Dragons Heart   作:空野 流星

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第二十話 銀華、命燃やす時

「見ろ! 巨蛇(おろち)が破壊されたぞ!」

 

 

 首都での爆発音と煙、その先で見えたのは瓦礫となった巨蛇(おろち)の上に佇む翡翠色の龍の姿だった。

 それを見た兵士の一人が声を上げたのだ。

 

 

「これなら勝てる、勝てるぞ!」

 

「勝利は目の前だ!」

 

 

 兵士達の士気は最高潮だ。 そして、進攻の邪魔をする魔導兵器も完全に破壊された。 今が絶好のタイミングだ。

 

 

「よし、全軍突撃だ! 門をぶち破れ!」

 

 

 私の指示で兵士達が一気に突撃をかける。 何十人もの偉丈夫が門に向かってタックルを繰り返す。 その度に木の門はミシミシと悲鳴を上げる。

 

 

『せーのっ!』

 

 

 門が砕け散り、一気に中へと流れ込む。 私と黒翼が先導して市街地を駆けて行く。

 街はまるでゴーストタウンのように静まり返り、人一人見当たらない。

 

 

「民間人が見えないのはいいとして、兵士までいないのはどうなっている?」

 

「航空戦力も全て無人機のようだし、何か罠の可能性も――」

 

「待て、何か気配を感じる。」

 

 

 その気配はいきなり現れた。 数は――ざっと30という所か。 完全に包囲されてい。

 

 

「銀華下がれ! 私が相手をする!」

 

「黒翼!」

 

 

 黒翼は斧槍を構えて攻撃の体制に入る。 それと同時に気配達は一斉に襲い掛かって来た。

 その姿は狼のようなモノであったり、ゼリー状の何かであったり、ネズミの化け物であったり……

 

 

「ふっ――!」

 

 

 槍斧を振るい飛び掛かる化け物達を切り捨てる。 他の兵士達も応戦を始めた。

 

 

「なんだコイツらは!?」

 

「恐らくは……」

 

 

 同時に3匹を切り捨てて、銀華と背中合わせに立つ。 同時に銀華も1匹殴り殺した。

 

 

「太古に生息したと言われる生き物――”魔物”だ。」

 

「なんだそれは?」

 

「人に害を成すモノ、邪悪なる竜の僕…… 色々な言い伝えはあるが、敵なのは間違いない。」

 

「つまり麗明の私兵共という所か。」

 

 

 更に飛び掛かって来た魔物に渾身のストレートをお見舞いする。 狼のような顔は醜く潰れて破裂した。

 

 

「気配がどんどん増えている、このままではジリ貧だな。」

 

「――私とお前、二人いれば麗明と戦うのは充分だと思わんか黒翼?」

 

「いや違うな、私一人で充分だよ。」

 

「お前、何を言っている!」

 

「銀華、お前は兵士を連れて陽動に回ってくれ。 麗明は私が必ず仕留める。」

 

「ふざけるな!」

 

 

 黒翼はそっと銀華に顔を寄せると、耳元で囁く。

 

 

「お前には、お腹の子を守ってもらいたい。」

 

「な、何故知っている!」

 

 

 銀華は顔を真っ赤にして叫ぶが、黒翼は余裕の笑みを浮かべながら再び斧槍を構える。

 

 

「私はそこまで鈍く無いのでな。 それに時空龍の生殖についても調査済みだよ。」

 

「このっ…… 確信犯め!」

 

「それだけ元気があれば大丈夫だな、頼んだぞ!」

 

「こらっ、待て黒翼!」

 

 

 黒翼を追いかけようとするが、魔物が邪魔をして前に進めない。 倒しても倒しても次々に魔物は湧き出てくる。

 

 

「くそっ…… お前達! 互いに背中を守りながら対処するぞ!」

 

『はい!』

 

「黒翼、死ぬなよ……」

 

 

 私は一度呼吸を整え、魔物達を睨みつけた。

 

 

