Dragons Heart   作:空野 流星

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第二十二話 決着の先に待つ未来

「アイツ、どうなったんだろ。」

 

『あの怪我の状態を考えても、脱出出来たとは思えないな。』

 

「そうだよね。」

 

 

私は力が抜けてその場に座り込んだ。 ついに、あの麗明を倒したのだ!

 

 

「私達、頑張ったよね?」

 

『そうだな、よくやったよ!』

 

「だよね! あんなに凄い奴を倒したんだもん! でも、大事な刀――折れちゃった。」

 

『それは仕方ないさ、元々麗明を倒すために用意したものだしな。』

 

「そうね…… お疲れ様、天羽々斬。」

 

 

 私は切っ先の折れた刀を鞘へと戻した。 このまま家宝として大事にするのもいいかもしれない。

 そんな事を考えながら空を見上げる…… いつの間にか太陽は雲に覆われ、ぽつぽつと雨が降り出した。 小さな雫は私の頬を伝って――地面に落ちる。

 

 

「このままじゃ風邪引いちゃうね…… 帰ろっか翡翠。」

 

『そうだな――皆で帰ろう。』

 

 

 私はゆっくりと立ち上がり、龍の姿に変身しようと――

 

 

「っ!?」

 

 

 ――背筋に悪寒が走る。 この世全ての悪意を全て?き集めたかのような負の念、そんな感じの気配だ。 私はゆっくりと後ろを振り向く……

 

 

「何よ、アレ……」

 

 

 そこには、漆黒の龍が立っていた。 目が合った瞬間、ソレが笑ったように見えた。

 

 

『エリカ!』

 

「うん!」

 

 

 私達は瞬時に龍の姿へと変身すると、漆黒の龍に向けて大きく口を開く。

 

 

「”龍の息吹(ドラゴン・ブレス)”!」

 

 

 こいつは存在させてはならないモノ、恐らくはティアマトの本体だ! 直観的にそう感じた。 それと同時に、遺伝子に刻まれた恐怖が胸を締め付ける。

 

 

「――無駄ダ。」

 

「嘘!? 全く効いてない……」

 

 

 魔法障壁も張らず、まるで何もなかったかのように平然と奴はそこに立っていた。 これがティアマトの真の力だとでもいうのだろうか? だとしたら私達は……

 

 

『諦めるな。』

 

 

 漆黒の龍に馬乗りになって押さえつける。

 

 

『まだ手はある! ただそれには皆を避難させる必要がある。』

 

「……そういう事ね。」

 

 

 すぐに翡翠の考えは理解出来た。 確かにその作戦を実行するためには、皆にはここから離れてもらう必要がある。

 

 

魔源(マナ)にメッセージを乗せて放出すれば――』

 

「皆にも伝わる筈!」

 

 

 私は無理矢理大地から魔源(マナ)を?き集める。 魔法の発動には足りない濃度だが、メッセージを送る程度なら十分だ。 自身の魔源(マナ)を使わないのは、この後を事を考えての判断だ。

 

 

「お願い皆……ここから今すぐ離れて!」

 

 

 私の声が風に乗って辺りに広がっていく。

 

 

「ガァァァ!」

 

「くっ!」

 

 

 今度は逆に馬乗りされる側になる。 右、左、と何度も拳を振り下ろしてくる。 私は両手で顔を覆い、その拳を防ぐ。

 

 

「”龍の息吹(ドラゴン・ブレス)”!」

 

 

 反撃に出るも、やはり効いている様子はない。

 

 

「――このっ!」

 

 

 思いっきり右拳をお見舞いする。 物理攻撃は有効なのか、相手が少しよろける。 私は間髪入れずにもう一撃拳をお見舞いする。

 

 

『くそっ、まだか!?』

 

 

 魔源(マナ)の動きから、皆がここを離れているのは分かる。 あと5分もあれば……

 

 

「ナゼ、抗ウ?」

 

「決まってるでしょ、皆生き残りたいからよ!」

 

「理解フノウ、肉体ノ生ニ意味ハナイ。」

 

「それはアンタの考えでしょうが!」

 

 

 左手の爪を振り下ろす。 互いの爪がぶつかり合って火花が散る。

 

 

「コレハ不変ノ真理、何故ワカラヌ。」

 

「そんなの分かりたくも無いわね! 人間ってのは自分勝手な生き物なのよ!」

 

「ナラバ、我ガ管理スベキダ。」

 

「勝手に決めないでよ!」

 

 

 もう両手の感覚がない。 右手は骨が折れて動かないし、尻尾は切り落とされて使えない。 殴られたダメージで片目も使えない。 それでも――

 

 

「アンタには、負けるわけにはいかないのよ!」

 

 

 思いっきり相手の首筋に噛みつく。 そのまま相手を組み伏せて身動きを封じる。

 

 

『なぁ、エリカ。』

 

「約束だからね!」

 

『わかってるよ……』

 

 

 限界まで溜め込んだ力を……解き放つ。

 

 

「翡翠っ、愛してる!!」

 

 

 二匹の龍を中心に閃光が広がっていく…… やがてその光は首都全てを覆い、更に広がり続けた。 逃げ延びた人々は、ただその光を眺めている事しか出来なかった……

 

 

 ロキア歴631年、人龍戦争は終結した。 ――この戦争に勝者などいなかった。 時空龍と白竜の連合軍は壊滅し、人間側も、首都から避難した者や地方に住む者達が僅かに生き残っただけだった。

 

 

―――

 

――

 

 

 

 ――彼は嘘をついた。 ずっと一緒だと約束したのに、彼は私を裏切ったのだ。

 目覚めた私は、海を漂っていた。 何故こんな場所にいたか等どうでもよかった。 何故なら、私は死んでいなければなかったからだ。

 最後の一撃、あれは2つのエーテル器官をオーバーフローさせて起こしたものだ。 つまり、自爆という事だ。 本来ならば、私も翡翠もその自爆によって命を落とすはずだった。 でも私は――生きている。

 

 

「嘘つき……」

 

 

 死ぬときも一緒だって、約束したのに…… 彼は――翡翠は私を置いて逝ってしまった。 お前には役目がある、その役目を果たせと言い残して。

 

 

「ずっと、一緒だって……!」

 

 

 涙がとめどなく溢れた。 裏切られた絶望、一人でいる事への寂しさ、止められなかった自分の不甲斐なさ……あらゆる感情が心の中でぐちゃぐちゃに交わって、私の胸を締め付ける。

 

 

「翡翠っ、翡翠!!」

 

 

 その名を呼んでも、彼は何も答えてはくれない……もう二度と。


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