人を呪わば恋せよ少女   作:緑髪のエレア

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2021 2/17 0:06 削除したつもりの文章が入っていたので非公開にした後修正しました。何もかもをぶっ壊す一言だったので「終わったな…………青い春が…………」と遠い目をしていましたがこっそり直せばばれないよねと再公開しました。反省してます。


挑戦者が現れました

 鈍痛が頭に纏わりついている。脳の奥底から地鳴りのように響く痛みは頭の働きを鈍らせ、論理的な思考を奪う。散発的に産まれた想念は個々の繋がりを得られずに消えゆき、後には虚無感だけが残る。そうしたことを何度も繰り返す。苦しみに身を置いているのに、一向に悟りは得られそうになかった。

 

 自室。暗い部屋。俺は地べたに座り、壁ともその手前の空間ともつかない場所を見つめている。全室に設置された換気設備の機械的な音以外に、聞こえる音はない。完全に近い静寂の中、俺は緩慢な動きでポケットからスマホを取り出した。

 

 暗い部屋の中、スマホの光がぱっと俺の顔を照らす。数時間ぶりの光に目を細めながら、メールを作成していく。数分してできたそれを、推敲もせずに送信する。正常に送信されたことを確認すると、俺はスマホを放った。背後で硬いものを床に落とした時の音が鳴る。ふと、送ったメールの返信を確認する必要があることに気が付き、暗闇の中、手探りでスマホを探す。けれどもどこかに転がっていってしまったのか、手に触れる範囲にはスマホはなかった。

 

 探すことを諦め、俺はフローリングに寝転がる。冷たく硬い床に頭と体を預けながら、ぼんやりと天井を見つめた。当たり前のことだが、壁にもその手前の空間にも、そしてこの天井にも、俺が望む答えはどこにも書かれていなかった。

 暗い自室で、硬いフローリングの床に身を投げ出して、そうして、俺は考える。答えがどこにも示されていないのならば、俺自身の頭で答えを見つける必要があるから。

 だから、俺は考える。欲しい答えを見つけるために。採るべき選択肢を見つけるために。

 

 

 部屋が明るくなってきた。夜が明けたらしい。俺は床に寝そべったまま身じろぎをした。ぱきりとどこかの骨が鳴った。

 しばらくしてかちゃりとドアの開く音がした。次いでぱたぱたと軽い足音が続く。音の主は洗面所に向かったようだった。末那が起きて支度を済ませに行ったのだろう。彼女の気配を感じていると胸の奥が締め付けられたから、寝返りを打って耳を塞いだ。彼女の気配を感じないように。彼女の生を意識しないように。

 

 そのまま俺は眠ってしまったらしい。目を覚ますと窓から差し込む陽光はオレンジ色に変わっていた。住宅街に点々と設置された防災無線から夕焼け小焼けが流れている。懐かしいメロディを聞いているとなんだか寂しくなってきて、少し泣いた。泣いたら疲れたのでまた眠った。次に起きると夜だった。床から身を起こすと、体のあちこちがぱきぱき鳴った。頭の鈍痛は大分消えていた。そうして床とも壁ともつかない場所を眺めていると、無性に末那の顔が見たくなったので一階に降りたが、彼女はそこにいなかった。誰もいないリビングは酷く静かで、俺は孤独を感じた。

 

 固定電話に留守電が入っていたので再生すると、病院からだった。祖母ちゃんの主治医の声を初めて聞いた。入院が伸びるらしい。受話器を取って病院にかける。了承したとだけ伝えた。

 一日何も食べていなかったが、不思議と空腹は感じなかった。喉の渇きだけ癒そうと思い、キッチンに向かった。暗い中感覚だけを頼りに照明のスイッチを探り、板のようなそれを押し込む。強烈な光が暗闇に慣れた目を焼いた。

 

 光に照らされて、キッチンの様子が見えた。シンクには洗い終えたコップが一つだけ置いてあった。末那が使ったのだろう。暗闇の中、光に照らされた彼女の痕跡を見ていると、また熱いものがこみ上げてきたので、俺は唇を噛んでその衝動を抑えた。シンクから視線を切り、食器棚から別のコップを取り出した。

 蛇口を捻り、出てきた水をコップで受ける。水がコップから溢れたところでもう一度蛇口を捻り水を止める。ぽたぽたとシンクに水滴が当たる音が静かなキッチンに響いた。

 コップを傾ける。一息で飲み干し、空になったそれをシンクに置いた。

 メールのことを思い出した。返信は来ただろうかとスマホを見る。着信が一件。伊地知さんに送ったはずだが、どういうわけか五条さんから返信が来ていた。タップし、開く。

 メールに本文はなかった。代わりにpdfファイルが添付されていた。4MBを超えるそれをダウンロードし、閲覧用のアプリで開く。何かのリストだった。

 

「…………っは」

 

