レースも残すところ4周となった時、奈々子からの指示を受けた勇が拓海をオーバーテイクするべくアタックを始める。
だが新たな感覚に馴染み始めていた拓海は、僅かにミスをしてもコーナリングスピードを落とさずにコースを攻略していた。
(いい…いいぞこれ。すげぇ乗れてる気がする。)
手応えを掴んだ拓海はミスを怖れずに果敢に攻め始める。
その拓海の動きを一早く察した勇はアタックを控え、拓海の後を追うことに集中した。
(拓海さんの走りが変わった…いったい何があったんだろ?)
他者の走りをトレースすることに長けた勇だが、彼の本当の才能は別のところにある。
それは…割りきっていることだ。
夢を見ず、現実を認識し、妥協する。
経験豊富な大人ならまだしも、まだ小学生の子供がそれを成すのは非常に難しい。
だが勇は自身に出来ることの認識に努め、勝負において自身が出来る範囲で勝機を探すことに楽しさを見出だしていた。
故に拓海の走りが変わったことに疑問は抱いても動揺はしない。
(凄いな拓海さんは…でも、僕は僕の出来ることをやるだけだ!)
やるべきことをやる。
言うは易いが行うは難し。
だが、それを成せるのが勇の才能なのだ。
拓海が逃げ、勇が追う。
そんな状況が続き、レースはいよいよファイナルラップを迎える。
このままレースは決まってしまうかと観客は思い始めていた。
しかしそんな観客達の思いと反して、新たな感覚への挑戦と背中に感じるプレッシャーにより、拓海は精神的疲労の限界を迎えていた。
(えっと…今、何周目だ?)
霞が掛かった様な思考で走り続ける拓海。
故に必然だったのだろう。
最後の最後…最終コーナーでブレーキングが遅れた拓海のマシンは大きく膨らんでしまい、コースアウトしてスピードが落ちてしまった。
ブレーキングが遅れたと同時に思考を覆っていた霞が晴れた拓海だが時既に遅く、コースアウトと同時に勇に悠々と抜かれてしまう。
そして勇が先頭でチェッカーフラッグを駆け抜けると、悔しさのあまりステアリングに拳を叩きつけたのだった。
◆
side:光介
レースが終わってからカペタくんがずっと泣いている。
武にブロックされ続けて負けたのが堪えたのかと思ったけど、負けたことよりもマシンを気持ちよく走らせることが出来なかったのが悔しいらしい。
まぁ、レースなんだし邪魔が入るのは当然だよなぁ。
ノブくんも悔しそうに拳を握ってるし、茂波ちゃんは鬱憤を晴らすように叫んでる。
そんな子供達をシゲさんが宥めて父性を見せると、奈々子監督が熱い眼差しで見つめている。
武はカペタくんを抑えきったことが自信になったのか、啓兄ィに感想を聞きつつもどこか一皮剥けた感じだ。
そして最後の最後で拓海を抜いて逆転勝利した勇は、一人静かに表彰状を見てニヤニヤしてる。
うん、なかなかにカオスな状況だ。
「あんないいレースを見せられると熱くなってまうなぁ。」
「うん、次は俺達の番だ。」
俺は奈臣と静かに拳を合わせながら、次の戦いに思いを馳せるのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。