転生先がファンタジーとは限らない!   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第56話『プロの卵』

「くっそー!」

 

表彰式が終わってミーティングが始まる前、奈臣は思いっきり叫んだ。

 

「…ふぅ、切り替え終わり!オカン、ミーティング始めようや。」

「そんじゃ勇からいこか。勇は中盤で動かへんかったけど…」

 

選手やスタッフ全員がそれぞれ意見を出し合って、お互いの成長の糧としていく。

 

「奈臣はええ仕掛けやったけど、最後の最後でやってもうたなぁ。なんでや?」

「…タイヤのグリップが残ってへんかってん。」

「タイヤマネジメントがまだまだ甘いっちゅうこっちゃな。どんな時でもフルブレーキング1回分は残しとかなアカンで。」

 

ブスッとむくれた奈臣が言葉を返す。

 

「わかっとるよ。せやけど光介相手に…って、これは言い訳やな。」

「せやな。言い訳すなとは言わんけど、負けた原因から目を逸らしたらアカンで。これは奈臣だけやない、皆もや。」

 

奈々子が皆を見回すと皆が頷く。

 

それを確認した奈々子は最後に光介に話を振る。

 

「中盤で対応せぇへんかったけど、あれはわざとか?」

「はい。」

「なんでや?」

「実戦でのオーバーテイク経験が少ないからです。実際にやってみるとかなり難しかったですね。正直に言って奈臣がミスをしなければ負けてました。」

 

光介がそう言うと奈々子は苦笑いをする。

 

「ミスと言うのは酷なぐらい小さなミスやったけどな。けど、それを逃さずにモノに出来たのは大したもんや。よくやったで。」

「はい!」

 

奈々子は柏手を一つ打って一度仕切り直す。

 

「さぁ、ミーティングはこれで終わりや!オフシーズンやからってだらけず、来シーズンに向けて励むんやで!」

 

 

 

 

カートの全国大会が終わった頃、今年17歳になった啓介はFSRSには行かず父親の伝手で企業の育成ドライバーとなっていた。

 

本来なら1年早く育成ドライバーになることも出来たのだが、涼介の大学受験と被るため啓介は遠慮したのだ。

 

「おっ?光介が勝ったか。」

 

休憩室でスポーツドリンクを飲みながらメールを確認していると、啓介の元にチームスタッフが訪れる。

 

「啓介、マシンのセッティングのことでちょっといいか?」

「あっ、はい!」

 

即座に携帯をしまって立ち上がった啓介の姿は、どこか初々しさがありながらもプロとして形になってきている。

 

(くそっ、毎日が楽しくて仕方ないぜ。)

 

現在の啓介はまだレースだけで食っていける程に稼げる立場じゃない。

 

どんな世界でもプロとして食っていけるのはほんの一握りなのだ。

 

だがこの道が世界の舞台に繋がっていると考えると、啓介はどうしてもワクワクしてしまう。

 

「次のレースのセッティングだが、エンジンの状態を考えると…。」

「それもいいっすけど、あのコースだと…。」

 

話し合いが終わり実際にセッティングしたマシンに乗り込むと、啓介はコースに出て走り出す。

 

(兄貴、見ててくれよ。兄貴の分までプロの世界で暴れてやるからな。)

 

気合いを入れて走り出した啓介のマシンは、新人プロとは思えない程に好タイムを叩き出すのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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