こちら対魔忍特別諜報室   作:零課

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多分これで過去編は終了。次回からのんびりと現代に戻ります


過去編 紅救出

 「やれやれ・・・大したものだ。ハレルヤを飲み、一度達した直後だというのにこの暴れよう。流石は名のある対魔忍の一族のヴァンパイアハーフ、そしてあの女の教え子と言ったところか・・・」

 

 「はっ・・・はぁ・・・! 」

 

 東京キングダムのとある高級クラブで行われる激しい戦闘。

 

 赤の薄地のキャミソール姿でハイヒールに仕込んでいた二本のナイフと持ち前の風遁を併用して襲い来る男たち、肉人形、触手たちをいくつも切り裂く金髪ツインテールの美女とそれを興味深げに眺める高級スーツに身を包み、にやにやといやらしい視線で眺める男。

 

 女、心願寺紅は自分を見る男、天道をにらみ、自分の身体を燃え焦がすような感覚と熱、快楽を求める欲求を叩き伏せながら立ち回る。

 

 飲んだ魔薬の強烈さはデータでは知っていたが想像以上の感覚に顔をしかめつつ、一度戦った経験を使いながらどうにか触手や肉人形を倒していく。

 

 事の起こりは対魔忍全体でマークしていた男、いま紅を見ては何かのショーを見ているかのような反応を返す天堂という男の暗殺。 

 

 臓器売買に人身売買、違法薬物に重火器などあらゆるものを扱い、本拠のヨミハラでも絶大な勢力を誇る。その辣腕ぶりと裏の住人、対魔忍の諜報をかいくぐり、しっぽを捕まえることも見ることもできないほどの用意周到さにほとほと手を焼いていた上にこちらの襲撃も一度目は失敗。

 

 しかし、そのしばらく後に手にした密会の情報。これを利用しようと元ふうまの、心願寺の元下忍にして今は政府の役人となっている男、苫利の提案に乗る形でその密会に潜入。

 

 暗殺した上で天堂の取引相手や側近から情報を聞き出してルートを潰す。算段だったが、その情報は天堂と苫利の罠。それに紅は落ちてしまった。苫利の風貌や態度、鞍替えした経歴からも見下していたこともあったがまさかこんな形で裏切る、大それたことをするとは思ってもいなかった。

 

 彼のため込んでいたうっ憤や、抱えていた欲を図り間違えたということだろう。

 

 「くそっ・・・舐めないで・・・!」

 

 苫利の渡した情報を使いながらこの体たらく。苫利の裏切りをまだ知らずに自分たちの手落ちに歯噛みしつつ、どうにか震える身体に渇を入れてナイフを構える紅。騒ぎは仲間も感じているはず、バックアップも用意している。その救援と合流できれば。その望みが紅にはあった。

 

 「ふふ・・・いやあ。いいショーだった。そのお礼にだ。今度はこちらからもいいものをお見せしよう」

 

 おちょくるような仕草で拍手をした後に部下に指示を飛ばす天堂。いったい何を見せるつもりなのか、用心棒か、それともまた何らかの生物兵器か。救援の遅さに自分でここを切り抜ける方法を思考がまとまりづらくなっている頭でどうにか練りつつ、すきを探る。が、しかし、それを見た時、思わず片方の武器を落としてしまう。

 

 「・・・! あやめ!!?」

 

 「君の大切な従者、だろう? そして私の邪魔をした狙撃手」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ぬぁー・・・どうしたものでしょうかねえ・・・・この男」

 

 今日も今日とて夕暮れの五車学園で書類と学生たちの授業内容に四苦八苦の日々を送る華奈。だが、そんな華奈のデスクの前に置いてあるものはいつもの報告書やテストではなく天堂の情報、そしてこちらからの動きについて。

 

 「前回の襲撃でもダメでしたし・・・向こう数か月は尻尾はつかめないでしょうかねえ・・・・・・・」

 

 華奈の諜報部隊、九郎隊、そしてふうまのそれぞれの諜報部隊や熟練対魔忍たちの連携、簡単な決め事だけにしてこちらが裏を取られないようにと念入りに精査と裏取りを重ねてようやくつかんだ取引現場の情報。これを利用して天堂と取引相手を始末しようと一か月前に行われた作戦。

 

 ブラフの取引にあえて引っ掛かり、その情報を天堂が手にしたころ合いを見計らって少数で天堂を狙う作戦だったのだが、近接戦闘、多勢相手でもお構いなしに切り伏せられる腕前を持つ、すっかり成長して絶世の美女にして剣士としてもメキメキ成長した紅。

 

 その従者にして狙撃においてもこれまた対魔忍の中でも指折りの腕前。情報収集や裏方にも秀でる槇島あやめ。井河、ふうまの中でも実績を上げてきた実力派コンビの強襲すらも備えで逃げられてしまい捕まえられたのは取引先の連中だけと作戦は半分、いや天堂を逃がした時点で失敗。

 

 しかもブラフの取引にも鬼族や武闘派をわざと隠しておくことでブラフを潰していた対魔忍たちも被害を出したせいでそちらから人員を追加しての追跡も満足にできないという始末。

 

 用心深さや手腕のせいでなかなか始末が出来ない上に今回の件でさらに警戒することで今後も正確な動きを補足できるチャンスは激減。間違いなく早くても数か月、もしくは年単位の捜査になると予想ができるせいで溜息を吐く。

 

 (裏には人間の大富豪や政治家の姿もありますし、今回の件で彼らのバックアップを受けて対策を練るのは必然。他国の存在もちらつかせていますし・・・はぁー・・・・今度やる際は時子さんにさくらさん、私も加えたメンバーで当たらないとダメそうですね)

 

