華奈「アサギさん! ええ、これならいけるでしょう!! ただ、3部隊のうち本来はもっと脱出路の守りにメンバーを裂くべきなんですが、ゆきかぜさんの分もあるのでそこは小太郎君たちに期待ですね」
アサギ『それについてだけど、さくらが任務を終わらせてすぐにここに向かっているわ。あやめたちの護衛に回ってヨミハラのリフトで守るよう手配しておく。これで大丈夫かしら?』
華奈「・・・・・・・最高ですよ・・・本当・・・」
(涙ボロボロ)
アサギ『普段は私たちが救われているもの。それに私は井河の頭領よ? 大切な仲間のため。少しの無茶は通します』
華奈「ありがとうございます・・・では、作戦開始1時間前なのでこれで失礼・・・必ず戻ります」
アサギ『・・・結果報告、楽しみにしているわ』
(通信を切る)
ヨミハラという場所では太陽などが射さない地下ゆえにどうしても時間間隔がつかみづらい。それゆえにいつでも大騒ぎの乱痴気騒ぎがそこかしこにあるのが常。そんな中静かに時計の針を合わせ、作戦開始5分前に各所に移動していく影。
『こちら配置完了・・・いつでも行けます』
『了解です・・・こちらからカウント30してから突入。いいですか? 派手なものではなく静かに・・・そして、すぐさま外の門番も封殺すること・・・いいですね?』
『了解です』
対魔忍スーツの上からローブを羽織り、顔にはマスクをしている紅。彼女の持ち場は裏口からの潜入と入り口の門番の無力化。その後は小太郎たちと合流してから互いに任務にあたるわけだが、即突撃とはいかず、陰でひっそりと待ち構える。
『カウント・・・・・・・30・・・29・・・』
始まったカウントダウン。外からでもヴァンパイアハーフの聴覚でわかる。男も女もバタバタと倒れ、ピクリとも動かなくなっていることが。
今回の作戦。念入りに時間をかけ、毒やメカを仕込み続けた華奈、諜報部隊の用意をまずは使用。昆虫、動物型の小型メカや獣遁の術で飼いならしたネズミたちで用意した超強力な睡眠ガス。それを仕掛けていた分、そして今アンダーエデンの天井から投入。
ヨミハラという環境ゆえに風通しは悪く、匂いがこもりがちだがアンダーエデンはそのにおい対策やガスに対策を練るためにある程度の空気を清浄化する設備や換気扇もばっちり。そこを拳志、そしてハッキングに優れたメンバーでまずはその二つのコンピューターをハッキング。換気口を逆流させて外部へ押し出す空気を逆に流し込み、少しでも効果が弱まらないようにその直後に清浄器もハック。操作。
そこからガスが充満し、たとえ密閉、隔絶された部屋でもメカを使ってガスを散布。
ある程度無力化が出来たところで今度は突入路の監視カメラの無力化。
『・・・・・3・・・2・・・1・・・スタート』
華奈のスタートの号令と共に華奈がアンダーエデンのそこかしこに仕込んでいたワームや虫型のメカを監視カメラの前で自爆。警報の類も完全に無力化を成功。
「よしっ・・・!」
刀を構えて突入し、そこかしこで眠りこけているアンダーエデンの店員や客、奴隷娼婦たち。客の中には紅でも知っているような政治家たちもいる始末でそのまま刃を振るいたかったがそこを抑え、用意していたワイヤーや筋弛緩剤を片っ端から首に打ち込み、両手足を拘束していく。
『いよぉーし、監視室のハックと完全制圧完了』
『こちらも淫魔族がやっていた定期連絡をしたのを確認した後に制圧完了。これで最大1時間、この騒ぎに感づいても・・・20分ほどは稼げるかと』
「了解・・・シッ!」
「なっ・・・」
「ぐほっ・・・」
拳志、縮地で即座に隠れ家から移動していた華奈の二人によってアンダーエデンの情報は全てこちらの手に渡ったのを確認しつつ、紅も早速表の門番二人に鉄拳制裁で気絶させ、店の中に引きずり込んで筋弛緩剤を投与、拘束。
今回、なぜか相手を殺すのではなく無力化のみにとどめるように言われていることに諜報部隊は愚か紅たちも疑問に思っていた。これほどの魔族でも戦闘に優れたメンバーをなぜ生かしているのだろう? と。
「・・・まあ、先生の事だ。なにか考えがあるのだろう」
下手に考えて変な行動に走るのはご法度。今は役割を果たそう。思考を切り替えた紅はアンダーエデンの入り口を閉じ、その前に扉に『開店準備中』の看板を掛けておいて内部に移動。
「小太郎、骸佐。状況は?」
「2階は制圧完了。とりあえずだが部屋に客も店員も押し込んで扉をロープで開けられないようにしておいた」
「1階も同じく、しかし・・・いや、楽なのはいいんだが・・・これ、本当に魔界騎士の見習いか?」
合流した小太郎、骸佐も仕事を終わらせて次のステップまでのわずかな間なのか軽口をたたきつつ武器を確認。そして、骸佐が持っていた、いや引きずっていたものに目が行く。
茶髪でかわいらしい顔立ちの美少女。特製のぶっといワイヤーで簀巻き状態にされているがそれでもわかるほどの見事な肢体。そして骸佐が持っているこの女のだという剣もこれまた見事な業物。
