最後のカート全国大会が終わってから半月程が経過した頃、俺はオートハウスの皆と一緒に765プロと961プロのアイドル達にカートの乗り方を教えていた。
「あっ、光介くん、あのコーナーの攻め方なんだけどさ。」
教えているアイドルの中でもボーイッシュな女の子…菊池 真ちゃんは、俺に積極的にアドバイスを求めてくる。
彼女はカート経験者だから他のアイドル達みたいにあまり苦戦はしていない。
流石に全国経験者だ。
「俺の場合は…。」
真ちゃんにあのコーナーでの俺の攻め方を教える。
可能な限り丁寧に教えるけど、どうしても感覚的な表現になってしまう部分がある。
それでも真ちゃんは嬉しそうに聞いていた。
そんな時にふと視線を感じて振り向くと、茂波ちゃんがこっちを見ていた。
茂波ちゃんはずっとカートを見続けてきたからそれなりに知識はあるけど、レースに出場した事はない。
それでも初心者の娘達に比べれば乗れているから、ノブと同じく基本的なレクチャーは受けていたんだろう。
ふと走っているマシンを見るとかなり乗れている娘がいる。
レーシングスーツの色から察するに星井 美希ちゃんかな?
茂波ちゃん情報では美希ちゃんは完全な感覚派の娘で、レッスンやオーディションでも結果にムラがあるらしい。
最近は安定してきたらしいけどね。
ただその安定した理由というのが、美希ちゃんがプロデューサーの事を好きになったかららしい。
誰憚らずにプロデューサーの事を『ハニー』と呼ぶものだから、彼女と同様にプロデューサーの事が好きなアイドルと修羅場になることが少なくないそうだ。
あっ、ピットに戻ってきた美希ちゃんが765プロのプロデューサーと腕を組んだ。
それに負けじと春香ちゃんと小鳥さんもプロデューサーに絡んでいってる。
プロデューサーはあの3人と結婚するのかな?
実は今の国会では重婚について真剣に議論されているんだよね。
事の発端は年始の政治討論番組だ。
その番組では少子化問題が討論されていたんだけど、番組に出演していた伝説のアイドルと呼ばれる程に有名な元アイドルの女性が…。
『そんなに少子化が問題なら重婚を認めればいいじゃない。まぁ、私は1人で旦那を満足させるけどね。』
と言ったのだ。
その発言で番組は紛糾。
有識者から心無い罵詈雑言が元アイドルに投げられたものの、とあるネット掲示板を中心に元アイドルの発言は多くの男に受け入れられたそうだ。
それからはあれよあれよという間に、重婚について国会で真剣に議論される程に話題が発展したというわけだ。
政治家の先生にも伝手がある父さんが言うには、既に重婚の合法化は既定路線のようだ。
ただ、審議での投票の調整で時間が掛かっているらしい。
国際的な体面を考えて大差で合法化は不味い…という訳で、投票の割合や誰がどちらに投票するかの調整が日々行われているとのこと。
まぁ…大人の事情ってやつだね。
父さんが言うには近年でここまでの話し合いが行われるのは珍しいそうだ。
長年の派閥争いやスポンサーの意向から何かと対立する事が多い与野党だったんだけど、今回の重婚問題でそれらの対立が解消されて裏では結託するようになったらしい。
率直に言うならいい大人達がエロで友情を深めたわけだ。
大丈夫か、日本?
重婚ねぇ…。
合法化したとしても、そう簡単に今までの常識は変えられないよなぁ。
スパッと切り替えられる人は本当に凄いと思うよ。
「ねぇねぇピカリン、まこちんばかりずるいよぉ。亜美にも教えて。」
そんな事を考えていると、俺のことをピカリンと言いながら双海 亜美(ふたみ あみ)ちゃんが、袖をクイクイと引っ張ってきた。
亜美ちゃんは双子の妹で姉の真美(まみ)ちゃんと同じく765プロに入ってアイドルをしているんだけど、この2人は双海総合病院の院長の娘さんだ。
そこから父さんとの繋がりがあって、俺と亜美ちゃん達は昔からの知り合いでもある。
あっ、真美ちゃんも来た。
美少女達に囲まれて話していると、なんか不機嫌そうな顔をしながら茂波ちゃんもやって来る。
最近の茂波ちゃんは俺が誰かと話していると、こういう顔をする事が多いなぁ。
そう思ったものの俺と話し始めると彼女は直ぐに笑顔になる。
逆に真ちゃんや双海姉妹の雰囲気がよろしくないものになったけどね。
なんだこれ?どうすればいいの?
困惑しながらもカートについて教えていくと、今日という日はあっという間に過ぎていったのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。