人を呪わば恋せよ少女   作:緑髪のエレア

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食事と(悪い)予感

 *

 

 緑茶の香りが漂っていた。

 

 高級そうなテーブルの上には湯飲みが一つ鎮座しており、ほわほわと湯気をあげている。

 

 私は湯のみを持ちあげると、温かいそれを一口含む。甘さがふわりと口の中に広がり、その奥に微かな渋みが感じられた。砂糖の甘味ではない。茶葉の甘味だ。こくりと嚥下すると、まろやかな茶の香りが鼻を抜けていく。

 

 ほう、とため息が漏れた。

 

 たかが緑茶でこの高級感。まさか緑茶を飲んで感動する日が来るとは思わなかった。

 

 私は家の中を見回す。

 

 シックに抑えられた調度品に、磨き上げられた大理石のキッチン。天井は吹き抜けで、空気を循環させるための大きなプロペラのようなものが静かに回っていた。さらに、リビングの端には螺旋状の階段まである。

 

 

 __ここ、本当に人が住んでいるのだろうか。

 

 

 ふとそう思ってしまうくらい、この家は広く、清潔だ。おそらく、こういう家を___豪邸と、そう呼ぶのだろう。

 

 

「やった」

 

 思わずそんな言葉がもれた。

 

 螺旋階段を下りる音がして、そちらに目を向ける。通話していたのだろう、携帯電話をポケットにしまいながら、一人の男子が階段を下りてくる。

 

 黒のスラックスに無地のパーカーというシンプルな服装。事前の情報によれば、歳は17。

 

 温厚篤実な性格。加えて成績優秀。外見としては、線は細く、身長は低くもなく高くもない。165cmある私よりは高い。色が白く、佇まいや雰囲気は、少し大人びている。そして__

 

 私の新しい同居人。

 

「あー、祖母ちゃんに連絡とれました。なんか電車で来ると思ってたみたいで、駅まで迎えに行ったらしいです」

 

 

「それは……私の連絡不足ですね、申し訳ありませんでした」

 

 

「あ、いえ……こちらこそ、うちの祖母ちゃんが早とちりをしたようで……」

 

 

 彼は心底申し訳なさそうに頭を下げた。本来頭を下げるべき私が下げていないのに。

 

 彼は私の手元に目をやると、「あっ」と何かに気が付いたように声をあげ、

 

「すみません、今お茶請け出しますね」

 

「あ、いえ」

 

 お構いなく、と言ったが、彼はキッチンに消えていった。冷蔵庫を開ける音や食器がこすれる音が、リビングに座る私の元に届く。

 

「どうぞ」

 

 小ぶりなお皿が目の前のテーブルに置かれる。羊羹だった。

 

「ありがとうございます」

 

 彼はいえ、と言い、再びキッチンに消えた。

 

 出された羊羹を見つめる。

 

 今これを持ってきてくれた彼__私の新しい同居人__は、まともそうに見える。少なくとも今は。第一印象はそこまで悪くはない。私は当座の彼の評価を下した。

 

 速攻『やっちゃう』ほどではないかな。

 

 私はフォークを手に取り、羊羹を一口食べた。やっぱりというか何というか、今まで食べたどの羊羹より美味しかった。

 

 

 *

 

 

 出前だと思って扉を開いたらそこにいたのは美少女だった。

 

 きょとんとした顔で玄関の前に立つ美少女。チャイムを鳴らしたら住人がおつかれさまでーすと言いながら出てきたような表情をしていた。そのまんまだった。

 

 

「あ、すみません、出前かと思って」

 

 

 財布を見せながら、そう言い訳をする。

 

 少女の背後、門の向こう側で、タクシーが走り去った。どうやら俺は美少女の来訪を出前の来訪と勘違いしたらしい。こんなことならインターホンで確認するんだった。そう後悔するも後の祭り。

 

 

「そうですか」

 

 

 美少女が言う。

 

 その声音さえ澄んでいて、俺は完成された芸術品を見ている気分になる。ただ俺はその声音に、彼女の確かな拒絶の意思を感じ取った。

 

