本戦を前に光介は涼介との会話を思い出していた。
『光介、おそらく奈臣と藤原は中盤にスパートを掛けてお前の前に出ようとする筈だ。』
『なら、それに対応して俺もスパートを掛ければ…。』
『いや、対応せずに2人を前に出せ。』
『疑問に思うだろうが、これはプロを見据えて経験を積む為だ。』
『プロのレースでは燃料補給やタイヤ交換の為にピットに戻ることがあるが、そこでポジションが入れ替わることがよくある。これはレーサーの力量に関係なく、チームの連携や戦略の結果起こるものだ。』
『まぁ、今回の指示はそういった場合の対処の経験を積むため…と言ったところだな。』
『光介はレースで周回遅れの相手を抜いたことは何度もあるが、ポジションを上げる為のオーバーテイクの経験はあまり無いだろう?本来なら経験量は逆になるものなんだが幸か不幸か、お前の力は一つも二つも抜けていたからな。』
そこまで思い出して光介はため息を吐く。
「思い返してみれば涼兄ィの言う通りだなぁ。」
チームオーダーが無いレースではポールトゥウィンをしてきた光介は、その反面として実戦でのオーバーテイク経験が少ない。
周回遅れをパスするのを除けば、昨年のカペタにぶつけられたレースぐらいだろう。
ちなみにジュニアカデット時代にも一度あるのだが、あの時は体調不良により走った記憶がほとんど無いため、経験としては除外している。
「中盤でわざと前に出して終盤に逆転かぁ…難しそうだけど、面白そうだ。」
そう考えた光介のモチベーションが上がったところで、間もなくジュニアクラス全国大会の本戦が始まった。
序盤はどの選手も目立った動きはないが、タイヤを温存しつつ隙を伺っている。
そしてレースが進み中盤に入ると、2位と3位のポジションについていた奈臣と拓海が仕掛けた。
中盤からのロングスパートを仕掛けた奈臣と拓海が、光介を抜いて前に躍り出る。
すると観客は驚きの声を上げると共に沸き上がった。
絶対王者と認識されていた光介が抜かれる姿など、誰も想像していなかったのだ。
その想像していなかった出来事が目の前で起きたのだから、観客が沸き上がるのも無理はないだろう。
奈臣と拓海に続こうとしたのかカペタも直ぐに仕掛ける。
光介はそれもブロックせずにカペタを前に出した。
奈臣と拓海にやや遅れたカペタが必死に追いすがろうとするが、前に出た2人は更にペースを上げて後続を引き離していく。
トップを快走する奈臣の脳裏に涼介の姿が浮かぶ。
(あっさりと抜けたのは間違いなく涼介の指示やろうな。)
奈臣は拓海を抑えながらも可能な限りペースを上げていく。
(まぁ、ええわ。それなら戦略通りにいくだけや。)
そして奈臣が集中を高めると彼の視界から次第に色が消えていくのだった。
本日は3話投稿します。
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