 とりあえず下手に被害を出しても意味はないし、逃げた魚に構いすぎて別を疎かにするもの愚策。というかそんな余裕がない。

 

 最低限の動向調査にとどめつつ諜報部隊連合の一時解散。ほとぼりが冷めた折にまた動くべきだろう。と思考をまとめていると仕事用の端末に連絡が入る。諜報部隊のまとめ役で実質的な華奈の副官からだ。

 

 「もしもし?」

 

 「大将。天堂の野郎の件だけどよ」

 

 「ああ、それに関しては一時手を緩めることで相手の油断を待ちます。あの男、本当にやりづら・・・「その天堂の密会が東京キングダムでやるっての情報があったらしくってよ! そこにふうま・・・紅ちゃんやあやめの姉ちゃんが潜入したってんだ」・・・・・・・・・・・・・・・・はああぁああ!!?」

 

 職員室だというのにもかかわらず大声をあげ、周りを驚かせてしまう華奈。ふと我に返ると皆が見ていることに頭を下げ、そそくさと端末といくつかの道具をカバンに詰めて職員室を早足で出る。

 

 いくら何でも早すぎる。しかも自分の本拠地であるはずの、対魔忍たちもまだ知り尽くせていないヨミハラからわざわざ出てくるという大胆さ。今までの天堂にはなかった大胆さとパターンだ。更には自分たちに情報が入ってこなかった。どこか変、ずれがあるとしか思えない。

 

 「なんですかその情報!? 初耳ですよ!! どうやってですか! まず、その情報はいつ! 誰が出しましたか!? 九郎隊ですか!? ふうま!?」

 

 自分の直属部隊ならすぐに情報が来るはず。それが来ないというのならそれ以外のどれか。九郎隊も考えられるが、九郎の性格を考えるとそれも可能性が低い。となれば・・・・

 

 「おいおい、落ち着け大将。見ないけどかわいい顔が台無しだぞきっと? まず情報が紅ちゃんたちに来て、潜入したというのも含めて逆算してみると来たのはおそらく昨晩の夜。出所はあのおっちゃん。苫利だとさ。ちなみに開催時期は今夜だと。言うにゃふうま時代のつてで独自に後を追わせて情報をゲット。で、下手にまた俺たちが一緒に動いたら感づかれるからとふうまの前回のメンバーで潜入任務を独断で開始。・・・まあ、一応の筋は通っているが、臭いよなあ・・・?」

 

 「ええ、私もすぐに向かいます。苫利は今の勤務先にいますか?」

 

 「ああ、それは間違いない。俺も向かう。・・・大将」

 

 電話先の副官の言おうとしている言葉を待った。と静かに止める。言いたいことはわかる。だけど、それを直接耳に入れたら今は自分が暴走しかねない。それを理解したか副官もそれ以上は言わず、少しの間互いに口を閉じる。

 

 (まったく、一杯食わされましたが、こちらにも情報がすぐ来なかったのが甘いですね。苫利か、それ以外かは知りませんが、やってくれたものです)

 

 「ええ・・・もしそうならやってくれたものです。用意をしておいて。それと、うちの部隊は今どれくらい動かせます?」

 

 「せいぜいが一部隊・・・俺と大将抜いて5人だ。どうする?」

 

 「それは後で、人数はそれでよし。気をつけましょう。場合によっては救出の前に一つ暴れないといけませんからね。私はアサギさんに任務出動の報告してから向かいます。足を二つ用意しておきなさい」

 

 それから後に華奈はすぐさまジャージ姿から黒の女性用リクルートスーツに着替え、小さなバッグに道具を詰め込んで学園を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 政府公安、対魔忍の指示などを飛ばす政府の一機関。内務省公共安全庁調査第三部。そこにある自分の部屋で苫利は潜入調査の打ち合わせに来たあやめを気絶させた後に両手足を拘束、その顔を、肢体を眺めながら悦に浸る。

 

 今まで自分を小ばかにしてきた女二人が辱められる。たかが小娘でありながら自分を下らないとみていた紅、何度も自分を袖にしていたあやめ。この二人を天堂と自分で味わい、肉体改造し、嬲り続ける。寝返ったことでの報酬や今後も協力してうまく政府と天堂の情報を利用すれば山本長官を超える地位を手にするのも夢ではない。

 

 女と金と地位。それらが手に入ることを皮算用しつつ、天堂からもらっていた魔薬、ハレルヤをあやめに仕込んで完全に無力化させてしまいそろそろあちらで仕込まれた罠とも知らずに健気に天堂の機嫌取りをしているであろう紅の心をへし折りに、あの外見だけなら最上級の女が狂わされ、壊される姿を拝みに行こうかとした矢先、備え付けの電話からコールが鳴る。

 

 「私だ」

 

 「華奈様からぜひとも今回の件についてお礼が言いたいとこちらに出向いてきていますが」

 

 受付の女性の言葉で一瞬ドキリとするが、冷静さを取り戻す。確かにそろそろあちらにも独断専行の件がばれてもいいころ合い。しかしお礼としてこちらに出向いたのであればおそらくはこの件に関しての諜報部隊の解散、もしくはふうま独断故の情報の確認や現在の状況を聞きに来たのだろう。

 

 何も問題はない。あやめも紅も捕らわれ、この件のふうまの手勢は全て寝返ったもの達。口裏合わせはとうにしてある。

 

 「ああ、そうか。空き部屋を一つあけておいてくれ。重要な話に触れるからな」

 

 「かしこまりました。ではブリーフィング室を一つあけておきます」

 

 「頼むよ。では失礼」

 