 ふと彼女と目が合う。彼女は俺を観察するように見ていた。そのまっすぐな視線から、彼女は俺に恐怖心を抱いているのではないことが分かる。彼女は俺を脅威とみなし、警戒し拒絶しているのではない。

 

 ただ単に、俺を人として見ていないだけだった。

 

 俺は自分のその思いつきにいささか驚いた。

 

 会って数秒の少女になぜそのように見られている(あるいは見られていない)と感じたのか。そしてなぜそれをほとんど確信したのか。この時の俺には、自分の思い付きの根拠が分からなかった。

 

 俺は意識を切り替えた。

 

 祖母は人を迎えに行っている。

 そして見覚えのない人が家を訪ねてきた。

 となると十中八九、この人物が、祖母が迎えに行くと書置きで記していた人物だろう。

 となると……行き違いになってしまったのだろうか。

 

 

「祖母に御用があるんですよね」

 

 

 確認のためそう尋ねると、美少女は少し考えるそぶりを見せた後で、まあ、はい。と歯切れの悪い返事をした。

 

 それにやや違和感はあったものの、俺は玄関の扉を最大まで開き、彼女のために道を開ける。

 

 ふと、彼女がキャリーバッグを持っていることに気が付き、持ちましょうか、と申し出ようとしたが、流石に馴れ馴れしすぎるかと思い直し、玄関の靴をキャリーを運びやすいよう脇に追いやるにとどめた。美少女は軽く会釈をすると、キャリーを引いて玄関をくぐる。

 

 俺は来客用のカップの置き場所を脳裏で探りながら、祖母に連絡するため携帯電話を取り出した。

 

 

 *

 

 

 食卓には寿司の桶が三つ並んでいた。真ん中にはアボカドと海老のサラダが置かれ、その脇に手巻き寿司と春巻きが並ぶ。目の前に置かれた桶の中には所狭しと寿司のネタが並び、私のテンションをじわじわと上げ続けている。

 

 どうやら土御門家の家長は、私という新しい同居人が来るということでかなり気合を入れてくれたらしい。最後に寿司を食べたのは小学生の頃、母が死ぬ前に行った回転寿司だったが、目の前にあるこれはその数倍の値段はしそうだった。

 

 ことん、と年齢の割に背筋が伸びている女性が醤油さしを置き、それで晩餐の準備が整ったようだ。

 

 女性は食卓の短い辺の部分、所謂お誕生日席に座り、私の目の前に男子が座る。

 

 女性が寿司桶と総菜を持ちながら帰ってきた時、彼女がもう一人の同居人であり、私を引き取ると言い出した張本人だと知った。私は一応ポーズとしてタクシーで直接向かう旨を伝えていなかったことを謝罪したが、女性は全く気にしていないようだった。

 

 後からそれは、私に気にさせないようにしようという気遣いの一つだったと考えるようになるが、ここではそれはどうでもよいことだ。女性とその孫の男子が夕飯の支度を始めたため、私も準備の手伝いを申し出たのだが、彼らに丁重に断られてしまった。

 

 どうやら私のことを完全なお客様として扱ってくれているらしく、私は食卓に座っていてほしいと逆にお願いされてしまった。叔父の家に引き取られた時は、夕飯すら用意されず、自分で弁当を買いに行ったことを思い出す。

 

 比べるようなことでもないし、叔父の対応も有難いといえば有難いのだが、これまでの人生のあらゆる場面において、一人の人間として丁重に扱われた記憶が全くない私としては、ぽっと現れた遠縁の同居人への彼らの丁寧な対応が、とても新鮮なものに思えた。

 

 

「じゃ、一応紹介しておこうかね」

 

 

 高齢の女性が言う。

 

「私が、土御門小夜(さよ)。んで、こっちが阿頼耶(あらや)。阿頼耶は私の孫だね」

 

 目の前の男子___阿頼耶が軽く会釈をする。高齢の女性___小夜は、次いで私を示し、阿頼耶に対して言う。

 

「阿頼耶、こちらは末那(まな)ちゃん。私の従姉のお孫さんね」

 

 私は阿頼耶に対して軽く会釈をした。同時に脳内で家系図を思い描く。

 