リーナと呼ばれるここアンダーエデンに配置されていた魔界騎士の見習い。見習いとはいえ魔界騎士を名乗れるほどの実力者がこうもまあ気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てていることに彼女が抜けているのかそれともこの作戦がうまくいきすぎているのかわからずマスクの下で苦笑を浮かべる紅。
「まあ、順調なのはいいだろう。薬は?」
「念のために特濃を3本ぶち込んだ。剣も取り上げて米連の合金から作ったワイヤーでの拘束。・・・油断は出来ねえが、一応できる限りのことはしたとは思う」
「よし・・・・全員の拘束ができたな・・・ん。おい、二人とも。次の任務だ」
制圧の確認をしていた小太郎の持つ端末にうつる映像。そこにはあえて残していたアンダーエデンの外部への監視カメラの映像。
制圧は成功。けれどこれに気づいたノマド、淫魔の双方が動く可能性、華奈の提示した最低の時間以上に早く来る可能性もまた充分にあると皆が想定。これを見た骸佐もすぐにリーナを部屋の一角に放り込んで厳重に扉を封鎖。
既に捕り物を終えた諜報部隊のメンバーと共に二人一組となってそれぞれが扉の前で待機、いつでも戦闘にうつれるようにしていく。
「お待たせしましたね。不知火さん」
「待っていたわ・・・華奈ちゃん」
さてさて開始しましたアンダーエデン制圧作戦。矢崎の阿保はすでに捕縛。リーアルから受け取っていたゆきかぜさんの爆破スイッチも拳志とメンバーに渡せば数秒で解除解体。いやあ、さすがは拳志たちです。確か、以前にお遊びで作ったシステムで米の国のシステムハックして偉い騒ぎになりかけたんでしたかね? これくらいならお茶の子さいさいと。
とりあえずはゆきかぜさんもリーアルも矢崎もぐーすか夢の世界なのを確認してから不知火さんのところに移動。ちなみに私もマスク、幻影対策のコンタクトをつけての参上です。
「では、お姫様の身柄を失礼・・・」
「ん・・・しっかりとエスコートしてね?」
首に筋弛緩剤、一時的な睡眠薬を打ち込み、更にはオーガや鬼族の拘束に使う専用の拘束具で不知火さんを拘束。念入りに再度何らかの仕込みがされていないかをチェックして無事なことを確認。ナノマシンや『イブ』はこちらで用意した容器に入れて私の部隊の双子の獣遁使いにパス。
『姐さん。制圧完了。イブとやらのサンプルはゲットした』
『か、数は10個ちょいだけどねー・・・』
『十分です。それを桐生さんにでも渡して『これで下手すれば淫魔族、紫さんもいずれ手籠めにするつもりだったらしいですよ。そうされないために解析と対策お願いします』といえば即調べ上げてくれるでしょう。・・・少し賑やかにするつもりですので警戒を上げてください。小太郎君たちは?』
思わぬ収穫も入手完了そしてほかのほうに耳を澄ませても大丈夫だとは理解していますけど念のために。
『いい手並みだったぜ。あと・・・そうだな。半年もすればうちの部隊に組み込んでの研修もいいかもしれない』
『私たちは忍術での強行突破が難しいからそこら辺の作戦の幅が広がりそうかなあと・・・』
高評価。と。この二人が認めるのならほかでも同じ意見でしょうね。一度不知火さんは寝かせ、武器も念のために没収。
さて、と・・・今度はゆきかぜさんの部屋ですね。
「ほーら・・・起きなさい・・・ゆきかぜさん・・・」
「おかあさん・・・先生・・・・」
矢崎をリーアルと仲良く店長室に放り込んでおいて調教用のメカからゆきかぜさんを解放して頭を撫でまわすことしばらく。なかなか目を覚ましません。
矢崎に見られながらの調教という状況を1日、しかも魔族の戦士階級でも堕ちるものを耐えたのはいいですが、そこまで心の支えにしていた不知火さんや私の事。嬉しいですが、同時にそこまで思うのに自分の無謀さを顧みないのは少しただけないですねえ・・・
「お・き・な・さ・い・・・?」
「ヒエッ!? ち、遅刻!!? あ、え・・・・・先生・・・なんで・・・? え、私・・・」
「助けに来ましたよ。不知火さんも一応は無事。それと動かないように。疲労具合が大きいですからね」
昔遅刻しそうになる時によく使った声色で呼びかけると一発で起床。まあ、そりゃあそうですよね。目の前に汚いおっさんがいて自分が辱められていたと思えば突如意識を失い、目が覚めたら私とか。幻覚か何かに思えてもいいわけで。幻覚でもなくちゃんとした現実ですがね。
「・・・ごめんなさい・・・先生・・・私・・・」
「説教は後。私はまだすることがあるので。拳志。二人を頼みましたよ」
「はあーいよ。不知火さんも無事だし、イッヒヒ♪ 美女二人のエスコートとは役得だねえ」
「護衛にうちの爆弾娘もいることを忘れないでくださいよ?」
「おぉー両手に花どころじゃないねえ。リア充爆発しろにならないようにするさ」
そう言ってすぐにゆきかぜさんを連れて不知火さんとは別の場所に移動していく拳志。ちゃんと用意していた防刃、防弾性の布とタオルケットを使ったのはグッドですよ。