「お前達はここで皆殺しにしてやる、黒翼の元には絶対に行かせない!」

 

 

―――

 

――

 

 

 

「だいぶ銀華が暴れてくれているようだな。」

 

 

 銀華の陽動が効いているのか、黒翼が向かう先には魔物は少なかった。 この調子ならば、かなりの体力を温存しておく事が出来る。 相手はあの麗明だ、万全の状態を保つに越したことはない。

 

 

「はぁ……はぁ…… ここか。」

 

 

 目の前には高さ5mほどもある扉が聳え立つ。 この先の通路を進めば謁見の間に辿りつく。

 扉を開けようとした途端、勝手に扉が開く。 開かれた先の通路には誰もおらず、更には通路奥の扉も開いた。 まるで中へと誘うように……

 

 

「麗明……」

 

「ふむ、もう私を王とは呼んでくれないのか?」

 

 

 玉座に腰掛ける者、クラディス王は平然な顔立ちでそう言い放つ。 まるで何も知らないと言いたげな態度に、黒翼は怒りがこみ上げるのを感じた。

 

 

「よくもそんな事を! 裏切ったのはお前だ!」

 

「ほう、私が何を裏切ったというのだ? 私の行為はいつも黒竜族の未来を考えての事だ。 此度の戦いも黒竜族のため、お前こそ分からないのかアフラム?」

 

「お前のその言葉に、どれ程の兵が騙されて命を落としたか……!」

 

「私の元に戻る気はないと?」

 

「元より貴様を討つ気で来た!」

 

「――つまんない答え。」

 

 

 クラディス王の声は、一瞬で少年のものへと変化した。

 

 

「折角僕の兵士にしてやろうと思ったのに、残念だよ!」

 

「っ!?」

 

 

 物凄い魔源(マナ)の流れ――まるで嵐のように建物内を渦巻いている。

 

 

「死んじゃえよ、お前――」

 

「死ぬのはお前だ!」

 

 

 麗明の放った魔法を斧槍で叩き斬る。 更にリーチの長さを利用しての横薙ぎ――

 

 

「へー、すごいすごい。」

 

「くそっ!」

 

 

 止められた、指一本で! 切っ先を指一本で押さえられ、それ以上動かす事が出来ないのだ。 なんという化け物なのだ!

 

 

「中級魔法程度じゃダメかぁ、武術だけでそこまで出来るのは凄いと思うよ。」

 

「褒められても全く嬉しくないな。」

 

 

 一度後ろに飛び退いて距離を開ける。 なんとかスキを見つけなければ。

 

 

「素直じゃないなぁ、じゃあこれはどう?」

 

「……同時に3つの魔法を発動させるだと。」

 

 

 それは明らかに人間の限界を超えた技だった。 やはりコイツは、人の皮を被った化け物なのだ。

 

 

「全部捌けるかな?」

 

 

 そう言って玩具を投げつける子供のように強大な上位魔法を放つ。 私は渾身の力を込めて槍斧を振るった。

 飛来した氷の刃を砕き、竜巻を振り払う。 しかし、3つ目の雷を止めるのは間に合わない……

 

 

「バイバイ。」

 

 

 自分が出来る精一杯の魔法障壁を展開するが、紙切れのように簡単に砕け散って吹き飛ばされる。 そのまま背中から壁に激突する。 その衝撃で何本か骨が折れたのを感じた。

 

 

「げほっ……」

 

 

 盛大に鮮血を吐き出す。 内臓もかなりやられたようだ……

 

 

「じゃあこれで止めだよ。」

 

 

 奴が右手を掲げると岩の槍が現れ、真っ直ぐとこちらに向かって――

 

 

 ガキン!

 

 

「また会えたわね、麗明!」

 

「……ふふっ、ははは!! まさかまた来てくれるなんて思わなかったよ!!」

 

 

 自らの身体を貫くはずだった岩の槍は砕け、目の前には翡翠色の鎧を纏った少女が立っていた。

 

 

「あとは任せて、私が必ず倒してみせる!」


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