Dragons Heart   作:空野 流星

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第二十一話 麗明という男が求めたモノ

「凄まじい力だよ、前に会った小娘とは別人だね!」

 

「それって褒めてるわけ? ぜんぜん嬉しくないけど。」

 

 

 私は天羽々斬を構え直し、麗明の様子を伺う。 ――ニヤニヤと不気味に笑うだけで、こちらに仕掛けてくる様子はない。

 

 

「ここは私に任せて逃げて!」

 

「君一人にそんな……」

 

「そんなボロボロの身体じゃ足引っ張りなの!」

 

 

 私は大きく踏み出して麗明に切りかかる。 麗明は右手を正面に掲げ、魔法障壁を展開してその攻撃を防ぐ。

 

 

「早く行って!」

 

「くっ……すまない!」

 

 

 そう言ってふらつきながら後退していく。

 

 

「お仲間が大事なんだね。」

 

「あら、貴方にはそんな友達はいないわけ?」

 

「そんなものは必要ないのさ!」

 

 

 麗明は魔源(マナ)を収束させ、至近距離で爆発させる。 私はすぐに魔法障壁を展開して爆発を防ぐ。 それと同時に右側に大きく跳躍し、魔法を放つ。

 

 

「”ライトニング”」

 

 

 避けるまでもないと言わんばかりにわざと私の魔法を受ける。 ――魔法は彼の目の前で掻き消えた。

 

 

「その程度の魔法、僕に使うだけ無駄だよ。」

 

「今のは魔法障壁じゃない…… 何か魔法を無効化する物を身に着けてるってわけ。」

 

「そういう事だね、僕を倒したいならその刀しかないよ。」

 

「そうみたいねっ!」

 

 

 ――私はもう一度大きく踏み込む。 もっと早く、もっと強く! 袈裟、横薙ぎ……何度も連撃を加える。

 

 

「ふふっ、いいね。」

 

「アンタは、何考えてるわけ!」

 

 

 首筋を狙った斬撃――しかし、麗明の手のひらで受け止められてしまう。

 

 

「知りたいかい? 僕の目的を。」

 

「折角だから聞いておきたいわね。」

 

 

 どんなに力を入れても刀は動かない。 この少年のような姿の彼のどこにそんな力があるのだろうか。

 

 

「僕はね、ただ飢えを満たしたいのさ。」

 

「はぁ? 何言ってるわけ?」

 

「僕はこうやって命のやり取りをしてる瞬間に喜びを感じるのさ。 だから平和な世界よりも争いの世界を望んでる!」

 

「馬鹿じゃないの!?」

 

 

 魔力を込めて思いっきり刀を振り下ろす――受け止めていた麗明の指を切り落とし鮮血が飛び散る。

 私はそのままの勢いで逆袈裟――麗明はバックステップでそれを紙一重で回避する。

 

 

「そうだよ、このギリギリがいいんじゃないか! 君だって同じなんだろ!」

 

「何を!」

 

 

 斬撃と魔法の剣舞――それはきっと、この世の全てが邪魔できない戦いだった。

 

 

「君だってその力を手に入れるために兄を殺したのだろ?」

 

「――なんでその事を!」

 

「僕は何でも知っているんだよ。 君達の一族の事、そのルーツ……そして嵐春の思いもね。」

 

「出まかせばっかりで…… なんだってのよ!」

 

「君達の一族を黒竜の監視と定めたのも嵐春だ、君は彼女を恨まないのかい?」

 

 

 巨大な炎の玉が3個飛来する。 私は横薙ぎの斬撃で3つ同時に真っ二つに斬り捨てる。

 

 

「確かにそれで私達は不自由な生活を強いられたのかもしれない。 でも、それを恨んだ事なんてない! だって、彼女はきっと黒竜達の未来も考えていたから!」

 

「そんな綺麗事を並べても、君の心は恐怖で一杯だ。 家族を殺した罪に震えているのさ!」

 