お次は私の師匠と教え子を辱めた矢崎とリーアル。欲しい情報はたくさんあるのでそれこそゴッソリ絞りましょうかね・・・うふふふ・・・・
~これより先大変お見苦しい内容なので音声だけでお届けします~
華奈「さてさて・・・これを注射してーおきなさーいくそども」
(自白剤と媚薬、もろもろを矢崎、リーアルに注入)
矢崎「はっ・・・ここはいったい・・・」
リーアル「・・・な!? 華奈だと!? 何故貴様がここに・・・!」
部隊員1「動くな、俺はホモだ」
華奈「一度にしゃべらない。まずはここはアンダーエデン。そしてなぜ? 私の師匠と弟子を奪おうとしてよくもまあ・・・」
矢崎「私たちをどうするつもりだ・・・!」
リーアル「くそっ、なぜ護衛達は現れないんだ!?」
華奈「そうですねえ・・・不知火さんをずっと拘束していたことに関する慰謝料と罰。ゆきかぜさんを辱めた罰。そして日本政府を裏切るどころかその先のノマドまで裏切れるほどの情報。全て吐いて貰いましょうか。既にPCや金庫の中の情報はすべてすっぱ抜きましたしこちらで保管していますが、そちらの頭の中の情報は吐き出してもらっていないので♪」
矢崎「はっ! いずれ救援が来るさ、それまで耐えれば問題のないことよ!」
華奈「そうですかそうですか。ま、PCの中での情報は現在進行形でこちら側で手にしていますし、やりましょうか。ああ、そうですリーアル・・・いえ、利二。貴方がノマドに隠していた裏での資金流用に汚職、ノマドへの裏切り行為、とどめに淫魔族への兄弟仲良く裏切った事実もそちらが隠していたマイクロSDと情報端末で調べたので・・・救援が来ても地獄でしょうねえ?」
リーアル、矢崎「・・・・なっああ?!」
華奈「とりあえずはゆきかぜさんのナノマシンの排除。ほかの方へ打った奴隷のようなそれを取り除くためのものを吐き出してもらうために・・・お願いするわ」
部隊員1「ところでこいつを見てくれ・・・こいつをどう思う?」
部隊員2「もちもち肌も悪くはないな・・・良い肉づきだ」
矢崎「すごく・・・大きいです・・・ってまてまてまて!? なにをする気だ!?」
華奈「いや、ナニって・・・あなた方の経営する娼館でしょう? なら、オーナーとそのお兄さんも理解しているのでは? ああ、そうそう。自白剤とうその返事をすればその反応を誤作動として激痛が走る薬も打ち込んだのでいろいろ話すのが早いですよ?」
リーアル「ひっ・・・それだけは・・それだけはやめてくれぇ!!」
華奈「あっと・・・ボイスレコーダーもスイッチを入れて・・・まあ、自業自得ですよ。どうぞお楽しみを」
矢崎兄弟「「アッーーーー!!!」」
~五分後~
華奈「ほうほう・・・隠し扉の中に・・・ああ、これがナノマシン排出のものですか。とりあえず確認するためにゆきかぜさんを連れてきてくださいな」
部隊員3「了解です」
ゆきかぜ「せんせいが? いったい・・・どうし・・・キャアァアァアアアア!!?」
(泡吹いて気絶)
華奈「・・・あ、目隠し忘れていましたね。耳栓も。いやでも捕まった経緯を考えると使いたくなかったし・・・」
部隊員3「別にこれくらい本のネタの一つにでも・・・時子さんにでも送りましょうか?」
華奈「あの人はこっちのネタは好みではないそうなので。さてさて・・・・」
(ゆきかぜにナノマシン排出用の薬剤を注射)
華奈「これで・・・ふむ。嘘の様子もなければ投与した薬品での反応も無し・・・と。リーアル。隠し事があるのなら、これをよりひどい目に合わせますので。ああ、お兄さんのほうはまだまだ絞らないといけないこともあるのでもっとやってくださいな」
リーアル「ひぎぃいいっっぅつ!? ほ、本当です、それで売り出す際の奴隷娼婦のナノマシンを排出していますから・・・あおおぉおっ!!」
華奈「(嘘の反応なし。と・・・)」
~10分後~
華奈「・・・・・・・・・日本の現政権は疎か外国まで影響が及ぶ情報ばかり・・・・・これ、持ち帰った時の責任とか功績さくらさんに渡しましょうかねえ・・・そしてやはり情報がゆきかぜさんに届いたのは矢崎のせいと・・・」
というわけでかれこれ十分ジャスト。迫力満点かつイカ臭い話し合い♂と尋問会は終わりを告げました。いやあ。流石はうちのガチホモ。普段の紳士さをかなぐり捨ててくれました。うちの隊員の破壊光線♂を何度お見舞いしたことか。おかげで私の鼻もしばらくマヒしそうです。
もちろん収穫もばっちり・・・というか矢崎兄弟ひん剥いてボディチェックしまくって見つけた情報端末と彼らの頭の中の情報すべて吐き出させたらぶっちゃけこれだけで世界のお金持ち番付に即ランクインできるほどの資産と、とりあえず世界の一角が動きかねない情報が裏表問わずにいくつも。
日本でも黒いうわさが常に絶えず、それを黙らせていた資金力は伊達ではなかったということですかね。
話し合いも終わってすっかりナマモノ状態な矢崎ブラザーズ二人を拘束し、ついでに箱詰めにしておいて回収できるようにしておき、ガチホモ部隊員に矢崎ども。お腐れ様な女性隊員に気絶しちゃったゆきかぜさんをお任せしておいて連絡。