 私からすると小夜は母方の祖母の従妹であり、母の母のそのまた母の姉妹の子供だ。

 

 親等で言えば6親等。続柄を正式に書けば従伯叔祖母。

 

 その孫の阿頼耶は、母の母の母の姉妹の子供の子供の子供で、続柄で言えば三従兄にあたる。

 

 親等は8親等なので、私とは法律上は親族ではないことになる。戸籍上もDNA的にも、私と阿頼耶は殆ど他人だった。

 

 

「__それじゃ、食べましょうか」

 

 

 小夜がそう言い、私たちは手を合わせる。いただきます、と唱和し、それぞれが料理に手をつけた。

 

 好物は最後に食べる派な私は、少し迷ったあと、取り敢えず好きでも嫌いでもないイカから手を付けることにした。さっと醤油をつけて口に入れる。咀嚼すると、思っていたよりずっと柔らかく、ずっと濃い味が口の中に広がった。

 

 あ、美味しい。

 

 思わずそんな言葉が漏れた。あ、いや、まて。

 

 私の脳裏に、これまでの土御門家に来てからの自身の振る舞いがよぎる。

 

 やらかしたか。

 

 私の背筋に緊張が走る。私は恐る恐る、阿頼耶と小夜の反応をうかがった。

 

 今の私の立場は相当に微妙である。

 

 中学二年で母を亡くし、引き取られた叔父の家で思春期の大部分を日常的に性的な嫌がらせを受けながら過ごす。

 

 その後、性的嫌がらせを行っていた張本人に寝込みを襲われ、強姦されそうになったところ、その父が息子である犯人を殺害したため、強姦は未遂で終わったが、叔父が従兄を殺すところを目の前で見た。客観的には、年頃の女子がトラウマを抱えるには充分な出来事が継続的に、立て続けに、起こっている。

 

 しかし私の主観では、あれらの出来事はインパクトこそあったが、心に傷を負うような出来事ではなかった。

 

 

 なぜか。

 

 

『力』を得たからだ。

 

 

 私の主観では、あれらの出来事は、私が『力』を得る際に起きた出来事、言ってしまえばおまけのようなものである。

 

 あれらの出来事がなければ私は『力』を得なかっただろうが、かといってその後の私の精神に最も大きな影響を与えたのは、『力』を獲得したことと、『力』そのものにまつわることであって、その過程の出来事ではない。

 

 そのため私は、心的外傷後ストレス障害に悩まされることも、男性嫌悪を悪化させることもなく、ごく普通の精神状態を現在に至るまで保っている。

 

 しかし、それは異常だ。客観的に見て私は、途方もない心的ストレスを抱えているはずなのだ。

 

 なのに、私のこれまでの行動はどうだっただろうか。阿頼耶との初対面ではごく普通に彼のことを観察し、お茶を差し出された時には普通にお礼を言い、彼らが夕飯の準備をし始めた時には自然に手伝いを申し出、そして出された寿司を食べて素直に美味しいと口に出す。

 

 普通の少女に、そんなことができるだろうか。

 

 普通の、多大な心的ストレスを抱えている少女に。

 

 私は今更焦り出していた。私の態度は私の主観では何の違和感もないが、彼らの主観においては__強姦未遂に遭った後に殺人の様子を目の当たりにした少女においては__著しく不自然だったのではないか、と。

 

 私は彼らの様子をうかがった。小夜と阿頼耶が、不審なものを見る目で私を見ていないか__

 

 

 

 小夜は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

「そうでしょう、そうでしょう、このお寿司本当に美味しいわよねえ。板前さんが私の同級生でね、産地にこだわりがあるとかで__」

 

 

 板前がどこそこで修業したとか、有名な芸能人がよく食べに来るといった話をする小夜。相槌を打つが、適正な間隔が分からず、殆ど固まったまま小夜の話を聞く。

 

 ふと視界の端で阿頼耶が私に目をやるのが見えた。

 

 妙な焦りと緊張が一瞬で生まれ、次の瞬間には解けたことで微妙な心持になっていた私は、阿頼耶の視線に無防備にそちらを向いてしまう。すると阿頼耶は私と目が合う前に自然な動作で料理に目をやり、ばあちゃんこの春巻き何味?と小夜に尋ねた。

