雨が降りしきる中、ジュニアクラスの全国大会本戦が始まった。
水飛沫を飛ばしながら各マシンが第1コーナーに雪崩れ込む。
後方で1台スピンしたが、それ以外のマシンはスムーズに第1コーナーを抜けていく。
しかし雨のせいなのか後方集団のペースが上がらない。
そんな中で光介に続く先頭集団がそこかしこでバトルを始めた。
カイが奈臣に、拓海がカペタに仕掛けたりと、序盤から激しく争う。
そうして争う後方を尻目に光介はジワジワと差を広げていく。
完全にウェットな路面状況でもマシンを正確にコントロールし、まるで晴れの日のものかと錯覚させる様なラップタイムを叩き出す。
それに気づいたカペタはペースを上げるが…。
(…追い付けない!?)
ペースを上げてもジリジリと離される現状にカペタに焦りが生まれる。
なんとか差を詰めようとカペタも奮闘するが、安全の為にある程度マージンを確保している今の走りでは光介との差は広がる一方だった。
そして中盤に差し掛かった頃には光介は周回遅れに追い付くだけでなく、2位のカペタと4秒近い差を広げていた。
(このままじゃダメだ…。)
今の走りでは決して追い付けない事を確信したカペタは覚悟を…いや、キレた。
(もう、どうにでもなれ!)
スピン上等と言わんばかりにカペタはハイスピードでコーナーに進入する。
安全マージンをかなぐり捨てたその走りは荒々しくも、後ろにいた拓海や奈臣を少しずつ引き離すハイペースを実現した。
掲示板に表示されたカペタのラップタイムは光介のタイムにコンマ1秒にまで迫るタイムを叩き出していた。
1台、また1台とカペタも周回遅れをパスするが、それでもカペタと光介の差は詰まることなく…逆にジワジワと差が広がりつつレースは進んでいく。
そしてレースが終わると、カペタの中で何かが音を立てて崩れ落ちたのだった。
◆
最後のカートレースを優勝で締めくくることが出来た。
その満足感に浸っていると、まだ雨が降っているのにスポンサーの高木さんと黒井さんがアイドル達を伴って俺の所にやって来た。
「やぁ、光介くん。優勝おめでとう。」
「ありがとうございます。」
高木さんの祝福の言葉に頭を下げる。
「私からも祝福の言葉を贈らせて貰おう。光介くん、優勝おめでとう。」
「黒井さん、ありがとうございます。」
再び頭を下げると高木さんが話題を切り出してくる。
「光介くん、オフシーズンなのだが、少し時間を貰っていいかね?」
「構いませんが、何でしょうか?」
「うむ、実は君にうちのアイドル達とカートでレースをして欲しくてね。」
アイドル達とレース?
首を傾げていると黒井さんが話し出す。
「日程やレギュレーションはまだ決めていないが、君にはハンディキャップを背負って走ってもらう事になるだろう。」
「それは構いませんが、普通に走っていいんですか?」
「あぁ、君は勝つ為に全力で走ってくれて構わない。もちろんアイドル達にも君に勝つ為に全力で走ってもらうよ。」
う~ん…それでイベントは盛り上がるのだろうか?
疑問を持ったけど、2人がいいよ言うならいいんだろう。
そう思っているとボーイッシュな女の子に話し掛けられた。
「えっと、ちょっといいかな?」
「はい?」
あれ?どっかで見たことあるような?
「僕、菊池 真。765プロに所属するアイドルだよ。」
「菊池?…あっ、もしかして何回か一緒に走ったことある?」
「わぁ、嬉しいな!覚えててくれたんだ!」
ピョンピョン跳ねると合羽のフード部分がずり落ちそうになる。
濡れちゃうよ?
「ほら茂波!光介くんは僕のこと覚えててくれたよ!」
「…そうね。」
あるぇ?
なんか茂波ちゃん、機嫌悪い?
「コホン…光介くん、詳細は後で連絡するよ。」
「あっ、はい、わかりました。」
その後、菊池 真ちゃんにサインをねだられると、双子の女の子達にも同じ様にサインをねだられた。
そんな俺の様子を見ていた茂波ちゃんの機嫌は、終始悪いまま続いたのだった。
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