『作戦完了ですね。もう撤収していいですよ。脱出ルートは強硬プランのものを採用。あやめさんにも通達していますので支援射撃もすぐに届くでしょう。私も別ルートで向かいます』
『了解・・・それとだが、先生。淫魔族問わずノマドの戦力全てを生かしたまま残していいのか?』
『あ、それは俺も気になっていた。鬼族、オーガ、オークの上位に魔族・・・かなりの戦力だぞ?』
『そこはまあ、おいおい。用意が出来次第撤収を。拳志。先導を』
『りょーかい。ほれほれルーキーたち。いくよーん』
金庫の資金も大方抜いて、仕込みも良し、麻酔薬と筋弛緩で自分たち以外に動く連中も無し。それを確認したので早速連絡を入れることに。えっと・・・
数回のコールの後に出た声はダンディなお声なおじさま。
「おはようございますエドさん。ご機嫌如何ですか?」
『こうして電話するのは久しいな華奈よ。機嫌は・・・狼と猿とネズミが私の街を荒したという情報で少し報告でうるさくなりそうだと面倒な気分だ』
相変わらず余裕と底が見えない迫力を見せる吸血鬼。エドウィン・ブラック。流石に10数分アンダーエデンがこうも静かでは周りからの情報が届きますか。そして私の部隊が表立って動く。そりゃあ連絡の一つも入らないのがおかしいというもの。
「そうですかそうですか。こちらは師匠と弟子を救出できたので万々歳ですがね。で、まあ後は帰るだけなんですが・・・」
『取引がしたいと?』
「話が早い。此方からは私を含めたメンバー全員のヨミハラからの脱出。その際に『ノマド』は手出しをしない。それと、矢崎ブラザーズの後始末を頼みたいのですけど」
『不知火と華奈、そして諜報部隊に若い世代をみすみす逃がせとは大きく出たな。で、見返りは?』
「アンダーエデンの管理人リーアルとそちらのご友人の矢崎の淫魔族とのつながりを示す情報提供。裏の資金帳簿に汚職、アンダーエデンの資金流用。ひいては鷲津財閥とのつながりを通じての淫魔族の拠点情報。それと・・」
『これだけでもまあ、考えてもいいくらいだが・・・もう一つおまけをしてくれないかね?』
やはりこの方は商人としての踏ん切りもつけていることや淫魔族の事も嫌っていること、そして不知火さんと淫魔族の狙いを早くも気づいたようですね。こういうたぐいはなんやかんや流れに乗れば後は楽です。
「ちょっとだけですよ? 鷲津財閥の汚職の数々と、ついでにその執事が淫魔族。ここにも何度か足を運んでいますね。その証拠映像と資料。あとはここアンダーエデンに配置されていた淫魔族の身柄とノマドの戦力を無傷での引き渡し。特にイングリットさんの部下のリーナさん。貴重な魔界騎士の見習いです。切り捨てるのはもったいないのでは?」
『・・・貸しにしておこう』
私が生殺与奪を握っていることもすぐ理解。いいですね。それとリーナは一応エドさんの頭に残るくらいには実力もあるらしいと。
「では今度はこちらからお願いを聞いてくれた分のお返しを。後日矢崎ブラザーズはお返しします。どうぞ好きにお使いを。ああ、それと矢崎達。ここを証拠隠滅に燃やすつもりだったそうなので早めに戦力を向かわせるべきでしょうね。じきに竿師の連中も来ますよ?」
まあ、あらかたやること済んだので矢崎の子会社のタンクローリーパクってから持ち込んでアンダーエデンの水道の中身全てガソリンにしたり、淫魔族には10分後に連絡がノマドから届くように細工しただけですがねー
『そうか。私に貸しを二つも作るとは相変わらずだな。では早速朧やイングリットを向かわせよう。それと、今回はヨミハラの私の傘下は私含めて襲わないと約束する。・・・久しぶりに楽しい取引だった。表でもまた稼がせてもらうのが楽しみになるほどには』
外でこちらに爆走していたイングリットさんたちの気配も怒りの矛先がこちら以外に向いた感じがします・・・ふむ。交渉成立。ですね。声色も嘘の様子はないですし。どうせすぐにばれる情報でしょうけど、情報の鮮度の重要さを知っているゆえにすらすら進みました。
「こちらも存分に稼ぎますよ。それでは。また」
『ああ、失礼』
電話の電源を切って一息。疲れますねえ・・・会話一つでも。やっぱりあの重圧は電話越しでも面倒です。この後は電話していたスマホを窓に放り投げて銃を連射して粉みじんに破壊。
拳志たちも既に進んでいますし、情報を整理して、端末もって私も追いかけましょう。
「なんだ!? だいぶん追撃が少ない気がするのだが!?」
「大将が何かしたんだろ! 俺たちを追いかけるやつらを別ルートで殲滅しているとかな!」
物騒な電話会談をしている華奈とは少し場面変わってアンダーエデンから脱出して搬入リフト目指して走り抜けていく諜報部隊、そして小太郎ら学生組。華奈の交渉もあってノマドは襲わないとしてくれたがあくまでもそれはノマドだけ。それ以外でノマドからの許しを得ていたりする中小規模の組織、観光やただここに来ているだけの無法者や裏社会の連中はその対象外ということでそこかしこから湧き出ては襲い掛かる始末。
