「うわぁ!?」
リボンが特徴的な少女…天海 春香が転ぶと、ダンスレッスンは一時休憩となる。
「春香は転び過ぎなの。」
休憩中に長い金髪が特徴的な少女…星井 美希がそう言葉を溢す。
「むぅ、美希だって転んだじゃない。」
「美希は1回だけなの。春香みたいに何回も転んでないの。」
2つ年下の美希にそう言われて春香は乾いた笑いと共に肩を落とす。
「あれ?そういえば茂波ちゃんって1回も転んでないよね?」
「はい、転んでないですよ。」
「も~、そんな丁寧に喋らなくてもいいって言ってるのに。同じ事務所の仲間じゃん。」
年下の2人と打ち解けようと春香は言葉遣いの訂正を促す。
「でも必要なことじゃないですか?」
「まぁそうなんだろうけど、身内だけの時はそんなに気にしなくてもいいよ。社長とか小鳥さんも同じこと言ってたし。」
「そうなの。茂波は固すぎなの。」
「逆に美希は軽すぎると思うけどなぁ…。」
茂波は小さくため息を吐くと顔を上げる。
「わかった。じゃあ遠慮は止めるね。」
「そうそう、その調子でいこう~。」
和気藹々とした雰囲気で少女達は会話を続けていく。
「茂波ちゃんって何か運動してたの?」
「特にはやってないかな。」
「それなのにあんなに動けて、しかもボーカルレッスンでもあんなに声が出るんだ…うぅ、これも才能の差なのかなぁ?」
数々の事務所のオーディションに落ち続けた春香は、自信の無さからそう言葉を溢してしまう。
「美希は何かやってた?」
「そんな暇があるならおにぎりを食べてお昼寝するの。」
美希の言葉に春香は苦笑いをする。
「それは健全な少女としてどうかなぁ?太るよ?」
「美希、食べても太らないから大丈夫なの。」
「今敵に回したよ!人類の半分を敵に回したよ!」
お菓子作りが趣味の春香は日々のカロリー摂取が多目だ。
故に涙ぐましい努力をしているのだが、それとは無縁という美希に羨望と嫉妬の心を抱いた。
ちなみに茂波も美希同様の体質なのだが、春香の様子から素知らぬ振りをしている。
「そういう春香は何かしてたの?」
「私?私はバスケ部に入ってたよ。といっても事務所のオーディションに合格しようと頑張ってたから、ほとんど幽霊部員みたいな感じかな。」
茂波と美希の脳裏に、ドリブルをしようとしてボールに蹴躓いて転ぶ春香の姿が過る。
「春香、大丈夫だったの?」
「大丈夫って何が?」
「美希の言うことはわかる気がする。だって春香、ボールに足を取られて転びそうな気がするもん。」
「なんでわかったの!?」
ワチャワチャと話が盛り上がっていたが、トレーナーが柏手を打って止める。
「さぁ、レッスンを再開するわよ。基礎が出来てないと、アイドルとしてデビューしてから苦労するからね。ビシビシいくわよ!」
「「は~い。」」
「美希は程々でいいと思うな。」
3人はそれぞれのペースでレッスンに励み、アイドルとしての実力を蓄えていくのだった。
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