 それに、もし感づいていてもハレルヤの予備を一服盛ってやればいい。魔族すらもすぐさま発情してどうしようもなくなるというほどの魔薬。対魔忍と言えどもたかが人間一人無力化はたやすい。

 

 それに、華奈自身もいい女だ。忍術のせいで実年齢は25,6になるのにまだ十代半ばの若い肉体のまま、あの肢体と美貌を持っている上に資産も莫大。誰にも温和で優しい、大和撫子を体現した女。その顔が快楽と恐怖と恥辱にまみれて壊れていく。自分の手に落ちる。それを想像しただけでもいきり立ち、それを天堂やバックの組織に渡すことでもらえる恩恵も想像するとたまらない。

 

 下種な欲を顔には出さず、念入りに戸締りをした後に苫利は自室を出ていき、華奈の待っているであろう部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しかしまあ、さすがはかつての対魔忍の中でも多くの人数をもつふうま。今もその人材は今も豊富というわけですか、本当に助かりましたよ」

 

 「いえいえ、これも皆さんの協力のおかげ。これで天堂の組織がつぶれればいいものですがね」

 

 (ダウト・・・また心拍数も下がった。汗のストレス臭がひどいですし、手もさっきまで見せていたけど隠したり、ハンカチを握っていますね。それに・・・・・魔薬・・・・ひどく強力なもの・・・)

 

 苫利と天堂の件に関することでの談笑、報酬についての相談。そして手を焼いていたことに関することや紅、あやめの事を話している間も探っていた華奈だが、苫利が嘘をついている。それも裏切ったことをはっきりと確認できた。自身の研ぎ澄まされ、引き上げられている五感。視覚からはうそをついたときの動作や反応、かすかにだが汗もかき始め、その汗も嗅覚からは汗の香りも緊張した時特有のにおいが強烈と伝えてくる。

 

 聴覚からも聞こえる心拍数が乱れに乱れているし、声紋もブレがちらほら。特に何度か探ってみればそのたびに心拍数が下がるのだから確定。うまくポーカーフェイスを通してはいるが、脳や体の反応までは隠しきれないようで。

 

 人間うそ発見器として五感をフル活用、同時に懐に忍ばせているであろう薬にも前回の襲撃の際で手にしたものと近しい香り。おそらくは最近裏で出回っているハレルヤだろうか。そしてそれ以外にも感じる、女の香り。

 

 (あやめさんの香り・・・それに、まだここにいる。狙撃手が、紅さんの補助に回らないのが不自然すぎる。・・・十中八九、こいつ・・・やれやれ・・・一度ここも掃除をしないとですね)

 

 匂いの帯もまだ残っているし、苫利の手からも感じる。おおよそ手勢を使って不意を衝いて気絶させたのをここのどこかに隠しているというところだろう。まさかここでそれをやるあたりこの男小物なのか豪胆なのかと内心華奈も呆れてしまう。

 

 (動きましょうかね)

 

 「ええ、全くですよ。長年とらえきれなかった大犯罪者。紅さんたちも無事でいてほしいですし、これ以上の相手はさすがに井河のほうも手が回りづら・・・「ファイッキライダ! ファイッキライダ!!」・・おっと・・・失礼。そういえばこちらの部隊がこの件でどうするか、次の事を伝えていませんでした。少し席を外しますね?」

 

 そう言って苫利に頭を下げて席を立つと端末を取って部屋を出る華奈。さてさて、仕掛けてくるのか、どうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よし・・・」

 

 華奈が抜けた後、しばらくした後で苫利は華奈も手土産にしてしまうことを決意し、ハレルヤを華奈の持っていた、中身が半分ほど減ったココアのカップに入れる。ホットゆえか匂いもごまかせるし、味なんて感じる間もなく飲んだ時点ですぐに薬は回る。

 

 周りには普段からの激務と今回の任務が終わったことで緊張の糸が切れたせいで体調を崩したとでも言い訳しておいて自分が介抱する振りでもしてあやめと一緒に東京キングダム、天堂のもとに運べばいい。華奈の激務具合と多忙さはアサギと同じくらいにはここでも有名。彼女の普段の立ち振る舞いもあって皆が心配するだろうし疑うこともない。今も顔を合わせてみたが目にクマを張り付け、疲労の色がありありと見えるほどだ。

 

 うまくいけば彼女の資産に端末からの情報。あの諜報部隊の情報を手にできる。とっさに考えた割には何とも最高のシナリオだろうかと。あやめたちを捕まえたことや華奈をごまかせたと思っている苫利の自信はとどまらず、未来の妄想に笑みを浮かべるばかり。

 

 それが華奈の手のひらの上で踊らされていることも知らず。

 

 「いやはや、失礼しました。全く、情報のためとはいえ自分が部隊のまとめ役というのは時間が過ぎても慣れないものです。んっ・・・・はぁ・・・ここのココア、いつも飲んでしまうのですよね。美味しくて・・・」

 

 丁寧にドアをノックして部屋に入り、話を中断したことに頭を下げた華奈。その後はすぐに自分の責の手元にあるココアをこくり。と一口飲み、嬉しそうにほほ笑む。それをみて苫利は内心ガッツポーズを決める。飲んだ、飲んだぞこの女。と。

 

 喉の動き、口の反応を見れば嚥下したのは確実。これですぐさまハレルヤが回ってすぐさま無力な雌になる。そう確信していた。

 

 「おやおや、では私がおごりましょうか? おかわりを。それに、実はここ以外の自販機が新しくなりましてね。品ぞろえもいいのですが、なかなか安くて」

 

 「本当ですか? いやぁ・・・なんだか申し訳ないですが、ご馳走になります。出来れば今後も飲むかもですし、私もその場所を知りたいのでぜひ一度一緒に移動しても?」

 

