今日はオートハウスに入って初めての練習日だ。
先ずは俺達兄弟が皆に挨拶をしてから動き出す。
マシンを乗り手自身が点検したりしていくと、何か本格的なカートチームって感じがする。
まぁ、乗り手はまだ子供だから大人も点検する二重チェックなんだけどね。
そういった事を色々こなすと、いよいよサーキットを走る時がきた。
でも全員で走るわけじゃない。
基本的に3~4人でチームを組んで走る事になる。
サーキットを走る人、タイムを計る人、タイムを走る人に報せる人…といった具合にチームで役割を決め、最後に皆で走りについて話し合って切磋琢磨していく形式だ。
俺は今日は啓兄ィ、涼兄ィ、奈臣と組む事になった。
チームリーダーは涼兄ィ。
多数決という名の数の暴力で押し付けた。
「先ず走るのは啓介からだ。課題としてブレーキングを止めるポイントを意識して走れ。」
「ブレーキングを止めるポイント?兄貴、どういう事だ?」
「お前はブレーキングを始めるポイントについてはよく出来てる。だが止めるポイントは曖昧で減速し過ぎてしまう時があるんだ。」
そんな会話をしてから啓兄ィは走り出した。
最初はぎこちなかったけど、3周目の最終コーナーは凄くいい感じに抜けてきた。
「兄貴、なんとなくコツは掴んだぜ。もう1周行ってきていいか?」
「ダメだ。決められたラップ数で力を出しきるのも、本番を見据えた練習なんだからな。」
「ちぇっ。」
俺と奈臣が啓兄ィの走りについて一言言うと、次は奈臣が走る番になった。
「奈臣は色んなラインを試して走ってみろ。」
「どういった意図があるんや?」
「レースでは常にベストラインを走れるわけじゃないからな。それを想定した練習だ。それにベストラインじゃなくてもタイムをほとんど落とさずに走れる様になったら、色々と面白くなると思わないか?」
一瞬驚いた顔をした奈臣だけど、その後は意気揚々と走り出した。
3周を終えて戻ってきた奈臣は、納得いかない様な表情をしていた。
「あかん、難しいわぁ。なんかコツはないんか?」
「流石に一朝一夕では無理だろう。走り込んで身体で覚えるしかないな。」
啓兄ィと俺が奈臣の走りについて一言言う。
そして俺の番がやってきた。
「光介は指示したタイム通りに走ってくれ。」
「え?それだけでいいの?」
そう言うと涼介はクスッと笑う。
「思ってる程は簡単じゃないぞ。速すぎても遅すぎてもダメだ。これは前が詰まったりしても変わらない。」
そう言われるとなんか難しそうな気がしてきた。
でも…。
「面白そう!」
「そうか。じゃあ、行ってこい。」
◆
光介が走り始めると啓介が涼介に話し掛ける。
「兄貴、光介への指示はどんな意味があるんだ?」
「目的は2つある。1つは体内時計を作るため。そしてもう1つがここぞでの瞬発力を身に付けるためだ。」
啓介と奈臣は同時に首を傾げる。
「指定したタイム通りに走っとれば、体内時計が出来るていうのはなんとなくわかるんやけど、それが速くなるのとどう関わってくるんや?」
「例えばあるコーナーで前が詰まって1秒ロスしたとする。そうなると指定タイムに合わせる為に1秒稼がなければいけないだろ?それを繰り返していったら、自然と速さが身に付くんじゃないかと考えたんだ。このタイム指定は監督がオートハウスの練習に取り入れるって言っていたから、的外れな考えじゃないだろう。」
感心の声を上げる啓介を横目に奈臣は涼介に問い掛ける。
「面白そうやな。俺もやってみてええか?」
「あれこれと手を出して大丈夫か?どれも中途半端にしか身に付かないかもしれないぞ?」
「その時はその時や。そのくらいせな、光介には勝たれへんからな。」
奈臣の言葉に一瞬驚く涼介だが、すぐに微笑んだ。
「一言言わせてもらうが、光介は速いぞ?」
「わかっとる。だから挑み甲斐があるんやないか。」
「その通りだぜ、兄貴。奈臣、光介に最初に勝つのは俺だ。これだけはあいつの兄貴として譲れねぇぜ。」
自分を親指で指し示す啓介に、奈臣は不敵な笑みを浮かべる。
「そんなもん早い者勝ちやろ。」
「上等だ。負けねぇからな。」
睨み合う2人に苦笑いをして、涼介はストップウォッチに目を向ける。
「光介にも出来ないことがあるか…光介には悪いが、安心したな。」
涼介の言葉通りに、光介は指定タイムより10秒以上早く周回してしまう。
戻ってきた光介は速すぎるタイムを知るとオーバーアクションで頭を抱え、そんな光介を見た3人は笑い声を上げたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
それと早いですが今年の投稿を終わります。
また来年お会いしましょう。