 呼気とも声ともつかない音が喉の奥から漏れた。

 表形式の文書をスクロールする。五条さんから送られてきたそれ。それは死者のリストだった。

 リストの中には何人か見たことのある顔がいた。俺が術式で見つけた者のうち、直接顔を見た者たちだ。けれども俺が顔を覚えていなくても、【協力者により発見】と書かれてあれば、それが俺が彼を見つけたことの証だった。

 

「なんだ…………」

 

 リストは10ページ以上あった。スクロールの長さが、そのまま罪の重さだった。

 

「末那、お前…………生きてちゃだめなやつじゃないか」

 

 リストを見る俺の口から、そんな言葉が漏れた。殺そうとしてやったことなのか、そうでないのか。分からないが、これらが全て末那の手によって行われたことならば…………一般社会では間違いなく死刑に値するような行いだった。

 

 スマホの電源を切った。これ以上、あのリストを見ていたくなかった。

 スマホをポケットに入れ、冷蔵庫に背中を預ける。キッチン越しにダイニングテーブルを眺めながら、俺は思った。もしも末那ともっと早い段階から関わっていたとしたら、何かが変わっただろうか、と。俺が彼女の術式をもっと早くに知っていたら、何かが変わっただろうかと。

 彼女がこの家に来たその日に、術式の有無を確認して、彼女と術式についての話をしていたら。そしたら――――何かが、変わっただろうか。

 ふと、ダイニングテーブルに置かれているものの存在に気が付いた。キッチンの照明に照らされて、ぼんやりと浮かび上がったものたち。俺は導かれるように、テーブルの前まで移動した。

 テーブルの上には食器が二つ、置かれていた。お椀と平皿だ。お椀にはみそ汁が、平皿には…………卵焼きが。見覚えのある形のそれは、昨日の昼に食べたものと瓜二つだった。

 

「…………なんだよ」

 

 暗いダイニング。キッチンから漏れる明かりで照らされた食卓には、みそ汁と卵焼きが置かれている。それが示す意味。

 

「何なんだよ…………!」

 

 祖母ちゃんは入院している。俺が作ったわけはない。

 

「お前は…………何がしたいんだよ…………!」

 

 だから、この食事を作ったのは末那だ。彼女が調理し、盛り付けて、ここに置いた。

 

 それ以外有り得なかった。

 

「末那っ…………!」

 

 ダイニングテーブルの上。キッチンからの明かりが届かない場所に、一枚の紙きれがあった。手を伸ばして摘まみ、光に晒す。そこには几帳面だが、少し丸みを帯びた文字で、こう書かれてあった。

 

『体調が優れないのですか』

「あ、ああ…………っ」

 

 視界がぼやけた。紙に書かれた文字が見えなくなり、生ぬるい液体が頬を伝う。透明な雫がぽたぽたと落ち、手に持った紙切れにしみを作った。

 

「何なんだ…………何なんだよ、お前…………」

 

 崩れ落ちた俺は胎児のように丸まり、うわ言のようにそう呟く。

 俺を物のように見る彼女と、恋する乙女のように見る彼女。奔放に人を弄ぶ彼女と、祖母ちゃんに何かあったのかと心配する彼女。人の精神を捻じ曲げて殺す彼女と、部屋から出てこない俺を心配し食事を作ってくれる彼女。

 どれが本当の姿なのかが分からなくて。そうして、俺は寒さに震える子どもみたいに、ただただ、うずくまって泣くことしかできなかった。

 

 

 *

 

 

 シャワーを浴びると少しだけ気持ちが楽になった。水気をふき取り、清潔な服に着替える。パーカーに動きやすいズボン。これからすることを考えて黒い服を選んだ。

 使用したタオル類を適当に放り、洗面所を後にする。どうせもうここに戻って来ることもない。祖母ちゃん一人ではこの広い家は持て余すだろう。バリアフリーの賃貸でも借りるといいのにと思った。

 自室に戻り、電話を一本入れる。通話が終わると、椅子に腰かけ、時計を睨む。そうして待つ。適切な時間になるまで。じっと。

 数度、ドアが開き、部屋の主が廊下に出る音が聞こえた。その度に俺は術式を使い、その動向を探る。手洗いに行くのか、階下に飲み物を取りに行くのか。そうして彼女の生活を監視する。悪趣味の極みだが、不思議と醒めた頭はその作業を淡々と行っていた。

 徐々に外が暗くなってくる。幾ばくもなく完全な宵闇になる。俺は睨んでいた時計から視線を切り、椅子から立ち上がった。

 ドアを開け、廊下に出る。静まり返った冷たい床を歩く。ものの数秒で目的の場所に着いた。そうして俺は深呼吸する。心を決めるために。全てを終わらせる覚悟を決めるために。

 俺は目の前の扉をノックした。

 

 

 *

 

 

 ペンを置く。凝りをほぐすように首を回し、両手を組み合わせて伸びをする。集中していたため頭の奥にじんわりとした疲労が感ぜられた。

 ふと喉の渇きを覚えた私は、階下に向かうため廊下に出る。静まった空間をぺたぺたと歩き、階段まで向かう。その際同居人の部屋をちらりと見た。そこにあるドアは変わらず閉じられている。私は視線を切ると、階段を降りてキッチンへと向かった。