 互いに腰を上げ、書類や荷物を簡単にまとめると部屋を出る。並んで互いの顔を見つつ、華奈はとりとめもない話を出しては移動の間も話題を提供していたが、向かいから歩いていた役人をよける際にらしくもなくふらつき、苫利に身体を預けてしまう。

 

 その柔らかな感触、匂い、そしてかすかに乱れ始めていた華奈の吐息。

 

 「あ、ら・・・珍しいですね。熱でしょうか・・・? ここ数年・・・は大丈夫だったのですが・・・っ・・・申し訳ありません」

 

 「いえいえ、まだその若さですが働きづめ、そして天堂を捕まえられることで緊張が緩んだせいもあるのでしょう。疲れを体が自覚したと言えばいいですかな。この件が終われば根をつめすぎずに休息をとるほうがよろしいかと」

 

 「そうさせてもらいます・・・・・・うふふ・・・ありがとうございます。苫利さん。本当に、今回といい、紅さんや私たちを政府のサイドからいつも本当に助けてもらってばかりで・・・何かお礼が出来ればいいのですが・・・は・・・・ふぅ・・・」

 

 少し赤みを増した顔、潤み始めた瞳。乱れが顕著になってきた呼吸。普通の対魔忍よりも忍術で強化された分効きが鈍かったが華奈もハレルヤの効果が出始めた。しめたものだと内心苫利は飛び上がるほどの歓喜をあげていた。何もかもがうまくいっているとき、しかも自分よりも格上の相手を相手どれたことに調子づいた苫利は華奈の腰を抱き寄せつつ、自分の部屋に向かう。

 

 「ははは、私もまだ捨てたものではなさそうで。ですが、さすがにものをもらいすぎると申し訳ないのでね、軽いもので勘弁ですよ。根は小市民なのです」

 

 「っぅく・・・ふふ・・・さようで・・・では、そうですね・・・少し、相談しましょうか、これからを・・・」

 

 もう落ちた。華奈の反応と、少し強めに腰を抱き寄せても嫌な顔をするどころか甘えるような仕草。薬が回ればこの女は違和感を覚えるどころかこの始末。雌犬とでもいおうか。などと考えつつ腰に回していた手をすぐにはずし、手刀で華奈の意識をいつでも奪えるようにしておく。うだつが上がらなかったとはいえ苫利も対魔忍の端くれだったもの。薬の回った女一人を気絶させるのはたやすい。

 

 見えてきた自分の部屋。そこにドアを開けて驚く瞬間の一瞬で気絶させる。そう決めた苫利は目の前に見えたドアノブのカギを開け、ゆっくりとまわす。自分の人生の逆襲と成功への扉が開いたようにも感じる瞬間をかみしめつつ、半分ほど開けたところで。

 

 「ハァ~イそこまでだよ。おっさん」

 

 「貴様・・・よくもやってくれたな!!」

 

 二丁の拳銃が苫利の額に突きつけられる。一人は猿顔で長いもみ上げが目立つどこか軽い雰囲気を感じる男。紺のYシャツに黄色いネクタイ、赤のロングジャケットに身を包んだ姿は特徴的で、すぐに理解できる。華奈の右腕的存在の男。そして、自分が捉えていたはずの槇島あやめ。

 

 「なっ・・・ぁ!? ギャァアアアァアアァッ!!?」

 

 突然すぎる状況の変化、身の危機にとっさに自身の忍術と武器を取り出そうとするも、今度は体中を走る激痛。一瞬の間をおいてそれが先ほどまで薬のせいで弱っていたはずの華奈の打撃によって骨を数か所砕かれたものだと理解する。

 

 「動くなと言ったでしょう・・・? ふんっ! さて、山本長官これは過剰な暴力で?」

 

 「女性への暴行監禁。独断専行だけはまあ・・・注意で済むが、更には薬物の摂取をさせようとしたこと、そして、その女性が独断で動いた作戦の補助において必要な対魔忍であり、拘束していることへの任務妨害。裏切り者の無力化には軽いほうだ」

 

 「おーおー大将の口付けたココア飲めるなんて学園の野郎どもの何名が歯ぎしりするか。それと、これもだなあ。ご丁寧にここの通気口の間取りまでも横流ししちゃってまあ」

 

 ハレルヤの入ったココアをコップごと無理やり口にねじ込まれて飲まされ、苦しんでいる苫利にさらなる追い打ちをけるかのように入ってきたのは護衛を連れた山本長官、そして東京キングダムまで自分を護衛するはずのふうまの忍びたちの無残な姿。あまりにも多くの出来事が入ってきて混乱する中、一つだけ理解できたことがある。

 

 華奈に踊らされていたと。先ほどまでのは演技だったんだと。

 

 「嘘は私には通用しませんからね、面と向かって話せば尚更。さて・・・あやめさんがそちらの自室にとらわれていること、そして、手についているであろうあやめさんの細胞が見つかればそれだけで詰み。紅さんは任務中だと言質も取りましたし、その補助をしていたはずの私にも一服盛ろうとしたことなどを含めて任務妨害で逮捕ですが・・・取引、しませんか?」

 

 「取、引だと・・・?」

 

 「おい、華奈君!」

 

 そう言いつつ苫利の懐からハレルヤの入った袋を取り出して山本長官の護衛に渡しつつ、何か思いついたかのようにほほ笑む華奈。

 

 「今から私の質問に答えてくださいませ。嘘は先ほども言いましたが通じませんよ。その上でもしうまくいけばここのお仕事がだめでも私の諜報部隊で雇ってあげますよ。長官も、司法取引ですよ。さて、まずは今回の任務の抹殺目標。天堂と手を組んでいますね?」

 

