日本でのF3シリーズ開幕戦の日がやって来た。
予選が始まると各マシンがそれぞれアタックを開始する。
パッと見た感じだけど、マシンを含めたチームの完成度が一番高いのは奈臣のところかな。
ワークスチームとして長いこと戦って来ているから、色々と熟成されている感じがする。
次が拓海達のところ。
あそこも一時期は低迷していたんだけど、近年の日本でのプチモータースポーツブームに乗っかるべく、企業が膨大な資金力を注ぎ込んでワークスチームを再建したんだよね。
そのおかげなのか、拓海とカイのマシンの完成度は奈臣のマシンと遜色ないぐらい仕上がっている。
対してうちはと言うと…1枚どころか2枚は落ちるかなぁ。
啓兄ィが入った頃にはもうワークスチームが解散寸前だったんだ。
資金が乏しく、企業からのエンジン提供も無い。
もう解散まで秒読み…という状況を立て直したのが啓兄ィだ。
父さんの伝手でスポンサーを集めて資金をやりくりし、なんとかチームとしての形を整えて結果を出す。
弱小チームで快進撃を起こすという、まるで漫画みたいな展開を成し遂げた啓兄ィは、マ◯ダのモータースポーツ関係者やファンにとってはヒーローだ。
それこそ啓兄ィの為に企業側が動いて、解散していたスーパーGTのワークスチームを新たに作るぐらいには。
まぁ、新チームだからこそ苦労している面もあるみたいだけどね。
それでも自分が歩きたいと思う道を切り拓いていく啓兄ィは本当に尊敬するよ。
俺はそんな啓兄ィが切り拓いた道を後から歩いているだけだ。
そこに思うところが無いわけじゃないけど、今はこのチームでシーズンの総合優勝を目指す事に集中しよう。
◆
何度かアタックを終えてピットに戻って来た奈臣は、タオルを首に掛けると飲み物を片手にモニターに目を向ける。
(拓海のところは間違いなく去年よりもマシンの性能が良くなっとるな。まだ仕上がってへんようやけど、今シーズンは要警戒や。)
奈臣は飲み物を一口飲みながら別のモニターに目を移す。
(光介は…ストレートで勝負すれば問題あらへんな。そこさえ間違えへんかったら勝ちが見えるぐらいに、俺のマシンは仕上がっとる。
タオルで汗を拭きながらも奈臣はモニターから目を離さない。
「あいつやったら他から声が掛かっとったやろうに…態々そこと続けて契約せんでもよかったやろ。まぁ、最近では啓介さんのおかげで盛り返してきてるみたいやけど、正直に言って勝てるチームやあらへん。去年勝てたんは啓介さんが何年も掛けて積み上げてたからこそや。いくら光介でも無理なもんは無理やで。」
奈臣にとってマ◯ダは契約の選択肢に無いところだ。
何故なら奈臣はエンジンの提供すら危ういチームと契約するのは、リスクが高いと考えているからだ。
確かにそういうチームで勝てれば上のカテゴリーからのオファーも期待出来るだろう。
だが負けてしまったらどうなる?
エンジンが等の言い訳など通じるわけもなくシートを失う。
プロの世界とはそういう厳しいところなのだと奈臣は考え、今のチームと契約することを選んでいる。
海外のワークスチームからオファーを狙うなら勝てるチームとの契約がベスト。
そう考えながら別のモニターに目を移すと、奈臣は頭をガシガシと掻きながらため息を吐く。
「まぁ、光介の事はもうええわ。あいつやったら勝手に上に上がってくるやろ。問題はあのアホ(カペタ)や。…なにやっとんねんあいつ!?なんで無名の中小企業と契約しとんのや!」
奈臣は相談を受けてもいいように色々と資料を用意していたのだが、その努力が完全に無駄になった形である。
「FSRSに入って早々にクラッシュしたと思っとったら今度はこれや…どんだけオカンとオトン(養父)に心配かけるつもりやねん!お前の辞書には反省の二文字は無いんか!?」
頭を抱えて荒れている奈臣を見た志波が首を傾げている。
「あのアホ(カペタ)にだけは死んでも負けられへん!義兄として世の中の厳しさを教えたるわ!」
カペタへの怒りを力に変えた奈臣は見事に予選をトップで終える。
それで少しは溜飲を下げたのか、プロとして初めての光介とのレースを控えた奈臣は逸る心を落ち着けるのだった。
本日は3話投稿します。
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