最初は何が起きたのかわからなかった。
ドンッ!って強い衝撃があってスピンして、気が付けばコースアウトしてて…。
そこでようやくぶつけられたんだってわかった。
後ろにいたのはカペタくん。
わざとぶつけてくる様な子じゃないから、夢中になった結果ぶつけてしまったんだと思う。
オートハウスでは接触した場合の対応の練習だってしてるし、そう騒ぐことじゃないのはわかってる。
でも…腹が立った。
大人気ないって言われるかもしれない。
それでも腹が立ったんだ。
だから…本気で走る。
速く。
ぶつけることすら出来ない程に速く。
調整?
どうでもいい。
今はこの怒りを晴らす為に全力で走る。
コースに戻りながらマシンの状態を掌握する。
ぶつけられた側面が割れているからストレートの時に少しバランスが悪い。
でも走るのには支障ない。
それとコースアウトして砂を巻き込んじゃったから、タイヤの食い付きが悪くなってる。
これも問題ない。
よし、行くぞ。
絶対に追い付く。
◆
レンズ越しに光介を見た安達の身体に鳥肌が立つ。
「来た…来た来た来た来た!この感じ!あの時以来の感じだ!」
シャッターを切りながら光介の走りを追い続ける。
コーナリングを見る度に鳥肌が立つことに、安達は感動してシャッターを切り続ける。
「凄い…凄いぞ光介くん!やっぱり君だ!君なら僕達日本人レースファンの夢を叶えられる!」
数秒の差をものともせず、光介は前を走る3人を猛追していく。
そして残り3周というところでカペタに追い付くと、あっという間にオーバーテイクをして前の2人を追い始める。
そしてファイナルラップにはついに拓海と奈臣の2人を射程圏に捉えた。
新しい物に交換したフィルムを使いきる勢いで安達はシャッターを切り続ける。
それほどに三者の争いは凄いものだった。
光介が拓海をオーバーテイクして奈臣にも仕掛ければ、奈臣がブロックしている隙をついて拓海が仕掛け返す。
縺れる様にして最終コーナーを抜けた3台がホームストレートを加速する。
しかしぶつけられた影響なのか、光介のマシンはストレートの伸びが僅かに鈍く伸びてこない。
そして…。
「っしゃあ!やったで!」
「くそっ!」
チェッカーフラッグを駆け抜けて勝利を確信した奈臣が拳を振り上げる。
僅かに届かなかった拓海は悔しさの余りステアリングに拳を叩きつける。
そして…。
「届かなかったかぁ…残念。」
全力を出してスッキリしたのか、走り終えた光介の顔には笑顔が戻っていたのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。