「そんじゃ私達はデートに行ってくるから、後は頼むで。」
「2人共、めんどくさがらずにちゃんと昼飯は食えよ。技術云々はわからないけど、身体が資本だってのは俺にだってわかる基本なんだからな。」
奈々子と茂雄の2人がデートに出かけるのを見送ると、奈臣は背伸びをしながらカペタに話しかける。
「昼飯どうする?パスタでええか?」
「あ、うん。」
「リクエストは?」
「前はカルボナーラを食べたから、今度はペペロンチーノに挑戦してみたい。」
今日は全国大会に向けて英気を養う為の休日なせいか、奈臣は大きな欠伸をする。
「了解や。そんで、ノブはいつ頃くんねん?」
「1時間ぐらいしたらかな。」
「そうかぁ、そんじゃそれまでノンビリしてよか。」
そう言って奈臣がリビングに向かうとカペタもついていく。
そして2人はソファに座ると、徐にレースのビデオを見始めた。
「うっ、これって先週の?」
「せやで、しっかり見て反省せなな。」
「…うん。」
ディスプレイには序盤からカペタが何度も光介にアタックしている場面が映っている。
「こん時、タイヤはどうやってん?これで最後まで持つんか?」
「えっ?グリップが無くなったらその走り方をするだけだけど。」
「今はそれでもええかもしれんけど、プロに行くんならしっかりタイヤマネジメントを覚えなアカンで。」
「うん、わかった。」
カペタは頷くとリモコンを操作してもう一度見直す。
「光介はこの速さで走ってタイヤマネジメントが出来てるんだよね?」
「せやな。」
「どうやってやってるの?」
「知らん。」
奈臣の答えにカペタは首を傾げる。
「えっ?奈臣はよくレースで光介に後ろに張り付いてるから出来るんだろ?」
「あれは光介の走りを真似しとるだけや。」
納得していない様子のカペタに奈臣は小さくため息を吐く。
「俺が光介並みにタイヤを使えるんやったら、予選のタイムがもっと良くてもいいと思わへんか?」
「あっ、そうか。」
「はぁ…逆に聞くで。お前はどうなんや?タイヤマネジメント出来るんか?」
その問い掛けにカペタはきょとんとする。
「えっ?マシンが嫌がらない走りをするんじゃないの?」
「なんやそれ!?そんなんわかるか!これやから天才は…。」
頭を抱える奈臣だが光介の走りをトレース出来る彼も間違いなく天才に分類される。
それに気付いていないのだからどっちもどっちだ。
そんなやり取りをしていると呼び鈴がなる。
ノブがやってきたのだ。
「あっ、俺が出るよ。」
「頼むわ…カペタ?」
「ん?なに?」
「ナイトキッズに入るか決めたんか?」
光介にぶつけたことがキッカケで、あのレースの後にチームカペタの面々で話し合いが行われた。
内容はこのままプライベーターを続けるか、どこかのチームに所属するかだ。
茂雄が奈々子と結婚したことで経済的事情は大分良くなったが、それでも個人では練習にも限界がある。
そのためどこかのチームに所属して本格的な練習をという意見で纏まったのだが、ここで茂波がオートハウスだけはダメと言ったことでナイトキッズが所属するチームの候補となったのだ。
「うん、入るって決めた。」
「そうかぁ。拓海が相手ならええ練習相手になるやろ。それにナイトキッズには中里さんもおるしな。」
ジュニアからシニアに以降した中里は現在、FカテゴリーではなくスーパーGTを目指して日々を過ごしている。
理由は流行りの4WD車をFR車でぶち抜きたいというものだ。
ちなみに啓介もFカテゴリーではなくスーパーGTを目指している。
彼の場合は父と涼介による洗脳…もとい教育の影響でロータリー車が目的ではあるのだが…。
「お邪魔しま~す。」
「ノブ、邪魔すんねやったら帰ってや~。」
「おいぃ!?」
そんなやり取りを楽しみつつ3人は休日を過ごすのだった。
◆
「奈々子、カペタが入るナイトキッズってどんな練習をするところなんだ?」
とあるファミレスにて昼食をとっている茂雄、奈々子夫婦は息子達の事で話し合っていた。
「うちとそう大差はあらへんよ。強いて言うならレース形式の練習が多目ってところやねぇ。」
「そうか、ほとんど1人で練習してきたカペタにとってはいい練習環境かもしれないな。」
「指導者もおらんであそこまで走れる様になったのは、間違いなくカペタの才能やね。」
仲睦まじく会話をしながら2人は昼食を楽しんでいく。
そんな中でふと再婚前の話になった。
「奈々子、奈臣は反対しなかったのか?」
「むしろさっさと再婚せぇ言うとったねぇ。そっちはどうやったん?」
「反対はしなかったけど、とにかく驚いてたな。」
「それが普通の反応なんやろなぁ。」
苦笑いをした奈々子は小さくため息を吐く。
「どうした?」
「6年前…奈臣がまだ小学1年の頃やな。光介くんに初めて出会って負けた後や。奈臣がどうすれば勝てるか聞いてきたんよ。」
食後のコーヒーを一口飲んでから奈々子は話を続ける。
「光介くんはほんまもんの天才や。本気で勝つ気やったら使える時間全部をレースに注がなあかん…そう言うたら奈臣は『そうやろなぁ』って言うてたね。」
奈々子はまた小さくため息を吐く。
「それからや、奈臣の生活が変わったんは。少しでも時間があればそれをレースの為に使うようになってん。小学校時代の先生の話では、休み時間も友達と遊ばんとレース関係の本と睨めっこしとったらしいんよ。後押しをしておいてなんやけど、本当にあれでよかったんか今でも悩んどるわ。」
奈々子がコーヒーを口にすると茂雄が問い掛ける。
「今はどうなんだ?」
「中学は光介くんと同じとこに行かせたんは知ってるやろ?それがよかったのか、今は学校でもそれなりに息抜きを出来る様になったみたいやね。」
「そうか、それはよかった。」
心底安心したように茂雄は息を吐く。
「心配かけさせてもうたね。」
「養息子のことなんだ。心配して当然だろ?」
「ほんま、あんたはいい男やわぁ。」
惚気る奈々子が茂雄を見詰めると2人の間に甘い雰囲気が漂い始める。
その雰囲気に当てられたのか、その日のファミレスはコーヒーの売り上げ記録を更新したのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。