 「・・・・・・ぁ・ああ・・・そうだ」

 

 魔薬が回り始めて頭の思考判断がおぼつかないが、あやめと男・・・猿鳶 拳志。山本長官の護衛達に銃口を向けられ、護衛も全滅。そして笑顔ではあるがとても正面からは見れないほどの威圧を出す華奈。もはや手詰まり、ここで自白して生き残ることが一番賢いことだと自白を始めた。

 

 ようやく手にできたあやめを手放すこと、描いていた計画が頭の中で音を立てて崩れるのを感じつつ、痛みや熱、悔しさ、恐怖に耐えつつ言葉を紡ぐ。

 

 「反旗を翻した理由は天堂のもとで二人への復讐、それと・・・辱めて、挙句は利用しようとした腹積もりだと。ついでにその際の多額の報酬」

 

 「そうだ・・・・・!」

 

 「っ・・・・!」

 

 「抑えて抑えてあやめちゃん。今引き金を引いちゃー取引も何もないぜ」

 

 憤怒の表情で引き金を引こうとしたあやめを拳志が止めつつ、どうにか取引は続ける。

 

 「それ以外にも始末した手ごまや天堂と接触の際でいくつかの裏組織のルートや情報などは持っているのですか?」

 

 「ああ・・・持っている。事実東京キングダムのクラブの一つ・・・紅のいる場所は天堂のお気に入りの場所だという。そこで何名かの組織のボスとも会った」

 

 つらつらとあげられるボスの名前、組織名。それは華奈たちもつながっているとは思えないものまで出てくるほど。

 

 「そ、それでうまく邪魔になった下部組織を対魔忍側に渡すことでうまくのし上がってやろうとしたんだ・・・! も、もういいだろう? まだ私は使えるはずだ!!」

 

 「ふむ・・・・・・・拳志、クラブの場所は」

 

 「ばっちり命令書にあるぜ。大将の足なら・・・駅前からでも5分で着くさ」

 

 「3分もいりません。ふむ・・・ええ、これだけでも裏社会への打撃、混乱。同士討ちを狙えます。値千金・・・いえ、3倍プッシュしてもありあまる」

 

 いい加減、恐怖が上回ったか、焦りからかわめき始めた苫利を見ながら顎に手を当て興味深げに頭の中で情報を整理する華奈。それをみた山本長官も仕方ないとため息をはき両手をあげた。

 

 「分かった分かった・・・こちらからは仕事を首にするくらいで許そう」

 

 「ですねえ。私からもまあ、いいかと。おめでとうございます。これで政府、井河からは許されましたよ」

 

 苫利の首根っこをつかみ、無理やりに立たせていく華奈。許された。そのワードに心からの安堵の息を吐く。あくまでも許したのは「政府」と「井河」であってまだ完全に終わったわけではないというのに。

 

 「さて・・・っ・・・・・・・・夜遅く失礼します。手土産に一つこの男はどうでしょう?」

 

 「おう・・・待ちくたびれたぜぃ・・・そしてありがとうよ、最高の手土産だ」

 

 「ヒッ・・・・!?」

 

 気が緩んだ苫利をつかんだまま華奈は縮地を使用。二人一緒に移動したのはとある屋敷。そして、そこで待っていたのはとてもではないが老人の放つものとは思えないほどの怒気と殺意。その老人を見た時息をのみ、先ほどまでの安堵から一転。さっきの状況が天国に思えるほどに絶望する。

 

 心願寺 幻庵 ふうま八将最強とかつて呼ばれ、そして、紅の祖父に当たる人物。二振りの刀を構え、視線だけでも殺さんばかりの殺意を乗せながら一歩一歩距離をつめてくる。

 

 「・・・・・・は・・・・は、話が違う!? 許されたのではないのか!?」

 

 「あら、取引成立で確かに許しましたよ? 政府と、井河の代理で私が。ですが、ご存じでしょう? もうひとつの対魔忍の一大派閥。ふうまからはまだ。さあ、頑張ってくださいな。紅さんのおじい様であるこの御仁からも許されれば晴れてあなたの仕事での暴走に関わった組織全てから認められて私の下で働けます。あ、そうそう。えいっ」

 

 空き部屋に苫利を投げ飛ばした華奈はすぐさま苫利の身体を拘束、その後、一本の注射針を首筋に突き刺す。

 

 「ぐっ・・・!?」

 

 「おい、毒じゃあねえだろうなぁ・・・おいらの分がなくなっちゃあ困るんだがよ」

 

 「大丈夫ですよ。さて・・・そろそろ・・・ん」

 

 「なっ・・・ッッッゥ~~~~~~~~~~!?!??!!?」

 

 針を抜き、十秒ほどの時間をおいてからいぶかしむ幻庵をよそに華奈は苫利のほほにデコピンを当てる。するとどうだ、声にならないほどの激痛を貰ったと言わんばかりに身体を動かして苫利は悶え、その動きでも激痛を感じているのか更に苦しむ。

 

 「?」

 

 「ふふふ・・・・こういう輩用に用意していた薬品でして・・・効果は強烈な意識の覚醒効果、筋弛緩、そして、神経を全て肌の上に出したかのような痛覚の鋭敏化。痛覚の鋭敏化と覚醒効果を使って訓練していたのですが数日で廃人になりかけましてね、残していたのに筋弛緩剤も混ぜたやつですが・・・強烈ですね」

 

 効果はてきめん。それを確認した華奈はほくそ笑み、幻庵に優しく笑いかける。

 

 「さて、後はお二人でどうぞ今後のことについてでも相談と、取引でもどうぞごゆるりと。私は門限過ぎても帰ってこない教え子を連れてこないとなので」

 