 一階には大きな窓があり、陽光を取り入れられる設計になっている。私は窓から差し込むオレンジ色の光に目を細めた。

 キッチンに入り、冷蔵庫から紙パックを取り出す。シンクに洗い終えたコップが置いてあったのでそれを手に取る。パックを傾け、中身を注ぐ。八分目まで入れたコップを持ち、パックを冷蔵庫に仕舞う。ぱたん、と静かなリビングに冷蔵庫を閉じる音が鳴った。

 

「…………ふう」

 

 こくりこくりと二回嚥下し、コップを口から離す。夕焼けのオレンジ色の光が、コップについた唇の跡を照らしていた。

 そうして、キッチンの縁に身体を預けながら、ちびちびとコップに注いだ紙パックのお茶を飲む。緑茶の青い匂いを感じながら、私は同居人のことを考えていた。

 

(私が昨日用意した食事は食べたのか…………)

 

 飲み物を出す際、ちらりと冷蔵庫の中を確認したが、卵焼きやみそ汁はなかった。シンクにそれらの食器がないということは、食べた後の食器を自分で洗い、棚に仕舞ったのだろう。私は伏せていた目線を上げて、お椀を収納するスペースを見た。彼のお椀が置いてあった。

 

(食欲はある…………忙しいのかな)

 

 私は同居人の状態についてそんな推測をする。小夜おばあちゃんがいない今、私に助けを求めないということは、深刻な体調不良ではないということだろうか。

 

「…………寂しいな」

 

 私は自分の口を手で覆った。今しがたの自分の発言が信じられず、暫くそうして口を塞ぐ。けれども言った後でどれだけ口を塞ごうとも、漏れた言葉の内容もそれを言ったという記憶も、消えてなくなることはなかった。

 

「おばあちゃんがいないからだ。だから寂しいんだ」

 

 誰に対してしているのか分からない言い訳をしながら、私はしきりに自分の髪を撫でる。するりと流れる髪の毛に指を通していると、次第に焦りの感情は薄れていった。

 

(馬鹿みたいだ)

 

 一人で感情を跳ねさせたり鎮めたりしている自分が何だか滑稽に思えてしまい、私は自分自身を非難する。自分で言った言葉に一人で焦って、一人で言い訳して。非生産的ったらありゃしない。それにそもそも、ちょっと会話をしたからといって、そしてそれが思ったよりも――――楽しかったからといって。だからといって、ちょいとばかし絆され過ぎじゃあないだろうか。

 私は自分に言い聞かせる。浮かれすぎだ。いつからお前はそんな簡単な人間になったんだ、と。

 しかし同時に心の別な部分がこうも言っている。仕方ないじゃないか。彼は私と同じ、特別な人間なんだから、と。

 特別な人間。私はその言葉を反芻する。特別な人間。言い換えればそれは『力』を持った人間ということであり、この全能感を共有できる人間であるということ。目の前の人間は己の下位互換であるという認識を共有できる人間。それはきっと私にとって、自分の深いところにあるものを晒し、人生における大事な価値を分かち合える存在に、彼がなれるということ。

 

「特別、か」

 

 呟いた言葉は、静かなキッチンに溶けて消え。後には夕焼けの橙色だけが残っていた。

 

 

 *

 

 

 外は暗くなっていた。十七時に流れる夕焼け小焼けはとっくに終わり、残響さえ聞こえはしない。私は見ていたスマホを閉じると、夕飯を作ろうかと立ち上がった。

 その時ふと、気配を感じた。ドアが開く音だ。続けて、とん、とん、と足音。同居人の気配だ。手洗いにでも行くのだろうか。私はドアを開けて廊下を歩く彼の顔を確認しようかと考えた。具合が悪いのなら看病くらいはしてやろう、と思ったから。けれどもここでドアを開けるのは、何だか待ち構えていたみたいで抵抗がある。恐らく彼は洗面所か手洗いに行くのだろうから、その用が終わってから、偶然を装ってドアを開けようか。

 そんな小狡い策を練っていると、こんこん、とドアがノックされる。まさか私に用があるとは思っていなかったため驚きつつ、私はノックに対し素直にドアを開いた。

 

「…………」

「…………?」

 

 彼は立っていた。床を見つめ、無表情で。凍り付くような冷たさを持ったその表情を、私は初めて見た。

 

「あの…………?」

 

 廊下に立ち、尋常ではない面持ちで私を尋ねてきた阿頼耶。常になく真剣で威圧的ですらある。私は首を傾けつつ、ふと、彼が目の前に立っていても、自分の中に恐怖や怯えといった感情がないことに気が付いた。

 

(ああ、これはもう…………)

 

