Dragons Heart   作:空野 流星

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第十七話 決戦前夜

 長い1日が終わった。 二人の埋葬を済ませ、葬式を終わらせた頃には既に夕方になっていた。

時空龍達の増援も合流し、今夜は宴を催す事にした。 明日は総攻撃になる、無事に戻れる者はほぼいないだろう……

 

 

「新族長、楽しんでいるか?」

 

「銀華様」

 

「私達は同盟を組んだ同志、今更そんな呼び方をする必要もないだろ?」

 

「まぁ、確かにね・・・」

 

「なんだ、顔が暗いぞ! 先頭に立つ者がそれでどうする!」

 

「うん、わかってる。」

 

 

これからは私が頑張らなきゃいけない事は、頭では理解している。 でも、そう簡単に自分の中で消化出来るわけがないのだ。 だって、私はこの手で……

 

 

「――私にも、まだ覚悟が足りない。」

 

「え?」

 

「父上が亡くなった今、私が時空龍達導かなければならない。 しかし、現状は私の話に耳も貸さずに老害共が権力争いをする始末だ。」

 

「それは……」

 

「強がっていても、心細くて仕方ないのだ。 怖いんだよ……」

 

「そっか、私達同じなんだね。」

 

「……そうだな。」

 

 本来ならば私達にはもっと時間が必要なんだ。 でも、状況はソレを許してはくれない。 私達は前に進むしかないのだ。

 

 

「そういえば、傷の方はどうなの?」

 

「見たら分かるだろ? 歩き回るくらいには元気だ。」

 

「まぁ確かに、見た感じは元気そうだけど……」

 

「まぁそんなに気にするな、明日の戦に影響は無いよ。」

 

「うん、信じるよ。」

 

 

 正直、顔色は悪いし声も震えている。 これで元気な筈がないのは一目瞭然である。 私が気づいているのも本人は分かっているだろう。 それでも、虚勢を張らなければならないのだ、皆の上に立つために。

 

 

「さて、私は先に休ませてもらうよ。」

 

「うん、わかった。 ――おやすみなさい。」

 

 

 私も見習わないとな……

 

 

「エリカ。」

 

「あれ、どうしたの翡翠? 確かアフラムさんと明日の話し合いをしてたんじゃ。」

 

「それなら終わったよ。 アイツは銀華の所に用があるらしくてな。」

 

「へぇ、何かあるのかな。」

 

「……それを聞くのは野暮ってやつだな。」

 

「ふむ?」

 

 

 翡翠の言っている事はいまいちピンと来なかったが、言う通りにするのが正解な気はした。

 

 

「お前って、本当にニブイよな。」

 

「に、にぶ……悪かったわね!」

 

「ほんと、どうして気づかないんだ。」

 

 

 そう言うと翡翠は私をお姫様抱っこで抱え上げる。 人前でこんな姿を見せるのは流石に恥ずかしい。

 

 

「ちょっと、恥ずかしいから降ろしてよ!」

 

「ダメだ、このまま家まで連れてく。」

 

「嫌ぁ! 降ろしてってばぁ!」

 

 

 私の抗議の声は、翡翠には全く届かなかった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「用とはなんだ黒翼?」

 

 

 アフラムに呼び出された銀華は、貸し与えられた彼の部屋へやって来た。 私物はほぼ何も無く、着替えだけが綺麗にハンガーに掛けられている。 ――彼はベッドの上に腰掛けている。

 

 

「済まない、無理に呼び出してしまって。」

 

「気にするな、今日はもう寝ようかと思っていた所だしな。」

 

「そうか、明日は決戦だからな……」

 

「あぁ……」

 

 

 ――沈黙。

 互いに何かを話すわけでもなく、見つめ合ったまま沈黙が流れる。

 

 

「銀華。」

 

 

 先に口を開いたのはアフラムだった。 銀華は続きを促すと、アフラムは言の葉を紡ぐ。

 

 

「お前があの時言った事、あれはまだ有効なのだろうか。 もしそうなら……」

 

「あははははっ! あの時の事をまだ覚えていたのか!」

 

「そ、そこまで笑う必要はないだろう。」

 