 「ああ、たっぷりとやってやろうじゃねえか・・・大切な孫娘を頼んだぜ、華奈ちゃんよ・・・」

 

 「命にかえても」

 

 「ヒッ・・・! 待ってくれ! 私が悪かった! もうしない!! しないから助けてくれ!! たすけ・・・」

 

 そんな苫利の声も虚しく華奈は縮地ですぐさま移動。残されたのは幻庵と苫利。どうなるかは、見えているというものだろう。

 

 

 

 

 「戻りました。さてさて、ふうまからは許されるかどうか」

 

 「ヘッ、わかっているくせによお。大将も人が悪いぜ」

 

 「さあ? 奇跡があるかもしれませんよ? 用意は?」

 

 「ばっちし♪」

 

 苫利を送り届けた後に戻ってきた華奈を出迎えたのは拳志とあやめ。すでに武装を整え、やる気にあふれた瞳と気を見せつける。

 

 「紅様を絶対に助け出します! 私も一緒に・・・っ・・・う、足手まといにはなりません・・・!」

 

 しかし、相当強かに頭を打たれたか、あやめはまだ立つのも一苦労なほど。狙撃などの支援射撃が得手とはいえ、いやだからこそついていけるかが不安だが、退く気が全くない。おそらく、断ればそれこそ華奈たちを攻撃して装備や道具を奪ってでも行こうとするだろう。

 

 「ってえ感じで聞かねえのよお。わがままな女の子もいいけどよ、ちーと夜遊びに行くにはフラフラなもんでさあ」

 

 「あら、ついてきてもらいましょう。その代わりに、私に一つ協力してもらいますよ?」

 

 「もちろ・・・え? あ、え?」

 

 ついてきてもいい。それをきいて喜ぶあやめの顎を優しくつかみ、華奈はじっと見つめる。

 

 「ふむふむ・・・やはり美人ですねえ・・・肌もきめ細かい・・・目はこんな感じですか。かわいい瞳・・・」

 

 「え? いや、なにを?」

 

 「もっとじっくり見たいですね。こちらに・・・・・・・」

 

 「なっ!? ちょっ・・・なにを!!?」

 

 いよいよもって不安が強くなってきたあやめをよそに手を引く華奈。

 

 「おほー。こりゃあいいもんが見れそうだねえ。ではちょいと俺も準備を・・・」

 

 「録画機器は今はいりませんよ。拳志」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、なん・・・なんであやめが!? それに、その状態って!」

 

 「ああ、君たちの仲間の苫利だったか? 彼はこちらについてね」

 

 「いっ・・・♡ ぎ・・・も、もうしわけ・・・ありませ・・・ん・・・っ・・・♡」

 

 天堂が持ち出してきたのはおそらくはハレルヤを飲まされた状態で両手を荒縄で拘束された状態のあやめ。スーツ越しに胸に手を回されただけでとぎれとぎれの甘ったるい声をあげるその様、玉のような汗を流し、自力で立っていられないほどにおぼつかない足。この瞬間ようやく紅は自分たちが裏切られたと理解した。

 

 「そんなっ・・! じゃあ、じゃあバックアップも・・・」

 

 「ああ、やつの子飼い、いや同士だそうで。助けは来ないよ。しかし、あの男も存外気が利くものだ。狙撃手の腕前も気になってはいたが、これほどの美女を先に楽しんでいいとは・・・ふふ、調教のし甲斐がある」

 

 「ひゃめっ・・・・さわりゅにゃひゃぁ・・・♡ あっ・・・」

 

 「やめて! あやめを汚すな!」

 

 思わず声を張り上げ、いやらしくあやめを触れて反応を楽しむ天堂に叫ぶ紅。あやめがほかのふうまの忍びに辱められた時に助けたことのある紅。これ以上自分に忠誠を尽くしてくれる従者がまた汚されることなんて許せないと声を張り上げる。

 

 「そうか。ではこちらがお好みかな? 汚さずにいっそ楽に」

 

 「なっ・・・だめ! それを下ろしなさい天堂!!」

 

 ならば。と懐から拳銃を取り出してあやめの頭にゴリッと押し当てる天堂。いつもの紅なら持ち前の身体能力と剣技、風遁を使ってすぐさま拳銃を持つ手ごと天堂を切り裂けただろう。しかし魔薬と人海戦術の消耗もあったこともあってかまるで力が入らず、時間が過ぎるたびに力が抜けていく。

 

 「ならば君も武器を下ろして投降したらどうだ? こっちは何時でも殺せる。それをしない代わりにいい加減そのあがきをよせ」

 

 「っ・・・あやめには絶対に手を出さないでよ・・・」

 

 ナイフを手から離し、両手をあげて降伏の意を示す紅。それを見た天堂はあやめを護衛に渡し、自らは紅に近寄り、ソファーに押し倒す。

 

 護衛のほうもあやめに銃を突きつけつつも紅のそばに寄せていく。

 

 「ああ、出さないとも。しかし、君がこれから乱れてよがるさまを見てもらおうじゃないか。先ほどのように鳴けばもうろうとした彼女でもさすがに気づくだろうね。自分のせいで君が汚される光景を」

 

 「・・・!」

 

 悪趣味な考えに顔をしかめつつももはや抵抗するすべもすべて奪われた紅は天堂に身体を触れられていく。不快だ。こんな下種な男なんかに汚されて、無理やりに刺激を叩き込まれて、裏切られて、暗いこの世界で終わってしまうのか。打つ手もない、人質に、薬で抵抗は出来ず、増援望みも無し。

 

 そんな中に頭の中をよぎるのは自分を受け入れてくれた人たち。

 