 そんな自分自身に対して、私はもはや諦めのような感情を抱いた。つい一昨日は彼に対し盛大に怯えたのに、その時と同じような状況になった今、私の中に怯えや恐怖といった感情は一切ない。阿頼耶の対応のおかげだとは分かるが、私は自分のちょろさに呆れつつ、彼に絆された自分を認めた。これが恋かは分からないが、少なくとも私にとって彼は、全人類の中で唯一、マイナスではなくプラスの男性だと。

 

「やっぱり、体調が優れないんですか」

 

 顔色の悪い阿頼耶。私は彼に対しそう尋ねる。

 唐突に、『力』の波動を感じた。彼の右手。だらりと下げられた手を中心に、不可視の『力』が渦巻いている。反射的に、あるいは本能的に、私はそちらに目をやってしまった。

 

「見えてるんだな」

 

 私が右手に目を向けたのを見て、阿頼耶が言う。その声音はただ事実を確認する時のもので。私は自分が致命的な間違いを犯したことに、遅ればせながら気が付いた。

 

「『うごく』」

 

 な、と言い切る前に、阿頼耶が俊敏な動作で私の口を塞ぐ。彼はそのまま私の口の中に指を入れ、発音を阻害させると、もう片方の手で私の喉を押さえ、発声を封じた。

 

「やめろ。お前がどんな呪詛を吐こうと、俺はお前を2秒で殺せる」

 

 私の口に指を突っ込み、加えて喉を鶏のように掴みながら、阿頼耶は言う。試しに『離せ』と言おうとしたが、的確に咽頭を押さえ付けられ、声帯から掠れた音が漏れただけだった。

 ならばと、私は自由な両手で阿頼耶の腕を掴んだ。引き離そうと力を入れるがびくともしない。私は股間に向けて蹴りを放った。

 

「ぅぐ」

 

 喉の奥に指が入り込み、生じた吐き気でえづく。酸っぱい唾液が分泌され、彼の指を濡らした。

 

「終わりか?」

 

 手の力を緩めることなく、彼が問う。返答を期待していないことは明らかだった。私は身体から力を抜いた。発声を潰され、指を噛んでも痛がる素振りはない。抵抗は予備動作で予知されて潰される。

 詰みだ。

 私はその結論にこう付け加えた。

 今のところは。

 

「YESは瞬き二回、NOは瞬き三回。分かったか」

 

 威圧的な口調に、私は瞬きを二回返す。返答を読み取るため、彼は私の瞳を覗き込んだ。

 

「質問に答えろ。お前は術式を持っているな」

 

 じゅつしき、というものが何か分からず、私は反応ができない。素振りから無理解を見て取ったのか、彼は「特殊な力を持っているか」と言い直した。

 私はそれに対し瞬きを二回返す。こぷり、と、出しっぱなしの唾液が口の端から漏れ、彼の手を汚した。

 

「その力は、言葉によって精神を操るものか」

 

 私は自分の目が見開かれたことを自覚した。次いで理解する。彼はもう、全てを知っているのだと。私が言おうと思っていたことを、言わなくていいのなら言わないままにしておきたいと思っていたことを、彼は既に知っている、知ってしまっているのだと、私は理解した。

 私は観念し、二回、瞬きをする。恐らくは一昨日のあの電話だろう。あれが彼に私の正体を知らせるものだった。そうして彼は今日、この時、その真偽を確かめに来た。純粋な『力』を纏うというブラフで『力』を認識できるかを確認し、その後の私の行動で連絡通りの人物かを確認した。私は彼が「見えてるんだな」と言った時に違う反応をしたらどうなっただろうかと考えた。『動くな』ではなく、例えばそう、罰の悪そうな顔をしたらどうなったか。こんなふうに拘束され、尋問されることはなかったのではないか。それに、彼の私に対する印象だって――――。けれどもそんな想定に意味はなく。そして意味のないたらればは、日本語で後悔という名で呼ばれていた。

 私は数秒前の自身の判断を悔い、彼の瞳を真正面から見据える。口の中に突っ込まれた彼の指を噛み、挑発するように舌を這わせた。

 

「お前はその力を、3か月前に自覚したか」

 

 表情を変えることなく、彼は次の問いを重ねる。

 私はそれに対し二回、瞬きを返した。

 

「お前はその力で――――人間を、襲ったか」

 

 私はその問いに答えることを躊躇った。けれども彼がどこまで確かなことを知っているのかが分からず、それはつまりここで嘘を吐くことがどんな意味を持つのかが分からないということであり、私はギャンブルのような選択を迫られる。電話の相手から何を聞いたのか。そもそも電話の相手は誰で、何をどこまで知っているのか。それは組織なのか。仮に組織ならば阿頼耶はその一員なのか。『力』を使った時に生じる痕跡は、DNAのように個人を特定できるものなのか。

 様々な想念が渦巻く中、私は数秒を置き、ゆっくりと瞬きを二回する。

 彼は三回目がないことを確認すると、数秒、瞑目し、何かに耐えるようにした。彼は目を開き、詰問を再開する。

 

「お前は襲った者から金銭を奪い、その精神を捻じ曲げたか」

 

