「よぉ、光介。漸くこっちに来たな。」
アメリカにやって来た俺を出迎えたのは啓兄ィだった。
「ちょこちょこ電話はしてたけど、こうして会うのは久し振りだね啓兄ィ。」
「そうだな。うし、そんじゃ早速行くか。」
FDの助手席に乗ると、啓兄ィは機嫌良く発車する。
「レース用のマシンはどんな具合?」
「かなり仕上がったぜ。シーズン初戦から表彰台どころか優勝も狙っていける程にな。」
声には自信が満ちている様に感じる。
まぁ、今年はオフにも帰ってこないで調整に勤しんでいたからなぁ。
「そういや兄貴から聞いたぜ?4人と付き合い始めたってな。」
ニヤニヤとした啓兄ィの横顔を目にすると、なんとも言えない気分になる。
「4人共気心が知れてるし、なによりいい娘達だから。ところで啓兄ィの方はどうなのさ?」
「俺は恭子がいればいい。」
反撃とばかりに聞き返してみたらあっさりと、それでいて男らしくハッキリと言い切られた。
「俺は不器用だ。1つの事に集中しちまうと周りが見えなくなっちまう。そんな俺が何人も同時に愛せるわけねぇよ。」
「…そっかぁ。」
納得してると啓兄ィはがはにかんだ様に苦笑いをする。
「なんて兄貴みたいに言い回してみたが、本当のところは恭子以外の女に興味が持てねぇだけさ。なんつうか、他人だと無意識に気を使うだろ?だけどあいつにはそれがねぇんだ。自然体でいられる。そんな女はあいつだけだ。だから俺は、あいつがいてくれればそれでいい。」
…こういうとこが男女問わずに人気がある理由なんだろうなぁ。
「おっ?見えてきたぜ。」
啓兄ィと話しているとあっという間に時が経ち、これから俺の職場となる場所に着いたのだった。
◆
チームスタッフとの挨拶もそこそこに光介は早速とばかりにマシンに乗せられる。
シーズン開幕までの時間が少ない為、早く光介用にマシンのセッティングを出さなければいけないからだ。
だが驚異的な早さでマシンに馴染んでいく光介の走りに、チームの監督は思わず呼び戻すのを忘れる程に見惚れてしまった。
「タイムは?」
「ラップ毎に上がっていっています。」
誤魔化す様に咳払いをしてから問い掛けたチームの監督が唸り声を上げる。
天才と称されてきた者達が集い鎬を削りあうのがプロの世界だ。
故に並みの天才は天才ではなくなる。
しかし光介の走りを目にした監督は、光介を評する言葉が『天才』しか思い浮かばなかった。
「啓介は『弟は天才だ。』と言っていたが…正にその通りだな。」
まだしっかりとセッティングを出していないマシンで、光介は啓介のベストタイムに迫る走りを見せる。
そんな光介の走りにある種の予感を感じたチームスタッフ達には鳥肌が立つ。
そして光介に負けじと啓介がベストタイムを更新すれば、興奮を帯びたざわめきが広がる。
「おい…これはもしかしてもしかするんじゃないか?」
そんな中でスタッフの1人がポツリと言葉を溢すと、チームの全員の脳裏にある言葉が思い浮かぶ。
シーズン総合優勝。
それが夢ではなく手が届く目標なのだと認識すると、誰ともなく歓声が上がり始めたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。