私達は礼拝堂と呼ばれる場所に案内された。
木造の椅子が並び、かつて人々がここで祈りを捧げていたのだと想像できる。
天井には穴が空き、そこから日の光が差し込んで幻想的な雰囲気を醸し出している。
正面のステンドガラスに描かれているのは――四聖獣か。 確かロキア伝説に登場する聖なる獣で、なんだっけか? ともかく、私達の先祖に当たる存在だったはずだ。 その物語が神格化されて、神として崇められるまでになった――つまり、現在の四聖教だ。
「あちこちボロボロでしょ? それでも人が暮らすには問題ないんですよ。」
「はぁ……」
よく見ると床のあちこちに草花が生えている。 本当にここで生活しているのだろうか? 徐々に怪しさを感じてくる。
翡翠も同じような結論に至ったのか辺りを見渡しつつ警戒を怠らない。
別に、命の危機がわるわけでもないし、私はそこまで警戒する事はないけど。 ただ、普通ではないのかもしれない。
「お茶をお持ちしますので、適当な椅子に掛けてお待ちください。」
「ありがとうございます。」
とりあえず言われるがままに私達は椅子に座った。 窓から3人の子供がじゃれ合う微笑ましい風景が見える。 その中にさっきのラクスという名の少女も見えるが、お友達だろうか?
「元気な子供達でしょ? 三つ子なんですよ。」
「へぇ…… って三つ子なの!?」
戻ってきた母親は、お茶を私ながらとんでもない爆弾発言をした。
似てない、全然似てない!! なんで髪色も様々なのに兄弟なのよ、遺伝子どうなってるわけ! 唯一、あの大人しそうな男の子が母親に似てると感じるレベルだ。
「似てないでしょう? 私も不思議に思っているんですよ。」
「はぁ、でもそんな事ってありえるんです?」
ラクスは赤い髪だったし、男の子は銀髪、もう一人の子は青。 髪の色もそうだが、決定的に母親と違う箇所がある。 そう、イデリティスの民の血を引いているはずが、
もしも彼女の血を引くというならば、獣のような尾と耳を持っていなければおかしい。 もしくは旦那が人間であれば、あるいはこのようになるのかもしれない。
「実際そう生まれてきたのだから、ありえる話では?」
「そうだけど、なんかなぁ。」
納得いかないというか、ますます怪しさ満点なわけで。 受け取ったお茶に口をつける事も躊躇してしまう。
ああもう、私はなんでこんなに警戒してるんだ!
――まるで、怖い何かに怯えるように――
「ふふっ。」
彼女は妖艶に微笑む。 やっぱり、この得体の知れなさは正直怖い。
――なにやら外が騒がしくなった。 もう一度窓から外を眺めると、3人の子供に対峙して一人の女性が立っていた。 何故彼女がここにいるのが、正直分からない。
「出てこい
彼女――銀華は大声で叫んだ。
「まったく、相変わらずね。」
母親は立ち上がると、面倒だと言いたげな顔で銀華を迎えに行った。
―――
――
―
「なんだお前達、こんな場所にいたのか。」
「それは私達の台詞なんだけど。」
「親友の元に遊びに来ただけだ、何も問題あるまい。」
へぇ、親友なのか。 となると、かなりの年齢になるのではないか? 見た目は私と同じくらいなのに、歳は3桁ってやつですか。
「貴女は本当に昔と変わらないわね。 わがまま姫がそのまま大人になったって感じで。」
「なーに、そんなに褒めるな!」
違う、それ絶対に褒めてないから。 そういうのは皮肉って言うんですよ馬鹿王女さん…… まぁそれを分かって本人も言っているようだし。
「しかしあの子供達、お前の子供か!」
「そうよ、可愛いでしょ?」
「お前に似ていないから実に可愛いな! 名はなんという?」
「――赤髪の子がラクス、青髪の子がルナ、私と同じ銀髪の子がエインよ。」
頬を引きつらせながら我が子の名前を教える。 あれは結構怒っていそうだ。
「ほほぅ、全く覚えられんな!」
時空龍族は”禁名”じゃないと名前を覚えられない習性でもあるのだろうか。
ちなみに禁名とは、名前に特殊な字体――漢字なるものを用いた名である。 これは時空龍達と契約を交わした時に決められたもので、私達は禁名を用いた名を名乗る事が出来ない事になっている。 時空龍扱いになる翡翠は別だが。
「ちょっと待て、何故お前は時空龍でもないのに禁名を名乗っている。」
長らく沈黙していた翡翠が口を開く。 言われてみれば確かにそうだ。 彼女は先程、”綾香”と呼ばれていた。 ――ただ勘違いで、”アヤカ”という名前だろう事も考えられるわけだが。
実際、私の名前もそうだ。 ”エリカ”という名前は”恵里香”という意味も込められている。 忌み名と呼ばれるもう一つの名前、これは私達にも時空龍の血が流れる名残としてある風習なのだという。
「それは簡単な答えですよ。 私が生まれたのが時空龍達が来るよりも前というだけです。 普段は隠しているんですけどね。」
「時空龍達がロキアに現れたのは500年も前だぞ。 流石に笑えない冗談だ。」
「あら、時空龍だって千年も生きられるのだから、同じように長寿の生き物がいてもおかしくはないでしょ?」
「……」
それっきり翡翠は口を閉ざした。
「ところで、謁見はもう終わったんですか?」
「もちろんだ。 後日会議が行われる事になった。」
「なるほど。」
「それでだ、お前達に護衛を頼む事にしたぞ!」
「あぁ、はい――って、なんでそうなるわけ!」
どうやらまだ、私達は解放されないようだ……
~ロキア伝説~
4匹の神獣と一人の巫女が世界を救う物語である。
この物語はロキア創世神話として語られ神格化されている。
この4匹の神獣――四聖獣がロキアの民の祖先であり、敬うべき神であるという教えが四聖教と呼ばれるものであり、国教である。