 

 

 __杞憂だった、ってことでいいのかな

 

 

 私はほっと胸を撫でおろした。

 

 どうやら彼らにとって、私の態度はそこまで不自然なものではなかったらしい。

 

 彼らが鈍感なのか、私が考えすぎなのか……いましがたの阿頼耶からの視線は気になるが、少なくとも何かを探るような、不躾なものではなかった。もっと透明で、人に何かを尋ねるときのような……それに、目線をそらす際のあれは、微かだが怖れのようにも見えた。

 

 いずれにせよ、私はぼろを出さないように気を付けようと心に決める。

 

 

 __人形と生活するのは、勘弁したいからね。

 

 

 私は一人の生活か、普通の生活がしたいのだ。

 

 二人を消したら怪しまれるし、『力』を使えば人形と暮らすことになる。私は身の回りの人間に対しては極力『力』を使いたくはなかった。それが何故なのかは……今のところどうでもいいことだろう。

 

 ピザ味だね、それは。と阿頼耶の質問に小夜が返し、阿頼耶がまたかよとぼやく。

 

 私は「普通の事件後の少女」として振る舞おうとしたが、無い袖は振れないというか、どうにもぎこちなく思えてしまい、最後にはほとんど諦めて、数年ぶりの寿司を楽しむことに集中していた。

 

 

 *

 

 

「阿頼耶、こちらは末那ちゃん。私の従姉のお孫さんね」

 

 

 祖母ちゃんがそう言うと、目の前の少女__末那は軽く会釈した。生来のものか、光の当たり方によって髪がやや茶色がかって見える。

 

 肩甲骨のあたりで切りそろえられた飾り気のない髪型は、しかし、それが彼女の最もふさわしい髪型のようにも見えるから不思議だ。おそらく、彼女はどんな髪型にしても、それが彼女を最も美しく見せる髪型になるのだろうと、俺はこの時何となく思った。アフロとかにでもしない限りは。いや、彼女ならばアフロヘアーさえ自らのものとし、ブームを席捲するのやもしれなかった。

 

「__それじゃ、食べましょうか」

 

 途方もなく益体のないことを考えていると、祖母ちゃんがそう言った。

 

 俺は手を合わせ、いただきます、と唱和する。祖母ちゃんが自分の小皿にサラダを取り分ける。食べるかい、と聞かれるが自分でやると返す。

 

 祖母ちゃんは末那にも聞こうとしたが、目が合わなかったためそのまま取り分け用のトングを置いた。

 

 俺は祖母ちゃんが話題を探しているのに気が付いた。かくいう俺も……何と言うべきか__あるいはそれは、何を言わないべきか、かもしれない__言葉を探して脳裏を探っていた。

 

 ぼんやりと寿司の桶を見つめていたが、ふとイカをつまんだ彼女__末那の身に起きた出来事は、祖母ちゃんの口から聞いている。ただ、祖母ちゃんにしても、警察から聞いたことが全てで、末那本人から何が起きたかを聞いたわけではないらしい。

 

 俺はそれも当然のことだと思う。

 

 末那の身に起きた出来事は、伝聞の伝聞として聞いただけでも、その出来事を当人に思い出させることが罪にあたると思わせられるような、そんな凄惨な出来事だった。

 

 中学二年で母を喪い、叔父の家へ引き取られ、そこの家に住む引きこもりの従兄から、性的な嫌がらせを日常的に受ける。末那は身の危険を感じ、自作の鍵や私物を常に持ち運ぶことによって自衛していたらしいが、それでも被害は毎日のようにあった。

 

 叔父に被害を訴えると、彼は怒り、引きこもりの息子を(軽く小突く程度にらしいが)殴った。

 

 すると被害は......ひどくなった。

 

 自室の衣類を穢され、家の中で迫られ、そして、寝込みを襲われた。

 

 彼女は抵抗し、大声を上げた。すると叔父がやってきて、従兄を絞め殺した。彼女はそれを、目の前で見ていた。

 