とはいえ諜報部隊も体術や武術はそれだけでも鬼族に引けを取らないほどに磨き上げられ、修羅場をくぐった数も数知れず。ノマドのように組織だった攻撃でもなく散発的にただただ数だけで襲う相手など勢いをくじき、同士討ちを狙いながら移動するなど朝飯前。
拳志も先陣を切りながら手にした銃の引き金を引いて敵を次々と射殺し、時には体術で相手を蹴り殺し、殴り殺し、身体を破壊していく。
学生組は不知火、ゆきかぜ、矢崎ブラザーズを抱える諜報部隊のメンバーのそばを固めるように走り、ヴァンパイアハーフの紅と骸佐の耐久力、防御力に秀でた二人が前と後ろを抑え、小太郎が討魔剣士と同じ改造二丁拳銃という幅の広い武器で援護射撃を行い足を緩めない。
しかし、相手もそれならばとスクラムを組み、鉄盾を構えて一つの波となって迫ってくる。
「小太郎! 私と先生のコンビネーションをやるぞ! 骸佐! 盾頼む!」
「おうよ! 先輩方ちょっと失礼するぜ!!?」
「了解っ。いいぞ!」
それにいち早く動いたのは学生組。骸佐を前に出し、紅は一度立ち止まる。それによって魔族側の盾の波とはある程度の距離ができる。そして骸佐の真後ろで小太郎が片膝をつき、紅と向かい合う形で手を前に組んで踏み台とする。
「はぁあっ!」
そこからは自身の身体能力と日々の鍛錬の積み重ねで見せる爆発的な脚力と加速。青と金色の弾丸となって小太郎目掛けて走り抜け、手に片足を乗せる。それに合わせて小太郎も体ごと両手を上げ、紅を敵の波のど真ん中に放り投げた。
「・・・・・絶技・旋風陣・剛!!」
敵の上空から振るうは紅の用いる得意技。旋風陣。風の歪みを切ることで真空の刃を纏った小型の竜巻を発生させる多人数にも使える大技。そこに、華奈の訓練も合わさることで更なる高みへと昇る。風の歪みを切るだけではなく。その歪みを斬りつつもその刃からも斬撃を飛ばし、さらにそこに本来の旋風陣で発生する真空の刃が重なり、より強力、より鋭い、より重い斬撃の嵐が発生。
華奈の剣術と心願寺幻庵の剣術の複合による飛ぶ斬撃を飛ばす剣術とに旋風陣を組み合わせた、特大の刃の数々。
たとえ敵が地中だろうと、核シェルターに籠ろうとも戦車に隠れようが斬り捨てる。死の竜巻を紅は振るい、その一撃だけであたり一帯の敵がすべて細切れのミンチ状態になってしまう。
「・・・まだ先生の技には遠い・・・」
「・・・な、何ボケっとしてやがる! てきのどまんな・・・ギャッ!?」
しかし、それでも詰め寄る敵の波。紅を殺そうと襲い掛かる魔族の頭に今度は銃弾が飛び込み、頭蓋を砕き尽くす。この一撃で敵の動きはさらにバラバラ。そこに小太郎が二丁拳銃を敵の頭にすべてヒットさせ、思いきり前進。なにせ敵は中心地で竜巻にミンチにされたようなもの。陣形も崩れ、意識も紅に向いた。そこを逃す小太郎ではなく両手の銃を前に突き出して引き金を引きまくり紅を狙おうとする阿保どもにヘッドショットを叩き込む。
「ハッ、俺たちを無視かよ、素人が」
「女に気い向けるだけのぼんくらは死んどけやぁ!!」
小太郎の動きをフォローし、敵を斬馬刀とその鎧で切り捨て、砕き進む骸佐。小太郎の身体能力なら銃弾も問題はないが万が一。というものがある。相手からの攻撃を防ぎ、小太郎への射線をできる限り塞ぎながら進む。華奈がこれからのふうまを背負う3人のためにと考案していた切込みからの殲滅への突撃コンビネーションは実戦でも大いに有効であるようで敵が烏合の衆であるとしてもその火力は華奈の直属部隊も舌を巻く。これが学生の見せる動きかと。
「下がるぞ! そろそろだ!」
そして、そこから突っ込んでいくかと思えばすぐさま下がって最初の位置に戻る。その後に見える銃弾の飛ぶラインと銃声。あやめの支援射撃が始まることを見越し、下手に自分たちがばらけないようにまた元の場所に戻るべきだと判断。
(俺たちの知る対魔忍どもはここから突っ込んでの先駆けとか調子に乗る奴らも多いが・・・自分たちが不知火さんやゆきかぜちゃんの護衛であることを必要以上には踏み外さない。か。今の動きもいいアドリブだし、それぞれが一級の流派の跡取りだってのに駒に徹する分別もある・・・なるほど大将がここにこんな状況でも連れてくるわけだ)
この動きに拳志も内心感嘆の声を上げる。先ほど制圧に関してもしっかり役目を理解していたし、これほどの逸材。なるほどこれは皆が認める。自分も認めていたが、評価を再度引き上げ、その上で見極めていこうと考え、同時に教師をやっていないことを少し後悔する。華奈のような過労死ラインをさまようのはごめんだけども。
あやめの援護、そして学生組のあの連撃。ノマドという最大勢力の加勢がないこともあってその後は楽々と搬入用のリフトに到着。そこではあやめやバックアップの部隊、そしてさくらが待っていた。
「紅様、小太郎様、拳志さん。皆様もお疲れ様です。いつでもコンテナでの上への移動は可能ですが・・・」