 望まぬ子であったはずの自分を助けて、育ててくれた祖父。優しく接してくれた時子をはじめとしたふうま宗家の執事たち。二車の執事。

 

 一緒に遊んでくれた子供たち。骸佐、蛇子、鹿之助、凛子、達郎、浩介、ゆきかぜ。子供たちの中では一番に手を差し伸べて助けた小太郎。

 

 何よりも、自分のすべてを受け入れて、愛してくれた華奈。

 

 対魔忍ゆえの危険さは何度も教わった。失敗した忍びの末路も。覚悟はしていたはず。なのに、もう帰れない。戻れない。そう考えると恐怖で体が震え、逃げたい、助かりたいと子供のように感情が沸き上がる。

 

 一人きりは嫌だ。まだまだやりたいこともある。それが、すべてここで終わってしまう。

 

 「やだよぉ・・・先生・・・嫌だよぉ・・・・えぐっ・・・」

 

 「・・・いったでしょう? あなたの心の光が曇った時、私がその曇らせる雲を晴らすと」

 

 悲しさと恐怖のあまり泣きじゃくり始めた紅に、あやめのいたはずの場所から聞こえてきた、聞こえるはずのない声の主。それを聞いた直後何かを切り裂く音がいくつも響き、天堂の手の感触が消えていた。

 

 恐る恐る目をあけた紅の目に飛び込んできたのは身体をギタギタに切り裂かれた天堂の死体。そして、周りの護衛も壁も装飾品も何もかもがミキサーにかけらたかのように切り裂かれた光景。

 

 そして、先ほどまで魔薬を飲まされて拘束されていたはずのあやめがナイフを片手に持ち、いや、あやめに変装していた華奈がそこには立っていた。

 

 「ごめんなさいね。怖い思いさせて・・・この技は少し巻き込みかねなかったから近くにいかないといけなかったの」

 

 かつらを外し、カラーコンタクトも外して化粧を落とし、紅のよく知る。恩師華奈の姿、声。自分は助かったんだと理解するのに数秒かかり、その直後。

 

 「せんせい・・・ぜん”ぜい”ぃ”いぃ”~~~・・・! 怖かったよお・・・嫌だったよぉ”お”・・・・!!!」

 

 感極まって泣き始めた紅が華奈に抱き着き、それを華奈は優しく抱きしめて背中を撫でてやる。

 

 「よしよし・・・頑張りましたね。まだ若いのにあやめさん、私をかばう姿。やはりあなたは優しくて強い子です」

 

 「ひっく・・・うえっ・・・あやめ・・・そうだ! 先生!! あやめは!?」

 

 「大丈夫ですよーとっくに救出済み。ついでに言えば苫利はそちらのおじいさまにぽいっちょしてその子飼いの雑魚も全て始末しています。はい。嫁入り前の女の子がこんなスケスケ破廉恥な衣装を着けなきゃいけないなんて・・・もう少しうまい潜入方法を打診しなさいよあの下種は・・・・・」

 

 華奈は天堂の遺骸から何かをいくつか取り出した後にかつらの裏に隠していた紅の身体を見せないために用意していた厚手のレインコートをキャミソールの上から着けさせつつ、ひざ下まで隠せたことを確認すると今度は自身のブーツを外して中敷きを二つともそこらへんに投げ捨て、またブーツをはき始める。

 

 「よし。じゃあ行きましょうか。早くしないとみんなが心配しますからね。よいしょ。ふふ・・・大きくなっても、軽いですねえ。紅さんは。羨ましい」

 

 「ふぅ・・・ふぅ・・・・ぅ・・・よかった・・・・え? きゃっ、なっ・・・!?」

 

 その後は紅をお姫様抱っこで抱きかかえた後に縮地を利用してあやめ、拳志が待機している場所に移動。

 

 龍脈や地脈に乗ればどこにでも行ける縮地だが東京キングダムなどはこういった移動の方法に対する対策もあるのかどうしても一度で脱出は不可能になっており、最終的には何らかの別の手段が必要なのを悲しく思いつつも、東京キングダムのメインゲートに到着。

 

 「よっ! さすがは大将。10分ちょいでこなすとはねえー」

 

 「本当にこの時間で・・・紅様!」

 

 華奈と紅を発見するやひらひらと手を振ってにこやかに迎える拳志。紅に走り寄るあやめ。すでに脱出用の船の手配は出来ており、いつでも出れるように操縦者もいる。もちろん。華奈の諜報部隊のメンバーだ。

 

 「さ、急ぎますよ。私が騒ぎましたし、それに・・・そろそろですから。ほら、乗って乗って」

 

 その言葉の直後に東京キングダムの一角から爆音と爆風。炎と煙が立ち上り、その場所が華奈たちのいたクラブだと理解する。華奈が脱出前に置いていたブーツの中敷き。あれは中敷きの形の爆弾であり、足越しに華奈の血管の鼓動や熱が感じられずに2分以上過ぎると爆発するように仕込んだ専用のもの。

 

 いくつかの組織の会合場所でよく使われるようだが、これでまた新しい場所を模索していくだろうなと思いつつ、あやめに紅を預けて自分は船に乗り込む。

 

 「この後は二人とも病院に行ってもらいますよ。私が連絡していますし、ハレルヤの中和剤も別のメンバーが天堂の屋敷から奪取に成功したようです。あやめ様も脳の精密検査とダメージの確認が必要ですから・・・・それと・・・」

 

 全員が船に乗ったことを確認してエンジンをフルスロットルで走らせる華奈たち一行。警備の目も完全に爆発に向いていることを確認してから紅に船室から毛布とコートを持ってきて羽織らせていく。

 

 「生きていて・・・五体満足で・・・・まだ無事でよかった・・・本当によかったです・・・ありがとう。・・・・ありがとう。紅さん、あやめさん・・・!」

 