『エリカ!』

 

「分かってる、私は一人じゃない。 だから――前に進める!」

 

 

 速度を乗せた突きを繰り出す。 切っ先は麗明の肩を貫通し、壁へと激突する。

 

 

「こんなに楽しめたのは、翔子とのゲーム以来だよ。」

 

「アンタの好き勝手で……何人犠牲になったと思ってるのよ!」

 

「僕にはその権利がある。 君達とは違うんだ…… 僕は選ばれし神の一人なんだよ。」

 

 

 今すぐにでもコイツの心臓を抉りだして握り潰してやりたい。 手足をもぎ、両目を潰し、晒し首にしてやりたい……

 

 

『エリカ落ち着け!』

 

「何が神よ、アンタはもう終わりよ。」

 

「君が望めばそうなるだろうね。 でも、君は僕に期待している。 僕の力ならば過去を変えられるかもしれないって。」

 

「何を言って……?」

 

「僕について桜花の村で調べたんだろ? 遥か古代の戦いに登場する”ティアマト”を……」

 

 

 私は無言で彼の左腕を切り落とした。 それと同時に治癒魔法で傷口を塞ぐ。 彼にはまだ死んでもらっては困るからだ。

 

 

「……」

 

「”ティアマト”は事象に干渉する事も出来る。 それならば、あの日の事象に干渉すれば全て無かった事に出来るんじゃないか、ってね?」

 

「――どうせ出来ないでしょ。」

 

「完全復活すれば可能さ。 まぁ、かつてその完全復活を邪魔されちゃったわけだけど。」

 

 

 コイツは危険だ、絶対に復活させてはならない。 私の本能はそう告げていた。

 

 

「そう、その結果が黒竜の守り石の中身――アンタの本体ってわけね。」

 

「そういう事さ。 既にここに移動済みさ。 あとは世界が恐怖と絶望に染まれば、僕の力は完全復活する。」

 

「降伏する気はないのね?」

 

「ありえないね。 むしろ君こそ僕の仲間にならないかい? きっと僕達ならこの世界――いや、奴にだって打ち勝てる。」

 

 

 ――私は刀を握る手に更に力を入れた。

 

 

『エリカ、本当にいいんだな?』

 

「コイツはここで殺さなきゃいけない、絶対に自分の意見を変えないから。」

 

「さあ、君の答えを聞かせてくれ!」

 

『……わかった。』

 

「私の答えは――」

 

 

 今までの思い出が走馬灯のように流れる。 辛い事ばかりだった…… それでも、たとえ間違いだらけでも私が選び取った選択なのだ。 それを無かった事にはしたくない。 もし目の前にその力を手に入れる方法があったとしても、私はそれを――選ばない!

 

 私は、麗明の心臓に刀を突き入れた。 肉を裂く感触が刀を伝って手のひらに感じる。

 

 

「本当に、君は……」

 

 

 麗明のその言葉と、天羽々斬が折れたのは同時だった。

 

 

「ばっかだなぁぁぁぁぁ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 物凄い魔源(マナ)の嵐が吹き荒れる。 それは視認出来る程の濃い漆黒……

 

 

「ころすぅ! こわすぅ! タノシイ! あひひひへぇぇぇぇええ!!」

 

 

 壊れたかのように麗明が笑い出す。 目から血の涙を流し、首はありえない方向に何度も回転して……

 

 

「チガゥ! ボクは! 僕ガ一番ナンダ!!」

 

『まずい、これ以上ここにいるのは危険だ!』

 

「でも麗明に止めを刺さないと!!」

 

『このままだと塵一つ残らずに消されるぞ!』

 

「くっ!?」

 

 

 私は麗明に背を向けて外へと走り出す。

 

 

「入っテくるナー! ボクが! 僕ダケガ王なンダぁ!!」

 

 

 麗明の悲痛な叫びは、建物が完全に崩れるまで続いていた。


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