「華奈ちゃんは? 一緒じゃないの?」
「先生はまだ残っていて・・・」
「だーいじょうぶ。そろそろ・・・ほらきた」
心配そうな声を上げる紅をよそに拳志がとある方向を指させばそこの一角で何かに襲い掛かっていた魔族たちが吹き飛び、まるで竜巻が発生したように魔族も物も舞い上がり、血と肉と物資の雨が降り注ぐ。
その中をゆうゆうと歩いてくるのは華奈。どうやら拳志たちとは別ルートで移動して知らず知らずのうちに互いを助けるような動きをしながら追いかけていたのだろう。雨が降り終わった後に刀をしまい、ふうと一息吐く仕草はたった一人で敵陣地を強行突破したとは思えないほどのものだ。
「先生! これで全員そろったね!」
「ふぅ・・・・・ええ、これでヨミハラから脱出して帰宅すれば・・・リフトの様子はどうですか?」
「そっちも華奈ちゃんのメンバーがすべて制圧済み。あとは乗り込むだけ」
なら。と皆を物資搬入用のリフトに乗せていく最中突如華奈は振り返り、一瞬で戦闘態勢を整える。
「・・・拳志。アレは?」
「問題ねえ。・・・・・・・・・プランBだな?」
「ええ・・・行ってください」
その言葉の直後には半ば強引に皆をエレベーターに詰め込み、拳志が扉を閉め、華奈が外部から、部隊のメンバーが上昇のボタンを押してリフトを上にあげさせていく。
ゆきかぜや紅、小太郎、骸佐立ちの声が聞こえるのに手を振って応え、その直後に左手で脇差を抜いて背後に斬撃一閃。それはギィン! という金属音と共に受け止められ、受け止めた相手は少し後ずさった後にその獲物を一振り。
「あら・・・こんなところで貴女のような令嬢がどうしたのですか? 友達と待ち合わせでも?」
その相手を見て華奈も冷や汗を漏らす。まだ見た目は12,3歳ほどの少女。白いワンピースに桃色がかった長い髪をツインテールにまとめた、美しい緋色の瞳が特徴的な美少女。そんな少女が身の丈ほどの大鎌を振るい、かつ華奈の斬撃をあっさりと受け止めて見せた事実もそうだが、感じる威圧感が並みのものではない。
間違いなく魔族の支配階級。そしてその少女の正体も華奈は突き止めている。
「んー? ふぇりはお姉ちゃんに会いに来たんだよ? んふふーあの屑のカメラで見ていたよりもずっと・・・弱い魂なのに、だれよりも荒々しくて、容赦のない強い魂・・・優しく光っているねえ・・・面白ぉい♡」
「やれやれ・・・ノマドの令嬢フェリシアさんが私みたいな先生にねえ。出張授業はあいにく受け付けておりませんので。そして買いかぶりすぎですよ」
(私のことを見ていた? 屑? 私がこの数年で顔を見せた時は・・・天堂の事件で変装して、それを解除した時・・・どこかに仕込まれていたカメラで見ていたのでしょうか?)
「あら? ふぇりのこと知っているの? え? だってすごいよ! ふぇりの一撃をあっさり流して、みんなを守ったんでしょ? お父様が面白がるのも納得! あのお姉ちゃんを壊れるまで虐める機会がなくなったときは殺してやろうかと思ったけど・・・やーめた。今日もね」
構えていた大鎌を下ろし、両手を後頭部に組んでほほ笑むフェリシア。先ほどまでの戦意も消え失せ。けらけらと笑い始める。情報は手にしていたが本当にぶっ飛んでいる。こんなのを紅たちにぶつかることがなくてよかったと心から思いつつも華奈はもう一つの刀も抜けるように備えてはおく。
「では帰るので?」
「んーん。先生なんでしょ? 少し遊んで頂戴ね」
「体育の授業にしては命がけすぎますがね?!」
「アハハハハハハァッ!! すごいすごい! 私の鎌がどんどん流されていく! 力も弱いのに何でなんで?」
「人の技術ですよっ! ぐっ・・・」
ああもう、冗談抜きで思わぬイレギュラーですねえ本当! ヴァンパイアハーフとしての力と本人の才覚、残虐性を余すことなく使って振るわれる一撃一撃は冗談抜きで危険極まりない。
技術はないものの、シンプルに早く、重く、強い。しかも何か大鎌からものっぴきならない気配を感じますし多分一撃でも貰えば何かあるんでしょうねえ! もらいたくないですけど! 実戦でのこんな実験ごめんです!
リフトを壊されないように数合切り結んで癖や動きが理解できたので軽く受け流してから手首をつかんで一本背負い気味に投げ飛ばす。
まあ、きれいに着地されましたけど。本気でやり合うのはいいですが交渉したエドさんを下手に刺激するのもいただけない・・・
「ふーん? ま、いいや。今度はもっと自由に殺し合おうね? それか、私の専属のものにするからね。せんせー」
かと思えば今度こそ本当にふらりとどこかに行ってしまう。うーん。猫以上に猫らしい自由さなんでしょうかねえ。まあ、いいですか。この戦闘を遠巻きに見ていた魔族どもが押しかけてきそうですし、もうリフトも上に上がり切った。
アレを使ってさっさとこんな場所からはおさらばです。それと、私の電話の意味、あれもおまけにしたのですがエドさんはどうとらえましたかね?