 爆発騒ぎをしり目に海を走る船。それが爆発の主犯とはつゆ知らず、そもそも目につくこともなく無事に東京キングダムを脱出。その後、紅とあやめは無事に五車の里の病院に搬送。数日の入院と学校からも休暇の許可が届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・ここまでできたんだ・・・あの後」

 

 あのクラブでの戦闘から数日後。用意されていた最高級の個室で横になりつつ紅は天堂、苫利の起こした裏切りと謀略の結末をまとめた報告書に目を通していた。魔薬もすっかり抜けたが念のためにとまだ病室を抜け出せないでいるのでちょうどいいと。

 

 あやめも復帰し、今は事後処理や休養している。とはいっても毎日自分の元へ来ては大量の見舞い品を置いてくるのだが。

 

 天堂の死亡はもちろんほかの組織の大物も軒並み逮捕。さらには苫利とも結託していたふうまの対魔忍に天堂の顧客であった有数の富豪や政治家、政府高官を軒並み逮捕。これには山本長官も尽力したようで相当な大取物となったらしく。検挙人数がそれを物語る。

 

 しかもそれだけでは終わらず華奈の諜報部隊は本当にあの短時間でヨミハラの天堂の拠点から情報とハレルヤの中和剤。ついでに天堂のデータも根こそぎ奪い、更には華奈が救出の際に奪っていた端末やデータをさらに利用。あの拳志とかいう男に渡した後何とこれを使って裏組織同士の大規模抗争が勃発。どうやら天堂の死やその莫大な財力や販売ルートをうまいこと餌にしていたようで、弱った折にアサギをも動かして徹底的にたたくことに成功。ついでに金も裏でちゃっかり奪ったとか。その額数千億。

 

 今回の一件でふうまに政府、そして裏社会の大掃除を成功させ、その立役者として、功労者として紅やあやめ、華奈と救助隊は評価を上げることに。苫利の死体は祖父の幻庵がしっかりと見せ、その凄絶すぎる死に顔でいくらかの留飲も降りた。

 

 「本当にめちゃくちゃだなあ・・・先生たちは」

 

 わずかなきっかけから自分たちのピンチを見抜いて即行動。その結果がこれだ。何度目になるかはわからないが、自分の先生たちの力量に感服する。ナイフ一本で自分の絶技と同じ威力を発揮させる剣技、そして立ち回り、あやめに後日聞いたが十数分で自分ですら見間違えるほどの変装、そして天堂すらも欺く演技。何もかもが遠い。だからこそ誇らしいし、そんな人に教えてもらい、一緒にいるのが嬉しくも思う。

 

 「いずれ紅さんもなれますよ。はい。リンゴ剥けましたよ」

 

 その先生は今日は休日らしく、朝からずっと一緒にいてくれた。その間に学校で起きた騒ぎや楽しい話。歴史の勉強。常に飽きることなく話をしてくれて、世話も焼いてくれる。その間にも小太郎やゆきかぜも見舞いに来ては心配したり、土産のお菓子や飲み物、数日中の勉強の範囲やプリントを渡してもくれた。

 

 「あ、ん・・・おいしい・・・ねえ、先生。もう、病院食じゃなくていいんでしょ?」

 

 カットされたリンゴを口に運び、みずみずしさと噛み応えのある食感。さわやかな甘さに舌鼓をうち、感じる。穏やかで、とてもかけがえのない時間。そして、自分を心配してくれる仲間たち。あの任務をこなした後だからなおさらわかる。自分は、一人じゃないと。こんなにも心配してくれる。気にかけてくれる。応援してくれる。

 

 「ええ、だれか一緒であれば外出も大丈夫ですよ。・・・・・・・・ふふ。紅さん。リクエストは?」

 

 そして、いつもと、十年以上経ってもほぼ変わることのない、いや、前以上に輝いて見える笑顔を向けてくれる最高の先生。自分の考えもあっさりと見透かしたようでにっこりとほほ笑みかけてくれた。

 

 「・・・・ハンバーグ。それと・・・あの・・ぎゅってして・・・・・」

 

 「いいですよ。では、今日は腕によりをかけたスペシャルハンバーグです♪ 頬っぺた落ちちゃうかもですよ~」

 

 ナイフを片付け、優しく抱きしめてくれた華奈先生。そのぬくもりに、柔らかさに、匂いになぜかいつも以上にドキドキして、心臓がバクバクして、ほほが赤くなるのが自分でもわかるほどに感じながらもしばらくそのまま紅も抱きしめ返し、互いの無事を再度喜び、その後紅の病室に知り合いを呼びつけて大騒ぎのハンバーグパーティーをしたせいで婦長に怒られたりと、終始賑やかな夜となった。

 

 むろん、そこで一番大笑いして楽しんでいたのは華奈と紅。金と銀の美女二人の笑い声は病院に良く通ったそうな。




紅の原作はいろいろハードすぎて驚くばかり。他のシリーズ以上だと個人的には思います。他もすごいんですがね。

華奈の副官、オリジナル対魔忍第二弾。まあ、モデルはあの大泥棒。OPでも黒のタイツスーツに身を包んで逃げたり諜報部隊にはぴったりだよなあと。

ちなみに華奈のナイフ。自分で縛られておいて縄の中に折り畳み式のナイフを隠していたりします。

紅さんも、目覚めたかもしれませんね。何とは言いませんが

ついつい書き込みましたが次回からはいつものぐだぐだな書き方に直します。そして現代に戻ります。

とりあえず次回はゆっくり書きます。ここまでは書いておきたかったのでつたない部分もあるかもですが読んでくださりありがとうございます。

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