 二回。

 

「人で力の実験をしたことはあるか」

 

 二回。

 

「人を襲う場所は都心で、毎回場所を変えていたか」

 

 二回。

 

「人を」

 

 彼はそこで区切った。私には淡々としていた彼が、そこで初めて躊躇っているように見えた。

 

「人を、殺したことは、あるか」

 

 一言ずつ、噛み締めるように言われたその質問に対して、私はゆっくりと瞬きをした。ゆっくり――――三回。ちゃんと、NOを示すために。

 

「――――佐藤広軌。男性、会社員、ソフトウェアエンジニア。池袋の路地裏で発見」

 

 私の瞬きを確認すると、唐突に彼は語り始めた。ソフトウェアエンジニアの会社員についての物語を。そして恐らくは――――私が襲った者についての物語を。

 

「彼は一切の文字が読めなくなっていた」

 

 息を接ぎ、

 

「発見から二週間後…………彼は自殺した」

 

 ひやり、と。冷たいものが心臓を撫でた。『自殺した』その一言は、私の心に取り返しのつかないことをしでかした時の圧迫感と焦りを生じさせた。

 

「プログラミングは彼の仕事道具であり、生きがいだった。収入源と没頭できる趣味を一度に失った彼は、生きる意味を失い…………命を絶った」

 

 いつの間にか、感情を排していた彼の声に熱が籠っていた。義憤という、世の中に蔓延る不条理に対する怒りの熱が、彼の声には宿っていた。

 

「彼にはガーデニングプランナーの妻と、小学生の子どもが二人いた」

 

 そしてその怒りを向けられているのは――――口の中に指を突きこまれ、唾液で彼の手を汚し続けている、私だった。

 

「子どもは…………父親としての彼が大好きだった。ガジェット好きの父と共に、最新の端末をいじくり回すことが、何よりも幸福を感じられる時間だった」

 

 彼の手に力が入った。増した圧迫感にうめき声が漏れる。

 

「子どもについては創作だ。俺が今作った。だけど全く有り得ない話でもない」

 

 目の前の阿頼耶は私の苦しさを見て取ったはずだが、その手に籠めた力を緩めることはなかった。

 

「なあ、教えてくれよ。お前は今の話を聞いて…………どう思うんだ?」

 

 どう思うか。YESかNOで答えられない質問。ふと彼は私の口から指を引き抜き、歯と舌を自由にする。ぬるり、と、私の口と彼の手に唾液の糸が引いた。

 

「『うごく』」

 

 言い切る前に背中から壁に叩きつけられる。肺から空気が押し出され、呼吸が阻害された。

 彼は私を壁へと押し付け、冷たい目でもがく私を見つめた。

 

「お前の力は強力だ。気を抜けば術師だろうと簡単に無力化させられる。でもな、力を自覚してたかだか3ヶ月程度の人間にしてやられるほど、俺も落ちぶれちゃいないんだよ」

 

 彼は言い、

 

「10年。俺とお前には力を使う者としてそれだけの経験の差がある。無駄な抵抗をするのもいいが、あざが増えるだけだぞ」

 

 私はせめてもの抵抗として彼の腕を掴むが、私を壁に押し付ける腕は大木のようにびくともしない。私は歯噛みし、力を抜く。経験の差を叩きつけられ、格の違いを見せつけられ、何より私を救った力で私の抵抗を封じ、そして私を怒りの籠った眼で見る彼の姿は、私からなけなしの戦意を喪失させるには十分だった。

 

「分かったら答えろ。お前は彼らについて………………どう思うんだ」

 

 彼が問う。同じ問いを、繰り返し。

 

「気の毒だと、思います」

 

 私は言った。掠れた声で。死んだ彼と彼の家族に対して…………気の毒だ、という心からの言葉を、目の前の阿頼耶に向けて言った。

 

「殺すつもりなんてなかった。自衛のために死ねと言ったことはあっても、快楽のために殺そうとしたことはない。その一線は――――越えたことは、ない。だから気の毒だと、そう思います。私に彼を殺す意図はなかった」

 

 息苦しさに喘ぎながら、私は言葉を紡いだ。阿頼耶に対して言ったことに嘘はなかった。私は誰かを殺そうとして殺したことは…………あの従兄以外に、ない。

 

「気の、毒…………?」

 

 彼は私の言ったことを反芻した。瞳が泳ぎ、私の言葉の意味を咀嚼しようとする。戸惑った様子を見せる彼に対して、私は再度口を開いた。

 

「それに私は、無差別に心を壊したわけじゃない。分かるでしょう、私の力は人の心を好きに改変することができる。聞きたい情報を聞き出すことは力の応用ですらない。聞きたいことがあるなら一言尋ねればいい。例えばそう――――お前の罪を答えろ、と」

「………………罪…………?」

 

 その一言で、彼は逸れていた視線を私に戻す。ふと私は彼の拘束が緩んでいることに気が付いた。

 