「さくら先生! なんでよ! なんで先生おいていったのよお!! まだ魔族がいたのに! なんで!?」
「作戦よ! 緊急時、華奈ちゃんが残ると判断した時は備えを残して華奈ちゃんがリフト周辺を護衛、そういうプランだったの!!」
ヨミハラを脱出し、少し離れた場所に駐車しているコンテナの中、不知火とゆきかぜは華奈の部隊の移動中の治療措置を受けつつもゆきかぜが吠えていた。
自分のせいだということは理解している。でも、でもこれほどの見事な立ち回りを見せた、自分にとっても姉のような、大切な先生がいない、あのヨミハラに一人残ってしまった。それには焦りと悲しさ、恐怖が付きまとい、声を荒げずにいられない。
「落ち着いてゆきかぜ・・・先生は勝ち目のない、用意のない動きはしない。だからあんな手段を取ったの」
それを制したのは紅。強く眼光を光らせ、体を起こそうとしているゆきかぜをそっとベッドに寝かせる。
「でもっ!」
「私の時もそうだった。天堂を始末するまでの一連の流れもある程度の情報から真相に迫って、用意を怠らなかったから私もあやめもこうしていられるの。今回もそう。急な事態だけど、備えを使って、周りに助けられているからこうしているの・・・ゆきかぜ、先生は弱い?」
「・・・・・ううん」
紅が思い起こすのは裏切りによってあわや敵の手に落ちる手前だった自分を救ってくれた時の事。情報通達の差異から異変を見抜き、裏切り者を始末、つてを利用しての潜入と救出。即座に脱出。
あの手際をすぐさま用意した華奈が、今回は部隊を動かして時間をかけた念の入りよう。自分たちには伝えていないだけできっとこのプランでも備えはあると紅は確信はしていた。
首を振って違うと答えるゆきかぜ。そうだ。これで終わるほどの実力じゃない。経歴を見るだけでも異色まみれでやりたい放題な先生が終わらない。強く目をつぶって、思考を切り替えていく。
「なら、待ちましょう・・・あの人は・・・先生は・・・・」
「紅、お前も心配しているんじゃないか。ほら。あそこ」
腕を強く組んで、気持ちを抑えていた紅の肩を小太郎が優しくたたき、一台の車を指さす。トレーラーを運転し、こちらを見るや手を振ってくる銀髪蒼瞳の女性。間違いない。数十分ほどの時間だが何日も待ったと思えるほどに待ち望んでいた相手。
「お待たせしましたーいやあ、昼前の渋滞に巻き込まれまして」
華奈が何食わぬ顔で戻ってきていた。かすかに残る水の香りから放水路を使って縮地でも使用したのだろうか、何はともあれ、これで救出メンバー含めて全員が合流。
「先生! やっぱ最高だよ華奈先生は!」
「あそこにもトレーラーを用意していたんですね。いつの間に?」
「お疲れ様です先生・・・待っていましたよ」
即座に華奈に駆け寄る骸佐、小太郎、紅。思い思いの声を聞き、華奈も着替えていたのかジャージ姿で一度落ち付いてとジェスチャーをしつつ、回答。
「なんの。私よりすごい人はたくさんです。骸佐君なら・・・紫さんも勉強になるかもですよ。えっと。一応は強硬策も考えていたのでその備えですね。小太郎君たちの救出用に。ありがとう。紅さん。ふふ、待たせすぎちゃいましたかね?」
そうこう話しながらメンバーに運転頼むとハンドサインを送り、不知火、ゆきかぜの治療器具とメンバーを乗せたコンテナを護衛するために用意した偽装装甲車にメンバーを乗り込ませ、小太郎たちもコンテナにうつるように指示。
「これから不知火さんとゆきかぜさんの治療といろいろしないといけないことがあります。それと・・・報告書がえらいことになること確定ですから早めに体を休めますよー・・・」
「うへえー・・・ほらほらみんな帰ろ、疲れてもいるだろうし」
今回の功績は冗談抜きで日本も裏社会も変えるほどの情報だらけ。これを報告するのにどれほどの物が用意できるかもまた対魔忍の評価につながる。それゆえの華奈の発言を理解していたさくらもすぐさま皆をトレーラーに乗せて移動を開始。
華奈もゆきかぜのトレーラに乗り込んで一息つく。
「せんせい・・・私・・・その・・・・みぎゃっ!!?」
ゴズン”ッ” その音と同時にゆきかぜに叩き込まれた華奈の拳骨。目の前が暗くなったり火花が散ったり意識が飛びそうになったりと目まぐるしく変わる視界と意識に振り回され、気を失いそうになるのを華奈の両手がゆきかぜのほほをつかむ感触で引き留める。
「・・・今回の任務。どれほどの人が動いたと思いますか・・・?」
「えっと・・・・」
「私、諜報部隊3部隊。用意を含めれば5部隊。あやめさん、拳志、紅さん、骸佐君、小太郎君、紫さん、さくらさん、アサギさん・・・いえ、今回の任務が正しく動けるようにと準備をしたこと考えれば対魔忍全て、政府も動かしての作戦でした」
不知火救出成功へのためにひたすらに用意してきた日々、予定のすり合わせのために頭を下げ、駆けずり回り、用意を怠らず、危険な場所へと幾度も運び、一部を除いて悟られることのないよう動いてきた。
それをゆきかぜの私情、暴走一つであわやすべてが瓦解するかもしれなかった。この事実は紛れもないものであり、成功できたのも正直な話薄氷の上でのもの。
「これをたたき割り、そして・・・師匠だけじゃなく弟子を失うかもしれない・・・小太郎君たちの親友を失うかもしれないことをしたのは・・・分かっていますね・・・」
