第43話『ジュニアクラスデビュー』
小学6年生となりカートの主戦場がジュニアクラスとなって数日、俺と奈臣はジュニアクラスで使用するエンジンに慣れる為に走り続けていた。
「スピードレンジが変わって難しいわぁ。光介、お前はどうしとるんや?」
「えっ?感覚でなんとなく。」
そう答えると奈臣は「これやから天才は…」って言いながら頭を掻いていた。
ある程度ジュニアクラスのエンジンに慣れた頃には、ナイトキッズとの走行会で拓海と一緒に走る。
すると…。
「拓海、お前はどうやった?ジュニアクラスのエンジンには苦戦したんか?」
「確かに苦戦したけど、試行錯誤するのは楽しかったな。」
「せやなぁ。分かるわ、その気持ち。」
そんなやり取りがあった。
そしてやって来たジュニアクラスでのデビュー戦の日。
先ずはジュニアクラスの雰囲気に慣れる為に、ポイントの掛かってないレースに参戦したんだけど、その予選で奈臣は4位、拓海は5位になった。
本戦でも奈臣と拓海の苦戦は続く。
経験豊富なジュニアクラスの選手達に見事に抑え込まれたり、出し抜かれたりしてしまい、2人はそれぞれポジションを1つ落としてレースを終えた。
「光介は1位か…やっぱすげぇな。」
「凄いというかおかしいねん。なんでそんな簡単に順応しとんのや?」
ジュニアクラスでの初めてのシーズンはかなり刺激的だった。
スピードレンジが上がったのもあるけど、それ以上に選手達の意識が違う様に感じる。
どうすればポジションを1つでも上げられるのかを、本気で考えている様に感じるんだよね。
もちろんジュニアカデットクラスの選手も考えているけど、なんというか考えの深みが違う。
だからなのかレースがもっと面白く感じるんだ。
そうして戦い続けた結果、俺は全国大会出場をはたしたけど、奈臣と拓海は後一歩が届かなかった。
2人は悔しそうだったけど、それ以上に成長の手応えも掴んだみたいで笑顔が見られた。
おっと、そろそろ全国大会の本戦が始まる時間だ。
2人の分も頑張ろう。
◆
年上の選手達を抑えトップを走る光介の姿を見て、奈臣は小さくため息を吐く。
「どうしたんだ、奈臣?」
隣にいた拓海がそれとなく問い掛けると、奈臣は拓海にジト目を向ける。
「あそこで拓海に抜かれへんかったら、俺も全国大会に出れてたんやけどなぁ。」
「しかたないだろ?俺だって親父に携帯電話を買ってもらえるか賭けてたんだから。」
そんな拓海の言葉に奈臣は首を傾げる。
「樹は持ってへんかったよな?せやのに欲しがるなんて…相手は誰や?」
「…沙雪さん。」
照れて頬を掻く拓海に奈臣は驚いて目を見開く。
「付き合っとるんか?」
「えっと、それは俺が中学に入ってからかな。」
「…もうすぐやん。」
レースを見つつも奈臣は拓海に話を聞いていく。
話によると既にお互いの両親公認の仲で、婚約まで秒読みの状態のようだ。
「なんや、見た目と違って拓海は手が早かったんやな。」
実際は沙雪の猛アタックの結果なのだが、それを言うのは男らしくないと拓海は口を閉ざす。
「そういう奈臣はどうなんだ?」
「…オカンに紹介された子がおるけど…年下やからなぁ。付き合うにしても数年後からやな。」
攻守交代とばかりに今度は拓海が話を聞いていく。
相手の名前は『上原 美香(うえはら みか)』。
2つ年下で父親から英才教育を受けてプロゴルファーを目指している女の子である。
「ええ子やったで。せやけど数年後は俺も美香も色々と忙しくなるやろからなぁ。正直、どうなるかわからんわ。」
「そっか…ところで、光介はどうなんだ?」
拓海の疑問に奈臣は肩を竦める。
「光介はあいつやろ?」
「そうだろうけど…気付いてるのか?」
「気付いてへんやろな。せやから面白いんやろ?」
「はぁ…いい性格してるよほんと。」
その後、光介が表彰台の一番上に立ってジュニアクラス初めてのシーズンは終わりを迎える。
そして光介達は中学校へ入学し、新たな学校生活が始まるのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。