「ええ、罪。女性に対する罪。私は人を襲い、金銭を奪ったが、心を壊したのは罪を犯した者に限られる。なぜならそういう――――ルールだったから」

 

 彼の瞳が揺れ、苦悩するように眉が顰められる。目の前の人間の言い分を理解しようとするが、心がそれを拒否している。そんな表情。私は彼のそれを隙と見た。

 

「『離せ』」

「っ――――」

 

 喉が自由になる。命令に抵抗したのか、彼の腕は私の喉から完全には離れていなかった。が、口と声帯が動けば十分。

 

「『動くな』」

 

 命令が脳に入り込む。彼は何かに耐えるように顔を歪めたが、直ぐに持ち直し、私に向けて手を突き出した。私は体を傾けて彼の掌底を回避すると、突き出された腕の下を通すように自身の腕を突き出す。私と阿頼耶、両者の腕が上と下ですれ違う。私はそのまま彼の頭部に触れた。

 

「『動くな』」

 

 接触すると力の効果が向上する。それを私は実験により知っている。効果が向上する条件は対象に掌を触れさせることで、触れる場所は頭部に近いほど良い。

 

「――――え」

 

 天井が見えた。清潔な白いクロスと、LEDの照明。次いで全身に伝わる浮遊感。私は合気か何かで投げられたことを理解し、来るであろう衝撃に備えた。しかしいくら待っても衝撃は来ず、私は奇妙な浮遊感の中、反射で閉じていた目を開いた。

 

「あ」

 

 胸の中心から腕が生えていた。視線を上げると、阿頼耶が私の胸元を掴んでいる。逆光で彼の表情は分からなかった。

 

「――――きゃっ」

 

 どさ、と床に落ち、私は短く悲鳴を上げる。数瞬遅れで、彼が手を放したことに気が付いた。

 

「――――っ」

 

『死ね』とは言いたくなかった。袈裟の男が死ななかったことから、『力』を持つ者には私の言葉が効き難いことは分かっている。けれども私は、彼に殺意を向けることがどうしても出来なくて。だから馬鹿の一つ覚えのように再度『動くな』と言おうとして――――声が出なかった。視線の先。床の上で上半身だけ起こした私の目に、彼の空虚な瞳が映り込んだから。

 彼は目を伏せ、感情の消えた目で私を見下ろしていた。数秒して口を開くと、低い声で言う。

 

「下に金がある。それを持って消えろ」

「…………え?」

 

 初め、私は彼の言ったことが理解できなかった。言われた言葉が脳に浸透するまで数秒。加えて浸透した言葉を咀嚼し、その意味を読み取るまで数秒。理解が及んでもなお、私は口を開き、え、と言う事しかできなかった。

 

「ちょ、ちょっと待って。私は」

「表にタクシーを止めてある。好きな行き先を告げろ。彼女は土御門専属のドライバーだ、何処へでも連れて行ってくれる。当面の生活基盤は提供するが、ひと月以内に土御門から自立しろ。そこから先のことには関与しない。好きに生きろ」

 

 何か言わなければ。そう思い絞り出した言葉も、立て続けに放たれた事務的な声にかき消される。私は焦りに支配された頭で言うべき言葉を探ったが、論理的なことは何一つ言えそうもなかった。

 

「待って。お願い、あらやくん。待って。話そ、話そうよ。まだ言ってないことが沢山ある。話さなきゃならないことが沢山あるの」

 

 言い、私は阿頼耶を見上げる。彼は表情を変えずに、ただ冷たく私を見下ろしていた。私は焦りと悲しみがない交ぜになった頭で、言葉を探す。ただ探そうにも、私には私自身のことを言う以外に選択肢はなかった。

 

「なんでお金が必要だと思ってたか、とか、なんで男の人の罪を聞き出してたか、とか。全部理由があるの。ちゃんと、なんでそれをやろうと思ったのか説明できる。だからさ。お願い。話そうよ」

 

 私は言う。彼の瞳を見ながら。それは懇願だった。慈悲を請い、庇護欲をそそる仕草を意識することさえしながら、私は彼に、話そう、と懇願する。そのためには私は女を使う事さえした。彼の意識を引き、対話に持ち込めるならなんでも良かった。ただここで彼に拒絶され、二度と会えなくなることを避けられるなら、私はどんな武器でも使った。

 

「ねえ、お願い。お願いだから…………」

 

 声音が弱まる。顔が俯く。私は清潔なカーペットを見つめながら、阿頼耶の言葉を待った。阿頼耶が「分かった」と言ってくれるのを待った。そうして一昨日のように珈琲を淹れ、あの心地よい香りの中、私の身の上の全てと、それらに対し私が何を感じていたのかを、彼に話したいと思った。

 思った、けれど。

 

「…………」

 

 阿頼耶は何も言ってはくれなかった。ただただ、感情の消えた瞳で、懇願する私を見下ろしていた。

 暫くそうして、時計の針が時間を刻む音を聞く。彼に対話する気がないと知った私は、違う方向で気を変えさせようと、口を開く。

 

