来ることの確認と、自分に出来そうなことの確認をするもんなんだ。もっとも、こいつは兄貴の受け売りだけどな。」

 

武は啓介の言葉を反芻する。

 

「出来ることと、出来そうなこと…。」

「そうだ。それでだ…武、お前は光介や勇の走りを出来そうだからやったのか?やってみたかったからやったのか?」

「やってみたかったからです…カッコよかったから…。」

 

武の告白に啓介は頷く。

 

「うしっ、そいつを認められれば一歩前進だな。」

「啓介先輩…俺、どうしたらいいんですか?」

「簡単なことだ。出来ることをやりゃいいんだよ。」

「へっ?いや、でも…。」

 

啓介は武に軽くデコピンをする。

 

「いたっ!?」

「俺達が天才とやりあうには、出来ることをとことん極めて、出来そうなことを身に付けていくしかねぇんだ。先ずはそこからだ。とりあえずやってみろ。愚痴ぐらいなら幾らでも聞いてやるからよ。」

「…はいっ!」

 

モチベーションを持ち直した武を見て啓介は満足そうに頷く。

 

「それじゃ、今の武でも出来ることを言うぜ。」

「はいっ!」

「武、平を徹底的に抑え込め。」

 

キョトンとした武は申し訳なさそうに頭を描きながら言葉を返す。

 

「啓介さん、すみません。あいつ、俺より2秒近く速いから…。」

「監督が言ってたんだけどよ、平のやつ、ちゃんとしたレース形式で走るのは今日が初めてなんだとさ。」

「へっ?それであのタイムなんですか?嘘ですよね?」

「監督がこんなことで嘘言っても意味ねぇだろ。」

 

武は自分と勝平太との才能の差に落ち込んでしまう。

 

「まぁ、それはそれとしてだ…初めてのレース形式なら、ローリングスタートでミスが出ても不思議じゃねぇよな?」

「あっ、そういえば光介先輩も初めての時はミスしたって…。」

 

ハッとした武に啓介はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「第1コーナー、思いっきり突っ込めよ。そして平のやつにレースは速いだけじゃ勝てねぇって教えてやれ。」

「…はいっ!」

 

武にスポーツドリンクを渡して啓介は去る。

 

その道すがら啓介は一人言を呟く。

 

「ったく、監督も兄貴も俺に武の面倒を押し付けやがって…。」

 

小さくため息を吐いた啓介はガシガシと頭を掻く。

 

「まぁ、こういうのは嫌いじゃねぇけど…柄じゃねぇよなぁ。」

 

そう言いながら啓介は苦笑いをするものの、足取りはとても軽やかなのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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