「あーっ!またぁ!ちょっと!あれって反則じゃないの?!」
「反則じゃないよ。ブロックは立派な技術の一つだ。」
勝平太を何度もブロックする武を指差し抗議する茂波に、勝平太行きつけのサーキットの管理人は当然の様に答える。
「むー、じゃあぶつけちゃえば!」
「それは反則。」
「あーもう!カッちゃんなんとかしなさい!ババアのチームに負けるんじゃないわよ!」
そんな茂波の声援が聞こえたのか勝平太がコーナーで仕掛けるが、またしても武にブロックされてしまう。
武には勇の様に後ろのマシンの走りをトレース出来る様な才能はない。
だが、だからこそ堅実に、確実にブロックをしていく。
(俺の仕事は平を抑えてこのポジションをキープすること!やってやる…やってやるぞ!天才に負けてやるもんか!)
これまで勝つことばかりを考えていた武に、初めて本気で負けないという意識が芽生える。
勝つことと負けないことは似ているようで別物。
例えば勝つことに必要なのが誰にも譲らず妥協しない情熱なのだとしたら、負けないことに必要なのは妥協点を探り決断をする冷静さだ。
今の武はしっかりと集中しながらも、どこか自分を客観視出来るというそんな冷静さを併せ持っていた。
初めての感覚に若干数戸惑いながらも、武はしっかりと己の仕事をこなしていく。
(なんだこれ?なんか熱いはずなのに熱くない…変な感じ。)
身体は熱く心は冷静に。
そんなある種の理想的な集中状態になっている武は、自身より速く走れる勝平太を完璧に封じていく。
(ははっ、すげぇ…すげぇぞ!今なら奈臣先輩や光介先輩だって抑えられる気がする!)
熾烈な3位争いに呼応するようにトップ争いも激しくなっていく。
(っ!?あっぶねっ!)
レースも半分を過ぎたころ、背中に感じるプレッシャーで精神的に疲労してきた拓海の走りに、徐々にミスが目立ち始めてきた。
だがそれでも勇はオーバーテイクを仕掛けず、ジッと拓海の背中に張り付き続けている。
(きついぜ·…こんなのどうしろってんだよ…。)
精神的疲労から思考が徐々にネガティブになってきた拓海だが、その思考とは裏腹に勝利の為にマシンを操り続けている。
(勝ちてぇ…。)
思考はやがて呟きに変わる。
「勝ちてぇ…。」
呟きがしっかりとした発声に変わる。
「勝ちてぇ。」
そして…。
「勝ちてぇ!」
ついには切望の叫びに変わった。
だが現実は非常なものである。
集中力が弱まっている拓海はまたしてもコーナリングでミスを犯してしまう。
(やべっ!?)
これまでの経験からこのままではスピンをしてしまう。
そう感じ取ったと同時に拓海は無意識にマシンを操作して、無理に抑えこまずあえてリアを滑らせていた。
それが功をそうしたのか、マシンはコースアウトぎりぎりまで膨らんだものの、スピードが乗った状態でコーナーを抜けていた。
(…なんだ今の?ミスをしたのに今日一番速くコーナーを抜けなかったか?)
拓海はわけがわからず混乱するものの、背中にプレッシャーを感じたことで直ぐに意識を立て直す。
(もう1回…やれるか?)
偶然出来ただけに過ぎないコーナリングに再度チャレンジする。
端から見たら無謀極まりないが、精神的疲労で追い込まれていた拓海は逆にあっさりと開き直った。
(このままじゃ確実に負ける…なら、やるしかねぇだろ!)
四苦八苦しながらも拓海は今し方得た新たな感覚に挑戦していく。
そしてレースはいよいよ終盤戦へと進むのだった。
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