「……………………どこにでも、って、どこへ?」

「知らない。適当な地名を言え。県庁所在地ならどこでも東京の下位互換だろうよ」

「……………………生活基盤の提供は?」

「ドライバーに滞在先を言えば土御門から金が届く。名義も貸してやる。連帯保証にでも使え」

「……………………関与しないって、どこまで」

「文字通りの意味だ。どこかで人を襲おうが野垂れ死にしようが知ったこっちゃない。ただ、次にお前を糾弾するやつが、俺みたいな人間だと思わないほうが良い」

「……………………小夜、おばあちゃんには」

「言ってない。体調に障る。退院したら伝えるさ。朝起きたらいなかった。金を持ってどっかに消えた、って」

「……………………」

 

 問いかけに答えるうちに、考えが変わってくれたら。そんな願いは終ぞ届かず、阿頼耶は感情を排した声で淡々と私の問いに答えただけだった。

 

「戻って来た時に消えてなかったら――――殺す」

 

 彼はそう言い残し、消えた。アニメーションでそのページだけ書き忘れたみたいに。瞬きすらしていないのに、彼の姿は突然目の前から消えた。音もなく、残像もなく。残り香さえなかった。

 彼がいなくなった部屋の中で、私は立ち尽くす。頬を流れる生暖かい雫を拭いもせずに。

 そうして私は後悔していた。これまでの自身の行いを。人を襲った事を、金銭を奪った事を、心を壊した事を、クラスメイトを実験に使った事を、彼が術式と呼んだ『力』を、好き勝手に使った事を。

 そして何より。

 彼に、もっと早く『力』を打ち明けなかった事を。

 私は後悔していた。

 このままここにいて、彼に殺されるのもいいかもしれない。莫大な感情の波に押しつぶされそうになりながら、私はふと、そんなことを思った。

 

 

 *

 

 

 からり、と、玄関の引き戸を閉めた。草木の匂いが鼻腔をくすぐる。私は俯き、地面を見つめながら、石畳の上を門に向けて歩き始めた。

 一歩踏み出すごとに膨大な気力が必要で。私は門にたどり着くと、そこで全ての体力を使い切ったような感じがした。

 門は開かれていた。通りにはタクシーが横付けされている。私は力のない足取りで車体へと向かった。

 私が近づくと自動的にドアが開いた。緩慢な動きでシートに座ると、バタンとドアが閉まる。ドライバーであろう、老齢な女性の声で「どこに行きましょうか」と聞こえた。

 

「どこへでも」

 

 女性は戸惑ったようだった。けれども事前に事情を聞いているのか、彼女は分かりましたと言い、車を走らせる。私はシートに体を預け、微かな振動を感じた。

 

「京都はどうですか。四季が美しいですよ」

 

 暫くそうして車体の揺れに身を任せていると、ドライバーの女性が言う。皺の寄った声音は優しくて、私は小夜おばあちゃんの事を思い出した。

 

「そこでいいです」

 

 思い出したら、何だか泣きたくなってきて。私はガラスの窓に顔を押し付けた。都会のつまらない街並みが、ただ流れゆくままに移り変わっていく。私は空虚な心を抱えながら、窓の外を眺める。故郷にしたかった場所は二度と行ってはならない場所になった。私の原風景は未だ空白。寄って立つ場所を持たない私は、これからどうやって歩いていけばいいのだろうか。

 窓の外、皇居の近くを通り過ぎた。先進的なビル群を目に収めながら、私は寒くもないのに肩を抱き、何かを包むように身を丸める。そうして胎児のように丸まりながら私はきつく目を閉じた。

 あの家での思い出。それらを全て、振り払うために。

 目を開ける。私は目覚める。己を引き留める全てのしがらみを引き裂いて。心を漱ぐ清涼な二人をどこかへと置き去りにして。

 車体の揺れを感じながら、私は次に襲う男のことを考えている。できるだけ多くの人間を一度に壊そう。そうして今度こそ、存在するであろう正義の組織に殺されよう。そうだ、今度はあんななよなよしたやつではなく、ちゃんと業務を真っ当できるやつに見つかろう。あんな――――優しい人間じゃなくて。

 

 涙は出なかった。

 でも、それでいいと思った。

 

 

 *

 

 

 絶望する少女が自己破滅的な思考に陥るところから、時は少し進み。

 東京タワー、特別展望台。高さ250mのその場所で、五条悟はとある人物を待っていた。誰もいない展望室。光のない空間で、彼は眼下に広がる東京の街並みを眺めながら、鼻歌を歌っている。

 ふと、彼の背後でエレベーターの到着を知らせる音が鳴った。軽やかな音に導かれるまま、彼はゆったりとした動作で後ろを振り返る。彼の瞳に、機内から出てくる二人の人影が映った。

 人影がそれぞれ足を踏み出す。機内から出て、展望台の床を踏みしめた。

 ふと、どさり、と。片方の人影が展望台の床に倒れる。そのまま彼は動かなくなった。

 