「うん・・・・・・」
今になって恐怖がぶり返してきたか涙を流し、震える声で話す華奈に自分のしでかしたことを思い返して同じく泣き始めるゆきかぜ。自分の焦りと実力への過信。用意の不十分さ。何もかもが甘すぎた。だからこそのあのげんこつと、涙。親友たちに迷惑をかけた。先生たちの用意を踏みにじった。その重さに、恐ろしさに震えてしまう。
「でもね・・・生きて・・・無事で帰れたから今後でいくらでもこの失敗の分を取り返せるの・・・明るい未来を描いて、頑張れるの・・・・・ようやく本当のお母さんと会えるの”・・・・ヒグッ・・・だ、だからね・・・だからね・・・今回の失敗はね・・・受け止めても・・・つぶれないでぐだざい・・・こんごもぉ・・・教えますし・・・支えますがらぁ”・・・ゆぎがぜさん・・・お母さんに笑顔で出迎えてあげてください・・・」
「・・・ありがとう・・・先生・・・ごめんなさい・・・ごめんなさぁあい・・・・うぐぇ・・・ご、ごめんなざ・・・」
説教どころか親子の救出と無事なことへの喜びと数年越し、しかも対魔忍の世界で行方不明の母親とその娘の再会が叶うこと、師匠と教え子が再会できたことに華奈はその後泣きじゃくり、ゆきかぜも何度も何度も謝りながら泣きとおした。
「さて、イングリット。どうだったかね? 結果は」
「ハッ! リーナ及びアンダーエデンに配置されていた部隊は全員が生存。筋弛緩剤と麻酔薬の副作用で動けるものはわずかですが後遺症の心配はないそうです。そして淫魔族の潜入社員も全員が無事。今は拷問にかけているところ。すぐに情報を吐くでしょう・・・」
ヨミハラ。その中でもひときわ高く、豪奢なビルの最上階。この街を眺め、自分の所有物を横目に報告書に目を通すエドウィン・ブラック。部下の魔界騎士、イングリットの報告を聞きながら口角を楽しそうに吊り上げ、笑みを浮かべる。
「そうか・・・ふふふ。華奈との取引は有意義なものだった。大きなものを一つ取れたことだし・・・」
ブラックの浮かべる笑顔と華奈というワードにイングリットの表情がわずかに怒りを帯びる。対魔忍 船坂華奈。突如現れ、アサギの秘書としてやりたい放題をしまくった挙句2年という短い期間でその名前を深く刻んだ女。しかも前線を引いたと思えば今度はノマドですらも捉え切れない拳志をはじめとした諜報部隊に仮面の対魔忍の後を継ぐ戦士を用意、編成して出てくる始末。
イングリット自身も何度か戦い、そのたびに倒されるか、逃げられるか。と苦汁を何度もなめさせられ、紫や桐生、さくらの始末すらも邪魔されていた。文字通りにっくき相手なのだがそれを話す主、いやイングリットは主以上の慕情を持つブラックは華奈の事を話すときはまるで子供の用に目を輝かせる。アサギと同じ、興味を持たれているのだろう。たかが人間の女に。それもまたイングリットが腹立たしい理由。
「矢崎兄弟をみすみす渡し、華奈、不知火をはじめとした敵勢力の追撃の中止。確かにあちらからの情報はこちらに得るものも大きいのですが、ブラック様はそれ以外にも・・・?」
「ああ、そうだ。今回華奈直々の連絡だ。何度か奴らの仮面の対魔忍・・・まあ、華奈の変装だが今回はそれをしなかった。あの状況でもボイスチェンジャーの一つでも使えただろうに」
「・・・自分だとわからせるため? しかし、それだけでは・・・」
主と華奈の会話の示す意味が今一つ飲み込み切れてないイングリット。仮面の対魔忍の後を継ぐ戦士たち。銀閃妖狐は華奈の変装だとは見抜いたが、それを用いずに話してきた。それが何だというのだろう。
「おそらくは、になるが今回の作戦主導は華奈の立案と用意だろう。そして、自分の顔も名前もここで再びここヨミハラで晒した、私との電話でもな。そこまで不知火たちを執着したと言えばそうだが・・・おそらくはそのまま出てくるかもしれないと考えている。華奈が再び前線にな」
「・・・・!」
ここまできてようやく理解できた。睡眠ガスに小型メカの多用。そしてヨミハラのリフト周辺を探らせてものの数分で索敵範囲を離れていた手際。必要なら魔族との取引のために殺害ではなく拘束による無力化すらも平然と用いてくるのは確かに従来の対魔忍とは違う。この自由さと用意の良さは確かに華奈のものだろう。
そうなると再び現れる。あのアサギの秘書が。仮面の対魔忍という救助に出向く後詰なんかではなく前線で好き放題暴れ、何度も何度も裏社会を引っ掻き回し、一度も捕まることのなかったトリックスターが。下手をすれば『幻影の対魔忍』も加わったうえで。
「今度はどのように動くのか、あちらは私を淫魔族にあてつける気のようだがいやはや・・・まったく・・楽しみが増えそうだ」
最強の対魔忍、幻影の対魔忍、そして彼女らに見いだされ、鍛えられたかつて地獄の番犬と呼ばれた対魔忍がそろい、動くかもしれない。それがいったいどうなるか。想像する不死の王の様子は楽しみのおもちゃが届いた幼子のようでもあり、同時に驚くほどに恐ろしい笑みを浮かべていた。
華奈とエドさんの電話会談。傍から見ればおっかない内容でしょうかね。
無事に不知火、ゆきかぜは救出完了。この後は即病院送りです。
次回は華奈の仕込みと休息。になるかと思います。