日本に帰国してから3日はゆっくり出来たけど、そこからは来シーズンに向けてマシンの調整や茂波ちゃん達とのデートで忙しかった。
まぁ、嬉しい忙しさだけどね。
他にも安達さんから取材を受けたりしていると、オフシーズンはあっという間に過ぎていく。
そして今日はシーズン開幕前の最終調整としてサーキットに来ている。
すると、今シーズン一緒に戦っていく相棒の勇が声をかけてきた。
「光介さん、マシンの調子はどうですか?」
FSRSに通っていた勇をスカウトしたのは、啓兄ィの推薦があったからだそうだ。
「ストレートで置いていかれることはなくなったから、去年よりは楽に戦えるんじゃないかな。」
「むしろストレートじゃ勝負にならない状態で戦えていたのがおかしいんですって。」
むっ?勇も言う様になったな。
「ところで勇の方はどうなんだ?」
「いい感じですね。セッティングはほとんど出せているんで、後はコースに合わせて微調整するだけです。」
頼もしくなったなぁ、勇も。
2年前にカペタくんとカートの全国大会で鎬を削り合って一皮剥けた…というのが奈々子さんの評価だ。
FSRSでもカペタくんと志波 リョウっていう子とトップを争っていたって聞いている。
もっとも、カペタくんはFSRSに入って早々にマシンをクラッシュさせたから、最終的な評価点に大きなマイナスを受けたらしいけどね。
その事で奈臣からカペタくんを殴りたいってメールが来たよ。
「勇、そう言えばカペタくんはどこの所属になったか知ってる?」
「たしか無名の中小企業ですね。クラッシュさえしてなかったら、志波じゃなくてカペタくんがFSRSから推薦を受けられたんですけど…。」
志波は奈臣と同じチームに行ったそうだ。
奈臣からのメールには『会って早々にライバル宣言されたわ。』って書いてあった。
そういえばカイは拓海と同じチームらしい。
あの2人とやりあって去年のF3日本シリーズを総合優勝したんだから、やっぱり奈臣は凄いな。
「お~い光介!ちょっと来てくれ!」
おっと、チーフメカニックに呼ばれたから行かないと。
◆
光介が去ると勇はため息を吐く。
するとチームの監督が声を掛ける。
「どうした、勇?ため息なんか吐いて。」
「あっ、監督。いえ、俺なんかに啓介さんの代わりが出来るのかって思いまして。」
勇のそんな言葉を聞いた監督は呆れた様に息を吐く。
「なんだ、そんなことで悩んでいたのか。」
「そんなことって…俺にとっては重要なことですよ。」
「誰もお前に啓介の代わりなんて求めてないさ。チームがお前に求めているのは…最高のセカンドドライバーたることだ。」
「最高のセカンドドライバー…。」
呟く様に言葉を発した勇に向けて監督は言葉を続ける。
「お前もレーサーである以上はエースになりたい気持ちはあるだろう。けどな、まだひよっこのお前が啓介の様になるのは無理だ。あいつだって、初シーズンは完走するので一杯一杯だったんだからな。」
プロレーサー初シーズンから優勝争いに絡んでいた啓介だが、その内実は他のレーサーと競うよりも己のマシンと戦うので精一杯だった。
そんな事とは知らなかった勇は驚いて目を見開く。
「知らなかったです。」
「そりゃそうだろ。あいつは兄弟にだって教えなかったからな。知っているのはチームにいた極一部だけだ。」
勇の肩に手を置いた監督は言葉を続ける。
「まぁ、だから焦るな。ゆっくり成長していけばいい。幸いにも、日本でモータースポーツの人気が高まってきたおかげで時間はあるからな。」
「…はい!」
悩みが解消したのか勇は笑顔を浮かべた。
「ところで監督、光介さんはどうだったんですか?」
「…あいつは別格だ。いや、種類が違うって言う方が正解か?まぁ、あいつに憧れて参考にするのはいいが…ほどほどにしとけよ?じゃないと潰れるからな。あいつと同期だった育成ドライバーみたいに…。」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。