Dragons Heart   作:空野 流星

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第十九話 巨蛇(おろち)討伐作戦

 首都メルキデスが見えてくる。 見慣れたはずの風景に、異物が一つ混じっていた。 大きな鉄の砲身……巨蛇(おろち)だ。

 

 

「思った以上に大きいわね。」

 

 

 ――大統領官邸から逃げ出す際に一度見ている筈なのだが、全く思い出せない。

 

 

『エリカ、巨蛇(おろち)から凄い魔力反応だ。』

 

「これは来るわね――全員左舷に回避!」

 

 

 回避態勢に入ると同時に、砲身に収束された魔源(マナ)が炸裂する。 

 ――大気が震え、一瞬時間が止まったような感覚に襲われる。 それと同時に光の帯が通り過ぎていった。

 

 

「あんなのに当たったら一瞬で終わりね。」

 

『そうならないために、俺達がいる――そうだろ?』

 

「その通りね! あんなガラクタ、一撃で壊すわよ!」

 

 

 全身の魔源(マナ)をかき集める。 エーテル器官が2つある私達は、それだけで通常の倍以上の力を発揮出来る。

 

 

「2射目が来る前に一気にケリをつけるわ。 皆援護して!」

 

 

 一気に部隊の前方に躍り出る。 目の前には虫のように飛び交う、首都防衛用の戦闘機が行く手を阻む。 仲間達が戦闘機を蹴散らし、巨蛇(おろち)への道を切り開いてくれる。

 

 

「3――2――1――”龍の息吹(ドラゴン・ブレス)”!」

 

 

 巨蛇(おろち)に向かって思いっきり魔力を吐き出す。 吐き出された炎は家を焼き、道を融解させる。 その威力は恐ろしいほどであった。

 

 

「……嘘でしょ?」

 

 

 しかし、巨蛇(おろち)は健在であった。 あれほどの攻撃に傷一つ無く佇んでいたのだ。

 

 

『強力な魔法障壁が展開されているのか。』

 

「そうは言っても常識外れすぎるでしょ。 この火力に耐えるなんて反則よ!」

 

 

 対龍用に用意していたにしては、その出力は過剰すぎた。 まるで私が同調(ポゼッション)を身に着けて攻めて来るのを予想していたかのように。

 

 

『しかし、あの魔法障壁を展開するのにもかなりのエネルギーが必要なはずだ。』

 

「攻撃と防御を両立出来ないってわけね。 そうなると攻撃前にチャンスが出来るわけだけど……」

 

 

 問題は発射直前の魔力をどうするかだ。 そのまま破壊してしまえば、簡単に首都の2/3は吹き飛んでしまうだろう。 味方への損害も計り知れない。

 

 

『魔法で巨蛇(おろち)を覆ってしまうのはどうだ? それなら最後の爆発も最小限で押さえられる。』

 

「そうね、そうしようか。」

 

『ただしかなりの魔源(マナ)を消費するのは覚悟しておけよ。』

 

「わかってるって!」

 

 

 一度巨蛇から距離をとる。 援護で他の龍達も巨蛇(おろち)を攻撃するが、魔法障壁の前に歯が立たない。 更には戦闘機の数がどんどん増し、弱いとはいえ非常に鬱陶しい。

 

 

「次はさっきよりもパワー上げるわよ。」

 

『分かってる!』

 

 

 再び巨蛇(おろち)の砲身に魔力が集まり始める。 私はそれに合わせて距離を一気に詰める。

 

 

「邪魔よっ!」

 

 

 こちらに飛んでくる戦闘機を右手を振り下ろして撃墜する。 まるで玩具のようにくるくる回転しながら地面へと衝突した。

 

 

「私がやらないとっ! ”トルネード”」

 

 

 邪魔者を排除して更に巨蛇(おろち)の喉元へ……

 

 

「他に誰がやれるっていうのよ!!」

 

 

 巨蛇(おろち)の砲身の真下へ到達し、私は両手を広げる。 それと同時に辺りを光の壁が覆った。 これでこの空間内には私とこのポンコツしかない。

 

 

「ブッ潰れなさいよっ! ”龍の息吹(ドラゴン・ブレス)”」

 

『魔法障壁展開!』

 

 

 大きく開いた口から、再び劫火が放たれる。 今度は魔法障壁の展開前に巨蛇(おろち)へと攻撃が炸裂する。 それと同時に閃光と爆炎が空間内を支配した。

 

 

「……一昨日きやがれってのよ。」

 

 

 煙が止み、瓦礫の上に腕を掲げて佇む翡翠色の龍が姿を現す。 ――紛れもなく私達だ。

 

 

『俺が魔法障壁を展開しなきゃやばかったな。』

 

「ほんとね、助かったわ。 でも流石に……」

 

 

 ――身体を疲労感が襲う。 かなりの魔源(マナ)を消費したようだ、流石に少し回復させないと厳しいかもしれない。

 

 

『休まず地上部隊に合流するんじゃなかったのか?』

 

「そのつもりだったけど、流石に疲れたって……」

 

『なら、いい方法があるぞ?』

 

「いい方法?」

 

『あぁ、恐らくは誰も試した事の無い方法だがな……』

 

「――面白そうじゃない。 やろう。」

 

『即答だな!?』

 

 

 新しいものに興味が尽きないお年頃なのよ! とは言えずにいたが、やはり翡翠には伝わってしまっているらしい。 クスクスと笑っているのが感じられる。

 

 

「笑ってないで早く教えてよ!」

 

『悪い悪い! まぁ簡単に言ったら逆の同調(ポゼッション)をやるんだ。』

 

「逆? 喧嘩でもするわけ?」

 

『お前ってほんと馬鹿だな…… つまり俺がお前の中に入るんだ。』

 

「なんですと!」

 

 

 別な意味で危ない発言のようにも聞こえるその言葉に、私は顔を真っ赤にする。

 

 

『んな事じゃないぞ! この変態が!』

 

「うるさい! 翡翠の言い方が悪いんでしょ!」

 

『あぁもう分かったから――やるぞ!』

 

 

 全身が暖かな光に包まれる。 これは同調(ポゼッション)の時と同じ感覚だ。 しかし、違う所があるとすれば……自らの身体が縮んでいく感触がある事だ。

 

 

「……そういう事ね。」

 

 

 光が収まる頃には、私はいつもの身体に戻っていた。 ただ普段とは違い、翡翠色の鎧を纏っていて、体中から力が溢れてくるのを感じる。

 

 

『これならば魔源(マナ)を回復しながら戦えるはずだ。』

 

「省エネモードみたいな感じね!」

 

 

 私は腰に差した刀を抜き放つ。

 

 

「綾香さんも一緒に戦ってね。」

 

 

 刀に向かってそう語り掛けた私は、地上部隊の向かっている大統領官邸へと急いだ。


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