転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第5話『驚愕する源親子』

side:菜々子

 

 

高橋くんの声かけで決まった今日の走行会。

 

まだチームの皆としか走った事がない奈臣に、経験を積ませるのにちょうどええと思って受けたんやけど、おもろい子達を見つけたわぁ。

 

「監督、高橋兄弟はどうですか?」

 

うちのチームマネージャーをやってもろうてる梶原 慶(かじわら けい)くんが声を掛けてくる。

 

「そうやねぇ…涼介くんは賢い子やね。しっかり周りを見て走っとる。レースに出ないのが勿体無い。」

 

初めてのレース形式の走りって高橋くんから聞いとったけど、涼介くんはローリングスタートを無難にこなしてレースに入っていけた。

 

しっかりと想定してたんやろね。

 

コーナーでは前や後ろの子の走行ラインを意識して走ったりと、しっかり頭を使って走れる子や。

 

技術が身に付いたら一気に化けるやろうね。

 

せやからレースで走らんのがほんまに勿体無いわぁ。

 

「啓介くんは思い切りのええ子やね。うちの子達に見習わせたいぐらいやわ。」

 

ローリングスタートにはちょいともたついたけど、その後は前を走る子をオーバーテイクしようとして、がんがんアタックを仕掛けとる。

 

コースにこなれてくるとオーバーテイクをしやすいポイント、しにくいポイントがわかってくるもんやけど、啓介くんはそんな事は関係あらへんと言うぐらいに、アグレッシブな走りをしとる。

 

勝てるかどうかは別やけど、ああいう走りは見てて楽しいもんや。

 

「光介くんは…正直言って驚いたわ。」

「僕も驚きました。あの子、本当に奈臣と同い年ですか?」

 

奈臣を含めてオートハウスから5人、そして高橋兄弟の3人を合わせて8人で始めた今回のレース。

 

ジュニアカデットクラスで全国レベルを経験しとる子もおるのに、今先頭を走っとるのはローリングスタートで思いっきり出遅れた光介くんや。

 

「荷重移動を完璧に使いこなしとる。私があれを出来る様になったのは幾つの頃やったかなぁ?」

 

あれが出来る様になったから私は日本選手権を取れたんや。

 

上のレベルで戦うには必須の技術やけど、習得するのは難しい技術でもある。

 

「高橋くん、光介くんにあれを教えたんは高橋くんか?」

 

近くでビデオカメラを回してる高橋くんにそう問い掛ける。

 

…ええなぁ、あれ。

 

うちでも導入しよかぁ。

 

「源くん、私は何も教えてないよ。光介が自分で身に付けたのさ。カートに初めて乗ったその日にね。」

「…ほんまか?」

 

にこにこ笑っとる高橋くんを見ると嘘をついとる様には見えへん。

 

「…そうなると、光介くんはあの感覚と同じもんを持っとるのかもしれんなぁ。」

「監督、あの感覚とは?」

 

梶原くんの言葉に私は腕を組んでから答える。

 

「マシンと一体になる感覚って言えばええんかな?私もそんなに経験は多くないんやけど、現役の時はレース中にたまにマシンの状態が手に取る様にわかる時があったんよ。」

 

あの感覚の時は自分でも驚く様な走りが出来たもんや。

 

私はたまにしかあの感覚になれへんかったけど、常にあの感覚になれる人がいてもおかしくあらへん。

 

もしかしたら光介くんは常にあの感覚になれる子なのかもしれへんな。

 

「奈臣にとっていい経験になるやろうけど、それと同じぐらいきっつい経験にもなるやろな。」

 

トップを独走していた光介くんが、最後尾の周回遅れの子に追い付く。

 

大人気なくチームオーダーでブロックを指示しといたんやけど、コーナーでのスピードレンジが違い過ぎてあっさりと抜かれてもうたわ。

 

光介くんは更に前を走っている子を抜くと、抜きつ抜かれつのバトルを繰り広げている奈臣と啓介くんに迫っていった。

 

 

 

 

side:奈臣

 

 

「ほんましつこいで!」

 

啓介のやつが、よう飽きもせずに仕掛けてくる。

 

せやけどブレーキングは俺の得意分野や。

 

コースに慣れた今、もう並ばせへんで。

 

…?

 

なんや?

 

啓介のとは違う別のマシンのエンジン音が聞こえよる。

 

誰のや?

 

もう先輩の誰かが来たんか?

 

ちっ、啓介と争っとるうちにペースが落ちてたんか。

 

いつまでもこんなんやっとったらオカンに説教されてまう。

 

ペースを上げなあかんな。

 

コーナーを1つ抜けると、後ろでエンジン音が重なる。

 

どうやら啓介が並ばれたらしいな。

 

オートハウスの連中はオカンに鍛えられて、中には全国レベルを経験した猛者もおる。

 

啓介、レースに慣れてへんあんたにはきっつい相手や。

 

抜かれてもへこむんやないで。

 

後ろからエンジン音が迫ってくる。

 

コーナーを1つ抜けたところでケツに張り付かれた。

 

速い…誰や?

 

もう1つコーナーを抜けたところで横に並ばれた。

 

俺はチラリと横目で見る。

 

するとそこには…光介がおった。

 

「はぁ!?なんでお前がそこにおんねん!?」

 

まさか先輩達まで抜いてここまで来たんか?

 

ありえへん!

 

お前!俺と同い年やろ!?

 

コーナーが迫ってくるけど、光介は横に並んだままや。

 

インは俺が取っとる。

 

なら…!

 

「ブレーキングなら負けへんで!」

 

横から聞こえてたエンジン音が小さなった。

 

光介が退いたんや…勝った!

 

ギリギリまでコーナーに突っ込んでブレーキング。

 

インベタでラインを開けずに回る。

 

『キュッ!』

 

…?

 

なんや今の音?

 

マシンが向きを変えたところでアクセルを踏み込む。

 

タイヤが空回りせずにしっかり路面に食い付く。

 

よっしゃ!完璧なコーナーリングや!

 

せやのに…。

 

「なんでそこにおんねん!?」

 

光介に横に並ばれたと思ったら、そのままあっさりと抜かれてもうた。

 

なんでそんなに加速が速いんや!?

 

そう思っとる間に次のコーナーが近付いてくる。

 

前を走る光介は俺が想定したブレーキングポイントよりも前で減速した。

 

そして…。

 

『キュッ!』

 

またあの音が聞こえると光介のマシンは信じられへんぐらいスムーズに向きを変えて、加速しながらコーナーを抜けていった。

 

「なんや今の!?…あかん!やってもうた!」

 

光介のコーナリングに驚いた俺はブレーキングのタイミングが遅れて、オーバースピードでコーナーに突っ込む。

 

クラッシュはせんかったけど、スピンをしながら思いっきりコースアウトしてもうた。

 

その間に啓介に抜かれてまうし…散々やで。

 

「はぁ…オカンの説教確定やな。」

 

頭が冷えた俺はコースに復帰して、そのままレースを続けた。

 

せやけど頭の中には、いつまでも光介のコーナリングの事が残り続けとった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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