「いやぁ、流石に不意打ちだったのでな、許せ。」

 

 

 銀華は一度深呼吸をし、アフラムの元に歩み寄る。

 

 

「お前の気持ち、嬉しいよ黒翼。 しかし、それは私への憐みでは無いだろうな?」

 

「……そう見えるだろうか?」

 

「いや、全くそう思わんな!」

 

「君らしい返答だよ。」

 

 

 互いの距離が更に縮まる。 互いの呼吸音が聞こえる程の距離、少しでも動けば触れ合ってしまう程の……

 

 

「……良いのだな?」

 

「私でいいのなら。」

 

 

 ――そのまま二人はベッドへと倒れ込んだ。

 

 

―――

 

――

 

 

 

「いい加減降ろしてよ!」

 

「――ほらっ。」

 

 

 私の部屋に辿り着くと、翡翠は乱暴に私をベッドに投げ捨てた。

 

 

「いったぁ……」

 

「ほら、もう恥ずかしく無いだろう?」

 

「アンタねぇ……っ!?」

 

 

 文句の一つでも言ってやろうとするが、その言葉は翡翠の不意打ちで封じられた。

 ――その意味を理解するのに私には十数秒必要だった。

 

 

「ちょちょちょちょっと!! 何してくれちゃってるわけ!?」

 

「何って、キスだけど?」

 

「そんなの分かってるわよ! なんでそんな事したのか聞いてるのよ!」

 

「ほんと鈍感だな。」

 

 

 翡翠は呆れてものも言えないというような表情で頭を抱えている。

 

 

「……好きなんだ、お前が。」

 

「あっそう、私が好きでこんな……えっ? ぇぇ?」

 

 

 翡翠が私を? 好き? スキ? 好きってなんだっけ……?

 頭の中がグルグルして、感情がぐちゃぐちゃに混じり合う。 その言葉の意味を知っているはずなのに理解が追いつかない。

 

 

「ずっと昔から好きなんだ。 こんなタイミングで告白するのもずるいかも知れない、それでも今言わなきゃ……」

 

「翡翠、それって本気なのよね?」

 

「当たり前だ!」

 

 

 よく私をからかう翡翠だが、今の彼は間違いなく本気だった。 ――こんな真っすぐに私を見る翡翠は初めて見るかもしれない。

 

 

「ほんと、ずるいよこんなの……」

 

「悪い……」

 

 

 こんな心がグラグラの時に告白なんてされたら……簡単に落ちるに決まってるでしょ。

 

 

「ばかっ。」

 

「それでも、俺は今まで以上にお前を支えられる存在になりたいんだ。」

 

 

 翡翠が優しく私を抱きしめる。 記憶にある彼とは違い、その逞しい身体に私は自然と身を委ねていた。

 

 

「だから、俺と結婚してくれ。」

 

「なら、一つだけ約束して。」

 

「……なんだ?」

 

「ずっと私と一緒にいて。 これから先も、死ぬときも。」

 

 

 その言葉を聞いた翡翠は驚いた表情を見せたが――やがて決心したように頷いた。

 

 

「わかった、ずっと一緒だ。」

 

「ずっと、一緒だよ……」

 

 

 ――もう一度唇を重ねる。 二度目のキスは、ほんのりと甘い味がした。

 

 

―――

 

――

 

 

 

 本当の意味で身も心も一つになり、生まれたままの姿で朝を迎えた。

 

 

「……朝か。」

 

「翡翠。」

 

「どうした?」

 

「愛してる。」

 

「俺も愛してる。」

 

 

 それは短い言葉だったが、お互いの素直な思いであった。

 

 

「決着をつけに行こうか。」

 

「うん、そうだね。」

 

 

 勝てるかなんて分からない。 戦況は圧倒的に私達が不利だし、冷静な者ならばさっさと逃げ出すであろう。 しかし、そんな人は誰一人いなかった。 私はそんな人達を死地へ追いやろうとしているのだ。

 それでも……それでも私達は戦うしかないのだ。 そうしなければ、きっと世界は――誰も気づかないうちに終わりを迎えてしまうのだから。


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