光介は2度目の全国大会の日を迎えていた。
今年は惜敗から一皮剥けた拓海も出場しており、去年と比べてハイレベルになると予測されている。
だがそんな大会当日になって光介は体調を崩してしまっていた。
「光介、解熱剤と胃薬だ。今のうちに飲んでおけ。本戦を迎える頃には多少は楽になってる筈だ。」
「…うん、ありがとう涼兄ィ。」
「薬を飲んだら横になって楽にしていろ。適当な時間になったら起こす。」
素直に横になった光介を見て、涼介は気取られないように小さくため息を吐く。
医者になるために勉強をしている涼介から見ても、光介はレースに出すべきではない状態だ。
そんな光介を診に奈々子が姿を現す。
「風邪やね。暖かこうして寝とれば治るわ。」
「監督、光介ですが…。」
奈々子は涼介の言葉を遮る様に首を横に振る。
「体調管理も選手の仕事や。酷やと思うけど、予選の時間が来ても起こさんでええ。」
奈々子がそう言った時、奈臣がやってくる。
「オカン。」
「聞いとったやろ?起こしたらアカンで。」
「…光介はレーサーや。エンジン音が聞こえたら起きるで。」
奈々子は睨む様にして奈臣を見る。
「走らせぇ言うんか?」
「その決断をするんもレーサーの仕事やろ?」
頭を掻きながら奈々子はため息を吐く。
「あくまで光介くんが起きたらや。」
「わかっとる。」
「せやったら準備せぇ。他人様の心配出来る程、あんたに余裕はないんやからな。」
しっしっ、と手振りで奈臣をおいはらうと、奈々子は涼介に目を向ける。
「涼介くん、奈臣に構わんでええからな。無理と判断したら私に言うてや。そしたら光介くんを棄権させるからなぁ。」
「…いいんですか?」
「こういう時に憎まれ役を引き受けるんも大人の役目や。」
そんなやり取りがあってからしばらくすると、予選の時間が来て各選手が走り始めた。
すると、光介が目を覚ました。
「光介、大丈夫か?」
「涼兄ィ…俺のマシンは?」
「…準備は出来てる。」
「そっか。」
スポーツドリンクを飲んで水分を補給すると、光介はヘルメットを被って準備を済ませる。
「じゃあ、行ってくるね。」
「無理はするなよ。」
「うん。」
サーキットに出てアタックを開始した光介だが、体調不良のせいかやはり走りにキレがない。
(棄権させるべきか?だが…。)
如何に大人びていても涼介とてまだ未成年の子供である。
決断出来ずとも致し方ないだろう。
結局、涼介は決断出来ないまま時が過ぎ、予選は終わりを迎えてしまう。
そして体調不良の中でアタックをした光介は、公式戦の予選で初めての4位となったのだった。
本日は3話投稿します。
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