レースが終わると菜々子さんは皆を集めてミーティングを始めた。
「みんなお疲れさん。それじゃミーティングを始めるで。」
ミーティングは先ず菜々子さんが誰かを指名して、その人自身から今回の自分の走りについて話させる。
上手く出来たところ、そして改善点などを淀みなく話すその姿は、オートハウスのメンバーの意識の高さがよくわかる。
それに対して菜々子さんがここがよかった。ここはどう改善するべきかと、かなり具体的なアドバイスをしていっている。
流石はカートの日本選手権を制覇した人だ。
「次は奈臣や。」
「スピンするまでは俺なりに、ちゃんと走れてたと思うわ。」
「そうやな。で、なんでスピンしたんや?」
「…光介のコーナリングに驚いてもうたんや。それでブレーキングのタイミングを間違えてしまってん。なぁ、オカ…監督、何なんやあれ?」
奈臣の質問で皆の注目が菜々子さんに集まる。
「あれは光介くんが『荷重移動』を使いこなしとるからこそ出来るコーナリングやな。」
「荷重移動?」
「そうや。まぁ、詳しくは後で説明したるから、今は大人しく話を聞いとき。」
「…わかったわ。」
オートハウスのメンバー達とのミーティングが終わると、今度は俺達とのミーティングが始まった。
菜々子さんは先ず涼兄ィに話を振った。
涼兄ィは自分の走りをよく言えば無難、悪く言えば消極的だと評した。
それを菜々子さんは否定した。
「相手のミスを待ったり誘ったりするのは当たり前の事や。そういう視点で見れば、今日一番上手く走れてたのは涼介くんやね。」
そう言って微笑む菜々子さんに話を振られたのは啓兄ィだ。
啓兄ィは奈臣を何度も抜いたのはよかったけど、逆に何度も抜きかえされたのはよくなかったって話している。
そんな啓兄ィに菜々子さんは…。
「アグレッシブでいい走りやったで。覚える事はまだぎょうさんあるけど、本気でやる気があればまだまだ速くなれるわ。」
と話した。
そこで話は終わり、菜々子さんは俺に目を向けてくる。
「最後は光介くんやな。光介くん、自分の走りを振り返ってみてどう思う?」
「スタートでめっちゃ出遅れました!」
「そうやね。後は?」
「後は…わかりません!」
そう言うと菜々子さんは苦笑いをした。
しゃあないやん。
レース形式は初めてなんやもん。
「なぁ、光介くん。光介くんはプロのレーサーになる気はあるんか?」
「はい!俺はプロのレーサーになります!」
そう答えると菜々子さんは一瞬驚いた顔をするけど、直ぐに笑顔になった。
「そうなんやね。なら、うちのチームに来ぉへんか?」
いきなりに勧誘に驚く。
「光介くんだけやないで。涼介くんと啓介くんもどうや?」
そんな菜々子さんの勧誘に涼兄ィが問い掛ける。
「なぜチームに誘っていただけたのですか?」
「理由は2つやな。涼介くん達の走りを見て育ててみたいと思ったんが1つ。そしてもう1つがもったいないって思ったんや。」
「もったいない?」
涼兄ィの疑問に菜々子さんは頷きながら話す。
「そうや。涼介くん達のお父さんから聞いたんやけど、ちゃんとした走りの指導者がおらへんのやろ?」
俺達はその言葉に頷く。
「カートに限った事やないけど基礎は凄く大事なもんや。楽しくやるだけならなんとなくでもいいやろ。でもプロになるつもりなら、今のうちから技術や知識なんかをしっかり学んでいった方がええ。」
「オートハウスに入ればそれが出来ると?」
涼兄ィの言葉に菜々子さんはニッコリと微笑む。
「うちはスポンサーもついとる本格的なカートチームやからな。レーサーに必要なもんを学べる環境は、一通り揃っとるよ。」
涼兄ィは顎に手を当てて考えている。
「…少し家族と話し合いたいので、返事は後日でいいですか?」
「急がんでええよ。ゆっくり話し合ってから決めてや。さぁ、最後に話を逸らしてもうたけど、これでミーティングは終いや!時間はまだ残っとるから、フリー走行をするならしっかり課題を持って走るんやで!」
この後、走行会が終わって家に帰った俺達は家族会議を開く。
ああだこうだと話し合って出た結論は、兄弟揃ってオートハウスに入るというものだった。
その際に啓兄ィがミニバイクをやめてカート1本で行くと言った。
理由を聞くと奈臣とのバトルで熱くなったからだそうだ。
ちなみに涼兄ィはマネージャーとしてオートハウスに入るつもりみたい。
そして後日、父さんが菜々子さんに連絡を取ると二つ返事で了承をもらえたそうだ。
こうして俺達兄弟はオートハウスに所属する事になった。
それにしても、走行会での走りは楽しかったなぁ。
早く俺もレースに出たい。
でも出れるのは9歳から…後3年は長いなぁ…。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。