長い1日が終わった。 二人の埋葬を済ませ、葬式を終わらせた頃には既に夕方になっていた。
時空龍達の増援も合流し、今夜は宴を催す事にした。 明日は総攻撃になる、無事に戻れる者はほぼいないだろう……
「新族長、楽しんでいるか?」
「銀華様」
「私達は同盟を組んだ同志、今更そんな呼び方をする必要もないだろ?」
「まぁ、確かにね・・・」
「なんだ、顔が暗いぞ! 先頭に立つ者がそれでどうする!」
「うん、わかってる。」
これからは私が頑張らなきゃいけない事は、頭では理解している。 でも、そう簡単に自分の中で消化出来るわけがないのだ。 だって、私はこの手で……
「――私にも、まだ覚悟が足りない。」
「え?」
「父上が亡くなった今、私が時空龍達導かなければならない。 しかし、現状は私の話に耳も貸さずに老害共が権力争いをする始末だ。」
「それは……」
「強がっていても、心細くて仕方ないのだ。 怖いんだよ……」
「そっか、私達同じなんだね。」
「……そうだな。」
本来ならば私達にはもっと時間が必要なんだ。 でも、状況はソレを許してはくれない。 私達は前に進むしかないのだ。
「そういえば、傷の方はどうなの?」
「見たら分かるだろ? 歩き回るくらいには元気だ。」
「まぁ確かに、見た感じは元気そうだけど……」
「まぁそんなに気にするな、明日の戦に影響は無いよ。」
「うん、信じるよ。」
正直、顔色は悪いし声も震えている。 これで元気な筈がないのは一目瞭然である。 私が気づいているのも本人は分かっているだろう。 それでも、虚勢を張らなければならないのだ、皆の上に立つために。
「さて、私は先に休ませてもらうよ。」
「うん、わかった。 ――おやすみなさい。」
私も見習わないとな……
「エリカ。」
「あれ、どうしたの翡翠? 確かアフラムさんと明日の話し合いをしてたんじゃ。」
「それなら終わったよ。 アイツは銀華の所に用があるらしくてな。」
「へぇ、何かあるのかな。」
「……それを聞くのは野暮ってやつだな。」
「ふむ?」
翡翠の言っている事はいまいちピンと来なかったが、言う通りにするのが正解な気はした。
「お前って、本当にニブイよな。」
「に、にぶ……悪かったわね!」
「ほんと、どうして気づかないんだ。」
そう言うと翡翠は私をお姫様抱っこで抱え上げる。 人前でこんな姿を見せるのは流石に恥ずかしい。
「ちょっと、恥ずかしいから降ろしてよ!」
「ダメだ、このまま家まで連れてく。」
「嫌ぁ! 降ろしてってばぁ!」
私の抗議の声は、翡翠には全く届かなかった。
―――
――
―
「用とはなんだ黒翼?」
アフラムに呼び出された銀華は、貸し与えられた彼の部屋へやって来た。 私物はほぼ何も無く、着替えだけが綺麗にハンガーに掛けられている。 ――彼はベッドの上に腰掛けている。
「済まない、無理に呼び出してしまって。」
「気にするな、今日はもう寝ようかと思っていた所だしな。」
「そうか、明日は決戦だからな……」
「あぁ……」
――沈黙。
互いに何かを話すわけでもなく、見つめ合ったまま沈黙が流れる。
「銀華。」
先に口を開いたのはアフラムだった。 銀華は続きを促すと、アフラムは言の葉を紡ぐ。
「お前があの時言った事、あれはまだ有効なのだろうか。 もしそうなら……」
「あははははっ! あの時の事をまだ覚えていたのか!」
「そ、そこまで笑う必要はないだろう。」
「いやぁ、流石に不意打ちだったのでな、許せ。」
銀華は一度深呼吸をし、アフラムの元に歩み寄る。
「お前の気持ち、嬉しいよ黒翼。 しかし、それは私への憐みでは無いだろうな?」
「……そう見えるだろうか?」
「いや、全くそう思わんな!」
「君らしい返答だよ。」
互いの距離が更に縮まる。 互いの呼吸音が聞こえる程の距離、少しでも動けば触れ合ってしまう程の……
「……良いのだな?」
「私でいいのなら。」
――そのまま二人はベッドへと倒れ込んだ。
―――
――
―
「いい加減降ろしてよ!」
「――ほらっ。」
私の部屋に辿り着くと、翡翠は乱暴に私をベッドに投げ捨てた。
「いったぁ……」
「ほら、もう恥ずかしく無いだろう?」
「アンタねぇ……っ!?」
文句の一つでも言ってやろうとするが、その言葉は翡翠の不意打ちで封じられた。
――その意味を理解するのに私には十数秒必要だった。
「ちょちょちょちょっと!! 何してくれちゃってるわけ!?」
「何って、キスだけど?」
「そんなの分かってるわよ! なんでそんな事したのか聞いてるのよ!」
「ほんと鈍感だな。」
翡翠は呆れてものも言えないというような表情で頭を抱えている。
「……好きなんだ、お前が。」
「あっそう、私が好きでこんな……えっ? ぇぇ?」
翡翠が私を? 好き? スキ? 好きってなんだっけ……?
頭の中がグルグルして、感情がぐちゃぐちゃに混じり合う。 その言葉の意味を知っているはずなのに理解が追いつかない。
「ずっと昔から好きなんだ。 こんなタイミングで告白するのもずるいかも知れない、それでも今言わなきゃ……」
「翡翠、それって本気なのよね?」
「当たり前だ!」
よく私をからかう翡翠だが、今の彼は間違いなく本気だった。 ――こんな真っすぐに私を見る翡翠は初めて見るかもしれない。
「ほんと、ずるいよこんなの……」
「悪い……」
こんな心がグラグラの時に告白なんてされたら……簡単に落ちるに決まってるでしょ。
「ばかっ。」
「それでも、俺は今まで以上にお前を支えられる存在になりたいんだ。」
翡翠が優しく私を抱きしめる。 記憶にある彼とは違い、その逞しい身体に私は自然と身を委ねていた。
「だから、俺と結婚してくれ。」
「なら、一つだけ約束して。」
「……なんだ?」
「ずっと私と一緒にいて。 これから先も、死ぬときも。」
その言葉を聞いた翡翠は驚いた表情を見せたが――やがて決心したように頷いた。
「わかった、ずっと一緒だ。」
「ずっと、一緒だよ……」
――もう一度唇を重ねる。 二度目のキスは、ほんのりと甘い味がした。
―――
――
―
本当の意味で身も心も一つになり、生まれたままの姿で朝を迎えた。
「……朝か。」
「翡翠。」
「どうした?」
「愛してる。」
「俺も愛してる。」
それは短い言葉だったが、お互いの素直な思いであった。
「決着をつけに行こうか。」
「うん、そうだね。」
勝てるかなんて分からない。 戦況は圧倒的に私達が不利だし、冷静な者ならばさっさと逃げ出すであろう。 しかし、そんな人は誰一人いなかった。 私はそんな人達を死地へ追いやろうとしているのだ。
それでも……それでも私達は戦うしかないのだ。 そうしなければ、きっと世界は――誰も気づかないうちに終わりを迎えてしまうのだから。