ゾーンに入った奈臣は自身が確信する程にベストの走りが出来ていた。
しかしそんな奈臣の後ろを離れずに拓海とカペタが追走している。
(離せへんか…せやけど、仕掛けられるわけでもないから上出来やな。)
自分の走りに集中出来る状況に奈臣は内心で笑みを浮かべる。
(やっぱり、一番前を走るのは気分がええなぁ。まぁ、こんなことを考える余裕もあんま長くは続か…来よったわ。)
ブワッと沸き上がる悪寒に、奈臣は光介が動いたのを感じとる。
(正直、カペタは光介をブロックしきれへんやろ。一年前にぶつけたのをまだ気にしとるしな。…拓海はどうやろ?抑えられるか?どのぐらいで追いつかれる?)
展開を何度もシミュレーションするが、奈臣が勝ちきる展開がなかなか浮かび上がらない。
(…やっぱり真っ向勝負じゃアカンなぁ。腹を括らな。)
奈臣がそう考えている時、スパートを掛けた光介は後ろにカイと勇を引き連れて前の3人を猛追していた。
(残り2周ぐらいで追い付けるかな?)
そう考えた光介の脳裏に涼介との会話が思い浮かぶ。
『涼兄ィ、啓兄ィからサーキット最速理論が出来たって聞いたけど本当?』
『完成というわけじゃないが、一つの結論は出たな。』
『へ~、教えてよ。』
『俺が出したサーキット最速理論の結論…それはタイヤを使いきることだ。』
『言葉にしてみれば簡単なことだ。だが刻一刻と変化し続ける状況に対応し続けて、常に最善の走りをするのは至極難しい。』
『だからこそ戦略を練り、意図的に特定の状況を作り出すんだ。そうすることで最善の走りをしやすくなるからな。』
『とまぁ、俺のサーキット最速理論の現状の結論はこんな感じだ。だが完成じゃない。これから技術が進化してマシンが変化すれば変わることもあるだろう。もっともその頃には俺は医者になってるだろうから、あまりレースに関われないだろうがな。』
そこまで思い浮かべた光介は、自然とステアを握る手に力が入る。
(やってみるよ涼兄ィ。タイヤを使いきる走りを。)
光介のイメージに呼応して能力が走り方を教える。
その走り方でコーナーを抜ける度に後ろにいるカイと勇を引き離し、前を走る3人に追い付いていく。
そして残り3周弱といったところで、3位のカペタを射程圏に捉えた。
追い付かれたことに気付いたカペタはブロックしようとするが、その瞬間にぶつけたことがフラッシュバックしてしまい、ブロックが甘くなってしまう。
その隙を逃さずに光介はあっさりとオーバーテイクすると、続けて拓海に襲い掛かる。
拓海は素早く反応してブロックしてみせた。
だがブロックする為にラインを変えた影響で立ち上がりが遅れ、最終コーナー後のホームストレートで伸びが足りずに並ばれてしまう。
そして残り2周となったラップの第1コーナーで光介は拓海をオーバーテイクした。
(後は奈臣だけ!)
ぐんぐんと差を詰めて奈臣を射程圏に捉えると、光介は奈臣のブロックを避けてオーバーテイクを仕掛けて抜きさる。
そしてトップに躍り出てファイナルラップの第1コーナーに突入しようとすると…。
トンッ。
「っ!?」
何かが接触したことで光介のマシンはスピンをする程ではないが姿勢を崩してしまう。
するとその隙をついて奈臣が再びトップに躍り出た。
(…このやろっ!)
何をされたのか気付いた光介は内心で文句を言うが、ヘルメットの中の顔には笑顔が浮かんでいた。
掛け値なしの全力で勝ちに来ている奈臣の本気が嬉しいのだ。
一度開いた差を埋めるべく光介はアタックしていく。
だが追い付いた頃には残り僅か2コーナーだけとなっていた。
光介は仕掛けるが奈臣に冷静にブロックされてしまう。
これで残すは最終コーナーのみ。
ここを抑えきれば奈臣の勝ちだ。
だが最終コーナーで奈臣のマシンに不意にアンダーが発生してしまった。
中盤からのロングスパートでタイヤを酷使し続けた影響がここで出てしまったのだ。
光介はインに空いたスペースにマシンの鼻先を捩じ込む。
そしてマシンをスムーズに立ち上がらせて加速すると、もはや奈臣には光介に抗う術が残されていなかった。
それでも奈臣は懸命にアクセルを踏むが、横に並ぶ光介が徐々に前に出ていく。
そしてチェッカーフラッグを駆け抜けた時には完全に光介のマシンが前に出ていた。
こうして最後の最後で逆転してチェッカーフラッグを駆け抜けた光介は、両手を突き上げてガッツポーズをしたのだった。
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