「どうも、五条さん」

 

 動かなくなった人物ではない方の人影が言う。彼は倒れ伏した人物に駆け寄ることもなく、窓際の五条に向けて数歩、歩み寄った。

 

「やあ、あらやん」

 

 五条が言う。たった今エレベーターから出てきた人物に対して。あらやんと呼ばれた人物は「なんでそのあだ名知ってんだよ」とぼやくように言った。

 

「恵じゃ役者不足だったかな」

 

 五条は倒れ伏す人物を顎で示し、言う。阿頼耶は首を振って、

 

「いやめちゃくちゃ強かったですよ、かれ。いやまじで。もうばぐってんだろってくらいに。つーか何なん、最近の高専生って領域使うの?そんなことあっていいの?あれって一応呪術の極致だろ?そんなんを15歳だか16歳が使えていいの?俺も似たような歳だけどさ。何なん?馬鹿なの?あほなの?天才なの?」

 

 阿頼耶のぼやきに、五条はくつくつと喉の奥で笑う。

 

「七海と日下部は?」

「日下部さんは下で寝てます。狸寝入りですけど。七海さんはちゃんとした大人なので、ちゃんと意識を奪いました」

 

 五条の問いに阿頼耶は答える。ふと、五条は口を開いた。

 

「――――阿頼耶、泣いてんの?」

「え」

 

 五条から問われた阿頼耶は、自身の頬に触れる。彼はそこが濡れていることを知ると、その両目を見開いた。

 

「あ、はは。なんでだろ」

 

 そうして、阿頼耶は無理矢理笑った。顔をくしゃくしゃにしながら、歪に。

 

「五条さん、ちょっと訊きたいんですけど」

「うん?」

 

 泣き笑いのまま、唐突に阿頼耶は口を開いた。

 

「例えば…………例えばですよ?ある所に、総監部が抹殺を決めた呪詛師がいるとするじゃないですか」

 

 阿頼耶は語る。あくまでこれは例えだと前置きをして。

 

「それで、その呪詛師と共に暮らしていた術師が、同居人のよしみってんでその彼だか彼女だかを逃がしてしまったとして」

 

 そして。

 

「その時その術師に対して、総監部はどんな命令を下しますかね」

 

 それは彼にとって、既に知っていることのチェックであり、単なる事実の確認であった。

 五条は考える素振りを見せたが、阿頼耶はそれが単なるポーズであると分かっていた。この問いの結論に筋道を立てた思考は必要ない。太陽は東から昇ると言う事に思考が必要ないように。五条は口を開き、

 

「んー、そうだなあ。まあ、先ずは逃がした呪詛師の居場所を聞くよね。それでもしも口を割らなければ…………その呪詛師の危険度にもよるだろうけど、最悪の場合、共犯を疑われて処刑じゃないの」

 

 阿頼耶は「ですよね」と言い、苦笑のような表情を浮かべた。

 

「ああ、すいません、あともう一つ」

 

 言いながら、彼は背後から棒状のものを取り出した。柄と刃で構成されたそれは、一般的に鉈と呼称される刃物の一種だった。

 

「末那への指令が抹殺だっていうのは、本当ですか」

 

 七海健人の鉈を持ち、阿頼耶は問う。暗闇の中、夜景の光を反射して刃が鈍く光っていた。

 

「――――ああ、本当だよ」

 

 五条は阿頼耶の問いにそう答えた。抹殺は真実であると。

 彼女はもう、殺すしかないのだと。

 総監部からの命令と矛盾することを、堂々と、言った。

 

「逃がしたんだろ?監視の七海、地上の日下部、恵と戦ってまで」

 

 世間話のような軽さで、五条は言った。指摘された阿頼耶はそれには答えず、おどけた笑みを返す。

 

「ちなみになんですけど、このまま見逃してくれたりとかって」

 

 阿頼耶の言に五条は首を振り、

 

「いーや、ないね。町田末那は殺す」

「ですよねー」

 

 たはは、と。置かれた状況にそぐわないおちゃらけたことを言い、手に持った鉈で頭を掻く。

 

「じゃあ、五条さん」

 

 そうして、流れる涙を拭うこともなく。ぐちゃぐちゃになった感情の中、突きつけた鉈は、天に唾吐く行為だと知りながら。

 

 それでも彼は、その相貌に悲壮なまでの決意をにじませて、目の前の最強にこう言った。

 

「末那が逃げ切るまで――――殺し合い、しましょうか」

 

 

 

 

 

 




 やめて!五条悟の無下限呪術で吹き飛ばされたら、同居人の女の子が呪詛師だったショックから立ち直れていない阿頼耶の精神まで燃え尽きちゃう!
 お願い!死なないで阿頼耶!あんたが今ここで倒れたら、伏黒や七海の犠牲はどうなるの?呪力はまだ残ってる。ここを耐えれば、サイコパスJKを逃がせるんだから!
 次回、「阿頼耶死す」呪力スタンバイ!


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