 胸の悪くなる話だ。何かを力いっぱい殴りつけたくなるような……そんなどうしようもない話だ。

 

 この話を祖母ちゃんから聞いた時、俺は彼女から「人として見られていない」と思った理由を理解した。

 

 キャリーを運びやすいよう靴をよけた時の会釈、階段を下りる気配に振り向いた時の目、お茶請けに羊羹を出した時のありがとうございます、それら全てに、一切の血が通っていなかった理由を理解した。

 

 

 男性嫌悪、なんて言葉では、片づけられないそれ。

 

 

 引きこもりの従兄から、日常的な性的嫌がらせを受ける__この時点で、彼女には大きな精神的苦痛が生じたはずだ。しかもそれを彼女は三年以上もの間耐えていた。その間、彼女の中にどのような感情が蓄積されていったのだろうか。単純に言って想像を絶する。

 

 欲望の対象として見られる嫌悪

 身勝手に性欲を向けられる怒り

 いつ終わるのか分からない焦燥

 ふとした瞬間に襲い来る不安

 そして__殺したいほどの憎しみ__

 

 俺は不躾な思考を打ち切った。

 

 このままでは彼女の思いを、その身に生じた苦痛を、決めつけてしまいそうになったから。他人の苦痛を想像し、それに寄り添おうとすることは、必ずしも罪ではないと俺は思っている。その根底にあるのは、理不尽な被害に遭った者の心を慰撫したいという思いであり、思いやりを構成する一部だと思うから。

 

 けれども相手の苦痛を自分の想像の範囲内で勝手に決めつけ、その苦痛の総量がどれほどのものだったのかを推し量ろうとすることは、その人への侮辱になってしまう。

 

 苦痛は数に、量に、表せない。何物も何者も、他者の苦痛を定量的に表し、理解することはできない。し、あまつさえ理解できたと思うことなど許されない。

 

 

 俺は自身を戒め、そして問いかける。

 

 

 

 では、俺は彼女に対し、どのような存在として在るべきだろうか、と。

 

 

 

 あ、美味しい。

 

 

 思考の渦にはまりかけた俺の耳に、そんな言葉が入り込む。

 

 本当に思わず出た言葉のようで、彼女自身も驚いたように口元を押さえていた。そんな彼女を見た祖母ちゃんが、嬉しそうに「そうでしょう」と言い、板前さんについて話し始めた。

 

 言葉数こそ極端に少ないものの、末那は祖母ちゃんの話に相槌を打つ。

 

 

 その透明な瞳は、きちんと祖母ちゃんのことを映していた。

 

 

 ふと末那がこちらを向き、俺は料理に目線を移す。誤魔化すようにこの春巻き何味?と祖母ちゃんに問うた。

 

 

 何ができるか、とか、どう在るべきか、とか、考えても答えが出ないことは、ひとまず保留だ。俺は、末那の話を聞いた後、祖母ちゃんが涙ながらに言った言葉を思い出す。

 

 

 __私たちは、あの子の家族にならなきゃあいけない。

 

 

 ピザ味だねと答えた祖母ちゃんにまたかよとぼやきながら、俺はそれに箸をつける。いつもの味がした。

 

 春巻きか、寿司か、サラダか、それ以外でも、何でもいい。何かが、三人のいつもの味になる日が来るのだろうか。

 

 俺は目が合う直前の彼女の瞳を思い出す。

 

 

 路傍の石を見るような目だった。

 

 

 三人が家族になる日。三人で家族になる日。それは限りなく遠いか、あるいは永遠に来ない。胸の奥底にそんな予感が生まれ、そしてそれは焦燥感となって、喉の奥を焼いた。

 

 俺は努めてそんな悪い予感を振り払いながら、祖母ちゃんの話に相槌を打つ。暫くは末那もこちらに注意を払っていたが、やがて興味を失ったのか、視線を落とし、食事を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど半年後、俺はこの時の予感が正しかったことを、その身を以て識ることになる。ただし、そのベクトルは__真逆だったが。

 

 




✖男性嫌悪を悪化させることもなく
〇男性嫌悪はこれ以上悪化しようがない
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